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千獣の魔王 編
054. 千獣の魔王VS奏星の魔王
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奏星の魔王軍本隊はやはり段違いに強かった。
民兵や普通の兵士ではもはや歯が立たない。
高位魔族がひとつ魔法を放つたび、数十の兵士が消し飛んだ。
メナ・ジェンドの幹部たちでさえ、昨日ほどの戦果はあげられていない。
ボクが出るべきだ!
フィールエルは決意した。
彼女の背中から光の翼が出現する。マリエルとフィールエルが完全に一体となった姿だ。
この状態になると、フィールエルの力が爆発的に上昇する。
地面を強く蹴って空高く飛翔したフィールエルは、自身の周囲に二十以上の神聖術を展開した。
「はっ!」
一斉にフルバースト。それを速射し弾幕を張る。
縦横無尽に飛び回り、次々と魔人を撃墜していく。しかし高位の魔人は流石にしぶとく、墜ちることはない。
ならばと、フィールエルは抜剣し、そこに神聖力を流し込んで長大な光の剣を作った。
「はぁぁぁぁぁっ!」
気合一閃。光剣を横薙ぎにして、多数の魔族を切り捨てた。
数は減らした。しかしそれでも精々が百余り。
まだまだ先は長い。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あの【聖戦の聖女】、強いのう。うちの幹部連中よりも上か。もしかすると魔王レベルはあるのではないか?」
空中で獅子奮迅の活躍を見せるフィールエルを見て、ベルタリオは感心した。
「よし、私もやるか」
そして肩を鳴らし、ベルタリオは己の姿を変化させる。
巨大な翼と長い首。赤い鱗に覆われたその姿は、まさしく竜だった。
力強く飛翔したベルタリオは、固有スキルを発動する。
「【炎獄の息吹】」
赤龍の口腔に赫々とした光が灯り、吐き出された超高温の炎の奔流は高位魔族ですら一瞬で消し炭に変えた。
更に二回、ベルタリオは【炎獄の息吹】を放った。
これで百五十体ほどの魔人を葬った。
スキルには回数制限があるものがある。効果や威力が高いものは殊更に制限がかかり、【炎獄の息吹】は使用回数が三回となっている。
使用制限三回を撃ち尽くしたベルタリオは更に姿を変化させようとしたが、俄に暗雲が垂れ込め、稲妻がベルタリオを撃った。
赤龍の鱗は電撃を軽減するが無効ではなく、即ち無痛ではない。
「痛っつ~。この、よくもやりおったな!」
ギロリ。
痛みを与えた相手をベルタリオは睨む。
ベルタリオの視線の先には、蝙蝠のような羽を展開して対空する奏星の魔王グレン。
「決着をつけようか。ベルタリオ」
憎しみを込めた瞳でグレンは宣言した。
「望むところよ。だが我らが本気でやりあえば両軍ともに大きな被害は免れん。それはお主も望まぬだろう。ついてこい!」
「ふん。いいだろう」
二人は戦場から離れた空域に決戦の場を移した。
「とうとうこの日が来た。俺は貴様が憎い。兄を喰らい、その姿と力を手に入れのうのうと暮らしている貴様がな! だから俺は貴様を殺す。そして貴様の大切なこの国も、民も、全て滅する」
「お主らも獣人や人間を殺すだろうに」
「ふん。貴様らは牛や豚を屠す時、いちいち同情するのか?」
「そうか……もうこれ以上の問答は無用だのう」
「その通りだ!」
グレンが両手を広げ魔力を込めると、周囲の待機が荒巻いてすぐに竜巻となった。
奏星の魔王グレンの能力。
それはこの星の気象や天気を操ることだ。
竜巻を数本作り出し、ベルタリオの逃げ道を塞いだグレン。さらに彼は、真空の刃をベルタリオに放った。
「舐めてくれるなよ」
赤龍からベルタリオの姿に素早く変身した後、同じように真空の刃を作って相殺した。
だが完全には消しされなかった刃がベルタリオに迫る。
「ちっ」
身体を捻って真空の刃を躱したベルタリオは舌打ちした。
「ふん。貴様こそ舐めるなよ。たしかに我が兄ガイルは俺と同じスキルを有していた。だがこの百五十年間、俺は力を増した。既に兄を超えている」
「そのようだのう。ならばこれでどうだ!」
ベルタリオの下半身が馬の胴体に変化し、その胴体からドラゴンの翼が生え、尾はキングコブラに変わった。
変形はそれだけに留まらず、ベルタリオの両手が熊のそれに変化。更に両肩には狼の頭が一つずつ、背中からは腕が追加で二本生え、それぞれの手首から先は蜂の針とサソリの針にそれぞれ変わっていた。
その姿を見たグレンは嫌悪感を表し、
「この醜い怪物め。生命の理から外れた偉業の生物よ、この世界から消え去れ」
と吐き捨てた。
グレンが手を挙げ振り下ろす。電撃が雲から放たれたが、ベルタリオに届く前に霧散した。
「この雷蛇のスキル【電撃無効】だ。もうそれは効かんぞ」
「ふん、小賢しい。何をそれくらいで勝ち誇っているのだ、怪物め。駆除してやる」
グレンの両眼が妖しく輝く。
先ほどの比ではない巨大な竜巻が二人を包み、さらにこの場の大気温度が急激に下がっていく。
「む。流石に爬虫類は寒さに弱いか」
尾の代わりに生えている雷蛇の機能が低下していく。もうすぐ【電撃無効】も使えなくなるはずだ。
なお悪いことに吹き荒ぶ風に混じって小さな氷の刃が飛んできた。
「ちっ。短期でケリをつけるしかないか……」
接近戦を仕掛けるため、ベルタリオは全力で飛翔した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リリは上空で繰り広げられている戦闘の激しさに息を呑んだ。
フィールエルもベルタリオも、その雄壮な戦いぶりはまるで神話の英雄のようだった。
周りは魔人達が獣人兵たちを蹂躙していくのに、非力な自分は彼らを助けられない。
それどころか、リリ自身あっけなく魔人に殺されてしまうかもしれない。
逃げ出したい思いがリリの心を 指嗾した。
だが、リリは頭を振った。
私にはあんな戦いは出来ない。けれど私にも出来る事があるはずだ。きっと。
