33 / 56
隠れた壁はあまりにも美麗
しおりを挟む「セリエ、その手紙を少し貸してくれないか?」
「え……えぇ、いいわ」
戸惑った素振りを見せながらも、内心では狙い通り見覚えのある文字に気付いたルシアンにニヤリとしながらも表面上は怯える聖女を装った。
「大丈夫だ。私の思う通りなら心配する必要はない」
「わかったわ、お願いルシアン……」
「あぁ……」
動揺した様子だったが、セリエを守るように抱きしめ、背中を子供を宥めるみたいに二回ほど優しく叩くと早足で出て行った。
久々にルシアンから優しくされた気がしてセリエはもうそれだけで満足していたが、かえって自分を心配して守ろうとするルシアンの様子が懐かしくてもっと優しさが欲しくなった。
"セリエ、泣いているのか!?どうしたんだ……"
"イブに靴を捨てられたって!"
"皆セリエを無視して、誰も探してくれないらしい"
"レイ、ティアード。新しい靴と拭くものを用意してくれないか?"
"セリエ……私からも謝るよ、すまない。君は私が守るから"
(あの時は皆居て、私はお姫様みたいだった)
イブリアの筆跡に似ていると言う事はすぐに判明されて、バロウズ城に騎士達が送られた。
それを聞きつけたセオドア、ティアード、レイノルドはすぐにルシアン元を訪ねた。
「殿下、本当にイブを疑ってるのか?」
「セオドア……私もわからないんだ」
「お言葉ですが殿下、イブは私達の誰にも、殿下にも興味などありません、勿論セリエにもです!疑う理由が無いではありませんか」
「だが、王妃に興味があるかもしれん。側妃ということにヘソを曲げているだけで王妃の地位を欲してセリエを殺害しようと……」
「そんな訳ないよ!イブが本気ならもうセリエは死んでる!!!」
「レイ、やめないか」
「でも、ティアード。セリエは僕達を騙してただろ」
「どう言う事だ?お前達が私と距離を置いている理由に関係があるのか?」
「「「……」」」
「お前達の言葉を信じる。だから話してくれ……」
三人はルシアンにセリエとセオドアにこの間起きた出来事、彼女の聖女の力についてを話した。
ルシアンは机の上で頭を抱え、弱々しく「全て誓って事実か」と何度目かの問いかけをしたが、皆の沈黙が答えだった。
「では、今回も嘘を言っていると?」
「あぁ分からないけど、イブがセリエを殺す理由は無いよ。レイノルドの言った通りイブならばこんなやり方はしない筈だ」
「真犯人を探す」
三人は頷いた。
イブリアへの疑惑を晴らしたかったのだ。
ルシアンもまた真実を知る為に真犯人を探す事を誓った。
念の為にセリエには護衛が付いた。
国唯一の聖女だと言うこともあり、王妃より送られた優秀な騎士達だ。
「ジョン、マイルズ。よろしくお願いしますね」
「「はい、聖女様」」
バロウズ家は召集に応じたらしく王宮に向かっていると連絡が入った。
「明日には……イブリア様が来るのよね」
「大丈夫です聖女様!」
「我々がお守りします」
「本当に?頼りにしているわ……」
そう言って二人に儚げに微笑んむセリエを誰が疑うのだろうか?
二人の話を聞いた騎士達の噂によってセリエは瞬く間に悲劇のヒロインとして同情を集めた。
けれども、セオドアやティアード、レイノルドがセリエを訪ねてくる事は無く、その代わりに多くの子息達がセリエを尋ね見舞いの贈り物をした。
セリエは始終上機嫌だったが、王妃もまたセリエを尋ねぬ理由があった。
「これは、イブリアではないわ」
王妃こそ、イブリアの指導をする上で沢山彼女の字を見てきた。
どう見てもちがう所々の文字の癖が王妃に違和感を抱かせていた。
「けれども、確かに見たことがあるのでも彼女じゃないわ」
「ほう、では他に犯人がいるという事だな」
「陛下……この件はしっかり調査しませんと。イブリアならば感情的になっただけだと思いましたが、恨みを持つ他の者ならばセリエは命の危機にあります」
「……そうだな。では調査を早くする為に人員を増やそう。それと、彼に連絡を」
「彼?」
「彼ならば、名を語られた婚約者の為にすぐに真犯人を見つけるだろう」
「まさか、陛下……ディートリヒですか?」
「ああ、他に適任は居ないだろう」
「ですがそれではイブリアが犯人だった場合……」
「そんな事があると思うか?妻ではなく王妃として答えよ」
「……ありませんわ。イブリアが犯人ならばこんな事よりも今頃は葬儀の話をしているでしょう」
「ならば、余計な事を考えずお気に入りの聖女から目を離さぬことだ王妃」
「ーっ、はい」
イブリアの登城は皆が思っていたよりも早く、イルザやカミルの態度はさっさと済ませて帰りたいと言うようなものだった。
「嫌でももうすぐ王都で住むのに……俺の僅かな休暇が……」
「カミル、表情を引き締めろ。さっさと済ませるぞ」
「お父様、お兄様……ごめんなさい余計な事に巻き込んでしまって」
「イブは関係ないだろ、謝らなくていい!」
「そうだ。すぐに我々で真相を突き止めて帰ろう」
「ディートもすぐに来るらしいぞ!」
「……ええ、ありがとう!」
三人の会話などつゆ知らず、目撃した貴族達は噂話に花を咲かせる
「イブリア様、相変わらずお美しいわ……」
「でも聖女様を殺そうとしたって」
「本当だったら、大変な事よね……!」
そんな中、甲高い悲鳴が聞こえる。
「ごめんなさ……っ、イブリア様、どうして」
「ご機嫌よう。陛下に呼び出されただけよ」
それ以上は無視して進もうとしたイブリアにセリエは言葉を投げつけた。
「どうして!私を殺そうとするんですか……っ!?」
「……そのような事は考えた事がありませんが」
「でも、脅迫の手紙は貴女の筆跡だったって……!」
「私なら……脅迫はしません。魔法を使っても、剣を使っても……権力を使っても一瞬で終わらせる事ができるからよ」
「ほら!やっぱり!!!」
「話を聞いていましたか?遊びたいなら他を当たって下さい、私は忙しいのです聖女様」
怒りを含んだイブリアの瞳と呆れたような声に、屈辱で顔を赤くしたセリエ。
クスクスと笑う婦人たちの声と「そりゃそうだよな」と納得する紳士たち。
「セリエ……?何やってるんだ?」
「ルシアン……っ!!」
187
あなたにおすすめの小説
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。
パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。
全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる