離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ

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15、ヒューバート様が…?

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「君に関心を向けず、何も不満を言わない君の優しさに漬け込んで、夫婦の時間を持とうとしなかった。そんな俺が言える言葉では無いが、俺は…俺は、君だけには嫌われたくない」


私に嫌われたくない…?



私がヒューバート様の事を嫌うはずがないわ。
それなのに、旦那様はどうしてこんな事を言うのかしら。
私に嫌われたくないなんて。


「頼むから、俺から離れていかないでくれ。俺と共に居てくれ。俺は、君以外の女性を妻になんて迎える気はないのだから…」


どうしてそんなことを仰るの…。
そんなのまるで。


まるで旦那様が私の事をーーーー。


「俺は、君の事を愛している」
「………また、惚れ薬を飲まれたのですか…?」


熱い手で私の手首を握りしめながら真剣な声で言う旦那様に返せたのは、こんな言葉しかなかった。


「違う!俺は、心の底から君を愛しているんだ。ロズ」


呼ばれた愛称に、惚れ薬を飲んで愛してくれたヒューバート様の姿を思い出して胸がドキッと跳ねる。


だけど、どこかのタイミングでヒューバート様が惚れ薬を飲んでしまったのではないかとも疑ってしまう。


だって、ヒューバート様が私を愛して下さる理由がわからないもの。
彼と別れてから再会するまで変わったことと言えば、子供が出来たことくらい。


子供を身篭ったからと言って、無条件に私を愛すかしら…。


いいえ、3年間ずっと傍で見てきたのだから、ヒューバート様がそんな方ではないと断言出来る。
そうなると、ヒューバート様がこんなことを言う理由は、また惚れ薬を飲んだからとしか考えられない。


「その感情は薬による物だと思います」
「俺が惚れ薬によって君に恋したことは事実だ。だが、今は違う。本心から君を愛しているんだ!」


そんなことを言われても、すぐに信じられるわけがない。


「惚れ薬が切れた日から私が出ていくまで、私を避けていましたよね。それなのに、どうしてそんな事が言えるのですか」


惚れ薬が切れたあの日から私が出ていくまで、ヒューバート様は私を徹底的に避けていた。
元々そういう生活をしていたから、日常が戻ってきたんだと納得させられたけど、辛くなかったと言えば嘘になる。


ヒューバート様はからすれば、目が覚めれば今まで必要以上に関わりたくなかった妻が隣に寝ていたのだから、酷く混乱されたのだと思う。
それに、妻を溺愛していた記憶があるのだから、その記憶が受け入れられなくて私と会いたくなかったのも理解出来る。


だけど薬のせいとはいえ、愛を求めていた人から愛され、突然その愛が消えてしまうのは寂しかった。
これは偽りの愛で、期間限定なものだと頭で理解していても、感情がついていかなかった。


もうそんな気持ちにはなりたくない。
だから、ヒューバート様の言葉に何も期待したくない。


それなのに、ヒューバート様は掴んでいる私の腕を自身へと引き、距離を縮めて空いている手で私の頬をまるでガラス細工に触るかのような優しいて付きで触れる。
そのまま頬に手を添えて、目が合うように顔を上にあげられる。


「っ、」


どうして、ヒューバート様がそんなにも辛そうな顔をしているの。


眉を寄せて、まるでなにかの痛みに耐えているかのような表情に、何故だか私も胸が締め付けられるような気持ちになる。


目が合った私に、ヒューバート様は静かに言葉を続ける。


「惚れ薬が切れた時は、自分の感情が理解出来ずに戸惑って、君との距離をおいた。俺のこの感情が…君を愛しいと思う感情が薬によるものなのか、本心から来るものなのかが判断できなかったからだ」


まるで、本当に私を愛してくれているかのように聞こえる言葉に、つい期待してしまいそうになる。


「自分の感情が理解できるまで、君と距離をおこうとした。だが、君が家を出ていって気付いたんだた。俺は、惚れ薬が切れた今でも、君のことを愛していると…」


ヒューバート様の表情は嘘をついている様に見えない。
だけど、今まで私に見向きもしなかったヒューバート様が、惚れ薬もなく私を愛してくれるなんてすぐには信じられない。
それにもう、本当に期待なんてしたくない。


「まだ、薬が残っているのかもしれませんよ」


自分の心を守るためにそう言えば、ヒューバート様が顔をさらに顰め、泣きそうな表情になる。


「違う!違うんだ…!俺がどれだけロズの事を愛しているか分からないだろうが、ロズが俺から離れていくと思うと、胸が引き裂かれそうになるんだ。君が実家に帰っていないと知った時、どれだけ心配したか。君を見つけるまで…本当に生きた心地がしなかった」


頬に添えられている手が少しだけ震えている気がした。


「子供が出来たと知った時は驚いた。だが、本当に嬉しかったんだ。それなのに、君は別の男と子供を育てると言うし、俺に再婚を勧めてくる…!それがどれだけ気が狂いそうになるか!俺は!俺はロズと一緒にその子を育てて行きたいんだ!愛するロズとこれからもずっと一緒にいたいんだ!」



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