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千獣の魔王 編
053. VS奏星の魔王軍〜本隊現る〜
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正午より少し前。監視していた兵士が叫んだ。
「来たぞー! 魔人共だ!」
一報が届き、街の緊張感が高まった。
魔人は街の北側の上空より飛来した。対空したまま遠距離魔術での攻撃を身構えたベルトガルド兵。
しかし魔人達は急降下して街に降りてきた。
ベルトガルド兵にとって都合の良い展開になった。
作戦立案の段でベルタリオは言った。
「魔人共はわざわざ地上へ降りてくるだろう」───と。
その予想は魔人達の習性や思想による。
魔人は我らこそが最も優れた種と驕り高ぶっている種族である。
故に直接自らの手で敵を葬ることを美徳としている。
悪魔族は他種族の負の感情───絶望、恐怖、殺意と言ったものを好む。だからこそ、それを最大限に感じられる直接の戦闘や殺戮を行う。
更に魔人種の中でも多数を占めるのが悪魔族という点も考慮された。
以上の点から、対空戦はまず無いだろうとの判断だった。
魔人の軍勢はニヤニヤとした嗜虐的な笑みでベルトガルド兵に近づいていく。
再び叫喚の虐殺が始まることになる。
ただし、聖戦の魔女がいなければ、だが。
爪を伸ばしベルトガルド兵に斬り掛かった魔人。
腕が切り飛ばされ、血飛沫が上がった───魔人の腕が。
両手で剣を振り上げたベルトガルド兵は、そのまま魔神族の首を刎ね飛ばした。
まさかの展開に、慄然とする魔人の軍勢。
気を引き締めて獣人達に襲いかかるが、獣人たちは通常ではありえない強さで拮抗していた。
しかも普く全員が。
予想に反して苦戦を強いられた魔人達は一度体勢を立て直そうと空へ一時撤退することにした。
しかし建屋の上層から顔を出した呪怨術師たちが上空に張った罠が発動する。
呪術陣という魔法陣のような術が密かに配置されており、それに気付かず接触してしまった魔人は、己の羽の動きが鈍り、地上に墜落した。この呪術陣には麻痺の呪いが付与されていたのである。
墜落した先に待ち構えていた獣人の兵士たちが、一気に襲いかかる。
戦の出だしは快調だった。
決死の覚悟で立ち向かった兵士たちの士気は高く、火事場の馬鹿力を発揮した。もちろん【聖戦】の絶大な効果は言うに及ばない。魔人の意表を突けたことも大きな要因だった。
しかし奏星の魔王軍もさるもので、もしもの時を予測して戦力を一度の投入する愚は犯さなかった。
後続の奏星の魔王軍第二波が飛来した。
先発隊の失態を見て取った第二陣は、対空して遠距離攻撃を間断なく放つ。
これに抗するはベルトガルドの神聖術師隊。その半数が防御壁を展開し、その合間から残りの半数が攻撃神聖術で反撃していく。
ネルは次々と運ばれてくる負傷者を治療していき、リリは町中を急いで駆け回って補給と伝令の任をこなし、レイアは他の呪怨術師たちと共に新たな罠を仕掛けていた。
一方、フィールエルはもどかしい気持ちを抑えつつ、後衛に控えていた。
確かにフィールエルが出陣すれば負傷者はより少なく、戦況は大きく有利に傾くだろう。だが、もし彼女になにかあった場合は、とりも直さず【聖戦】切り札を失うことになる。
まだ自分が出るのは早い。
フィールエルは己の立場と戦況をわきまえていた。
陽が没した。生き残った数百の魔族が敗走したことで、初戦は大勝利で終わった。
戦死者はベルトガルド軍五百に対し、魔人軍は四万六千強。大殊勲だといえる。
これには兵士たちの活躍はもちろん、メナ・ジェンド獣王国の幹部たちの働きによるところが大きかった。
彼らはベルタリオが旗揚げしたときからの腹心の部下であり、戦友である。一騎当千、歴戦の兵ばかりだった。
しかし、そんな彼らも理解していた。明日は強よりも厳しい戦いになるだろうと。
明日襲撃してくるだろう五万の軍勢。これが奏星の魔王軍の本隊であることは間違いなかった。
何故なら今日の先遣隊を構成していたのは殆どが悪魔族で、彼らは好戦的かつ残虐ではあるが戦力としては魔人種の中では下等であった。
明日の本隊には恐らく幻魔族、幽魔族、大魔族、そして貴魔族という高位の種族も多数存在すると思われた。
数は同数でも、戦力は桁違いに高くなる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
執務室でベルタリオは考えていた。
今日の戦場に、奏星の魔王グレン・ツェット・スタンガイツは現れなかった。
やはり今日は様子見だったのだ。
「ベルタリオ様……」
彼に声をかけたのは、側近の女だった。
「カルラか。明日、私にもし何かあった時はよろしく頼むぞ」
「そんな事を仰らないで下さい! ベルタリオ様ならばグレンなど一捻りです」
力説する部下にベルタリオは苦笑した。
「たしかに昔は私のほうが強かった。しかし昨日相見えた時、ヤツが強大な力を身に着けていることを感じた。この数十年、私が政務にかかりきりだったのに対し、やつは研鑽を続け己の力をましていっていたのだろうな。いまは私と互角か、もしかすると私よりも上かもしれぬ」
「…………」
「そんな泣きそうな顔をするな。なに、私も魔王の一人。決して遅れはとらんよ。何があろうと、この国は守ってみせる」
何があってもとは、自分の身に何があってもという意味だろう。
それは違います! とカルラは叫びたかった。ベルタリオあってのメナ・ジェンド獣王国なのだ。しかしそれをいっても詮無いこと。ベルタリオもそれは理解しているのだ。
「さぁ、お前も今日は疲れただろう。休むがいい」
切なそうな顔で一礼すると、カルラは退室した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
明朝。北方向の哨戒兵から伝令が届いた。
奏星の魔王軍の本隊を確認。貴族など高位魔神族多数。
奏星の魔王の姿もそこにあると。
「来たか」
ベルタリオは呟き官邸の屋上に転移した。
確かにグレンの巨大な力を感じる。
官邸前の広場を見下ろすと、フィールエルが【聖戦】を施していた。
彼女達には感謝せねばならない。彼女達がいなければ昨日の戦の被害は桁違いに大きくなっていただろう。
それに、ユーゴだ。
昨日の冥海の魔王軍戦の終了時から杳として行方が知れない。
まぁあれだけの実力を持つ男だ。心配することにはないだろう。彼にもなにか礼をせねばなるまい。行きずりで戦争にも巻き込んだうえ、あれだけの働きをしてもらったのだから。
「よし。私もやるか」
気合を入れ、ベルタリオは己の獣性を全て開放した。
そして決戦の日が始まった。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、
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この作品を皆様で盛り上げて頂き、書籍化やコミカライズ、果てはアニメ化などに繋がればいいなと思います。
この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
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魔人は街の北側の上空より飛来した。対空したまま遠距離魔術での攻撃を身構えたベルトガルド兵。
しかし魔人達は急降下して街に降りてきた。
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「魔人共はわざわざ地上へ降りてくるだろう」───と。
その予想は魔人達の習性や思想による。
魔人は我らこそが最も優れた種と驕り高ぶっている種族である。
故に直接自らの手で敵を葬ることを美徳としている。
悪魔族は他種族の負の感情───絶望、恐怖、殺意と言ったものを好む。だからこそ、それを最大限に感じられる直接の戦闘や殺戮を行う。
更に魔人種の中でも多数を占めるのが悪魔族という点も考慮された。
以上の点から、対空戦はまず無いだろうとの判断だった。
魔人の軍勢はニヤニヤとした嗜虐的な笑みでベルトガルド兵に近づいていく。
再び叫喚の虐殺が始まることになる。
ただし、聖戦の魔女がいなければ、だが。
爪を伸ばしベルトガルド兵に斬り掛かった魔人。
腕が切り飛ばされ、血飛沫が上がった───魔人の腕が。
両手で剣を振り上げたベルトガルド兵は、そのまま魔神族の首を刎ね飛ばした。
まさかの展開に、慄然とする魔人の軍勢。
気を引き締めて獣人達に襲いかかるが、獣人たちは通常ではありえない強さで拮抗していた。
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予想に反して苦戦を強いられた魔人達は一度体勢を立て直そうと空へ一時撤退することにした。
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一方、フィールエルはもどかしい気持ちを抑えつつ、後衛に控えていた。
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これには兵士たちの活躍はもちろん、メナ・ジェンド獣王国の幹部たちの働きによるところが大きかった。
彼らはベルタリオが旗揚げしたときからの腹心の部下であり、戦友である。一騎当千、歴戦の兵ばかりだった。
しかし、そんな彼らも理解していた。明日は強よりも厳しい戦いになるだろうと。
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