迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
13 / 90
1章

第4話

しおりを挟む
「ちょっとよろしいでしょうか?」

「? なんですか、貴方は……」

「あの……。効果があるか分からないですけど、俺も傷の治療ができるんです」

「傷の治療ができる? もしかして、ヒーラーの方ですか?」

「いえ、俺は魔導師なんですけど……」

 まだ、ほとんど魔法を使ったこともないのに、魔導師と名乗るのはなかなか恥ずかしさがあった。
 けれど、すぐにゼノは、魔導師がそんなに誇らしいものではないということに気付く。
 
「魔導師? 魔導師が傷の治療をするなんて話、聞いたことがありませんけど……」

 あからさまに不審な目を向けてくる女性を見て、ゼノは思い出す。
 魔導師を毛嫌いしている者が、この世界には大勢いるという現実に。

「……えっと、昔は魔導師も傷の治療ができたみたいなんです」

「は? あの……もうけっこうですから。聖女様でも治せなかったんです。魔導師の貴方に私の傷が治せるはずがありません。失礼します」

 冷たく言い放つと、婦人は体を引きずりながらゼノの前から立ち去る。

 彼女の背中を見送りながら、ゼノはやはり何もせずにはいられなかった。
 すぐに魔導袋に手を入れると、そこから《治療》の魔石を取り出す。

(あの人の助けになってくれ……頼むっ!)

 そう願いつつ、魔石を聖剣クレイモアのくぼみにはめ込むと、素早く詠唱した。

「《治療》」

 剣先を背中へ向けてそう唱えると、柔らかな光が女性を包み込む。

「?」

 彼女もすぐに自分の身に変化が起こったことに気付いたようだ。
 くるりと顔を後ろに向けて、背中の傷を確認するような仕草を見せる。
 
 やがて、光は静かにおさまっていった。
 
「……っ! な……なんで? 痛くないわっ……」

 彼女は片手で背中を何度も擦りながら、驚きの表情を浮かべていた。

「……どういうことなの……?」

 その様子を確認すると、ゼノはふぅと息を吐いてから聖剣をホルスターへと戻す。

(よかった。ちゃんと効いてくれたみたいだ)

 すぐに、婦人はゼノが何かしたのだと気付いたみたいだった。
 踵を返すと、ゼノのもとまでやって来る。

「あのっ……もしかして、貴方が治療を……?」

「勝手にすみません。ダメもとだったんですけど……具合はいかがですか?」

「え……あ、はい……。不思議なことにもう痛くありません。これまでの痛みが嘘のようで……」

「それを聞いて安心しました」

 ゼノが笑顔をこぼすと、婦人は困惑した表情を浮かべる。

「本当に、魔導師の方も治療ができたのですね。ごめんなさい……私。貴方に大変無礼な言葉を……」 

「謝らないでください。俺が勝手にやったことなんですから」

「……どうも、ありがとうございます……」

 女性は深々とゼノに頭を下げた。

「でも……どうして聖女様や神官様にも治せなかった傷が治ったのでしょうか?」

 それは、ゼノも気になるところであった。
 思い当たる節は1つしかない。

(ひょっとすると、精神的な理由による傷は、魔導師の回復魔法でも治せるのかな?)

 回復については、ヒーラーの専門だ。
 魔導師の回復魔法が〈回復術〉よりも優れているとは思えなかったが、そういうこともあるのかもしれない、とゼノは思った。

「幻獣に襲われたのは今回が初めてですか?」

「そうですね。本当に怖かったです……。思い出すのも……」

「とすると、もしかすると、そういった精神的なショックが傷にも影響を与えて、〈回復術〉の妨げになっていたのかもしれません」

「つまり、魔導師様には、そういった傷が治せるのですか?」

「いえ。今回はたまたまなんです。《治療》の魔石を持っていたからで、普段の俺にはそんな力はありません」

「?」

 言っている意味が分からなかったのか、女性は不思議そうにゼノの顔を見つめる。
 そんなタイミングで、周りがザワザワと騒ぎ始めた。

「おい! あの少年がブレンダさんの傷を治したみたいだぞ!」
「すごい~! ラヴニカの教会へ行っても治らなかった傷なんでしょ?」
「聖女様でも無理だった傷をどうやって治したんだ、彼は……」
「きっと、マリア様の子孫に違いありませんわ!」

 人々は列を離れて、自然とゼノたちの周りに集まってくる。
 その光景を見て、聖女の少女は「むぅ……」と頬を膨らませていた。

(やべっ……。ちょっと目立ちすぎたか。聖女様の仕事の邪魔をしちゃダメだよな……)

