迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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1章

第2話

 それからしばらくの間歩き続けるゼノだったが、一向に森の出口は見当たらなかった。
 それよりも、さらに迷い込んでしまっているような感覚を抱く。

 5年前は、馬車に長いこと揺られてやって来た気がするので、この森が町から遠く離れた場所にある可能性もあった。
 たとえ、森を抜け出したとしても、そこからの道のりがまた長いかもしれない。

「陽はまだ高いけど、このままむやみに歩いてもなぁ……。見当違いの方向へ進んだら、大変なことになるかもしれないぞ」

 エメラルドからお金は渡されていたが、肝心の食料は受け取っていなかった。
 料理を生み出せる魔法でもあればいいのだが、残念ながらそういった魔石は入手できていない。

 ゼノはさらに森の中を進みながら、野宿だけはなんとしても避けなければ……と考えていた。
 なぜなら、夜になると幻獣が現れるからだ。

 幻獣とは、大賢者ゼノの禁忌魔法によって滅びた魔獣が亡霊となった姿のことである。

 魔獣はダンジョンの中にしか現れないが、幻獣は別だ。
 夜になると、町の外に現れて通りかかった人々を襲う。

 野宿をしている最中に、幻獣の襲撃に遭って命を落とすなんて冒険者は意外にも多い。
 そのため、明るいうちになんとしても、人気のある場所へ辿り着きたかった。

「うーん。このまま歩いていても、森から抜け出せそうにないな」

 ある程度進んだところで、ゼノは自力での脱出を諦めることにした。
 というのも、当てがあったからだ。

(さっき手に入れた《マップ》の魔石を使ってみよう)

 ゼノは魔導袋の中から魔石を1つ取り出すと、それを先程と同じ要領で聖剣クレイモアのガード部分にはめ込む。

「《マップ》」

 光を帯びた剣を横向きにして、剣身ブレイドに手を当てながらそう唱えると、目の前に巨大な光の地図が浮かび上がった。

「おぉっ~! すごいぞ、これ!」

 そこには領地の全体図と、アスター王国の縮尺図が表示されていた。
 
 ちなみにアスター王国は、ルドベキア王国、ランタナ大公国と並んで、メルカディアン大陸に広大な領土を持つ三強国の一つに数えられている。

 時の君主は、6年前に15歳の若さで即位したギュスターヴ女王だ。
 彼女は絶世の美女と謳われ、政治に関しては天才的な手腕を発揮するカリスマと崇敬されている。

 女王が支配する王領と、11の貴族が治める領地によってアスター王国は構成されており、ゼノがかつて暮らしていたハワード領もその内の一つであった。
 
 アスター王国の縮尺図に目を向けると、ふとハワード領の名前が目に飛び込んでくる。

「父上……兄様……」 

 思わずゼノは、ポケットに入れられたままのハワード家の紋章が刻まれたメダルを取り出す。

 廃棄されたあの日から5年間。
 ゼノはそのメダルを捨てることなく、ずっと持ち続けていた。

 かつての自分と完全に決別ができたと思っていても、なぜかゼノはそれを捨てることができずにいた。
 自分がルイス・ハワードであったことを示す最後の繋がりだからだろうか。

(……)

 ゼノは静かにメダルを握り締めると、それを再びポケットへと戻す。

「えっと、現在地点は……」

 気を取り直して、今自分がどこにいるのかを確認することに。
 現在地点の印は、ファイフ領の外れにあるシャトー密林という場所を示していた。

「シャトー密林か。ここから一番近い町はどこかな」

 現在地点から直線距離で一番近い町を探す。
 残念なことに町は存在しなかったが、ファイフ領内にあるフォーゲラングという村が一番近いようであった。

「よし。それじゃ、まずはここを目指してみようか」
 
 近くにあった木の皮を剥ぎ取り、そこに剣先でフォーゲラングの村までの道のりを刻み込む。
 それを頼りにして歩きつつ、ゼノは密林の出口を目指した。



 ◆



 フォーゲラングの村に着く頃には、すでに辺りはオレンジ色に染まり始めていた。

「結構かかったな」

 地図で確認するのとは違い、徒歩だと意外と距離があった。
 少しばかりの疲労感がゼノを襲う。

 だが、それも村の景色を眺めると、疲れもパッと消え失せてしまう。

「おぉー。なんかいい村だなぁ」

 こじんまりとしながらも、フォーゲラングの村はそこで暮らす人々で活気づいていた。
 自分たちの村に誇りを持って生活をしているという雰囲気が、村を少し歩くだけでも伝わってきてゼノは感動を覚える。

 これまでほとんど領地から出たことのなかったゼノにとって、見知らぬ村の中を歩くということは、とても新鮮なことであった。 

「うん。今日はこの村に泊まるとしよう」

 少しだけわくわくしながら村の中を歩いていると、中央の広場に人だかりができていることに気付く。

(なんだろう?)