「おーい、リリー。こっちこっちー」
その時、リリを呼ぶ声がした。
聞き覚えのある、どこかやる気のなさそうな声。
振り向けば、行き交う兵士の合間からリリの方向に向かって歩いてくる長身の男がいた。
ユーゴだった。
──────to be continued
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彼女の背中から光の翼が出現する。マリエルとフィールエルが完全に一体となった姿だ。
この状態になると、フィールエルの力が爆発的に上昇する。
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「はっ!」
一斉にフルバースト。それを速射し弾幕を張る。
縦横無尽に飛び回り、次々と魔人を撃墜していく。しかし高位の魔人は流石にしぶとく、墜ちることはない。
ならばと、フィールエルは抜剣し、そこに神聖力を流し込んで長大な光の剣を作った。
「はぁぁぁぁぁっ!」
気合一閃。光剣を横薙ぎにして、多数の魔族を切り捨てた。
数は減らした。しかしそれでも精々が百余り。
まだまだ先は長い。
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「あの【聖戦の聖女】、強いのう。うちの幹部連中よりも上か。もしかすると魔王レベルはあるのではないか?」
空中で獅子奮迅の活躍を見せるフィールエルを見て、ベルタリオは感心した。
「よし、私もやるか」
そして肩を鳴らし、ベルタリオは己の姿を変化させる。
巨大な翼と長い首。赤い鱗に覆われたその姿は、まさしく竜だった。
力強く飛翔したベルタリオは、固有スキルを発動する。
「【炎獄の息吹】」
赤龍の口腔に赫々とした光が灯り、吐き出された超高温の炎の奔流は高位魔族ですら一瞬で消し炭に変えた。
更に二回、ベルタリオは【炎獄の息吹】を放った。
これで百五十体ほどの魔人を葬った。
スキルには回数制限があるものがある。効果や威力が高いものは殊更に制限がかかり、【炎獄の息吹】は使用回数が三回となっている。
使用制限三回を撃ち尽くしたベルタリオは更に姿を変化させようとしたが、俄に暗雲が垂れ込め、稲妻がベルタリオを撃った。
赤龍の鱗は電撃を軽減するが無効ではなく、即ち無痛ではない。
「痛っつ~。この、よくもやりおったな!」
ギロリ。
痛みを与えた相手をベルタリオは睨む。
ベルタリオの視線の先には、蝙蝠のような羽を展開して対空する奏星の魔王グレン。
「決着をつけようか。ベルタリオ」
憎しみを込めた瞳でグレンは宣言した。
「望むところよ。だが我らが本気でやりあえば両軍ともに大きな被害は免れん。それはお主も望まぬだろう。ついてこい!」
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二人は戦場から離れた空域に決戦の場を移した。
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「お主らも獣人や人間を殺すだろうに」
「ふん。貴様らは牛や豚を屠す時、いちいち同情するのか?」
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グレンが両手を広げ魔力を込めると、周囲の待機が荒巻いてすぐに竜巻となった。
奏星の魔王グレンの能力。
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竜巻を数本作り出し、ベルタリオの逃げ道を塞いだグレン。さらに彼は、真空の刃をベルタリオに放った。
「舐めてくれるなよ」
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変形はそれだけに留まらず、ベルタリオの両手が熊のそれに変化。更に両肩には狼の頭が一つずつ、背中からは腕が追加で二本生え、それぞれの手首から先は蜂の針とサソリの針にそれぞれ変わっていた。
その姿を見たグレンは嫌悪感を表し、
「この醜い怪物め。生命の理から外れた偉業の生物よ、この世界から消え去れ」
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「この雷蛇のスキル【電撃無効】だ。もうそれは効かんぞ」
「ふん、小賢しい。何をそれくらいで勝ち誇っているのだ、怪物め。駆除してやる」
グレンの両眼が妖しく輝く。
先ほどの比ではない巨大な竜巻が二人を包み、さらにこの場の大気温度が急激に下がっていく。
「む。流石に爬虫類は寒さに弱いか」
尾の代わりに生えている雷蛇の機能が低下していく。もうすぐ【電撃無効】も使えなくなるはずだ。
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「ちっ。短期でケリをつけるしかないか……」
接近戦を仕掛けるため、ベルタリオは全力で飛翔した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リリは上空で繰り広げられている戦闘の激しさに息を呑んだ。
フィールエルもベルタリオも、その雄壮な戦いぶりはまるで神話の英雄のようだった。
周りは魔人達が獣人兵たちを蹂躙していくのに、非力な自分は彼らを助けられない。
それどころか、リリ自身あっけなく魔人に殺されてしまうかもしれない。
逃げ出したい思いがリリの心を 指嗾した。
だが、リリは頭を振った。
私にはあんな戦いは出来ない。けれど私にも出来る事があるはずだ。きっと。
「おーい、リリー。こっちこっちー」
その時、リリを呼ぶ声がした。
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ユーゴだった。
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