55 / 93
千獣の魔王 編
055. 殲滅の光
しおりを挟む
冥海の魔王軍を撃退した後、砂浜にぶっ倒れたユーゴ。その腹の虫が鳴った。
「……メシ食うか」
ユーゴひとりということもあり、無限のおもちゃ箱の入口を開けて入り、トレーラーハウス【オプティマス・デルタ】を目指す。
ランドリーにジャケット以外の衣類を投げ込んで回した後、シャワーで汗を流した。
ここはサービスシーンだろう。誰も得をしないが。
さっぱりしたら次は食欲だ。
インスタント味噌汁、カップ麺、冷凍ピザ、冷凍パスタ、フルーツの缶詰、牛乳、プロテインバーと、目についた食材を片っ端から腹に詰め込んだ。
実はすぐにベルトガルドに戻って加勢しようかと思っていたユーゴだったが、それも一瞬のことですぐに考えを改めた。
フィールエルたちは危険を承知でついてきた。
ネルも黒魔女マリアのときと違い、守られるだけの存在ではない。
ユーゴは彼女達を信じることにした。
ならばユーゴの為すべきことは一つ。英気を養い、一刻も早く本調子に戻すことだ。
ということで、洗面と歯磨きを終えてベッドに倒れ込んだユーゴは、すぐに意識が消えた。
「ん……ふぁぁ」
爆睡から目覚めたユーゴ。身体の怠さも頭の重さも綺麗サッパリ消えていた。
着替えて砂浜に戻ったユーゴは、どれくらい寝ていたのかが気になった。
トレーラーハウスに時計はあるが、あの空間の中では役に立たない。外界と時間の流れが違うからだ。とはいえ誤差は数時間程度なのだが。
千里眼で近くの町を見ると、避難していた住人はあらかた戻っているようだ。
千里眼の範囲外なので、ベルトガルドの様子はここからでは判らない。
ユーゴは幽世の渡航者で戻ることにした。
ベルトガルドは激戦の最中にあったが、幸いにも町の中心までは魔族の侵攻を許していない。
戦いはほとんどが空中戦だった。
対空戦に挑めるものが限られているため、劣勢を強いられている。
フィールエルが頑張っているが、流石にきつそうだ。
更に遠くの空では、魔王二人が戦りあっている。
丁度いい。
ユーゴはあることを思いついた。
「おーい、リリー。俺だ、俺。こっちこっちー」
少し離れた場所に、リリが救急箱を抱えて立っていた。
「あ……ユーゴ! 無事だったんだね」
「まぁな。冥海の魔王とかいうガキンチョは逃しちまったけどな」
まったく下手こいたと、ユーゴは歯噛みした。
「いやいや。魔王を逃してちまったって、そんなセリフを言えるのは神様か神話の英雄くらいだよ」
「それより、あの空で戦ってるやつらに連絡取れるか?」
「え? 出来るはずだけど。戦闘員は全員通信用の魔道具を身に着けているから」
「そうか。じゃあ悪いけど、ちょっと伝言を頼めるか? 俺、いまからこの官邸の屋上に登るから、俺が合図したら全員退がれってさ」
「う、うん。わかった。司令部に伝えてくるね」
重要なことだと直感が走ったリリ。駆け足で作戦司令部へ向かった。
「俺も準備するか……よっと」
宇宙遊泳で自身の重力を軽くし、一足で屋上まで跳躍したユーゴ。
空を見上げ、戦いの様子を眺める。
大空にかかる黒い帯にも見える奏星の魔王軍のなかでは、フィールエルが暴れているお陰で、そこかしこで爆発が起こっている。
その様子を見て、ユーゴは思った。───良い塩梅に固まっているな、と
ユーゴは両手をクロスし、胸の前にかざす。
「鬼神鎧装。起動」
黒い光とともに、エクスブレイバーへと変身したユーゴは、鬼神核に念じる。
「来たれ───【青龍】」
無限のもちゃ箱から長方形の兵装がせり出てくる。
その兵器を右肩に担ぐと、その前部に収納されていたグリップとトリガーが出てきた。
前方突端には二連の砲口。
この兵装の名は青龍。
玄武と同じく四神封印式究極兵装のひとつである。
これもエクスブレイバー時にのみ使用が可能な、強力な兵装で、長距離の射程範囲を持つ大砲である。
「青龍。充気開始」
ヴン、と重低音が鳴り、側面にあるゲージが溜まっていく。
その間にニュー・オメガを左手に握り、銃口を空へ向けた。
ピー。
青龍のチャージが完了した音が鳴ったのを機に、バーストモードにしたニュー・オメガのトリガーを引いた。
ドォン。
誰もいない空間でオメガの光弾が爆発した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なに……ユーゴが戻ったって?」
左耳に突けた通信用魔道具から、ユーゴの伝言が報される。
「……了解だ。───いた」
官邸の屋上にはたしかにユーゴの姿があった。しかし、何故かあの黒い鎧姿だ。
彼は肩に、青い大きな物を抱えている。
あれは───大砲か?