 人々の背中越しから中を覗けば、そこには南方教会聖マリア教の立札が掲げられていた。
 どうやら出張して教会から治療に来ているようだ。

 人だかりの中心には、1人の少女の姿があった。

「お疲れさまでした♪」

「ありがとうございます、聖女様……。おかげで体も動くようになりました」

「これもマリア様の導きのおかげです。お気をつけてお帰り下さいね♪」

 男性は、深々とお辞儀をしてその場を後にする。
 それを少女は、優しげな微笑みで見送っていた。

 ピンク色のミディアムヘアが特徴的な少女は、頭に白いウィンプルを付けており、黒を基調としたシスター服を着ていた。

 背はそこまで高くないのだが、ついそのふくよかな胸に目が行ってしまう。
 彼女が何か少しでも動作をするだけで、左右にぽよんぽよんと動くのだ。

 顔立ちも整っており、笑顔がとても素敵な誰からも愛されそうな美少女であった。

(へぇ……聖女様か。けっこう若いな。俺と同じくらいかな?)

 聖女。
 つまり、彼女は〈回復術〉が使える術使いなのだ。



 ◆
 


 術使いは、魔導師と対をなす存在で、術式を使用することができる。

 術式には、〈体術〉、〈剣術〉、〈斧術〉、〈爪術〉、〈弓術〉、〈槍術〉、〈回復術〉といった7つ指向性が存在し、生まれた時点でその適性が分かるようになっている。

 人族は誰もが魔力値と術値という2つの数値を持った状態で生まれきて、術値も魔力値同様に、歳を重ねるに度に減っていく。

 術値もまた親から遺伝し、生まれ持った術値が高ければ、術使いとしての素質があるということで、10歳を迎えるまでの間に術式理論を学んでいく必要がある。

 そして、晴れて10歳の誕生日を迎えると、【術式固定の儀】で術値を固定することになり、それが自分の正式な術値となるのだ。

 術使いも、【術式固定の儀】で固定された術値によって、生涯習得できる術式が変わり、それぞれ下位術使い、中位術使い、上位術使いと3つのクラスに分類される。

 以下は〈斧術〉の使い手である戦斧使いの例だ。

----------

〇下位術使い=術値1~333

[初期習得] 
〈伐採〉

[習得術式一覧]
Lv.10 〈かかと斬り〉
Lv.20 〈ワンハンマー〉
Lv.30 〈大木断絶〉
Lv.40 〈時間差斬〉
Lv.50 〈ボーンクラッシュ〉


〇中位術使い=術値334~666

[初期習得]
〈伐採〉〈かかと斬り〉
〈ワンハンマー〉〈大木断絶〉

[習得術式一覧]
Lv.10 〈時間差斬〉
Lv.20 〈ボーンクラッシュ〉
Lv.30 〈ウィングドライヴ〉
Lv.40 〈夜叉爆裂〉
Lv.50 〈アクセルトルネード〉
Lv.60 〈ブーメラントマホーク〉


〇上位術使い=術値667~999

[初期習得]
〈伐採〉〈かかと斬り〉
〈ワンハンマー〉〈大木断絶〉
〈時間差斬〉〈ボーンクラッシュ〉

[習得術式一覧]
Lv.10 〈ウィングドライヴ〉
Lv.20 〈夜叉爆裂〉
Lv.30 〈アクセルトルネード〉
Lv.40 〈ブーメラントマホーク〉
Lv.50 〈大車輪撃〉
Lv.60 〈ヨーヨーぶん回し〉
Lv.70 〈超高速ナブラ〉

----------

 ちなみに、魔力値と術値を両方とも固定できる者はいない。
 
 魔法も術式も体内で莫大なエネルギーを消費するため、2つの異能を扱えるように人族の体は作られていないのだ。

 魔力値を固定できた者の術値は自然と0となり、また術値が固定できた者の魔力値は自然と0となる。

 逆に10歳を迎える前に、魔力値も術値も0となる者は当然のことながら存在する。
 ゼノがそれだ。

 そういった者は、魔導師にも術使いにもなれないので、一般的な職に就くことになる。
 魔導師や術使いになれる者というのは、本当に限られたごく一部のエリートだけなのだ。

 そして、術使いの中でも、〈回復術〉の使い手だけは特殊な位置づけとなっている。

 その他の6つの適性がある者たちは、冒険者や国を守る騎士などになるのが普通だ。
 だが、〈回復術〉の使い手であるヒーラーは、彼らのように攻撃に特化した術式を使用することができない。

 そのため、冒険者や騎士などのように戦闘の前線に立つことはなく、基本的に南方教会に勤めて、そこで治療活動を行うことになる。

 ヒーラーが特殊なのはそれだけではない。
 術使いの中でも、その数が極端に少ないのだ。

 これには、歴史的な背景が存在する。

 人々は、人族の祖であるアルタイルが生み出した術式を使って発展を遂げてきた。
 
 だが、当時の術は6つの指向性しか存在しなかった。
 〈回復術〉は無かったのだ。

 〈回復術〉の使い手が現れたのは、歴史から見ればごく最近ということになる。
 人魔大戦後、ある1人の大聖女が現れ、彼女の登場によって術使いのあり方は大きく変わっていくことになった。
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