迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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3章

第2話

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「ゼノ様、Sランク冒険者ですよ! こんな短期間でほんと凄すぎますっ♪」

 ゼノはモニカと一緒に、木々に囲まれた閑静な避暑地の中を歩きながら、宿舎へと向かっていた。

「そんなにすごいことなのか?」

「当然ですよ! この調子なら、ギュスターヴ女王様から王国の筆頭冒険者に任命される日もすぐですね~♡」

「そうなるといいんだけど……。でも、あまり目は付けられたくないんだよなぁ」

「? どうしてですか?」

「だって、王宮に囲われたりしたら、お師匠様を救うのに動きづらくなるから」

「あーなるほど。たしかにそうかもしれません。けど……」

 そこでモニカは、ぷくっと頬を膨らませる。

「あのぉ、ゼノ様? 毎日のようにお師匠様、お師匠様って言ってますけどぉー。少しは一緒にいるわたしのことも、ちゃんと見てくださいよ~」

「いや、俺がお師匠様一筋なのは、モニカも分かっているはずじゃ……って、胸を押し付けるなっ!?」

「えぇ~~? いーじゃないですかぁ。ゼノ様に振り向いてほしいんですぅ~!」

「だからって、毎回色仕掛けを使ってくるなよ……」

「これがわたしの一番の武器なんです!」

 そんな風にうだうだと会話しながら、ゼノはふと思う。

(……でも、Sランク冒険者になったからには、これからさらに難易度の高いクエストを受注することになるんだろうな)

 そうなると、現状の戦力だけでは、少し心もとなさがあった。

(ヒーラーのモニカがパーティーに居てくれるのは、すごく助かっているんだけど……俺は魔導師だから。先陣を切ってくれるアタッカーが欲しいところだよなぁ)

 オレンジ色に染まる木漏れ日の中、そんなことを考えて歩いていると……。

「ちょっとよろしいですか?」

 突然、背後から何者かに声をかけられる。
 とっさに、ゼノが後ろを振り返ると、そこには長身で細身の男が立っていた。

「っ!」

 まったく気配なく声をかけられたため、ゼノは警戒して思わず聖剣クレイモアに手を伸ばしてしまう。
 それを見て、男は手を前に出した。
 
「いえ。決して怪しい者ではありません」

「き……急になんですか、あなたっ!? 怪しすぎます! もしかして、わたしたちの後をつけて来ました!?」

「はい。少し御用がございましたので。申し訳ございません」

 そこで男は、胸に手を当てたまま深々とお辞儀をする。

 右目はアシンメトリーの鮮やかな青色の髪で隠れており、彼は執事の服を身にまとっていた。

 年齢は30代半ばといったところだろうか。
 だが、もう少し若いのかもしれないし、ひょっとすると、自分たちとそこまで大きく変わらないのかもしれない、とゼノは思った。

 目の前の男には、どこか年齢不詳な得体の知れない雰囲気があるのだ。
 物腰はとても丁寧だが、只者ではないオーラをゼノは相手から感じていた。

「後をつけて来たって……正直に言っちゃいましたよ、この人!」

「俺たちに、何の用ですか?」

「その前に名乗らせてください。私は、ゴンザーガ伯爵家守役のワイアットと申します」

「守役?」

 ゼノが目を細めると、青髪の男――ワイアットは、改めて胸に手を当てながら答える。

「お嬢様の身の回りの世話などをしております」

「お嬢様? お嬢様って……ゴンザーガ伯爵のご令嬢のことですかっ?」

 そうモニカが訊ねたところで。

(――ッ!?)

 久しぶりに、ゼノの頭に鈍い痛みが走る。
 そして、まただ……と思った。

(……ゴンザーガ伯爵家……。なんだ……? 何かが引っかかる……)

 その正体不明の焦燥感の理由を探ろうと、ゼノが記憶の糸を手繰り寄せていると――。

 シュルシュルッ、シュルシュルッ!

