迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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1章

第3話

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 大賢者ゼノの禁忌魔法によって魔王エレシュキガルは滅んだ。
 しかし、魔王はただ何もせずに消え去ったわけではなかった。

 滅びの直前、自身の持てる力のすべてを使って、凶悪な呪いを人族にかけていたのだ。

 その呪いによって、魔導師の魔力値は大きく減少し、これまで使えていた魔法が一切使用できなくなってしまう。
 
 また、人魔大戦直後に生まれた者の魔力値は軒並み0となり、以降100年近くは、誰も魔法が使えないという人族の間から完全に魔法が消えてしまった時代が続く。

 いわゆる、〝栄華の代償〟と呼ばれる時代だ。

 このような結果により、人族の間では、魔法に関する知識がだいぶ失われてしまった。

 次第に、魔力値を固定できる者も誕生し始めるのだが、生まれてくる者は皆、人魔大戦以前よりも大幅に低い数値だった。

 これが未だに、魔法が13種類しか発見できていない理由となっている。
 98%もの魔法が現在でも未発見なままなのは、魔王エレシュキガルの呪いが原因なのだ。





 賢神暦4年。
 そんな人魔大戦直後の混沌の時代に現れたのが、大聖女マリアだった。

 彼女は、これまでの術使いが使えなかった〈回復術〉という7番目の指向性を持つ術式を扱うことができる特異な存在であった。
 大賢者ゼノの禁忌魔法によって荒廃した土地を点々とし、傷ついた人々を無償の愛で癒し続けたのである。

 それまで人を癒すという行為は、魔法でしか成し得ることができなかったため、魔法が消え去った時代に、大聖女マリアの癒しはとても貴重な存在となった。

 彼女の懸命な奉仕活動の甲斐もあって、人々は徐々に復興を果たしていくことになる。
 
 後年、マリアは自らの術式理論を弟子たちに伝え聞かせ、それにより〈回復術〉を使える者が誕生し始める。
 死後もマリアは広く崇拝され、やがて彼女の教えを信仰する聖マリア教が生まれた。

 元々、人族の間では、アルタイルを祖として崇めるアルタイル正教が存在していたが、聖マリア教の誕生により教会は2つに分裂。

 アルタイル正教を信仰する教会は北方教会と呼ばれ、聖マリア教を信仰する教会は南方教会と呼ばれるようになった。

 国に歩み寄る北方教会とは対照的に、南方教会はこれまで独自の道を突き進んできた。

 南方教会の人間は、多くの人々を犠牲にした大賢者ゼノを英雄視する国に対して懐疑的で、魔法至上主義の考え方を真っ向から否定している。

 だが、現代は魔法至上主義の時代だ。

 人魔大戦が終結してから100年後。
 徐々に各地で魔法が使える魔導師が誕生し始め、彼らは魔法を武器に、魔法至上主義の考え方をメルカディアン大陸に浸透させていく。
 
 特に上級魔法である《支配》の魔法は強力で、術使いの者たちを意のままに操り、屈服させることで、彼らは権力を確実なものにしていった。

 やがて、新世代の魔導師たちの革命によって、魔法が全く使えない王族や貴族は国から追放され、代わりに彼らが新たな権力の座に就くことになる。

 今では、王族は魔導師によって占められており、君主は魔力値の高い者に貴族の身分を与えるようになった。

 魔導師は高貴な身分として生活を送り、厄介事を請け負う冒険者のほとんどは術使いだ。
 こうした背景により、術使いが魔導師に対して否定的な感情を持っていることも珍しくはない。

 そのため、王族や貴族は術使いに対して常に高い警戒心を持っている。
 冒険者ギルドとは、従属関係をはっきりとさせているが、魔法至上主義を真っ向から否定する南方教会とは仲が悪い。

 国は上位回復薬であるポーションを大量に生産し、南方教会を頼らなくとも事足りる環境を作り上げたが、やはり民衆にとっては〈回復術〉で治療してくれる南方教会はなくてはならない存在だ。

