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17.厄介な役割
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結局あの後、ルーネストは一人だけで勝手に気まずい雰囲気になりながらも、少しの間だけエストを交えてマルタ、ケントと共に今後の話をした。
そこで分かったのはやはりエストは長期間魔力生成器官に負担が掛かっていた故に、目覚めてからはずっと身体の怠さが抜けないらしい。それに加えて若干の意識の混濁・記憶の混乱があるようだ。マルタはエストが『クレア』とルーネストを見間違えた原因をそう特定した。正確にはそれは違うのだが、ルーネストも後ろめたさと何故自分の正体が一瞬とは言えバレたのかの原因を考えあぐねていたのもあり、その分析を否定するようなことはしなかった。
しかしそれ以外には特に不調はないと聞いて、こっそりと胸をなでおろす。何かしらの失敗で後遺症が残ったら……と、施術前からずっと心配していたのだ。
しかし前代未聞の複数特異魔法所持が分かったエストの施術直後だ。結局マルタからの強い願いでルーネストとケントは1週間だけの滞在という予定を変更し、エストの体調の大事を取って更に2週間追加で合計1カ月の間王都に滞在することになった。ここまでであれば変質薬の追加を作って服用する量を少し多くするように調整すればいいだけだから、すぐに頷いた。
幸い、マルタから今回の報酬は既にたんまりと貰った。最初はその金額の大きさに戸惑いすらしたが、ここで受け取るのを拒否したらしたで怪しまれるかと思い、受け取ったのだ。それ故にルーネストが今所持しているのは変質薬の材料費など塵と等しくなるほどの金額だったりする。
しかしそれと同時にルーネストは予想外の厄介な役割を押し付けられることになった。
「……入れ」
「おはようございます、エスト様。今日も1日よろしくお願い致します」
『厄介な役割』を果たすためにもう見慣れてしまったエストの部屋――施術後に慣れた場所の方が負担も少ないだろうとのことで今は彼の昔から使っている方の部屋に移動している――をノックし、開ける。視界に入ったのは相変わらずインパクトのある光景だった。婚約者だった時も知ってはいたが、エストは本を読むことが好きだ。だから彼の部屋は四方を本に囲まれている。窓のある場所以外には余すところなく本棚が置かれているのだ。
「おはよう、ルーネスト。此方こそ今日もよろしく頼む」
部屋に入った途端、エストが婚約者時代には見なかったようなふんわりとした雰囲気で此方に微笑みかけてくる。愛想の良いかつての彼とは似ても似つかないこの対応、きっとこれは余所行き用の顔だろう。しかし緩い寝巻の様な服を着ているのも新鮮だった。
今まで見たことのなかったもの尽くしの状況に、出来るだけ感情を見せないように努めて冷静な声で返す。
そして役割を果たす準備を始めた。
厄介な役割……それはまだベッドで絶対安静を言い渡されているエストの看病という名の見張りだ。見張りと言っても、外に控えているセーレらの役割である対危険人物用の護衛とは違う。これはエストが急な体調変化を起こした時に対処する役割であり、無理をしようとするのを止める役割でもあった。
若干ワーカーホリック気味の彼は寝ながらでも出来る種類の書類仕事を消化することで、暇をつぶしているのだが、時々休むことを忘れて、休息を挟まずに仕事を続けようとするのだ。
マルタやセーレもまだ回復しきっていないのに仕事をしようとするエストに対して散々止めるように説得をしたが、相変わらず言う事を聞いてくれないようで、少し飽きれながらも彼らしいと無事を喜び、笑っていた。
しかし実際のところ休んでいた間に溜まりに溜まった王太子としての仕事が山積みになっているのも事実だった。そういう理由もあって仕事を止めさせる決定打に欠け、今もエストは仕事を続けているというわけだ。
だからこの見張りは呼ばれたらその時は手伝い、時々様子を見ながら、身体に負担が掛かりそうであれば定期的にその仕事の手を『未だ患者だから』という理由で止める役割なのだ。
この役割をケントとルーネスト、そして時々マルタの三人で交代で行っていた。しかし初日から担当するのは殆どの日がルーネストになっている。なにせマルタやケントはエストの今回の施術や新たな特異魔法についての報告をしなければならなかいのだ。それは国王や王妃、その他の今回の事情を知っている一部の貴族らへの報告・説明であったり、魔法医学学会に対しての報告であったり、今後のエストの生活や似た能力を持った人間への注意喚起のためにも必要な事であった。
