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第56話 ヴァンパイアの妹
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次にユリウスが向かったのは少女のところだった。
「こちらが見ての通りヴァンパイアの妹だ」
「…………」
ヴァンパイアがふたりいるとき、どう呼べばいいのだろう?
私はそれをニンフやシルフと接しているときはあまり気にしていなかった。
最初に出会った頃はあまり見分けがつかなかったからだ。
しかしこのヴァンパイア兄妹は性別が違うし、はっきりと見分けがつく。
「……ほら」
兄の方が妹に何かを促した。
「……兄がお世話になっております。ヴァンパイア族のカーミラと申します」
「王妃のミラベルです……」
つられてあいさつをしたが、カーミラ嬢は明らかに不機嫌だった。
「カーミラは今日も不機嫌だなあ」
ユリウスは事もなげに笑った。
……いつも不機嫌で、しかしカーミラ嬢はユリウスのことが好き。
つまりそれは照れているということではないのだろうか……。
「ああ、そうだ、王妃、言い忘れていたが、この程度の小規模なパーティーは私的な場に入る」
「ああ、そうだったのですね」
「ちなみに俺の名前はドラキュラと申します」
それなりに長い付き合いになるが、ヴァンパイアの名前は初めて知った。
「…………」
「カーミラはこの通り少し無口だが、ドラキュラの妹だけあって頼りになるヴァンパイアだ」
「い、いえ……」
カーミラ嬢は一気に照れたように顔を伏せた。
「カーミラ嬢、ぜひ、王妃の力になってやって欲しい」
「……………………はい」
長い。長すぎる沈黙の後に、カーミラ嬢はうなずいた。
「よろしくお願いします、カーミラ嬢」
「……………………はい」
明らかにこちらに向ける目が冷たい。
いたたまれない。
それに気付いているのかいないのか、ユリウスはそのまま半分しか体のない青年に足を向けた。
「こちらはニスナスだ」
「どうも、陛下、お妃様」
ニスナスの声は見た目に反していたって普通だった。
「少しショッキングな見た目をしているが根は良いやつだ」
「照れますね」
そう言ってニスナスは左の手で左の頭をかいた。
「……ええと、ニスナスさんは、あの、それが普通の形なのでしょうか……?」
「はい。私は悪魔と人間の子供の末裔です。我々は代々この形で生まれてきます」
「……え」
悪魔と人間の子供がこの形になるのが普通なら、人間である私と魔王の子供はどうなるのだろう?
今まで考えもしなかったことに思考が至る。
「ああ、ご心配には及びません。私の一族の場合、その初代悪魔シックがそもそも半分に割られていたからこうなっているので。きっと陛下とお妃様の子供は可愛らしいおふたり似ですよ」
「そ、そうですか」
「ニスナスはヴァンパイアと並んで俺の学友でもある」
「古いお付き合いなのですね」
「ああ」
「いやはや、まさか王子殿下がこのように可愛らしいお妃様を連れていらっしゃるとは……」
ニスナスはしみじみと呟いた。
「どうぞ、お妃様、何かお力になれることがあれば、私にお声かけください。素速く移動することくらいしかできない私ですが、お役に立てるよう努力します」
「は、はい……」
「未知の魔族たちとのあいさつはこれで済んだな?」
ユリウスがまとめにかかる。
「はい」
「それじゃあ、食事にしようか。お昼時だからな、お腹が空いているだろう、王妃」
「そうですね」
パーティーの食事は立食形式だった。
食事はニンフとシルフが取り分けてくれた。
選んでいる内に、ユリウスとは少し離れてしまった。
ユリウスはヴァンパイアといっしょにニスナスに何か話しかけていた。
仕事の話かもしれない。昔なじみなら積もる話もあるのかもしれない。そう思うと近付けなかった。
気を遣うようにニンフとシルフが話しかけてくる。
「四族と会話でもしましょうか、お妃様」
「そうね……」
サラマンドラとノウムのいるテーブルに足を向けると、その進行方向にカーミラ嬢が立ちふさがった。
「あ、どうも……」
「…………」
カーミラ嬢はじっと私を睨みつけてきた。
「…………」
「ええと……」
どうしたらいいのだろう。
カーミラ嬢はお世話になっているヴァンパイアの妹さんでもある。
仲良くできるものならしておきたい。
しかし彼女の態度はどう見ても険悪そのものだった。
「……ご、ご機嫌よう、カーミラ嬢……ええと、あの、パーティーは楽しんでいただけていますか?」
なんとかその言葉を絞り出した。
「何をホスト面されてるのかしら、ろくに準備にも関わっていないくせに」
「……ご、ごめんなさい」
返す言葉もなかった。
ユリウスの開いたパーティーだ。もてなす側としての言動をしてみたけれど、彼女の言うとおりだった。
これは私のためにわざわざ開いてもらったパーティー。
彼女はわざわざ来てくれたお客様。
もっと言い方があっただろう。
「……すぐ謝るのはどうかと思うわ。たとえ事実だろうと、お妃様に対して無礼な物言いなのは変わらないんだから」
カーミラ嬢は不機嫌さを増した。
「…………ごめ、あ、いえ……。……ご忠告、感謝します」
「ふん。あなたの格が落ちれば、陛下の格も落ちるのよ。その自覚を持って行動を……痛い!?」
カーミラ嬢の頭に手刀が落ちてきた。
いつの間にかこちらに来ていたヴァンパイアによるものだった。
「いい加減にしろ! 申し訳ありません、愚妹があれこれと余計なことを」
ヴァンパイアは自分も折り目正しく礼をしながら、カーミラ嬢の頭を無理矢理下げさせた。
パーティーの視線がこちらに一斉に集まる。
「い、いえ、大丈夫。大丈夫よ、ヴァンパイア」
「なんだ、どうした」
ユリウスがニスナスから離れて、きょとんとした顔で近寄ってきた。
「何でも無いわ! カーミラ嬢が私にパーティーでの礼儀を教えてくださったの。それが、その態度が、ヴァンパイアには無礼に見えたみたい」
「……そうか」
ユリウスは困ったように私達を見た。
「……ドラキュラ、気持ちはわかるが、叱るのは裏側でするべきだ。大勢の前で恥をかかせるのはかわいそうだ。カーミラ、まずはありがとう、しかし、王妃はこれが初めてのパーティーなんだ。大目に見てやってほしい」
「はい、お騒がせして申し訳ない」
「……ごめんなさい」
ヴァンパイアは折り目正しく、カーミラ嬢はどこかすねたように、そう言った。
「ふー……」
私の初めてのパーティーはあまり上手くいったとは言いがたかった。
「こちらが見ての通りヴァンパイアの妹だ」
「…………」
ヴァンパイアがふたりいるとき、どう呼べばいいのだろう?
私はそれをニンフやシルフと接しているときはあまり気にしていなかった。
最初に出会った頃はあまり見分けがつかなかったからだ。
しかしこのヴァンパイア兄妹は性別が違うし、はっきりと見分けがつく。
「……ほら」
兄の方が妹に何かを促した。
「……兄がお世話になっております。ヴァンパイア族のカーミラと申します」
「王妃のミラベルです……」
つられてあいさつをしたが、カーミラ嬢は明らかに不機嫌だった。
「カーミラは今日も不機嫌だなあ」
ユリウスは事もなげに笑った。
……いつも不機嫌で、しかしカーミラ嬢はユリウスのことが好き。
つまりそれは照れているということではないのだろうか……。
「ああ、そうだ、王妃、言い忘れていたが、この程度の小規模なパーティーは私的な場に入る」
「ああ、そうだったのですね」
「ちなみに俺の名前はドラキュラと申します」
それなりに長い付き合いになるが、ヴァンパイアの名前は初めて知った。
「…………」
「カーミラはこの通り少し無口だが、ドラキュラの妹だけあって頼りになるヴァンパイアだ」
「い、いえ……」
カーミラ嬢は一気に照れたように顔を伏せた。
「カーミラ嬢、ぜひ、王妃の力になってやって欲しい」
「……………………はい」
長い。長すぎる沈黙の後に、カーミラ嬢はうなずいた。
「よろしくお願いします、カーミラ嬢」
「……………………はい」
明らかにこちらに向ける目が冷たい。
いたたまれない。
それに気付いているのかいないのか、ユリウスはそのまま半分しか体のない青年に足を向けた。
「こちらはニスナスだ」
「どうも、陛下、お妃様」
ニスナスの声は見た目に反していたって普通だった。
「少しショッキングな見た目をしているが根は良いやつだ」
「照れますね」
そう言ってニスナスは左の手で左の頭をかいた。
「……ええと、ニスナスさんは、あの、それが普通の形なのでしょうか……?」
「はい。私は悪魔と人間の子供の末裔です。我々は代々この形で生まれてきます」
「……え」
悪魔と人間の子供がこの形になるのが普通なら、人間である私と魔王の子供はどうなるのだろう?
