離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ

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6、幸せな時間は終わり。

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ヒューバート様と共に食事をし、お茶をし、散歩をし、お仕事も寝る時も離れずに過ごすようになったある夜。


月の光がベッドにいる無防備な姿をした私達の姿を照らしだす。


少し乱れた息を整えながら、ヒューバート様が目を細めながら部屋に差し込む月の光を見上げる。


「今日は満月か…」
「その様ですね。とても綺麗です…」


ヒューバート様に身を委ねる形で私も満月を見上げる。


満月をこうやってゆっくりと見たのはいつぶりかしら。
結婚するまではお勉強ばかりで空を見る余裕はなかったし、結婚してからも私にはそんな心の余裕はなかったものね。


「ここから北に馬を数日走らせれば湖があるんだ。満月の日にそこへ行けば、水面に満月が映ってとても綺麗なんだ」


満月を見ながら呟くように言ったヒューバート様の言葉に、無意識で返事をしてしまう。


「それは…いつか見てみたいものですね…」
「では、次の満月の時に行ってみるか」
「そう…ですね」
「ああ、約束だ」


きっとこの約束は果たされることがないでしょう。
だって、その頃には惚れ薬の効果も切れて、ヒューバート様が正気に戻られているはずだから。


薬の効果が切れれば、この偽りの夫婦生活もおわって、私はここから出ていくことになる。
この幸せな時間は、あと2週間も無いのね。


幸せな時間はすぐに過ぎてしまうものーーー。


目を覚ませば先に起きているヒューバート様と目が合い、そして優しく微笑んでキスを落としてくれる。
これが私達の最近の当たり前だった。


だけど、今日はそうではなかった。


ヒューバート様が惚れ薬を飲んで1ヶ月経ったある朝。


目を覚まして目が合ったのは、驚愕で目を見開いているヒューバート様。
彼のその表情を見て全てを悟る。


夢のような幸せな時間は終わったのね。


「な、何故君がここにいるんだ…」


鋭く睨みつけてくる瞳に、胸に何かが突き刺されたかのような感覚になる。


いつかこの日が来ると覚悟していたはずなのに、実際に体験すると想像以上に辛いものね…。


ヒューバート様の視線に涙が出そうになるけど、こうなると分かっていて最終的に彼と共にいることを望んだ、その私への罰なのだから泣く訳にはいかないわ。


「お目汚しを申し訳ありません。ただちに退出致します。失礼いたしました」


ガウンを羽織って部屋を飛び出して自室へと戻る。
ここ数週間戻って来れなかったけど、掃除はしてもらえてるようで塵ひとつ落ちていない。


この部屋とも、あと少しでお別れね。
惚れ薬の効果が切れたのは丁度ひと月。
あの日から1ヶ月たったのなら、離婚届もそろそろ受理されるはずよね。


そう思って過ごしていると、予想通り1週間もしないうちに離婚受理証明書が届けられた。
これで、ヒューバート様とはもう夫婦でもなんでも無くなる。


証明書が届いたのなら、もう私がここにいる理由は無くなった。
正気に戻ってからのヒューバート様は、酷く混乱して私に会いたくないご様子だったけど、最後だけは扉越しに挨拶をして屋敷を出ていく。


愛されなかったとはいえ、私と結婚してくださってありがとうございました。
最後の最後で幸せな記憶をありがとうございました。
たとえ偽りであったとしても、貴方に愛していただけた時間は、とても幸福でした。


どうか、次に妻となる人とお幸せに。
屋敷から離れていく馬車の中で、そっと祈る。


惚れ薬を飲んだ時のヒューバート様が本来の姿なのであれば、あの方はとても積極的で情熱的な方だったわ。
ヒューバート様が今後誰かを愛することになれば、きっとその方を幸せにしてくれるでしょうね。


願わくば、その愛する人が私であればいいと願ったけど、もう私はヒューバート様の隣に経つ覚悟はない。
一時とはいえ彼から愛されることを知り、その後に避けられる事の悲しみを知っている。
そんな私がもう一度彼に愛して欲しいなんて言えるわけがない。


もう私は、少しも傷つき無くないのだから。


離婚する前にヒューバート様への気持ちが更に大きくなってしまったけど、この気持ちは早く捨ててしまった方がいいわね。


実家に帰る前に、この気持ちをどこかで精算しよう。そして、今後どうするかを真剣に考えよう。


「あの、すみません。行き先を変えていただきたいのですがーーー」



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