それに加えて、二人共本来の仕事というものがある。それらを他の部下に振ったり、自分しか出来ないもので期限が近いものは直接消化、ケントの場合は本拠地であるモーリスの診療所にも連絡をして、異常がないかを確認しなければならない。
要は実績も立場もないが、今回のことでマルタからの信頼とケントからも折り紙付きの実力があるルーネストにはエストの体調の経過観察・管理の仕事が適任であり、マルタとケント二人の意見完全一致の元でこの役目に回されたというわけだ。
正直、残るということになった当初はマルタはケントにこの場に残って欲しいのだなと思い込み、軽い書類仕事などの雑務に対しての準備しかしていなかった。エストとの接触が増えるなんて予想すらしていなかったのだ。しかし蓋を開けてみれば、ここ数日はずっとエストと顔を合わせることになっている。
最初はあまりの気まずさや顔を合わせたくないという感情からエストの看病をサボろうかとすら考えていた。
しかし実際のところ寝ていた期間がそれなりに長かったことに加え、魔力を一気に消費してしまった代償とでも言うように身体の各所にちょっとした問題が起きていた。それ故にエストの調子は全快ではないのである。
体調を元気な状態に戻すための訓練も定期的に予定してはいるが、エストはまだまだ他人の手を借りずに動いて良い様な状態ではなかったのだ。
そうして結局心配する心は偽れないもので、ケントとマルタの手が空いている日以外、律儀に彼の元に通ってきていた。
「では僕はこの部屋の端にいるので、何かあったら声を掛けてください」
「ああ。分かった」
初日から既にここと決めた場所――出入口である扉から入ってエストのいるベッドを更に越えた場所にある、たくさんの本が敷き詰められるように収納された本棚の隅に背を付けるように置いた椅子に腰かける。
この位置からならば部屋の全体を見渡せ、少し遠目ではあるがエストの姿も見える。
ルーネストの手には今日の暇つぶし用の本が既に握られている。『この部屋の本は自由に読んで良い』とエスト本人からもらっているのもあり、エストに挨拶をして、ここまで歩いてくる道中でいくつか目についた本を手に取っていたのだ。
タイトルを見ずに借りた本。それはよほどの回数読まれたのか、少し表紙が擦り切れているが『クロシュテイン魔道具全集』というタイトルが掠れながらも幻想的な装飾文字で書かれているのが読み取れた。
中身はこのクロシュテイン王国に古くから伝わる魔道具について書かれたモノのようだった。内容としては定番の魔道具から普通に「あ~、こういうのあったら便利だよね」といった類の魔道具などだ。全集というだけあって、その中には見たことのないものも多く存在したが、そこまで興味を惹かれるものはなかった。それ故に最初は軽く読み流していたのだが……捲っているうちにとあるページで目が止まる。
そのページには見開きで『死んだ人間を蘇らせる魔道具』と書かれていた。
******
長いのでここで一旦話を切ります。近いうちに続きをあげに来ますね~|д゚)
そこで分かったのはやはりエストは長期間魔力生成器官に負担が掛かっていた故に、目覚めてからはずっと身体の怠さが抜けないらしい。それに加えて若干の意識の混濁・記憶の混乱があるようだ。マルタはエストが『クレア』とルーネストを見間違えた原因をそう特定した。正確にはそれは違うのだが、ルーネストも後ろめたさと何故自分の正体が一瞬とは言えバレたのかの原因を考えあぐねていたのもあり、その分析を否定するようなことはしなかった。
しかしそれ以外には特に不調はないと聞いて、こっそりと胸をなでおろす。何かしらの失敗で後遺症が残ったら……と、施術前からずっと心配していたのだ。
しかし前代未聞の複数特異魔法所持が分かったエストの施術直後だ。結局マルタからの強い願いでルーネストとケントは1週間だけの滞在という予定を変更し、エストの体調の大事を取って更に2週間追加で合計1カ月の間王都に滞在することになった。ここまでであれば変質薬の追加を作って服用する量を少し多くするように調整すればいいだけだから、すぐに頷いた。
幸い、マルタから今回の報酬は既にたんまりと貰った。最初はその金額の大きさに戸惑いすらしたが、ここで受け取るのを拒否したらしたで怪しまれるかと思い、受け取ったのだ。それ故にルーネストが今所持しているのは変質薬の材料費など塵と等しくなるほどの金額だったりする。
しかしそれと同時にルーネストは予想外の厄介な役割を押し付けられることになった。
「……入れ」
「おはようございます、エスト様。今日も1日よろしくお願い致します」
『厄介な役割』を果たすためにもう見慣れてしまったエストの部屋――施術後に慣れた場所の方が負担も少ないだろうとのことで今は彼の昔から使っている方の部屋に移動している――をノックし、開ける。視界に入ったのは相変わらずインパクトのある光景だった。婚約者だった時も知ってはいたが、エストは本を読むことが好きだ。だから彼の部屋は四方を本に囲まれている。窓のある場所以外には余すところなく本棚が置かれているのだ。