 ゼノはすぐにこの場から離れることにした。

「それじゃ、俺はこの辺で」

「え? あの、お礼がまだですので、少しお待ちいただけませんか?」

「お礼なんて、とんでもないです。さっきも言いましたけど、俺が勝手にしたことなんで」

「ですが、それでは私の気が済みません。少ないですけど……これ。受け取っていただけないでしょうか?」

 そう言って、婦人は銀貨を1枚差し出してくる。
 
「こんな大金、受け取れないですよ。本当に気持ちだけで嬉しいですから。すみません、これで失礼しますっ!」

「あっ……」

 ゼノは逃げるようにその場を立ち去った。



 ◆



 それからゼノは村の宿屋に赴くと、そこで一晩泊まることに。

「ふぅ……。久しぶりに人の作った料理を食べたなぁ。おいしかったー」

 隣接した食堂での夕食を終え、部屋のベッドにごろんと横になる。
 
「こういうベッドもなんだか懐かしいよな」

 迷宮では、エメラルドが建てた大きな家で暮らしていたわけだが、すべて魔法で生み出した物だったため、人が作った物とは若干その素材が異なる。

 ベッドに横になって天井を見上げていると、本当に自分は迷宮から出て来たのだ、という実感が湧き起こってきた。
 
「……お師匠様。元気にしてるかな……」

 ふと、エメラルドのことが恋しくなる。
 
 それも当たり前だ。 
 これまで5年間、ずっと寝食を共にして暮らしてきたのだから。

(いつもお師匠様と一緒に寝てたから。これはなかなか寂しいぞ……)

 まるで、ホームシックになった子供のように、ゼノにはあの迷宮での生活がとても懐かしいものに思えてくる。

「……って言っても、まだ半日くらいしか経っていないんだけど」

 迷宮を出て気付いたことは、やはり世界はとんでもなく広いということだった。
 陽の光は暖かくて気持ちいいし、何よりもおいしい空気がたくさん吸える。

 迷宮での暮らしに懐かしさを抱きつつも、ゼノはどこか外の世界に新鮮さを覚えていた。
 
(あんなダンジョンに400年近くも、お師匠様は閉じ込められているんだよな……)

 エメラルドの望みは、地上へ上がって禁忌魔法の犠牲となった人たちへ懺悔をすることだったが、ゼノには別の目的があった。

 彼女にもっと違った暮らしをさせてあげたい。
 魔獣に取り囲まれた薄暗い迷宮の奥底ではなくて、暖かな陽の下で。

 できれば、《不老不死》の魔法を解くのもその後にしたかった。

「……俺、絶対にすべての魔法を列挙してみせます。それで、お師匠様を必ず迷宮から出して差し上げますから。それまで、もう少しだけ待っていてください」

 誰もいない部屋で1人そう決意を確かめると、ゼノは「おやすみなさい……お師匠様」と口にしてから眠りにつくのだった。



 ◆



 エメラルドは、どこか心ここにあらずといった様子で迷宮の中を彷徨い続けていた。

 ゼノを見送ってからの半日、ずっとこんな感じなのだ。
 目の前に現れた魔獣を無感動に倒しながら、エメラルドはため息をつく。

「はぁ……。本当にゼノくんを見送ってしまったよ」

 彼を初めて拾った時から、この日がやって来ることは分かっていたはずなのに。
 そんなことを思いながら、エメラルドは意味もなく歩き続ける。

「……あの子、地上でもちゃんと上手くやれているかな……」

 エメラルドにとって、ゼノは我が子のような存在だ。
 傍から見れば姉弟にしか見えないのだろうが、エメラルドはすでに400年以上の時を生きている。

 だから当然、彼に対して恋愛感情を抱くようなことはないのだが、ゼノがまっすぐな気持ちをぶつけてくれていることは、エメラルドとしても悪い気はしなかった。

「って、なに感傷に浸っているんだ……私は」

 これまでずっと1人でも寂しくなかったはずじゃないか、と思う。
 だが、ゼノとの生活が自分に活力を与えてくれていた事実にも、エメラルドは気付いていた。
  
「1人は慣れていたはずなのにね」

 ふと、虚無感がエメラルドを襲う。
 ゼノの温もりを求めて迷宮の中を彷徨うも、どこにも彼の姿はない。
 
「……お師匠様か。あんなに私のことを慕ってくれて……。私は、君を自分のために利用しようとしてるんだぞ?」

 誰もいないダンジョンの通路に、エメラルドの小さな声が木霊する。

「でも、待ってるからな。がんばれよ、ゼノくん」

 エメラルドは、その言葉がゼノに届くと信じて、天を大きく仰ぐのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...