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正体は……?
しおりを挟む形跡を辿りながらイブリアを追う内に予想通りケルエンへと到着したディートリヒは不安定に揺れる馴染みある魔力を微かに感じた。
「カミル……か?」
ほんの少しだけ漏れるその魔力に気付ける程の者がいるのかまでは予測できないものの、静かなケルエンの街の雰囲気にまだ気付かれていないのだろうと考えた。
予想通り、カミルは兵を率いて国境からケルエンへ向かって来たのだろう目立たぬように家門の紋章をフードで隠した装いに、僅かな兵で森を抜けてきたようだった。
「カミル……!」
「ディート、やはり居たな」
「すまない、僕が傍を離れた所為だ」
「お前はもう護衛騎士じゃない、四六時中側には居られない」
「だが……」
「早く、取り返しにいこう……俺の可愛いイブを」
「ああ……僕のだ」
「俺は兄だぞ!」
「僕はイブの男だ」
「「……」」
気の抜けた会話に、呆然とする兵達は突如ぶわっと放たれた魔力に冷や汗が出た。
(あぁ、俺たちの為に抑えていたんだお二人は……)
「援軍が到着次第ケルエンを包囲、それまでは気を抜かずに辺りを見張ってくれ」
「「「御意!!」」」
「行こう、ディート」
「ああ」
ケルエンの首都に入る門を前に、二人は無表情のまま怒りに任せて巻き上がる魔力で門を破壊して進む。
魔法で街中へ拡張した声で警告する、他国とはいえ一般人の避難を促す意味あいもあるのだ。彼等なりの礼儀だった。
「イブを返してもらう、見つからなければ国を更地にして探すまで」
「俺たちは単騎だ。だが、イブに触れた者は全員殺す」
国を更地にするなどという全く現実味のない警告にケルエンの兵士は笑ってまさかと馬鹿にしたが、ゴゴゴと地鳴りがして地面の至る所にヒビが入り始めると慌てて「イブリア様は知らない!」と言った。
ケルエンの外では国王とイルザのゲートで次々に進軍するランベール軍が的確にケルエンを包囲していった。
ケルエン国内へ侵入する為にセオドアによって組まれた精鋭部隊は地面から鳴るまるで唸り声のような低い音にゾクリとした。
まさか、通常ならば国を滅ぼすような大規模で強大な魔法を大一人で使うことなどあり得ないことだった。
そんな事をしようものなら、魔力の限界を遥かに越えて急激にマイナスになる魔力に耐え切れずその身が枯れてしまうだろうからだ。
けれども、ランベールの者達は皆知っていた。
ディートリヒならばそれをやってしまうのだろうと。
(カミルさんだけでも充分危険だというのに、かえって巻き込まれるか……)
セオドアとルシアンは痛いほどに感じる二人の荒れた魔力に、中は危険だと軍の指揮をティアードに任せて密偵隊レイノルド班と自分達だけでケルエン国内へ侵入する事に決めた。
レイノルドは前もって調べた実在する騎士に魔法で変装すると、同じ顔の者を探して捕らえておくように部下に伝えた。
妙にランベールに詳しいとケルエン内部を怪しんだレイノルドは、とある可能性を考えていた。
静かな廊下を見回りの振りをして周るレイノルドは黒のフードで顔を隠した小柄な人とばったりと会う。
騎士に扮したレイノルドが声をかけるとその者は彼を拒まず受け入れるが、
「生まれつき、声がでません」とメモ書いたを渡される。
「そうでしたか……失礼しました」
口元だけでニコリと微笑んだその人物に既視感を感じたレイノルドはふと田立ち止まって考えるが、バッと顔を上げると急いでカミルの元へと飛んだ。
「呪いだ……!」
「声のことか?」
「違う、今の人はきっと呪いを使う人だ!」
「レイノルド、説明してくれ」
「誰かを呪ってる、僕の叔父は呪いで殺された。似てるんだ、その時の感覚と……きっとイブは呪いにかかって身動きが取れないと考えた方がいい」
「ーっ!ディートリヒ!」
一体何の為に、誰がイブリアを呪いにかけたのか
ケルエンの目的は?
謎の人物は一体誰なのか?
事情を聞き、声が出ない人物に心当たりがあるディートリヒは低く、地を這うような声で言った
「聖女だ」
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