「おはよう、ルーネスト。此方こそ今日もよろしく頼む」
部屋に入った途端、エストが婚約者時代には見なかったようなふんわりとした雰囲気で此方に微笑みかけてくる。愛想の良いかつての彼とは似ても似つかないこの対応、きっとこれは余所行き用の顔だろう。しかし緩い寝巻の様な服を着ているのも新鮮だった。
今まで見たことのなかったもの尽くしの状況に、出来るだけ感情を見せないように努めて冷静な声で返す。
そして役割を果たす準備を始めた。
厄介な役割……それはまだベッドで絶対安静を言い渡されているエストの看病という名の見張りだ。見張りと言っても、外に控えているセーレらの役割である対危険人物用の護衛とは違う。これはエストが急な体調変化を起こした時に対処する役割であり、無理をしようとするのを止める役割でもあった。
若干ワーカーホリック気味の彼は寝ながらでも出来る種類の書類仕事を消化することで、暇をつぶしているのだが、時々休むことを忘れて、休息を挟まずに仕事を続けようとするのだ。
マルタやセーレもまだ回復しきっていないのに仕事をしようとするエストに対して散々止めるように説得をしたが、相変わらず言う事を聞いてくれないようで、少し飽きれながらも彼らしいと無事を喜び、笑っていた。
しかし実際のところ休んでいた間に溜まりに溜まった王太子としての仕事が山積みになっているのも事実だった。そういう理由もあって仕事を止めさせる決定打に欠け、今もエストは仕事を続けているというわけだ。
だからこの見張りは呼ばれたらその時は手伝い、時々様子を見ながら、身体に負担が掛かりそうであれば定期的にその仕事の手を『未だ患者だから』という理由で止める役割なのだ。
この役割をケントとルーネスト、そして時々マルタの三人で交代で行っていた。しかし初日から担当するのは殆どの日がルーネストになっている。なにせマルタやケントはエストの今回の施術や新たな特異魔法についての報告をしなければならなかいのだ。それは国王や王妃、その他の今回の事情を知っている一部の貴族らへの報告・説明であったり、魔法医学学会に対しての報告であったり、今後のエストの生活や似た能力を持った人間への注意喚起のためにも必要な事であった。
それに加えて、二人共本来の仕事というものがある。それらを他の部下に振ったり、自分しか出来ないもので期限が近いものは直接消化、ケントの場合は本拠地であるモーリスの診療所にも連絡をして、異常がないかを確認しなければならない。
要は実績も立場もないが、今回のことでマルタからの信頼とケントからも折り紙付きの実力があるルーネストにはエストの体調の経過観察・管理の仕事が適任であり、マルタとケント二人の意見完全一致の元でこの役目に回されたというわけだ。
正直、残るということになった当初はマルタはケントにこの場に残って欲しいのだなと思い込み、軽い書類仕事などの雑務に対しての準備しかしていなかった。エストとの接触が増えるなんて予想すらしていなかったのだ。しかし蓋を開けてみれば、ここ数日はずっとエストと顔を合わせることになっている。
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体調を元気な状態に戻すための訓練も定期的に予定してはいるが、エストはまだまだ他人の手を借りずに動いて良い様な状態ではなかったのだ。
そうして結局心配する心は偽れないもので、ケントとマルタの手が空いている日以外、律儀に彼の元に通ってきていた。
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「ああ。分かった」
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この位置からならば部屋の全体を見渡せ、少し遠目ではあるがエストの姿も見える。
ルーネストの手には今日の暇つぶし用の本が既に握られている。『この部屋の本は自由に読んで良い』とエスト本人からもらっているのもあり、エストに挨拶をして、ここまで歩いてくる道中でいくつか目についた本を手に取っていたのだ。
タイトルを見ずに借りた本。それはよほどの回数読まれたのか、少し表紙が擦り切れているが『クロシュテイン魔道具全集』というタイトルが掠れながらも幻想的な装飾文字で書かれているのが読み取れた。
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そのページには見開きで『死んだ人間を蘇らせる魔道具』と書かれていた。
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