 そのような歴史により、町や村によっては南方教会を置いていない所も存在する。
 だが、そういった場合は、こうしてヒーラーが出張で訪ねに来てくれたりしている。

 フォーゲラングの村もそんな典型的な、魔法至上主義を掲げる領主が治める村であるようだった。



 ◆



 ゼノは、少女が人々に〈回復術〉を施す姿に目を向けながら、小さい頃を思い出していた。

(ドミナリアに住んでいた頃は、よく南方教会を利用したっけ)

 そこに勤める神官やシスターは、自分が領主の息子であっても、差別することなく、毎回笑顔で治療してくれた。
 正直、ゼノにとっては、アルタイルの伝承を説くだけの北方教会よりも、南方教会の方がずっと馴染みがあった。



 それからもしばらく、ゼノは少女の施しに目を奪われていた。
 マイナスイオンを発しながら、人々を慈悲深く癒すその姿は、まさに聖女の名に相応しい。

 ちなみに聖女というとおり名は、南方教会に勤めるシスターの中でも、優れた〈回復術〉を施せる者にしか名乗ることが許されていない。

 つまり、彼女は非常に優秀なヒーラーであるというわけだ。

(この若さですごいなぁ。俺もこれから頑張らないと)

 少女の働きに勇気づけられ、ゼノがそろそろこの場を後にしようとすると……。

「聖女様。少し体を見ていただけないでしょうか?」

 ある1人の若い女性が少女の前に現れた。

「もちろんですよ。どうぞ、お見せください♪」

 そう言って女性は、背中をまくって少女に見せる。

「実は、数日前に、シャークアントに後ろから襲われまして……」

 シャークアントとは、夜になると姿を現す蟻型の幻獣のことだ。
 下級幻獣に分類され、そこまで強いわけではないのだが、女性としては恐怖だったに違いない。

 どうやら彼女は、畑仕事の帰り道に運悪く襲われてしまったようだ。
 その日はたまたま収穫が遅くまでかかってしまい、農婦たちと急いで村まで戻っていると、自分だけが背後から爪で斬りつけられたのだという。

「……それからすぐに、大量のポーションをかけて安静にしてましたが、まったく良くならなくて……。少し動くだけでも、背中がズキズキとして痛むのです。夜も眠れないほどでして……」

「それはお辛いですね。分かりました。すぐに治療しましょう」

「どうかお願いします……」

 少女が婦人の背中に手を当てると、その瞬間、暖かな光が放たれる。

「〈ヒーリング〉」

 そう唱えると、光の輪が女性の背中に広がっていった。
 もちろん、ゼノはこれまでにこの治療を何度か見たことがある。

 〈ヒーリング〉の汎用性は高く、日常生活で負傷した傷はこの術式によって治療することができる。

 が。

 それから少女が何度も〈ヒーリング〉を唱えても、背中の傷は治らない。

「やっぱりダメでしょうか?」

「……はい……。ごめんなさい。残念ですけど、これは治療できない傷のようです」

 ――治療できない傷。
 
 肉体的な理由ではなく、精神的な理由を伴った傷は、いくら〈回復術〉を使っても治療できないことがあるという話を、以前ハワード家の家庭教師から聞いたことをゼノは思い出した。

「……そうですか。実は、領都のラヴニカまで行って見てもらったんですが、神官様にも同じように言われました。聖女様、わざわざ見ていただきましてありがとうございました」

「いえ。こちらこそ、お力になれなくて申し訳ありません。貴女にマリア様のご加護がありますように」

 婦人は少女に献金を渡すと、周りの人たちから励ましの声をかけられながら列を離れていく。

(聖女様でも治せない傷があるんだ……)

 そんなことを思うゼノだったが、辛そうに体を引きずりながら、その場を後にする女性の姿を見ていると、どうしても放っておけないという風に思えてくる。

(たしか、さっき《治療》っていう魔石も手に入れたよね?)

 人魔大戦以前は、魔法による治療手段もあったという話だが、現在は〈回復術〉以外による治療は、ポーションを使うくらいしかない。
 そのため、《治療》の魔法で、どれくらいの傷を癒せるのかはまったく未知数であった。
 
(聖女様の力でも治せなかったんだ。きっと、俺がこれを使ったところで意味はないだろうな)

 無駄だと思いつつも、ゼノは婦人に声をかけることにする。
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