迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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1章

第7話

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 父親に案内されて民家の中へ入ると、部屋のベッドでは幼い女の子が辛そうに息を荒げていた。
 全身汗だくの状態で、母親が女の子の汗を拭っている。

「魔導師様を呼んできたぞ!」

「あぁ……魔導師様! ありがとうございます……」

「ちょっとぉ、わたしもいるんですけど~っ!?」

 つっこみを入れるモニカの横で、女の子の容態を見てゼノは確信する。

(多分、これは毒が回ってる……)

 目の前の女の子は、非常に危険な状態にあると言えた。
 
(そうだ。今朝、ガチャで召喚した《解毒》の魔石を使えば……)

 そう思い魔導袋に手を伸ばそうとすると、モニカがゼノを押し退けて前に出てくる。

「ゼノさんはどいてください! わたしがやりますっ!」

 モニカはベッドの前で跪くと、女の子の額に手を当てる。

「〈ヒーリング〉」

 彼女がそう唱えた瞬間、暖かな光の輪が女の子の全身に広がっていった。
 効果があれば、すぐにでも良くなるはずだが……。

「こほぉ……けほぉ……んぁ……っぁ、はぁっ……」

 女の子の容態が良くなる気配はない。

「な、なんでっ……? 子供なら、これでちゃんと治るはずなのに……」

 焦ったように、モニカが〈ヒーリング〉を連続で唱えるも、結果は変わらなかった。
 そんな彼女にゼノは冷静に声をかける。

「毒が回ってるんだ。その〈回復術〉じゃ、おそらく効き目はないよ」

「えっ……」

 ゼノは魔導袋の中から《解毒》の魔石を取り出すと、ホルスターから聖剣クレイモアを抜き取って、鍔のくぼみにそれをはめ込む。

「ちょ、ちょっと……なんですかそれ!?」

 驚くモニカに構うことなく、ゼノは輝くに手を当てると、女の子の方を向きながら「《解毒》」と魔法名を詠唱した。

 その瞬間、眩い光が女の子の全身を包み込む。

 やがて、その光がおさまると。

「……うぅっ…………っ、パパ、ママ……?」
 
 あれほど苦しそうに息を荒げていた女の子の容態は、みるみるうちに良くなっていった。

「あぁ……さすが魔導師様っ! 本当にすごいお方だ!」

「娘を救ってくれてありがとうございます! なんとお礼を言えばいいか……」

「いえ、俺は自分にできることをしただけですので。娘さんの容態が良くなってくれて、俺も嬉しいです」

 ゼノは女の子の頭を撫でながら笑顔をこぼした。
 
「ぐぬぬぅ……」

 ゼノが両親に感謝される光景を見て、モニカは1人悔しそうな表情を浮かべていた。



 ◆



「じゃあーね。お兄ちゃーん!」

「うん。これからは知らない木の実は食べちゃダメだよー」

 笑顔で手を振る女の子と、何度もお辞儀を繰り返す両親に見送られながら、ゼノはモニカと一緒に民家を後にした。

「あのご夫婦、最後までわたしの姿が見えていない感じでした」

「そうか?」

「貴方、一体何なんですか? いきなりこの村に現れて、わたしの邪魔ばかりして……。それに、あんな魔法今までに一度も見たことがないです。その剣、どういうカラクリなんですかっ?」

 モニカは責め立てるように、ゼノが腰にぶら下げている聖剣クレイモアを指さす。
 
 もう可憐な聖女を演じるつもりはないようだ。
 心なしか態度も大きくなっている。

「これは……」

 ゼノが言い淀んでいると、さらにモニカはつっこんでくる。

「それって、インチキの道具ですよね? わたし、仕事の邪魔をされたって、王都の教会に報告することだってできるんですけどぉ?」

「……」

(目の前で未発見魔法を使っておいて、さすがに言い逃れはできないか)

 ゼノは決意をすると、モニカに本当のことを打ち明けることにした。

「……信じてもらえるか、分からないけどさ。俺、未発見魔法が使えるんだよ」

「はい?」

 それを聞いた瞬間、モニカは固まってしまう。

「冗談……ですよね?」

「いや、これが本当なんだ」

「えーっと……。ゼノさんが何を言ってるのか、わたしには分かりません」

 まぁそうだろうな、とゼノは思った。

(俺も、お師匠様の魔法を初めて見た時はこんな感じだったし)

 長らく発見されていないから〝未発見〟魔法なのだ。
 そんなものを軽々しく扱えると言い放つ者が目の前に現れて、すぐに信じろというのは無理な話であった。

「さっきみたいにさ。この剣に魔石をはめ込んで詠唱すると、魔法が発動する仕組みなんだよ」

「それ、通常の発動手順とだいぶ異なりますよね?」

「うん。実際に俺の魔力値は0だから。通常のやり方で魔法を発動しているわけじゃないんだ」

「いや……。そんな風にしたり顔で言われても、意味が分かりませんし」

 理解することを諦めたのか。
 モニカはため息をつくと、乱れたシスターの服を手を払ってなおす。

「とにかく、なんにせよ。ゼノさんが卑怯な手でわたしの邪魔をしていることだけは確かです」

「卑怯な手を使ってるつもりはないんだけど……」

「だって、ライセンス持ってないんですよね? だったら言い訳しないでください。はっきり言って迷惑なんです!」

「ごめん……。悪かったよ」

 このままだと本当に、王都の南方教会へ言いつけられてしまいそうだった。
 顔を赤くさせてつっかかって来るモニカの姿を見ると、これ以上刺激するのは命取りだということに、ゼノは気付く。

「今度こそ、本当にフォーゲラングから出て行くからさ。今まですまなかった。これからも仕事頑張ってくれ」

「だから、貴方にそんな風に言われても嫌味にしか聞えませんっ! もういいですから、早く出て行ってくださぁーい!」

「う、うん……」

 ぷんぷんと怒りを露わにするモニカから逃げるように、ゼノは走って村の外へと出た。

(なんか、最後まで打ち解けられなかったな。まぁ、相手の立場を考えれば俺が悪いんだし、当然か……)

 少しだけそのことを残念に思いつつ、ゼノは新たな生活拠点を目指して歩みを進めるのだった。



 ◆



 フォーゲラングの村を後に、しばらく田舎道を歩いたところで、ふとゼノは気付いた。

「……待てよ。このままのペースで歩いていたら、多分、陽が昇っているうちにはマスクスへ着かないぞ」

 食堂の女将から受け取った簡易的な地図をもう一度広げてみる。

「たしか、馬車を使っても半日くらいかかるって話だったよな」

 マスクスへ到着する頃には、宿屋が閉まっているという可能性も考えられた。
 そうなると、町の外で野宿をしなければならない。

 それだけはなんとしても避けたかった。

「何か使えそうな魔石はないかな?」

 ゼノは「ステータスオープン」と唱えると、一度自分の現状を確認することに。

----------

【ゼノ・ウィンザー】
[Lv]24
[魔力値]0 [術値]0
[力]12 [守]6
[魔攻]170 [速]9 
[スキル]〔魔導ガチャ〕
[魔石コンプ率]019/666
[所持魔石]
☆1《階段》 ☆1《鳥類学》
☆1《ミュート》 ☆1《忘却防止》
☆1《レイン》 ☆1《疾走》
☆1《クッション》 ☆1《温泉》
☆2《怒号の火球マグマボール
[所持クリスタル]青クリスタル×48
[Ωカウンター]000.28%

----------

「……あ、そうか。《疾走》の魔石があるのか」

 《疾走》は、現在発見されている13種類の魔法のうちの1つだ。
 下級魔法に分類され、魔導師ならほとんど誰でも扱うことができるポピュラーな魔法であった。

 当然、ゼノもこれまでに何度も、この魔法を使う場面を見てきている。
 そのため、《疾走》の効果については理解できていた。

「うん、そうだな。この魔法を使えば、早くマスクスへ着くことができるだろうし。使ってしまおうかな」

 いつもと同じ要領で魔導袋の中から魔石を取り出すと、聖剣クレイモアの穴にそれをはめ込む。
 そして、光る聖剣を大きく天に突き立て、「《疾走》」と唱えると……。

「うおぉぉおぉぉーーーっ!?」

 ゼノの脚は瞬く間に加速し、田舎道の砂利を跳ね飛ばしながら駆け出していく。

 その後、休むことなく走り続けたゼノは、昼過ぎにはゴンザーガ領の領都マスクスへと到着した。
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