フィールエルはその兵器を見た瞬間、
ぞく。
総毛立った。
あれはやばい。危険なんて言葉は生易しい。
それは本能の恐怖だったか、それとも天使からの警告だったのか。
「みんな、全力で戦闘区域から離れて防御壁を張れぇぇぇぇっ!」
ドォンという、ユーゴが放ったニューオメガの合図で、フィールエルは喉が潰れるかと思うほど力の限り叫んだ。
フィールエルやメナ・ジェンド獣王国の幹部達。空中戦をしていたもの達は、全力でその場を離れた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
カチリ。
ユーゴが銃口を引いた。
二つの砲口から解き放たれたエネルギーは渦巻く極大の光となり、やがてビルをも飲み込む大きさとなった。
「消え去れぇぇぇぇっ!」
青龍が放つ息吹は、奏星の魔王軍の左端に到達した瞬間にその一割ほどを消し去った。
魔人が消滅し、本来空が見えるはずの空隙には暗い暗闇が存在し、その周囲は青空と溶けあって背景が歪んでいた。
トリガーを引き絞ったまま、ユーゴは砲口の狙いを右へずらしていった。
わずか五秒の出来事。
わずか五秒で奏星の魔王軍の約九割、四万五千弱の魔人が塵も残さずこの世界から消え去った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リリを始め、地上にいたものは太陽が落ちてきたのかと思った。
見上げると地上から空へ向かって、光の槍が昇っていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ…ふぅ……」
ベルタリオもグレンも、満身創痍で睨み合っていた。
「しぶといのう、貴様も……ん?」
「それはこちらのセリフ…………なんだ?」
魔王二人は、異変に気付いた。
少し離れた空域が、爆発したように光を放っている。
グレンが振り向いた時には、魔人達の軍勢の殆どは消滅していた。
「はぁ?…………………はぁっ!?」
自分の臣下は、部下はどこに消えた!?
もしや地上で戦っているのかと魔力を探ったが、やはり自らの奏星の魔王軍は、殆ど残っていなかった。
「ユーゴか……何ということをしおる」
「ベルタリオ。貴様、あれが誰の仕業か分かっているのか!?」
「恐らく貴様も、私の官邸で会っているはずだぞ」
グレンは思い出した。たしかにあの時、信じられないパラメーターを持ったバケモノめいた人間と会ったことを。
「あの人間か。まさか、ここまでとはな……」
「どうした? 急に覇気が失せたが」
「もういい。興が削がれた」
決して張れぬと思っていた憎しみ。
魔王でさえ不可能かつ出鱈目な青龍の一撃は、百年以上に及ぶ積年の憎悪すら吹き飛ばした。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、
①お気に入り 登録
②エールを送る(アプリ版のみ)
③感想を書く
④シェアする
をして頂ければ、作者のモチベーションアップや作品の向上に繋がります。
※お気に入り登録して頂きますと、新エピソードが投稿された際に通知が届いて便利です。
アマチュアである作者は皆様に支えられております。
この作品を皆様で盛り上げて頂き、書籍化やコミカライズ、果てはアニメ化などに繋がればいいなと思います。
この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
「……メシ食うか」
ユーゴひとりということもあり、無限のおもちゃ箱の入口を開けて入り、トレーラーハウス【オプティマス・デルタ】を目指す。
ランドリーにジャケット以外の衣類を投げ込んで回した後、シャワーで汗を流した。
ここはサービスシーンだろう。誰も得をしないが。
さっぱりしたら次は食欲だ。
インスタント味噌汁、カップ麺、冷凍ピザ、冷凍パスタ、フルーツの缶詰、牛乳、プロテインバーと、目についた食材を片っ端から腹に詰め込んだ。
実はすぐにベルトガルドに戻って加勢しようかと思っていたユーゴだったが、それも一瞬のことですぐに考えを改めた。
フィールエルたちは危険を承知でついてきた。
ネルも黒魔女マリアのときと違い、守られるだけの存在ではない。
ユーゴは彼女達を信じることにした。
ならばユーゴの為すべきことは一つ。英気を養い、一刻も早く本調子に戻すことだ。
ということで、洗面と歯磨きを終えてベッドに倒れ込んだユーゴは、すぐに意識が消えた。
「ん……ふぁぁ」
爆睡から目覚めたユーゴ。身体の怠さも頭の重さも綺麗サッパリ消えていた。
着替えて砂浜に戻ったユーゴは、どれくらい寝ていたのかが気になった。
トレーラーハウスに時計はあるが、あの空間の中では役に立たない。外界と時間の流れが違うからだ。とはいえ誤差は数時間程度なのだが。
千里眼で近くの町を見ると、避難していた住人はあらかた戻っているようだ。
千里眼の範囲外なので、ベルトガルドの様子はここからでは判らない。
ユーゴは幽世の渡航者で戻ることにした。
ベルトガルドは激戦の最中にあったが、幸いにも町の中心までは魔族の侵攻を許していない。
戦いはほとんどが空中戦だった。
対空戦に挑めるものが限られているため、劣勢を強いられている。
フィールエルが頑張っているが、流石にきつそうだ。
更に遠くの空では、魔王二人が戦りあっている。
丁度いい。
ユーゴはあることを思いついた。
「おーい、リリー。俺だ、俺。こっちこっちー」
少し離れた場所に、リリが救急箱を抱えて立っていた。
「あ……ユーゴ! 無事だったんだね」
「まぁな。冥海の魔王とかいうガキンチョは逃しちまったけどな」
まったく下手こいたと、ユーゴは歯噛みした。
「いやいや。魔王を逃してちまったって、そんなセリフを言えるのは神様か神話の英雄くらいだよ」
「それより、あの空で戦ってるやつらに連絡取れるか?」
「え? 出来るはずだけど。戦闘員は全員通信用の魔道具を身に着けているから」
「そうか。じゃあ悪いけど、ちょっと伝言を頼めるか? 俺、いまからこの官邸の屋上に登るから、俺が合図したら全員退がれってさ」
「う、うん。わかった。司令部に伝えてくるね」
重要なことだと直感が走ったリリ。駆け足で作戦司令部へ向かった。
「俺も準備するか……よっと」
宇宙遊泳で自身の重力を軽くし、一足で屋上まで跳躍したユーゴ。
空を見上げ、戦いの様子を眺める。
大空にかかる黒い帯にも見える奏星の魔王軍のなかでは、フィールエルが暴れているお陰で、そこかしこで爆発が起こっている。
その様子を見て、ユーゴは思った。───良い塩梅に固まっているな、と
ユーゴは両手をクロスし、胸の前にかざす。
「鬼神鎧装。起動」
黒い光とともに、エクスブレイバーへと変身したユーゴは、鬼神核に念じる。
「来たれ───【青龍】」
無限のもちゃ箱から長方形の兵装がせり出てくる。
その兵器を右肩に担ぐと、その前部に収納されていたグリップとトリガーが出てきた。
前方突端には二連の砲口。
この兵装の名は青龍。
玄武と同じく四神封印式究極兵装のひとつである。
これもエクスブレイバー時にのみ使用が可能な、強力な兵装で、長距離の射程範囲を持つ大砲である。
「青龍。充気開始」
ヴン、と重低音が鳴り、側面にあるゲージが溜まっていく。
その間にニュー・オメガを左手に握り、銃口を空へ向けた。
ピー。
青龍のチャージが完了した音が鳴ったのを機に、バーストモードにしたニュー・オメガのトリガーを引いた。
ドォン。
誰もいない空間でオメガの光弾が爆発した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なに……ユーゴが戻ったって?」
左耳に突けた通信用魔道具から、ユーゴの伝言が報される。
「……了解だ。───いた」
官邸の屋上にはたしかにユーゴの姿があった。しかし、何故かあの黒い鎧姿だ。
彼は肩に、青い大きな物を抱えている。
あれは───大砲か?
フィールエルはその兵器を見た瞬間、
ぞく。
総毛立った。
あれはやばい。危険なんて言葉は生易しい。
それは本能の恐怖だったか、それとも天使からの警告だったのか。
「みんな、全力で戦闘区域から離れて防御壁を張れぇぇぇぇっ!」
ドォンという、ユーゴが放ったニューオメガの合図で、フィールエルは喉が潰れるかと思うほど力の限り叫んだ。
フィールエルやメナ・ジェンド獣王国の幹部達。空中戦をしていたもの達は、全力でその場を離れた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
カチリ。
ユーゴが銃口を引いた。
二つの砲口から解き放たれたエネルギーは渦巻く極大の光となり、やがてビルをも飲み込む大きさとなった。
「消え去れぇぇぇぇっ!」
青龍が放つ息吹は、奏星の魔王軍の左端に到達した瞬間にその一割ほどを消し去った。
魔人が消滅し、本来空が見えるはずの空隙には暗い暗闇が存在し、その周囲は青空と溶けあって背景が歪んでいた。
トリガーを引き絞ったまま、ユーゴは砲口の狙いを右へずらしていった。
わずか五秒の出来事。
わずか五秒で奏星の魔王軍の約九割、四万五千弱の魔人が塵も残さずこの世界から消え去った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リリを始め、地上にいたものは太陽が落ちてきたのかと思った。
見上げると地上から空へ向かって、光の槍が昇っていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ…ふぅ……」
ベルタリオもグレンも、満身創痍で睨み合っていた。
「しぶといのう、貴様も……ん?」
「それはこちらのセリフ…………なんだ?」
魔王二人は、異変に気付いた。
少し離れた空域が、爆発したように光を放っている。
グレンが振り向いた時には、魔人達の軍勢の殆どは消滅していた。
「はぁ?…………………はぁっ!?」
自分の臣下は、部下はどこに消えた!?
もしや地上で戦っているのかと魔力を探ったが、やはり自らの奏星の魔王軍は、殆ど残っていなかった。
「ユーゴか……何ということをしおる」
「ベルタリオ。貴様、あれが誰の仕業か分かっているのか!?」
「恐らく貴様も、私の官邸で会っているはずだぞ」
グレンは思い出した。たしかにあの時、信じられないパラメーターを持ったバケモノめいた人間と会ったことを。
「あの人間か。まさか、ここまでとはな……」
「どうした? 急に覇気が失せたが」
「もういい。興が削がれた」
決して張れぬと思っていた憎しみ。
魔王でさえ不可能かつ出鱈目な青龍の一撃は、百年以上に及ぶ積年の憎悪すら吹き飛ばした。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、
①お気に入り 登録
②エールを送る(アプリ版のみ)
③感想を書く
④シェアする
をして頂ければ、作者のモチベーションアップや作品の向上に繋がります。
※お気に入り登録して頂きますと、新エピソードが投稿された際に通知が届いて便利です。
アマチュアである作者は皆様に支えられております。
この作品を皆様で盛り上げて頂き、書籍化やコミカライズ、果てはアニメ化などに繋がればいいなと思います。
この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
256
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる