『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

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第76話 対決、カーミラ嬢

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 ドラキュラの実家はやっぱりお城だった。
 魔界には城しか家がないのだろうか?

 玄関で恭しく迎え入れられる。

「ようこそおいでくださいました、お妃様」

「本日はお招きいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」

「カーミラは中庭の方におります。ご案内いたします」

「ええ」

 案内人のヴァンパイア、私、ドラキュラ、その後ろにシルフとニンフと続く。

 ニンフとシルフが楽しそうにヴァンパイア家の城を眺めている。
 思えば彼女たちは彼女たちで魔王城から出ることはあるのだろうか?
 いつも楽しそうだから気にしたこともなかったが、なんだか心配になってきた。帰ったら聞いてみよう。

 ヴァンパイア家の回廊をくぐり抜け、中庭に出た。
 秋を彩る花々が咲き乱れている。さすがに花までは黒くない。
 庭の真ん中に丸いテーブルが置かれていた。テーブルは黒色だ。

 そこに濃いグレーのドレスを纏ったカーミラ嬢が座っていた。
 カーミラ嬢は私達に気付くと、立ち上がり、礼をした。

「起こしくださりありがとうございます、お妃様」

「お招きいただきありがとうございます、カーミラ嬢」

 私達は微笑みを交した。
 作り笑いとは言え、カーミラ嬢の笑顔を初めて見た気がした。



 私とカーミラ嬢が向かい合って椅子に座る。
 案内人がそのまま給仕をしてくれる。

「…………」

「…………」

 席についたはいいが、私達は会話の糸口を探していた。
 こうしてみると、私とカーミラ嬢に共通の話題は少ない。
 せいぜい彼女の兄であるドラキュラのことか、ユリウスのことか。

 本人を前にして噂話に花を咲かせるというのもいかがなものだし、ユリウスの話は見えている罠に足を突っ込むようなものだ。

「……お妃様におかれましては、先日はたいそう災難だったようで」

「あら、お聞き及んでいましたか」

「ええ、魔界ではもうその話で持ちきりです……中にはお妃様はアーダーベルトに穢されたなどという噂まで……」

「カーミラ!!」

 ドラキュラの口から怒号が飛ぶ。

 そういえば、ユリウスはそのことを確認したりはしなかった。
 頭が回っていなかったのか、私の様子からそういうことはなさそうだと判断したのか。
 そうだとしても、受け入れてくれるのか。

「噂があるのは真実です」

 カーミラ嬢は兄相手に一歩も引かなかった。

「……まあ、私はエッダから話を聞いていますから、それが噂なのは知っていますけれど……」

「エッダ?」

「アーダーベルトの妹で、今はアーダーベルトの代理で当主代行をしています」

「ああ……」

 ドラキュラの言っていた、私の従姉。

「……でも、噂になっています。そして陛下は笑いものになっている。無理をして先代魔王の娘を娶ったくせに、他の男にまんまと拐かされた無力な男、と」

「……そこまで……」

 私の顔は、曇っただろう。
 自分がどう言われるのはこの際、いい。
 だけれど、私の潔白はユリウスの名誉になる。
 そんなこと、考えもしなかった。

「……ありがとう、カーミラ嬢」

「お、お妃様……」

「いいの、ドラキュラ。世間でどう思われているか、知るべきです。私は。あなたたちは……言いづらいでしょうから」

 私はカーミラ嬢に向き直った。

「よければ、お聞かせください。私が魔界でどのような噂が立っているか」
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