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千獣の魔王 編
056. 聖剣ロンダバイトの呪い
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蜘蛛の子を散らすように、逃げる魔人の残党を見ながら、変身を解いたユーゴは呟く。
「憂さ晴らしにはなったかな。まぁ八つ当たりだが」
そこに、官邸の屋上へフィールエルが降りてきた。
しかし、顔を俯かせたままで、彼女は何も言わない。
「…? どうかしたのか?」
「…のか」
訝しんで問うユーゴに、呟いて返すフィール。
よく聞き取れなかったユーゴは再び問う。
「は? なんて??」
ばっ! 顔をあげたフィールエル。その目には大粒の涙が溜まって、今にもこぼれ落ちそうだ。
「お前はボクが嫌いなのか⁉︎」
「……は?」
「だって、あんなはちゃめちゃな攻撃……ボクを巻き添えにしてもいいってことか⁉︎ 死んでもいいってことか⁉︎ 嫌いだからじゃないのか⁉︎」
とうとう、ボロボロと涙をこぼして、フィールを喚き出した。
「いや、そんな事はないが? なんでそうなるんだよ」
ユーゴのほうも急に泣き出したフィールエルにパニックを起こした。
そんなにあの一撃が怖かったのだろうか。
「あの砲撃も、お前たちが充分離れたのを確認してから撃ったし、お前を嫌いってことはないぞ。なんでそう思った?」
しゃくりあげるフィールエルが落ち着くまで少し待ってユーゴが訊いた。
「…何か、ボクを避けている感じがする。ネルには優しいのに、ボクにはなんだかそっけない」
「あー…。なんと言うかな、ゼストとフィールエルが同一人物だと言うのはわかっているんだが、どう接していいかわからなくてな。だから、決して嫌っているわけじゃない」
「…そうか」
まさかフィールエルがこんな風に思っていたとは。
普段冷静沈着に見えるが、その裡は激情家なのだ。
「…すまない。取り乱した。恥ずかしいところを見せたな」
フィールエルは涙を拭った。
「いや、こっちこそ、怖がらせて済まなかったな。いつも勇敢に戦っていたから、平気なのかと思って」
「馬鹿。ボクだって一応女だぞ。ていうか、あんなの誰だってびっくりする」
「そういえば、お前なんで俺を追いかけてきたんだよ。協力してくれるのはありがたいが、別に何かあるまで、今まで通りの人生を送ってくれればいいんだぞ」
ジト目でユーゴを睨んだフィールエル。しかしすぐにため息をついて、やれやれと首を振った。何かを諦めたようだ。
「お前は…鈍いだけか、とぼけているのか。もういい。ヒントをやろう。ボクは昔から自分より弱い男と結婚する気はない。ところが、この世界にはボクより強い男なんていなかった。お前が現れるまでな。それにお前は面白いんだ。一緒にいて飽きない」
「お前、それヒントっていうか、ほぼほぼ答え…」
「とにかく! ボクはお前についていく。以上!」
「あ、はい」
茹で蛸よろしく赤面したフィールは、プイっとそっぽを向いてそのまま立ち去ってしまう。
「まいった…」
ネルの気持ちはわかっていた。ユーゴを見る眼差しにも想いこもっていたし、何より魔女マリアとの戦いの時、小さく呟いたから。ユーゴへの思いを。
だが、ユーゴはその気持ちに答えられない。答えるつもりもない。背負いきれないからだ。
だから黙って離れた。たった少し一緒にいただけの男だ。すぐに忘れるだろうと。
卑怯ではあるが、それが1番だと思ったのだ。
しかし、ネルだけでなく、フィールエルまでとは。
困ったな…とユーゴが首をかいたとき。
ビー、ビー。
左手首に巻いたスペリオールウォッチがアラートを鳴らした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「くそ。何だったのだ、あれはっ⁉︎」
青龍の一撃により奏星の魔王軍は半壊の……いや、ほぼ全滅の憂き目にあった。
だが、幸運にもその射程から外れていた者もいた。
ベルトガルド東の上空をフラフラと飛びながら戦線離脱している、赤髪の魔人族もその1人だった。
彼だけは他の同輩と違い荷物を抱えていた。そのため、戦闘に加わるのが遅れたのだが、それが逆に幸いした。
「あれは…グレン様⁉︎」
眼下には彼の主と、その宿敵が向かい合って立っていた。
二人の全身ボロボロだ。決闘をしていたのだと悟った。
「グレン様! よくぞご無事で!」
主の眼前に降り立ち、膝を折って頭を垂れた赤髪の魔人族。
「うむ。貴様もよくぞ、あれを生き延びたな。ところで、ソレはなんだ?」
グレンは臣下が片手で捕まえているものを指差した。
「は。こいつはベルーナ遺跡付近で見つけた餌でございます」
「ベルーナ遺跡?」
側で聞くともなしに魔人の主従の会話を聞いていたベルタリオ。餌と呼ばれたそれを見ると、1人の冒険者だった。
その男に見覚えがあった。確かユーゴに手玉にとられていた男だ。虚脱した状態で目も虚ろだ。
ベガスと呼ばれていたその男は、しきりに何かをつぶやいている。
ふとベガスが握っている剣がベルタリオの目に止まった。
血のように鮮やかな真紅の剣。
ギロ。
冒険者の眼だけが動き、ベルタリオの視線とぶつかった。
「うぉぉぉぉぉーっ!」
獣のような雄叫びを上げ、飛び跳ねてベルタリオに切りかかろうとする。だが、
「俺の獲物を横取りしようとは、感心せんな」
グレンがベガスの肘から先を、真空の刃で切り飛ばした。
明後日の方向へ飛んでいく左腕。その手から外れた剣はくるくると真上を跳び、意思があるかのように、放物線を描いてグレンへと向かって飛ぶ。
「ふん」
グレンは危なげなく聖剣ロンダバイトをキャッチした。
その瞬間、
ドクン、とグレンの殺意や憎悪が衝動的に跳ね上がった。
───殺せ。殺せ。その男を殺せ。
つかんだ剣から送られてくる指嗾。
「まさか、貴様に助けられるとは」
「いや、なに…。礼はいらん。……お前は俺が殺すのだからな」
目にも止まぬ速さで腰を回し、グレンはベルタリオの左胸を聖剣で突き刺した。
「な……に?」
予期せぬ至近距離からの刺突。油断もあった。
ベルタリオは己の左胸に刺さった剣を見下ろした。
「止めだ。次は首を刎ね飛ばしてやる」
剣を引き抜いて、グレンはさらに追撃のため剣を振りかぶる。
しかし、そのグレンの体は、盛大に横に吹き飛んだ。
横からダイナミックなドロップキックをくらったからである。
ドロップキックを見舞った男───ユーゴは華麗な着地を決めて言う。
「まさか死んでねーよな、大統領?」
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、
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この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
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「お前はボクが嫌いなのか⁉︎」
「……は?」
「だって、あんなはちゃめちゃな攻撃……ボクを巻き添えにしてもいいってことか⁉︎ 死んでもいいってことか⁉︎ 嫌いだからじゃないのか⁉︎」
とうとう、ボロボロと涙をこぼして、フィールを喚き出した。
「いや、そんな事はないが? なんでそうなるんだよ」
ユーゴのほうも急に泣き出したフィールエルにパニックを起こした。
そんなにあの一撃が怖かったのだろうか。
「あの砲撃も、お前たちが充分離れたのを確認してから撃ったし、お前を嫌いってことはないぞ。なんでそう思った?」
しゃくりあげるフィールエルが落ち着くまで少し待ってユーゴが訊いた。
「…何か、ボクを避けている感じがする。ネルには優しいのに、ボクにはなんだかそっけない」
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「…そうか」
まさかフィールエルがこんな風に思っていたとは。
普段冷静沈着に見えるが、その裡は激情家なのだ。
「…すまない。取り乱した。恥ずかしいところを見せたな」
フィールエルは涙を拭った。
「いや、こっちこそ、怖がらせて済まなかったな。いつも勇敢に戦っていたから、平気なのかと思って」
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「あ、はい」
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「まいった…」
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だが、ユーゴはその気持ちに答えられない。答えるつもりもない。背負いきれないからだ。
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ビー、ビー。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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彼だけは他の同輩と違い荷物を抱えていた。そのため、戦闘に加わるのが遅れたのだが、それが逆に幸いした。
「あれは…グレン様⁉︎」
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グレンがベガスの肘から先を、真空の刃で切り飛ばした。
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「ふん」
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「な……に?」
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