2 / 18
二
しおりを挟む
ラウは簡素な馬車を納屋の前に止め、その荷台に作物が入った籠を次々と乗せていった。全て乗せ終わったのを確認するとラウも馬車に乗り、それほど遠くない場所にある町へと向かった。
道沿いにゆっくりと走らすと半刻もしないうちに町へ着く。町の入り口を抜け、市場に入ると手慣れた様子で空いている場所を見つけたラウは、そこに馬車を止めた。それから地面に家から持って来た杭を打ち付け、手綱を掛けると麦わらで作った茣蓙を敷き、その上に作物が入った籠をいくつか乗せれば出店の出来上がりだ。
「さあさあ、いらっしゃい。いらっしゃい。焼けばホクホクの芋に、そのままでも、煮ても炒めても絶品の新鮮な葉野菜。それに今日は甘露のようなタタの実まであるよ。ジャムにしてもいいし、ケーキに入れて焼けば甘酸っぱくなって美味しいよ。さあ、いらっしゃい」
ラウは堂々と声を張り上げ、市場の客に向けて呼びかけをした。すると妾腹とはいえ王子様のエーリクでは、絶対にすることがなかった客寄せに彼の中のエーリクが困惑しているのか、そわそわとしているのを感じた。
なんだよ。いくらなんでも客寄せをしないと物が売れにくくなっちゃうじゃないか。まあ君の生前を考えると人に注目されるのは嫌いなんだろうけどさ。ちょっとくらいいいじゃないか。そうラウが心の中で文句を言うと、彼の中のエーリクは仕方がないといったように諦めておとなしくなった。
それにラウはなんだか変な感じだなと苦笑し、きっと兄弟がいたらこんな感じなのかもしれないと想像した。けれどもすぐに王子様と農民じゃあ兄弟になれっこないという事に気付き、自分の愚かな考えに眉を寄せた。
「おや。今日は来たんだね。みんな紫水晶のラウが来ているよ」
噂好きの小母さんがラウに気付くと大きな声でその存在を周囲に知らせた。
エーリクとラウ。容姿も性格も何一つ似ていない彼らの唯一の共通点は瞳の色だ。ラウはエーリクと同じように、光の加減によって自在に変色する宝石のような紫の瞳を持っている。町の皆は珍しいラウの瞳が大層お気に入りで、彼の瞳を一目見ようと出店に群がる。ラウはそれを利用して作物を売るのだ。紫の瞳を見たければ何でもいいから買って行けと。おかげで出店はいつでも大繁盛だ。多少形や色が悪くとも人々は何でもいいので買ってくれるのだから。今世でも紫の瞳は人々を魅了していた。ただエーリクと違いラウの容姿は十人並みであったので、特に誰かに迫られるわけでも誘拐されそうになるわけでもなかった。人々はただただ純粋に宝石を眺めるのと同様にラウの瞳を観賞しているだけだった。
「ねえラウ。あなたこんな田舎で農夫なんかしていないで、王都に出て役者にでもなったら」
作物は順調に売れていき、目の前にいる少女が買ったタタの実が最後の商品だった。彼女はよくラウの出店に来てくれる常連客なのだが、何かとラウを王都に出ていかせたがる少し困った客でもあった。
今日は役者か。この前は著名な画家のモデルになれ。だったかとラウは彼女とのやり取りを思い出し苦笑した。
「いやいや。俺の容姿を考えてごらんよ。平々凡々のどこにでもある顔だ。役者になんてなったら、国中の笑いものになってしまうよ」
他人からの賛辞なんて煩わしいだけだという事は、エーリクの記憶で嫌というほど知っている。わざわざ自分から辟易するような境遇に身を置こうだなんて、ラウはどうしても思えなかった。それに確かに瞳の色は誰よりも珍しいものを持っているけれど、それ以外の作りが掃いて捨てるほどあるものなのだから、彼女の言う通りにしてしまっては、自己判断が出来ていない自意識過剰な馬鹿だと笑われるのが目に見えている。
「そうかしら。鼻筋は通っているし、角度によっては格好よく見えるかもしれないじゃない。それに何よりその瞳は、どんな優れた容姿よりも価値があると思うのだけれど」
見えるかもしれないという事は見えないのと同義だ。ラウは少女の言葉を聞き再び苦笑を浮かべた。十人並みの容姿だという事は自身でも理解しているが、いざ他人から面と向かって言われるとあまり気分はよくないものだ。彼女はお世辞を覚えた方がいいだろう。このままでは多くの敵を作ってしまうのではないかとラウはいらない心配をしてしまった。
それよりも何よりも、ラウが怒る前に余計なお世話だとでもというようにして、エーリクが彼女に対し怒り狂っているのを感じるとなんだかもう馬鹿らしくなってしまった。
