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第55話 魔族たち
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見知らぬ魔族たちに、ユリウスが私を紹介してくれることになった。
「まずはこいつらだな。魔王城であれこれ働いてくれている四族のサラマンドラとノウムだ」
ユリウスに手を引かれサラマンドラとノウムの前に連れて行かれる。
「サラマンドラは風呂場や炊事場なんかで火を熾していて、ノウムは主に庭の土いじりをしてくれている。それから今日のネックレスを仕立てたのもノウムだったな」
「はい……ええと、こ、こんにちは」
恐る恐るあいさつした。
「初めましてお妃様」
近くでよく見るとノウムは老人の姿をしていた。しわがれた声で頭を下げてくる。
「ネックレスお似合いのようで、何よりです。お気に召していただけたでしょうか」
「とてもいいわ。ありがとうございます」
私の返答にノウムは満足げにうなずいた。
「何より何より。こちらサラマンドラです」
ノウムが机の上に乗っかっているサラマンドラを持ち上げた。
燃えているのに熱くないのだろうか。
サラマンドラの見た目は完全に赤い鱗に覆われたトカゲであった。
小人のノウムの腕に収まるくらいなのでそこまで巨大ではない。私の手の平くらいの大きさだろうか。
サラマンドラの金色の目がこちらを見る。
「シュルシュル」
と、舌を伸ばした。
「ごあいさつしております」
ノウムが通訳してくれる。
「こんにちは、サラマンドラさん。いつもお風呂や食事をありがとう」
「シュルルルル」
「光栄だと言っております」
これは魔族同士だから言葉が通じるのだろうか? それとも慣れれば私もサラマンドラの機微がわかるのだろうか。
なんとも難しい。
「それじゃあ、お次はハルピュイア」
ハルピュイア、これほど分かりやすい異形の魔族は牛頭の司書、アスモデウス以来だった。
ハルピュイアは手の代わりに羽根があり、脚も鳥の脚をしている。
下腹部がふっくらと膨らんでいる。
「こんにちは、お妃様。お目にかかれて光栄ですわ。陛下もお呼びくださりありがとうございます」
「うん。ハルピュイアは魔王城から各地への伝令を担当している。種族には雌しかいない」
「伝令と言えば先日の竜息病のときは本当に肝を冷やしましたわ」
異形でも肝はあるらしい。
「すまなかった……」
気まずそうな顔をユリウスはする。
ヴァンパイアが私に耳打ちする。
「陛下はあれに関わった魔族全員から、しょっちゅうこれを言われておいでなのです」
「あらまあ……」
なんとコメントしていいかわからず私は口を押さえた。
「……身から出た錆だ」
そう言いながらもユリウスの顔は見るからにうんざりしていた。
しかしまあ近くであの怪我とその回復を見ていた私だって何か言いたくもなるので、フォローを入れることもできない。
いい薬になればいいのだが。
ハルピュイアとしゃべっていたエルフとは顔見知りだったので、あいさつはそこそこに、微笑みを交わした。
「お妃様と陛下、どちらの衣装もよくお似合いです。合わせた甲斐がありました」
エルフはえへんといばって見せた。
「いつもありがとう」
ユリウスはそう言った。
「俺は衣装には興味が無いから仕立て部屋にはいつも助けられている」
「いえいえ、仕事ですから」
エルフの言葉は謙遜ですらなかった。当然のことだと、仕事に誇りを持っている言葉だった。
そういえば魔王の服装を選ぶのも本来は王妃の役割だと言われていた。
賢者にも本を手渡されている。
私は、学んでいかなければいけないことがある。
それは重圧であると同時に、どこか嬉しいことでもあった。
果たすべき役割がある。それは、嬉しい。
「まずはこいつらだな。魔王城であれこれ働いてくれている四族のサラマンドラとノウムだ」
ユリウスに手を引かれサラマンドラとノウムの前に連れて行かれる。
「サラマンドラは風呂場や炊事場なんかで火を熾していて、ノウムは主に庭の土いじりをしてくれている。それから今日のネックレスを仕立てたのもノウムだったな」
「はい……ええと、こ、こんにちは」
恐る恐るあいさつした。
「初めましてお妃様」
近くでよく見るとノウムは老人の姿をしていた。しわがれた声で頭を下げてくる。
「ネックレスお似合いのようで、何よりです。お気に召していただけたでしょうか」
「とてもいいわ。ありがとうございます」
私の返答にノウムは満足げにうなずいた。
「何より何より。こちらサラマンドラです」
ノウムが机の上に乗っかっているサラマンドラを持ち上げた。
燃えているのに熱くないのだろうか。
サラマンドラの見た目は完全に赤い鱗に覆われたトカゲであった。
小人のノウムの腕に収まるくらいなのでそこまで巨大ではない。私の手の平くらいの大きさだろうか。
サラマンドラの金色の目がこちらを見る。
「シュルシュル」
と、舌を伸ばした。
「ごあいさつしております」
ノウムが通訳してくれる。
「こんにちは、サラマンドラさん。いつもお風呂や食事をありがとう」
「シュルルルル」
「光栄だと言っております」
これは魔族同士だから言葉が通じるのだろうか? それとも慣れれば私もサラマンドラの機微がわかるのだろうか。
なんとも難しい。
「それじゃあ、お次はハルピュイア」
ハルピュイア、これほど分かりやすい異形の魔族は牛頭の司書、アスモデウス以来だった。
ハルピュイアは手の代わりに羽根があり、脚も鳥の脚をしている。
下腹部がふっくらと膨らんでいる。
「こんにちは、お妃様。お目にかかれて光栄ですわ。陛下もお呼びくださりありがとうございます」
「うん。ハルピュイアは魔王城から各地への伝令を担当している。種族には雌しかいない」
「伝令と言えば先日の竜息病のときは本当に肝を冷やしましたわ」
異形でも肝はあるらしい。
「すまなかった……」
気まずそうな顔をユリウスはする。
ヴァンパイアが私に耳打ちする。
「陛下はあれに関わった魔族全員から、しょっちゅうこれを言われておいでなのです」
「あらまあ……」
なんとコメントしていいかわからず私は口を押さえた。
「……身から出た錆だ」
そう言いながらもユリウスの顔は見るからにうんざりしていた。
しかしまあ近くであの怪我とその回復を見ていた私だって何か言いたくもなるので、フォローを入れることもできない。
いい薬になればいいのだが。
ハルピュイアとしゃべっていたエルフとは顔見知りだったので、あいさつはそこそこに、微笑みを交わした。
「お妃様と陛下、どちらの衣装もよくお似合いです。合わせた甲斐がありました」
エルフはえへんといばって見せた。
「いつもありがとう」
ユリウスはそう言った。
「俺は衣装には興味が無いから仕立て部屋にはいつも助けられている」
「いえいえ、仕事ですから」
エルフの言葉は謙遜ですらなかった。当然のことだと、仕事に誇りを持っている言葉だった。
そういえば魔王の服装を選ぶのも本来は王妃の役割だと言われていた。
賢者にも本を手渡されている。
私は、学んでいかなければいけないことがある。
それは重圧であると同時に、どこか嬉しいことでもあった。
果たすべき役割がある。それは、嬉しい。
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