元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
35 / 56

その壁は固く守られて……

しおりを挟む
イブリアは一通りをディートリヒに伝えると、まだ納得のいっていない様子のディートリヒにぎゅっとしがみつくように抱擁した。

「でも、なにより……」


「イブ?」


「貴方が来てくれた事が何より心強いわ……」



そう言ってディートリヒに顔を埋めたイブリアが愛おしくて、弱いわけがないのに庇護欲を刺激された。


ディートリヒはイブリアを大切に抱きしめながら、


「僕は昔から、貴方だけの側に居ますよ」と慰めるように伝えると、顔を上げて嬉しそうに微笑んだイブリアがあまりに愛らしくて驚いた。



「そんな顔をされると、堪えますね」


「何に堪えるの?」


「僕も、男だと言うことです」


そう言ってイブリアの唇に優しく口付けたディートリヒが大人でイブリアは慌てて離れた。


「笑わないで!ディート」

「可愛いです」

「ディート……っ」


二人は向かい合って幸せそうに笑い合った後、ディートリヒは申し訳無さそうにイブリアに「少しだけ、行かないといけません」と言う。


「用があるのね、私は部屋にいるわ。行って来て」


「陛下に呼ばれています。おおよそ同じ内容でしょう」


「分かったわ、気をつけて行ってね」


またいつ絡んでくるか分からないセリエを思うと、イブリアの胸はチクリとして思わずディートリヒを引き止めた。


「ディート!」


振り向いたディートリヒにイブリアから口付けると、


「ほんとに、気をつけて……」


そう言ったイブリアにディートリヒは頬を赤らめながらも眩しい限りの笑顔で、「大丈夫です、安心して」と言って部屋を出た。




そんなイブリアの心配は的中したようで、歩くディートリヒの向こうから歩いて来るのはセリエだった。


騎士達を携え歩く姿はまるで誰より高貴な者のような振る舞いだが、その所作や雰囲気はセリエの努力不足が滲み出ている。


(無視しよう)

頭を軽く下げて通り過ぎようとしたディートリヒの隣でドンと大きな音が鳴って、


明らかに自分で倒れたように見える騎士達も戸惑っているようで、

ディートリヒもまた何がしたいのかと言うようにただ眉を顰めた。



「ごっ、ごめんなさい!私が


騎士達を有無を言わさぬ視線で黙らせると、ディートリヒが手を貸してくれるのが当たり前かのように地面に着いていない方の手をおずおずと差し出した。


「いいえ、ぶつかって居ません」



ディートリヒはただ無表情でそう言うだけでセリエに手を貸そうとはしない。

騎士達はというと、生で見るディートリヒに見惚れており内心で彼に会えた事の感動や賞賛を繰り返していた。


(ディートリヒ様だ、まさかこんなに近くで会えるなんて!)

(近頃、よく拝見できてツイてるな……)


「ちょっと、貴方達……ディートリヒ様にお怪我がないか確かめて頂戴!」

「……!まずは、お手をどうぞ」


セリエはチラリとディートリヒを見てから、動く気配が無いと判断すると、不服そうに騎士の手を取って立ち上がった。


「私がお確かめします!これでも治癒は専門なので……っ」

そう言ってディートリヒに触れようとしたセリエを避けて、ディートリヒが言った言葉はセリエの怒りを誘発するものだった。


「シュテルン侯爵とお呼び下さい、聖女殿」


「は?」


「あと、無闇矢鱈に異性に触れようとするのははしたない行為ですよ」


「ーっシュテルン侯爵!どうして貴方はそう意地悪なのです!?私はただ貴方と仲良くしたいだけなのです……」



「突然隣でひとりでに転んで、まるで僕と当たったかのように振る舞う不審な人にどうやって親切にするのですか?」


「それは……っ、そんな事をしていません!貴方は、イブリア様に言われて私に冷たくしているのでしょう?」



「いいえ。単純に貴女を不審がっているだけです」


「では……ちゃんとお友達になって下さい」


「失礼します、陛下に呼ばれていますので」


「シュテルン侯爵!!」

「聖女様、行きましょう」

「陛下の御用でしたら引き止めてはいけません…….っ」





「シュテルン侯爵!!!絶対に私とお友達になりましょうね!!」


「「聖女様!行きましょう!」」



「……お断りします」



「!!??」



騎士達に引き止められるセリエを尻目に、その場を後にするディートリヒ。



「シュテルン侯爵!貴方は私を誤解しています!!」



(今日はやけにしつこいな)


「気をつけて」と言っていたイブリアの不安げな瞳を思い出して、ふっと笑うディートリヒ。



「嫉妬だと……嬉しいな」




「何がだ?」



「セオドア、出てこないのかと思っていたが」


「手厳しいね、気付かれてたんだ」


「悪いが僕は用事がある」


「その件なら俺も呼ばれていますよ」


「「……」」


「まさか、一緒に行くつもりか?」


「同じ方向なので」




二人は不本意そうな表情のまま謁見室までの道を無言で歩いた。


「お先にどうぞ」

「いや、ディートリヒ侯爵から入るべきですよ」


「わかりました、ではお先に」



そして、扉を開くとそこに座っていたのはイルザの時と同様に国王だけで、ニコリと何か企みのありそうな笑みで微笑みかけた。








「よく来たな、二人共……部屋に防音の魔法を頼めるかな?」













しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

処理中です...