十人並みの何が悪い。十人並みというのは、何よりも恵まれているという事なのだぞと、もし聞く人がいれば妬みや嫌悪を抱かれるかもしれない彼の言葉というか感情を読み取ったラウは、そうだな君は生前苦労したものなと素直に同情した。
「まあ、どんな作物でも売れるっていう。農家にしたら涎ものの価値はあるかな」
ラウは今日最後の商品を少女に渡すと帰り支度を始めた。まだ太陽は南からわずかに西へと傾いているだけだ。これなら今から帰れば、農作業を手伝うことだって出来るから早く仕事が終わると、彼は温かくなった懐を確認し、やや急いで帰路に就いたのだった。
道沿いにゆっくりと走らすと半刻もしないうちに町へ着く。町の入り口を抜け、市場に入ると手慣れた様子で空いている場所を見つけたラウは、そこに馬車を止めた。それから地面に家から持って来た杭を打ち付け、手綱を掛けると麦わらで作った茣蓙を敷き、その上に作物が入った籠をいくつか乗せれば出店の出来上がりだ。
「さあさあ、いらっしゃい。いらっしゃい。焼けばホクホクの芋に、そのままでも、煮ても炒めても絶品の新鮮な葉野菜。それに今日は甘露のようなタタの実まであるよ。ジャムにしてもいいし、ケーキに入れて焼けば甘酸っぱくなって美味しいよ。さあ、いらっしゃい」
ラウは堂々と声を張り上げ、市場の客に向けて呼びかけをした。すると妾腹とはいえ王子様のエーリクでは、絶対にすることがなかった客寄せに彼の中のエーリクが困惑しているのか、そわそわとしているのを感じた。
なんだよ。いくらなんでも客寄せをしないと物が売れにくくなっちゃうじゃないか。まあ君の生前を考えると人に注目されるのは嫌いなんだろうけどさ。ちょっとくらいいいじゃないか。そうラウが心の中で文句を言うと、彼の中のエーリクは仕方がないといったように諦めておとなしくなった。
それにラウはなんだか変な感じだなと苦笑し、きっと兄弟がいたらこんな感じなのかもしれないと想像した。けれどもすぐに王子様と農民じゃあ兄弟になれっこないという事に気付き、自分の愚かな考えに眉を寄せた。
「おや。今日は来たんだね。みんな紫水晶のラウが来ているよ」
噂好きの小母さんがラウに気付くと大きな声でその存在を周囲に知らせた。
エーリクとラウ。容姿も性格も何一つ似ていない彼らの唯一の共通点は瞳の色だ。ラウはエーリクと同じように、光の加減によって自在に変色する宝石のような紫の瞳を持っている。町の皆は珍しいラウの瞳が大層お気に入りで、彼の瞳を一目見ようと出店に群がる。ラウはそれを利用して作物を売るのだ。紫の瞳を見たければ何でもいいから買って行けと。おかげで出店はいつでも大繁盛だ。多少形や色が悪くとも人々は何でもいいので買ってくれるのだから。今世でも紫の瞳は人々を魅了していた。ただエーリクと違いラウの容姿は十人並みであったので、特に誰かに迫られるわけでも誘拐されそうになるわけでもなかった。人々はただただ純粋に宝石を眺めるのと同様にラウの瞳を観賞しているだけだった。
「ねえラウ。あなたこんな田舎で農夫なんかしていないで、王都に出て役者にでもなったら」
作物は順調に売れていき、目の前にいる少女が買ったタタの実が最後の商品だった。彼女はよくラウの出店に来てくれる常連客なのだが、何かとラウを王都に出ていかせたがる少し困った客でもあった。
今日は役者か。この前は著名な画家のモデルになれ。だったかとラウは彼女とのやり取りを思い出し苦笑した。
「いやいや。俺の容姿を考えてごらんよ。平々凡々のどこにでもある顔だ。役者になんてなったら、国中の笑いものになってしまうよ」
他人からの賛辞なんて煩わしいだけだという事は、エーリクの記憶で嫌というほど知っている。わざわざ自分から辟易するような境遇に身を置こうだなんて、ラウはどうしても思えなかった。それに確かに瞳の色は誰よりも珍しいものを持っているけれど、それ以外の作りが掃いて捨てるほどあるものなのだから、彼女の言う通りにしてしまっては、自己判断が出来ていない自意識過剰な馬鹿だと笑われるのが目に見えている。
「そうかしら。鼻筋は通っているし、角度によっては格好よく見えるかもしれないじゃない。それに何よりその瞳は、どんな優れた容姿よりも価値があると思うのだけれど」
見えるかもしれないという事は見えないのと同義だ。ラウは少女の言葉を聞き再び苦笑を浮かべた。十人並みの容姿だという事は自身でも理解しているが、いざ他人から面と向かって言われるとあまり気分はよくないものだ。彼女はお世辞を覚えた方がいいだろう。このままでは多くの敵を作ってしまうのではないかとラウはいらない心配をしてしまった。
それよりも何よりも、ラウが怒る前に余計なお世話だとでもというようにして、エーリクが彼女に対し怒り狂っているのを感じるとなんだかもう馬鹿らしくなってしまった。
十人並みの何が悪い。十人並みというのは、何よりも恵まれているという事なのだぞと、もし聞く人がいれば妬みや嫌悪を抱かれるかもしれない彼の言葉というか感情を読み取ったラウは、そうだな君は生前苦労したものなと素直に同情した。
「まあ、どんな作物でも売れるっていう。農家にしたら涎ものの価値はあるかな」
ラウは今日最後の商品を少女に渡すと帰り支度を始めた。まだ太陽は南からわずかに西へと傾いているだけだ。これなら今から帰れば、農作業を手伝うことだって出来るから早く仕事が終わると、彼は温かくなった懐を確認し、やや急いで帰路に就いたのだった。
112
あなたにおすすめの小説
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
【完結済】夏だ!海だ!けど、僕の夏休みは異世界に奪われました。
キノア9g
BL
「海パンのまま異世界に召喚されたんですけど!?」
最高の夏を過ごすはずだった高校生・凛人は、海で友達と遊んでいた最中、突如異世界へと召喚されてしまう。
待っていたのは、“救世主”として期待される役割と、使命感の塊みたいな王子・ゼイドとの最悪の出会い。
「僕にあるのは、帰りたい気持ちだけ」
責任も使命も興味ない。ただ、元の世界で“普通の夏休み”を過ごしたかっただけなのに。
理不尽な展開に反発しながらも、王子とのぶつかり合いの中で少しずつ心が揺れていく。
ひねくれた自己否定系男子と理想主義王子のすれ違いから始まる、感情も魂も震える異世界BLファンタジー。
これは、本当は認められたい少年の、ひと夏の物語。
全8話。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
悪役令嬢は見る専です
小森 輝
BL
異世界に転生した私、「藤潮弥生」は婚約破棄された悪役令嬢でしたが、見事ざまあを果たし、そして、勇者パーティーから追放されてしまいましたが、自力で魔王を討伐しました。
その結果、私はウェラベルグ国を治める女王となり、名前を「藤潮弥生」から「ヤヨイ・ウェラベルグ」へと改名しました。
そんな私は、今、4人のイケメンと生活を共にしています。
庭師のルーデン
料理人のザック
門番のベート
そして、執事のセバス。
悪役令嬢として苦労をし、さらに、魔王を討伐して女王にまでなったんだから、これからは私の好きなようにしてもいいよね?
ただ、私がやりたいことは逆ハーレムを作り上げることではありません。
私の欲望。それは…………イケメン同士が組んず解れつし合っている薔薇の園を作り上げること!
お気に入り登録も多いし、毎日ポイントをいただいていて、ご好評なようで嬉しいです。本来なら、新しい話といきたいのですが、他のBL小説を執筆するため、新しい話を書くことはしません。その代わりに絵を描く練習ということで、第8回BL小説大賞の期間中1に表紙絵、そして挿絵の追加をしたいと思います。大賞の投票数によっては絵に力を入れたりしますので、応援のほど、よろしくお願いします。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
沢田くんはおしゃべり
ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!!
【あらすじ】
空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。
友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。
【佐藤さん、マジ天使】(心の声)
無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす!
めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨
エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!)
エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる