23 / 24
23、満月の日
しおりを挟む「んん…」
「目が覚めたのか。眠いならまだ寝ていてもいいんだぞ」
目を覚ませば、少し動けば鼻先が触れてしまいそうなほど近くで私の寝顔を見ていたヒューバート様が優しく笑いかけてくれる。
「いえ、もうそろそろ満月が出る頃ですし、早く湖へ向かいましょう」
ヒューバート様と再び夫婦になってから時が流れ、臨月を迎えた私はヒューバート様にわがままを言って、私達が再会した湖へと満月を見に来ていた。
「そんなに慌てなくても月は逃げない。だからゆっくり歩いてくれ。それと、夜は少し冷えるから上着を着てくれ」
「少し見に行くだけですのに…」
「ダメだ。医者からも冷やすなと言われただろ。上着を着るのが嫌なら、俺が君を布団で巻いて抱えていこうか?」
「いえ、上着を着ます」
冗談っぽく言っているけど、私が上着を着なければ本当に抱えていかれそうなので大人しく言葉に従う。
再婚してからのヒューバート様は本当に過保護だ。
私が病弱なお姫様か何かかと思っているのか、少し外を歩こうとしただけで上着を着ろと言ったり、転ぶと危ないから手を繋げと手を握ってきたりする様になった。
そうされるのが嫌ということでは決してないけれど、過保護過ぎて困ってしまう。
そこまで心配されなくても1人で動けるのに…。
「さぁ、行くか」
過保護過ぎるのは困ってしまうけれど、こうやって手を伸ばされると自然に繋ぎ返してしまうのだから、ヒューバート様の過保護が治ることがない。
「今日は晴れているからよく見えるはずだ」
「そうだといいですね」
繋いだ手に引かれて湖の近くへ行けば、反射した満月によって周囲が幻想的な風景になっている。
見るのは2度目だけど、本当に綺麗な光景だわ。
「ロズと見ているからか、いつもより輝いて見えるな」
「なにを仰って………っ、!」
「どうしたロズ!?」
突然腹部に痛みが走る。
痛みで前方に倒れそうになると、ヒューバ様の凛々しい腕に受け止められる。
「くっ、うぅ…」
「痛むのか!今すぐ医者に見てもらうぞ」
痛みに耐える私をヒューバート様は横抱きにして宿へと走り出す。
走り出す前に護衛に医者を呼ぶように指示していたので、宿に着いた頃には既にお医者様が部屋で待たれていた。
お腹を抱える私を見て、お医者が慌ただしく動き出す。
「産気づかれています!今すぐ出産の準備を致しますので、奥様以外は一旦外に出て下さい!」
お医者様がそう言ってヒューバート様達を部屋から追い出した。
次にヒューバート様の顔を見たのは、疲弊しきった私が産まれたての我が子を抱きしめた時だった。
部屋に入ってきた時のヒューバート様は、私と赤ちゃんを見て感極まって泣きそうになっていた。
ゆっくりと私達に近付き、労うように私の額にキスをしてくれる。
「俺達の子を産んでくれてありがとう。生きていてくれて、ありがとう」
出産で命を落とすことは珍しことでは無いので、きっとヒューバート様はその事も心配されていたのでしょう。
よかった、と言いながら頭を撫でてくれる。
「君に似て可愛い子だ。こんなにも可愛い子の親になれるなんて、俺は幸せ者だな」
「この子の名前はどうしましょうか?」
「そうだな…」
ヒューバート様は少し考えた後、口を開くーーー。
464
あなたにおすすめの小説
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる