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13、なぜ引き留めようとするのですか。
しおりを挟む「今日にでも、帰ろうかと思っています」
「急だな」
「そんなことはありません。ここに泊めて頂いていたのは、実家に着くまでに私の体力がもちそうになかったからですもの。体調が良くなれば出ていくのは当然の事です」
「安定期に入るまでは安静にしておけと医者が言っていただろう」
「馬車に乗っているだけですし、問題はないはずです」
それに、お医者様はストレスを感じるのが1番良くないと言っていたので、少し無理してでも実家に帰ってヒューバート様と離れる方が赤ちゃんのためにもいいはずよ。
「道中で何かあったらどうするんだ」
「なるべく休憩を取って帰るつもりですし、街がある場所ではお医者様に必ず見ていただくようにするので心配いりません」
「街と街の間で何かあるかもしれないだろ」
ヒューバート様は、こんなにも心配性だったかしら。
まるで実家に帰ることを遠回しに止められている様で、どうしてヒューバート様がこんな事を言われるのか理解出来ない。
夫婦であった時はいつも素っ気なくて、私が少し危険な場所に行きたいと言っても、勝手にしろと言われたことしか無かった。
それなのに、今は特に危険でもない道のりを心配されるなんて、一体どうしたのかしら。
私に興味が無かったヒューバート様でも、お腹の子の事は心配になるという事なのかしら?
「なるべくお腹の子を最優先に考えて進むつもりですし、道中気を付けることはお医者様から事前に聞いているので心配なさらないでください」
「…どうして今日なんだ。別に後1ヶ月ここに滞在してから帰っても良いだろ」
「また体調が悪くなるかもしれませんので、体調が良くなった今帰るべきだと思います」
「………荷造りは、もう出来ているのか」
「はい」
持っていたものはそんなに多くは無い。
荷物自体もあまり鞄から出していないので、わざわざ荷造りする必要も無い。
「家に帰ってから、子供はどうするつもりなんだ」
「産んで育てるつもりです」
「その子に俺のことはなんて説明するつもりだ」
「何も伝える気はありません。もしギルベルタ様の子だと分かれば、今後再婚されて子供が出来た際跡継ぎのことなど、面倒な事が起きる可能性があるでしょうから」
ヒューバート様には離婚してまで迷惑をかけたくはない。
それも、これから愛するべき我が子のことでなら尚更。
この子には可哀想な事かもしれないけど、お父様は不慮の事故で亡くなったということにしておきましょう。
最初から居ないのなら、悲しみも減るでしょうしね。
「その子に俺のことを伝えないのか?」
「はい。私達は離婚していますし、この子の存在は離婚してから発覚したので、ギルベルタ様とは無関係で生きていく方がギルベルタ様の為にも、この子の為にもいいと思います」
ヒューバート様には今後関わらないようにするという事を含ませながら、安心してもらえるように伝える。
だけど、ヒューバート様の表情は和らぐことなく、更に険しくなる。
「その子から父親を奪うつもりか?」
「奪う…という事になるのかも知れません。ですが、これがお互いの為に最善の選択だと思います」
ヒューバート様の次のお相手が子供を産んでから、この子の事で悩まないように、この子がヒューバート様の次の子を見て、捨てられたと思って悲しまないように。
我が子がヒューバート様の子だと誰にも知られない事で、きっとみんなが幸せになれるはず。
「子育てをするのに父親が必要なはずだ。その点はどう考えているんだ」
父親が居ない子供はきっと、噂好きの人達の格好の餌食になるでしょう。
そうなれば、子供が嫌な思いをするはず。
ヒューバート様はその事も心配なさってくださるのね。
「この子の父親になってくれる方と結婚しようと考えていますので、ご心配頂かなくても大丈夫です」
「相手に心当たりがいるのか…?」
そんな人はいるわけがない。
私はこれまでヒューバート様以外の男性に興味を持った事がない。
それに、離婚して子持ちとなる私と結婚してくれる人なんてすぐに見つかるとは思えない。
だけど、ここで正直にいないと言えば、子供のことを心配して下さっているヒューバート様は、家に帰らせてくれない気がするので嘘をつく。
「ギルベルタ様と婚姻を結ぶ前に、私の事を愛して下さる方がいました。今でも私の事を想っていてくださるみたいなので、その方を訪ねるつもりです」
「っ、誰だそいつは!」
「ぎ、ギルベルタ、様?」
「俺の知っている男か!?名前はなんというんだ!離婚を言い出したのはそいつの事が好きだからなのか!」
「な、何をおっしゃるんですか!」
離婚をしたかったのは、旦ヒューバートの愛を求めるのに疲れたからなのに。
それよりも、ヒューバート様はどうしてこんなにも鬼気迫る表情で私を問いつめて来るの。
そんなにも子供の父親となる人の事が気になるのかしら。
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