今まで考えもしなかったことに思考が至る。
「ああ、ご心配には及びません。私の一族の場合、その初代悪魔シックがそもそも半分に割られていたからこうなっているので。きっと陛下とお妃様の子供は可愛らしいおふたり似ですよ」
「そ、そうですか」
「ニスナスはヴァンパイアと並んで俺の学友でもある」
「古いお付き合いなのですね」
「ああ」
「いやはや、まさか王子殿下がこのように可愛らしいお妃様を連れていらっしゃるとは……」
ニスナスはしみじみと呟いた。
「どうぞ、お妃様、何かお力になれることがあれば、私にお声かけください。素速く移動することくらいしかできない私ですが、お役に立てるよう努力します」
「は、はい……」
「未知の魔族たちとのあいさつはこれで済んだな?」
ユリウスがまとめにかかる。
「はい」
「それじゃあ、食事にしようか。お昼時だからな、お腹が空いているだろう、王妃」
「そうですね」
パーティーの食事は立食形式だった。
食事はニンフとシルフが取り分けてくれた。
選んでいる内に、ユリウスとは少し離れてしまった。
ユリウスはヴァンパイアといっしょにニスナスに何か話しかけていた。
仕事の話かもしれない。昔なじみなら積もる話もあるのかもしれない。そう思うと近付けなかった。
気を遣うようにニンフとシルフが話しかけてくる。
「四族と会話でもしましょうか、お妃様」
「そうね……」
サラマンドラとノウムのいるテーブルに足を向けると、その進行方向にカーミラ嬢が立ちふさがった。
「あ、どうも……」
「…………」
カーミラ嬢はじっと私を睨みつけてきた。
「…………」
「ええと……」
どうしたらいいのだろう。
カーミラ嬢はお世話になっているヴァンパイアの妹さんでもある。
仲良くできるものならしておきたい。
しかし彼女の態度はどう見ても険悪そのものだった。
「……ご、ご機嫌よう、カーミラ嬢……ええと、あの、パーティーは楽しんでいただけていますか?」
なんとかその言葉を絞り出した。
「何をホスト面されてるのかしら、ろくに準備にも関わっていないくせに」
「……ご、ごめんなさい」
返す言葉もなかった。
ユリウスの開いたパーティーだ。もてなす側としての言動をしてみたけれど、彼女の言うとおりだった。
これは私のためにわざわざ開いてもらったパーティー。
彼女はわざわざ来てくれたお客様。
もっと言い方があっただろう。
「……すぐ謝るのはどうかと思うわ。たとえ事実だろうと、お妃様に対して無礼な物言いなのは変わらないんだから」
カーミラ嬢は不機嫌さを増した。
「…………ごめ、あ、いえ……。……ご忠告、感謝します」
「ふん。あなたの格が落ちれば、陛下の格も落ちるのよ。その自覚を持って行動を……痛い!?」
カーミラ嬢の頭に手刀が落ちてきた。
いつの間にかこちらに来ていたヴァンパイアによるものだった。
「いい加減にしろ! 申し訳ありません、愚妹があれこれと余計なことを」
ヴァンパイアは自分も折り目正しく礼をしながら、カーミラ嬢の頭を無理矢理下げさせた。
パーティーの視線がこちらに一斉に集まる。
「い、いえ、大丈夫。大丈夫よ、ヴァンパイア」
「なんだ、どうした」
ユリウスがニスナスから離れて、きょとんとした顔で近寄ってきた。
「何でも無いわ! カーミラ嬢が私にパーティーでの礼儀を教えてくださったの。それが、その態度が、ヴァンパイアには無礼に見えたみたい」
「……そうか」
ユリウスは困ったように私達を見た。
「……ドラキュラ、気持ちはわかるが、叱るのは裏側でするべきだ。大勢の前で恥をかかせるのはかわいそうだ。カーミラ、まずはありがとう、しかし、王妃はこれが初めてのパーティーなんだ。大目に見てやってほしい」
「はい、お騒がせして申し訳ない」
「……ごめんなさい」
ヴァンパイアは折り目正しく、カーミラ嬢はどこかすねたように、そう言った。
「ふー……」
私の初めてのパーティーはあまり上手くいったとは言いがたかった。
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