「!」

 ゼノの足元に、突然大型の斧が突き刺さる。
 とっさに、ゼノはモニカの手を引いてその場から一歩退いた。

「えっ!?」

 モニカが驚く方へ目を向けると、木の影から真っ赤なストレートヘアを翻した美少女が現れる。

「――そうだ。アタシがその令嬢、ゴンザーガ家三女のアーシャ・ゴンザーガだ」

 彼女は、燃えるように赤い髪を豪快に振り払い、くりっとした大きな瞳をゼノに向けて笑みをこぼす。

 端麗なその顔立ちとは裏腹に、少女の笑顔にはまだどこか幼さが残っていた。
 
 黒色のカチューシャを付け、ドレス風の冒険者服を身にまとっている。
 動きやすそうなショートパンツの上に、スリットの入ったスカートをはいていた。

 体つきはモニカと比べると、まだ発育途上の感は否めないが、その天真爛漫な振舞いは、見る者を元気にするような不思議な魅力があった。

「さすがSランク冒険者だな! その身のこなし気に入ったぜ」

「な、な、な……なんなんですか!? この子が、斧を投げたんですかっ……?」

 驚くモニカに対して、ワイアットが頭を下げる。

「申し訳ございません。突然、このようなことに巻き込んでしまいまして。お嬢様流の挨拶なのでございます」

「挨拶って……殺そうとしてましたよね!?」

 あまりに突然の出来事に驚きが隠せないモニカとは対照的に、ゼノは冷静だった。

 そして、彼女の姿を目にすると、またも引っかかりを覚える。

(……アーシャ・ゴンザーガ……。この子、どこかで……)

 だが、一方の彼女はというと、ゼノの姿を見ても特に反応を示すようなことはなかった。
 ぶっきら棒にこう訊ねてくる。

「あんたがゼノ・ウィンザーっていうんだろ? 歳はいくつだ?」

「15歳だけど」

「ふーん。年齢はアタシと同じか。でも、髪の色は違うしな……」

「なんの話? 俺に何か用があるのか?」

「あっ? んだよ、ダニエルのおっさん言ってなかったのかよ」

「言ってなかったって、何がですかっ!」

 怒り気味にモニカが訊ねると、ワイアットがそれに答える。

「お嬢様は、我がギルドでSランク冒険者になられた方全員に、戦いを挑んでいるのです」

「戦いを挑んでいる、ですか?」

 ゼノが、赤髪の少女――アーシャを一瞥する。

「そうだぜ。アタシは、強い相手と戦いたいんだ」

 アーシャは、ゼノの前までやって来ると、地面に突き刺さった巨大な斧を引き抜いて手に取る。

「あんた。さっき、ダニエルのおっさんからSランク冒険者を言い渡されたんだろ? つーことは、絶対に強いはずだぜ!」

「強いかどうかは分からないけど。たしかに、Sランク冒険者は言い渡されたよ」

「なら、アタシと勝負しろ!」

 そこでモニカが、アーシャが手にした斧を見て、何かを思い出したように「あっ」と声を上げる。

「……赤髪の戦斧使いの少女……」

「? モニカ、知っているのか?」

「い、いえ……。ゼノ様の後を追って、毎回ギルドに出入りしている時に耳にしたんです。ここ数年、マスクスでSランク冒険者がすぐに辞めてしまうのは、赤髪の戦斧使いの少女に潰されているからだって」

「ちぇ……。んな風に言われてるのかよ。人聞きが悪いぜ。アタシは、ただ強い相手と戦いたいだけなんだ」

「ですが、お嬢様。その話は本当でございます。お嬢様が打ち負かした方々は、その後、冒険者を辞めてしまっています」

「その後のことまでは知らねーよ。弱いくせに、Sランク冒険者に任命されたのが悪いんだぜ」
 
 そう口にしながら、アーシャは自分の背丈ほどある斧をいとも簡単に構えてしまう。
 その動作を見て、ゼノはとっさに理解した。

(あの熟練した動き……。この子も只者じゃないぞ……)

 あんな武器で攻撃を受けたら、ひとたまりもないに違いなかった。

 その時。
 モニカが小声で耳打ちをしてくる。

「……ゼノ様、お気をつけください。冒険者の皆さんは、あの子のことをとても恐れていました。女の子だからって、甘く見ない方がいいです」

「ああ……そうだな」

 マスクスのSランク冒険者の多くが敵わなかった相手だ。
 自分も敵うわけがない、とゼノは思う。

「腕を試させてもらう。このクロノスアクスの切れ味は最高だぜ!」

 アーシャは手にした巨大斧を構えて、それをゼノに突きつける。

 が。

 ゼノは、すぐに両手を挙げて降参のポーズを取った。

「いや、勝負は受けないよ。俺は、女の子とは戦えないから」
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