離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ

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12、本当に離れないといけないわ。

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「何か食べられそうなものや、食べたいものはあるか?」
「そうですね…」


いちごを食べたいとは思うけど、今は時期ではないのでおそらく売っていないはず。


「とくに、ありません」
「そうか。今朝もあまり食べていなかったが、やはり食べるのも辛いのか?」
「そうですね…。申し訳ありません」
「いや、謝ることでは無い。食べられそうな物があったら教えてくれ。必ず用意する」
「ありがとうございます」


もしここで私がいちごを食べたいと言ったなら、ヒューバート様は本当に用意してくれそうね。
だからこそ、余計に食べたいなんて言えないわ。
食事も量があまり取れないと言うだけで、日常生活を過ごす上で問題はないのだから。


「段差があるから足元気を付けるんだぞ」
「はい、ありがとうございます」


段差があれば教えてくれて、躓いても支えれるように腰に手を回してくれる。
表情こそ堅いけど、してくれる事が惚れ薬を飲んでしまった時のヒューバート様そのものだわ。


こんなヒューバート様を見ていると、本心から私に好意を寄せてくれるのではないかと期待してしまいそうになる。
だけど、私達は離婚が成立したばかりで、ここに居させてもらえるのも、私の体調を気遣ってくれたから。


だから、ヒューバート様の一つ一つの行動に他意なんてない。
彼はただ、体調の優れない人間を労わっているだけ。
変な勘違いなんてしてはいけない。


してはいけない…。


「少し風が冷たくなってきたから、これをかけていろ」


してはいけないのに。


上着を脱いで私の肩にかけてくれる。
それだけのことでも胸が高鳴って、私の事を想ってくれているのではないかと期待してしまう。


彼と居られるのは、私の体調が整って実家に帰れるようになるまで。
きっとそれはそんなに長い期間ではない。


私達はそのうち別れて、本当に他人同士になる。
ヒューバート様はきっと、その時が来れば別れの言葉だけを言ってあっさりと見送ってくださるはず。
それなのに、ヒューバート様の行動に勝手に期待してしまえば、別れる時に辛い思いをするに決まっている。


期待したものが打ち砕かれる辛さは、ここ数年でよく理解している。
だから、なにも期待してはダメ。


「体調はどうだ?まだ歩けそうか?」
「はい、問題ありません」


気を使って話しかけてくれるヒューバート様にも。


「少し座って休むか」


ベンチに座る時に、自然と私が座る所にハンカチを置いてくれるヒューバート様にも。


「………」


ベンチに座ってからも握った手を離すことがないヒューバート様にも。
何もかも期待してはいけない。


だけど、この状況はとても辛い。
好きな人から優しくされれば、どれだけ自分に言い聞かせようとしても、無意識に期待をしてしまいそうになるもの。


やっぱり、体調が悪いからといっても離婚したのに、一緒に居るべきではないわ。


辛い想いをする前に、早くここを出ていかなければ行けないわ。


ヒューバート様と屋敷で過ごして1週間以上たった今、体調は相変わらず良くは無いけど、彼の前で嘔吐する事はなくなってきた。
実家まで馬車を乗って行くのは辛いだろうけど、ここに居るより実家に帰った方が精神的に落ち着ける。


それに、私がここにいればヒューバート様は新しい奥様を探すことが出来なくなるでしょうし、私もこれ以上ヒューバート様に優しくされて勝手な勘違いをして傷付きたくない。
なので。


「なにを考えているんだ?」


まだ起きるには時間が早かったので、ベッドで横になったまま考え事をしていると、旦那様が起きたみたいで後ろから声をかけられる。


「すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、ただ目が覚めただけだ。それより、なにか考えていたのか?」
「はい。体調も良くなって来ましたし、そろそろ実家に帰ろうかと考えていました」


ヒューバート様の目を見ると、ここを離れるという意思が揺らぎそうになるかもしれない。
だから、ヒューバート様に背を向けたまま起き上がり、ベッドに座りながら私の意思を伝える。


「…………何故だ」


私の言葉を聞いて、少しだけ間を置いてヒューバート様は絞り出すような声で言葉を発した。
どこか苦しげな声に、思わず後ろを振り返れば、少し傷付いたような表情をした彼と目が合う。


どこか責められているような目に、なんだか後ろめたくなって視線を逸らしてしまう。


「前よりも体調が良くなりましたし、実家に帰れそうだと思ったからです。それに、どんな理由であれ離婚した夫婦がこうやって同じ場所で過ごすのはよくありませんわ」
「そんなことは…」
「それに、ギルベルタ様の次の縁談が来づらくなってまうでしょうし、別れるなら早めの方がいいはずです」


ヒューバート様の声を遮って話した事は、自分でも驚くほど胸が痛んだ。
ヒューバート様への想いを捨てようと思っていたのに、彼に次の奥様が出来ることを想像するだけでも胸が痛くなる。


離婚したいと言い出したのは私なのに、こんな事で辛くなるなんておかしいわよね。



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