『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

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第49話 午睡

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「あの……ごめんなさい、昨夜は呼ばれもしていないのに、勝手にあなたの部屋に入ってしまいました」

「ん? ああ、そんなこと、気にするな」

 ユリウスは快活に笑った。

「まあ、寝室より外……私室と執務室はまだまだ見せられないな。特に執務室はまあひどい。書類の山で、よくシルフが激突して書類が空を舞う」

 そう言ってユリウスは笑った。

「まあ」

 その光景を想像して私は笑っていた。
 こうして笑い合える。
 それが何よりの幸せだった。
 幸せな時間が

「……本当に、無事でよかった」

「……心配をかけたな」

「はい……」

「……しばらく俺は安静に、だそうだ。まあ、ここでも書類仕事くらいはできるが、やめろとヴァンパイアにそこの伝声管で叱られた」

「当たり前です」

 そう言い返しながら、私はユリウスの言った伝声管に目をやる。
 私の部屋にはなかったと思うが、魔王の業務に使っているのかもしれない。

「うん……パーティーも少し延期だな」

 ユリウスは心底、申し訳なさそうな顔をした。

「それも気にしないでください、あなたの健康が一番ですとも」

「……ああ」

 ユリウスはしばらく難しい顔をしていたが、顔を上げた。

「……まあ、なんだ、時間はあるから……その、文字の勉強を、手伝えると思う」

「……はい」

 私はうなずいた。
 病身の人に、自分のために何かをやってもらうのは申し訳ないと思ったけれど、ユリウスも何かをせずにはいられないのだろう。
 だから、私は笑った。

「……嬉しいです」

「よかった」

 ユリウスは言葉少なに、そう言った。

「……午後は賢者の授業か?」

 どこか寂しそうにユリウスはそう言った。

「いえ、今日は休め、と」

「そうか、じゃあ、今日の午後は、勉強を意識せずに、その、楽しむために、絵本でも読もうか」

「……はい」

 私達はゆっくり微笑みあった。



 昼食を片付けてもらい、私とユリウス、ふたりきりになる。

「ミラベル」

 ユリウスが左手でベッドを叩く。
 ユリウスのベッドは大きかった。人間が4人は乗れるだろう。

「お、お邪魔します」

 お昼を食べたばかり、日は高いところにあり、部屋に差し込んでいる。
 そんな状況で同じベッドに入るのは、どうしても照れくさいし、緊張してしまう。

 机に向かい合って読んでもらえばいいのだけれど、それだとどちらかが逆さまに本を読むことになる。
 賢者は苦労なくそれをこなしていたけれど、私には無理だし、ユリウスにそれを求めるのも申し訳ない。
 自然と肩を寄せあうことになる。

 ユリウスが右手で、私が左手で絵本を持つ。
 ユリウスの左肩に私はもたれるようになる。

「昔々、人間と魔族がまだ同じ世界で暮らしていた頃――」

 朗々としたユリウスの語りに、私は耳を傾けた。



 一冊の本を読み終えると、ユリウスは見るからに眠そうな顔をしていた。

「お疲れでしょう。夕食の時間まで少し、お休みになっては?」

「……ああ、そうしようかな」

 素直にそう言うと、ユリウスは私の手を握り締めた。

「……君の予定は?」

「ございません。……私、ここにいてもよろしいですか」

「……ああ、頼む」

 ユリウスは目を伏せた。
 すぐに寝息が聞こえてきた。
 私達は寄り添いながら午後の時間をまどろみの中で過ごした。
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