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7、どうしてここへ…?
しおりを挟むこうして1人で外に出るのはいつぶりかしら。
実家に帰らず街へと向かい、乗せてくれた御者にはここから乗合馬車で実家に帰ると告げて帰ってもらった。
一応心配させないように、実家には『1人旅行を楽しんでから帰る』と手紙を出してから、馬車を乗り継いで北の湖へとやって来た。
ここは、ヒューバート様が共に満月を見に行こうと言って下さった場所。
あの時のヒューバート様は正気ではないと理解していたし、一緒に見れるとも思っていなかった。
だけど、ヒューバート様が仰っていた光景を一目見てみたかった。
この澄み切った湖に映る月はどれほど美しいのかしら。
満月にはまだ10日程あるみたいだから、それまでは景色を眺めながら借りているお部屋で休みましょうか。
今までした事の無い一人旅を1週間近くしているからか、最近はすぐに疲れてしまってあまり体調が良くない日が多い。
だけど体調が悪くても、せっかくここまで来たのだから目的の満月を見てから帰りたい。
そうすればきっと…ヒューバート様へのこの気持ちを消すことが出来る気がするわ。
ヒューバート様と離れてから、食事をしても、外を歩いても、寝ていても、すぐにヒューバート様のことを思い出してしまう。
別れる前のひと月の間、何をするにもずっと一緒にいたからヒューバート様の姿が鮮明に思い出せてしまうのね。
食事を食べていれば、私が食べている姿を愛おしそうに見つめ、目が会えば嬉しそうに目を細めるヒューバート様の顔を。
外を歩いていれば、離れないようにと指を絡め手を繋いで歩幅を合わせて歩いてくれたヒューバート様の姿を。
ベッドに横になれば、端の方で眠る私を優しく腕で引き寄せ抱きしめてくれたヒューバート様の温もりを。
早く忘れてしまいたいのに、思い出してはもう近付くことさえ出来ないヒューバート様を想って寂しくなる。
私から離婚を言い出したのに、勝手よね。
ヒューバート様はきっと、出て行った私の事をなんとも思ってらっしゃらないでしょうに。
早くこんな気持ちを捨てられればいいのに。
そうすれば、こんなにも胸が痛まずに済むのに。
なんとも厄介なものね、この恋心というものは。
ヒューバート様への想いを捨てることが出来ないまま、満月の日は近付いてきた。
ここの食事が合わないのか、最近よく胸のむかつきを覚えるけど、きっと実家に戻って慣れ親しんだ食事を取れば戻るでしょう。
いよいよ今夜は満月の日だから、それを見られたら明日の朝早くに実家に帰ることにしましょう。
夜までは部屋でゆっくりと休んで、暗くなってから湖へと向かう。
湖に行けば、点々と人影が見える。
私以外にも満月を見に来ている人がいるみたい。
空いている場所で私も水面に目を向ける。
「綺麗…」
満月が鏡のように水面に映し出され、まるで地上にも月があるように見える。
反射した光で辺りが照らされて、なんとも幻想的な光景だ。
こんな景色を、ヒューバート様と見られたら幸せだったでしょうね…。
もう会うことの無いヒューバート様。
こんな幻想的な光景が存在することを教えていただき、ありがとうございました。
最後のひと月を除き、決して愛されることはありませんでしたが、貴方と共に居られたことは奇跡のようでした。
「幸せな時間をありがとうございました…」
湖に向かって呟くように言えば、少しだけ心が軽くなった気がした。
さようなら…。
「それは、俺が惚れ薬でおかしくなっていた時のことを言っているのか」
「っ!」
ここ最近毎日の様に聞いていた聞き覚えのあり過ぎる声に、一瞬思考が停止する。
いえ、そんなことがあるはずがないわ。
こんなところに、あの人がいるわけがないわ…。
「ヒューバート、さま…?」
ゆっくりと振り返れば、最後に見た時よりも少しやつれた様子のヒューバート様が立っていた。
どうしてここにヒューバート様がいらっしゃるの…?
ヒューバート様もここへ月を見にいらしたのかしら。
それならば、私は早くヒューバート様の視界から消えなくてはいけないわ。
月を見に来たのに私が居てさぞかし不愉快だったでしょうから、挨拶だけして早く部屋に戻りましょう。
「こんばんは、ギルベルタ様。良い夜をお過ごし下さい。それでは失礼いたします」
さっきは咄嗟に名前を呼んでしまったけれど、もう夫婦ではなくなったのでファミリーネームで挨拶をする。
最低限の礼儀を守って挨拶もしたのだから、早く彼の前から立ち去らないと。
「待て!」
「っ、」
横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれて動きを止められる。
「あの、なにを…っ、きゃ!」
するのですか、と言う言葉は、掴まれた腕が引かれた事で飲み込まざるを得なかった。
「も、申し訳ありません!」
腕を引かれたことによってヒューバート様の胸に倒れ込む様な形になってしまったので、すぐにヒューバート様から距離を取ろうとする。
だけど、それもヒューバート様が腰に腕を回すことで阻止されてしまう。
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