元カレの今カノは聖女様

abang

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イブリアから見たディートリヒ

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「シュテルン侯爵、この間は……」


新興貴族だ、成り上がりだと皆が距離を置いていたのは初めの内だけで、パーティーで皆に囲まれながら隣でシュテルン侯爵として立派に振る舞うディートリヒは贔屓目無しでも素敵だと思った。




「ディート」


「セオドア殿下……ルシアンも居るのか」


「はい……」

「昔のままでいい」

敬語を使うルシアンに眉を顰めたディートリヒが言うと、ルシアンは気まずそうに「わかった」と返事をする。


「じゃあ、ディートリヒこそ。俺にも昔のままでいてよ」


セオドアがディートリヒに懐っこい笑みで言うとディートリヒはふと笑って「ああ」と短く返事をした。



「殿下、其方は……」


「この人達がシュテルン侯爵とバロウズ令嬢だよ」


セオドアがそう言ったのは新しく側近となったミセルと言う青年にだった。



あれから暫く経ったがルシアンは真面目に王宮の騎士として務めているようで、何かと登城する機会の多いディートリヒにいつの間にかセオドアもルシアンもえらく懐いている様子だった。


元々幼い頃は、イブリアの兄カミルとディートリヒは男の子達の羨望の的であった為、不自然なことでは無かったが昔を少し思い出して思わず笑みが浮かんだ。



「「……」」

「イブ、どうかしました?」


見惚れるセオドアどルシアンをチラリと見てから、イブリアを覗き込んだディートリヒにきゅんと胸が鳴るのを感じたが、辛うじて表には出さずに済んだ。


「いえ、少し昔を思い出して」


「「「……」」」

何処となく、切ない雰囲気でありながら其々が何かを思い出しているのか、穏やかな沈黙が流れる中、空気を全く読まない声が割り込む。


「あーもう、何で俺に預けんだ……五月蝿くて仕方ないよコイツ」

「ぼ、僕だって……まさか貴方の預かりだとは……!」



悪態をつくカミルの後を歩くのは、顔を赤くして反論するレイノルドでルシアンが騎士になった際に側近の職を解かれた彼らは其々家門の仕事に専念していたが、彼の父によってレイノルドの教育を頼み込まれたのがカミルだった。


跡取りとして未熟者な上に我儘な彼を叩き直して欲しいと突然頼まれたカミルは相当嫌がった上に、逃げ回ったがレイノルドによく似た可愛らしさの残る雰囲気の彼の父によって粘り勝ちされる事で、期限付きで預かることになった。


「カミル……」

「元々イブの幼馴染でもなぁ……ほんと弱いし我儘なんだよ」

「ーっ!カミルさんっ……!」


顔を見て赤らめるレイノルドの様子と面倒そうなカミルを見てディートリヒは「ふぅ」と息を吐いて無視を決め込むとイブリアをエスコートした。


そんなディートリヒは侯爵になっても、護衛騎士だったときもずっと変わらずにイブリアの知るディートリヒのままで彼の自然体な姿は、皆を夢中にさせる。


頬を染める令嬢達の視線に内心ヒヤリとした。


セオドアが「大丈夫だよ、イブ」と小さく言って通り過ぎるとディートリヒに何か耳打ちする。


軽く目を見開いて振り返ったディートリヒは、目の前の年老いたイーストン伯爵との会話を切り上げて、まるで嬉しそうに血色の言い頬を隠すこともなく、柔らかく微笑んでイブリアの手の甲に口付けた。



「ディートっ」


「僕にはイブだけが美しく見えます、今も昔もこの先もです」


突然そう囁くディートリヒにもう破裂するのではないかと思うほど波打った心臓に思わずもう片方の手をむねに当てた。



「突然どうしたのっ……?」

「ただ、今伝えておきたくて」


けれども内心はホッとしていた。

ディートリヒを見て頬を染めていた令嬢達の目は今は、二人を見て頬を染めている。

皆にこの素晴らしすぎる婚約者の隣に並ぶ事を認められているという気がしたし、彼の口からその位置には自分だけが座れるのだと言われた気がして嬉しかった。




「私もずっと、ずっとディートだけが愛する人よ」



ディートリヒがまた嬉しそうに笑ったので、ムズムズするような気恥ずかしい気持ちになった。


目が合ったルシアンは眉尻を下げたま微笑んでいて、口元だけを動かしてはっきりと「おめでとう、幸せに」と言った。



何故だか全てが終わった気がした。


辛い事ばかりでは無かったけれど、辛かった時がもう全部終わったのだと解放された気分だった。


それも全部、あまりにも甘くて強い婚約者が居てくれたからこそなのだと思うと何かが込み上げて来て泣いてしまわないように、ルシアンへと頷いたあとディートリヒに向けて全力で愛していると込めて微笑んだ。


それが伝わったのか、優しく握る手を握りなおして珍しく顔に出して照れ臭そうにしたディートリヒがやはり大好きだと思った。



「イブ、今夜は休ませてやれないかもしれません」


耳元ででそう言ったディートリヒの瞳は星空のようで、吸い込まれてしまいそうだった。


小さく頷いてディートリヒの表情を盗み見ると、やっぱり赤く染まっていた。




(大好きよ、ディート)
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