15 / 24
15、ヒューバート様が…?
しおりを挟む「君に関心を向けず、何も不満を言わない君の優しさに漬け込んで、夫婦の時間を持とうとしなかった。そんな俺が言える言葉では無いが、俺は…俺は、君だけには嫌われたくない」
私に嫌われたくない…?
私がヒューバート様の事を嫌うはずがないわ。
それなのに、旦那様はどうしてこんな事を言うのかしら。
私に嫌われたくないなんて。
「頼むから、俺から離れていかないでくれ。俺と共に居てくれ。俺は、君以外の女性を妻になんて迎える気はないのだから…」
どうしてそんなことを仰るの…。
そんなのまるで。
まるで旦那様が私の事をーーーー。
「俺は、君の事を愛している」
「………また、惚れ薬を飲まれたのですか…?」
熱い手で私の手首を握りしめながら真剣な声で言う旦那様に返せたのは、こんな言葉しかなかった。
「違う!俺は、心の底から君を愛しているんだ。ロズ」
呼ばれた愛称に、惚れ薬を飲んで愛してくれたヒューバート様の姿を思い出して胸がドキッと跳ねる。
だけど、どこかのタイミングでヒューバート様が惚れ薬を飲んでしまったのではないかとも疑ってしまう。
だって、ヒューバート様が私を愛して下さる理由がわからないもの。
彼と別れてから再会するまで変わったことと言えば、子供が出来たことくらい。
子供を身篭ったからと言って、無条件に私を愛すかしら…。
いいえ、3年間ずっと傍で見てきたのだから、ヒューバート様がそんな方ではないと断言出来る。
そうなると、ヒューバート様がこんなことを言う理由は、また惚れ薬を飲んだからとしか考えられない。
「その感情は薬による物だと思います」
「俺が惚れ薬によって君に恋したことは事実だ。だが、今は違う。本心から君を愛しているんだ!」
そんなことを言われても、すぐに信じられるわけがない。
「惚れ薬が切れた日から私が出ていくまで、私を避けていましたよね。それなのに、どうしてそんな事が言えるのですか」
惚れ薬が切れたあの日から私が出ていくまで、ヒューバート様は私を徹底的に避けていた。
元々そういう生活をしていたから、日常が戻ってきたんだと納得させられたけど、辛くなかったと言えば嘘になる。
ヒューバート様はからすれば、目が覚めれば今まで必要以上に関わりたくなかった妻が隣に寝ていたのだから、酷く混乱されたのだと思う。
それに、妻を溺愛していた記憶があるのだから、その記憶が受け入れられなくて私と会いたくなかったのも理解出来る。
だけど薬のせいとはいえ、愛を求めていた人から愛され、突然その愛が消えてしまうのは寂しかった。
これは偽りの愛で、期間限定なものだと頭で理解していても、感情がついていかなかった。
もうそんな気持ちにはなりたくない。
だから、ヒューバート様の言葉に何も期待したくない。
それなのに、ヒューバート様は掴んでいる私の腕を自身へと引き、距離を縮めて空いている手で私の頬をまるでガラス細工に触るかのような優しいて付きで触れる。
そのまま頬に手を添えて、目が合うように顔を上にあげられる。
「っ、」
どうして、ヒューバート様がそんなにも辛そうな顔をしているの。
眉を寄せて、まるでなにかの痛みに耐えているかのような表情に、何故だか私も胸が締め付けられるような気持ちになる。
目が合った私に、ヒューバート様は静かに言葉を続ける。
「惚れ薬が切れた時は、自分の感情が理解出来ずに戸惑って、君との距離をおいた。俺のこの感情が…君を愛しいと思う感情が薬によるものなのか、本心から来るものなのかが判断できなかったからだ」
まるで、本当に私を愛してくれているかのように聞こえる言葉に、つい期待してしまいそうになる。
「自分の感情が理解できるまで、君と距離をおこうとした。だが、君が家を出ていって気付いたんだた。俺は、惚れ薬が切れた今でも、君のことを愛していると…」
ヒューバート様の表情は嘘をついている様に見えない。
だけど、今まで私に見向きもしなかったヒューバート様が、惚れ薬もなく私を愛してくれるなんてすぐには信じられない。
それにもう、本当に期待なんてしたくない。
「まだ、薬が残っているのかもしれませんよ」
自分の心を守るためにそう言えば、ヒューバート様が顔をさらに顰め、泣きそうな表情になる。
「違う!違うんだ…!俺がどれだけロズの事を愛しているか分からないだろうが、ロズが俺から離れていくと思うと、胸が引き裂かれそうになるんだ。君が実家に帰っていないと知った時、どれだけ心配したか。君を見つけるまで…本当に生きた心地がしなかった」
頬に添えられている手が少しだけ震えている気がした。
「子供が出来たと知った時は驚いた。だが、本当に嬉しかったんだ。それなのに、君は別の男と子供を育てると言うし、俺に再婚を勧めてくる…!それがどれだけ気が狂いそうになるか!俺は!俺はロズと一緒にその子を育てて行きたいんだ!愛するロズとこれからもずっと一緒にいたいんだ!」
728
あなたにおすすめの小説
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる