迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
53 / 90
3章

第15話

しおりを挟む
「ありがとう、アーシャ。その気持ち、素直に嬉しいよ」

 モニカに好意を伝えられた時も似たような感情を抱いたが、昔を知っている分、アーシャの告白はゼノの心を大きく揺り動かした。

「ルイス……! アタシはっ……!!」

 居ても立ってもいられないといった様子で、アーシャが一歩ずつ近付いて来る。
 
 彼女の想いに応えるの簡単だ。
 これまでの時間を埋めるように、アーシャをギュッときつく抱きしめればいい。

 が。
 
「……でも、ごめん。その気持ちには応えられない」

「えっ……?」

 ゼノには、どうしてもそうすることができなかった。
 
 なぜなら……。
 彼女が、自分ではない何者かの姿を追っていると、はっきり分かったからだ。

 アーシャが今見ているのは、過去の自分だということに、ゼノは気付いたのである。

 だから。
 ゼノは、はっきりとこう口にする。

 それは、過去の自分との完全な決別を意味していた。

「アーシャ。俺は、もうルイスじゃないんだ。今の俺は…………ゼノなんだよ」

「!!」

「それと、俺には好きな人がいる。その人のためなら、命を賭けたいと思える相手だ。だから、申し訳ないけど……アーシャの気持ちには応えられない。本当にごめん」

 有無を言わさぬその物言いに、ショックを与えてしまったかもしれない、とゼノは思う。

(……けど、今ここで俺が懺悔の思いに駆られて、アーシャの気持ちに応えるのは嘘になる。それだけは絶対にやってはいけないから)

 ゼノの気持ちは、揺り動かせないほど強固なものであった。





 その言葉を受けて、アーシャは顔を俯かせて黙り込んでしまう。

「……」

 そのまま崩れ落ちてしまのではないかと、ゼノが不安になるほどだった。
 ――しかし。

「……ん、くくっ……」 

 次の刹那。
 アーシャは、なぜか笑みを浮かべる。

 やがて、それは大きな笑い声へと変わっていった。

「あ~っははははっ♪」

「ア……アーシャ?」

「やっぱな!! 分かってたぜ~!」

「分かってた……?」

「その、命を賭けたいと思える相手つーのは……魔女のお師匠様のことなんだろ?」

「……ああ」

「昨日の夜、その話を聞いた時から、勝ち目はねぇーなって分かってたんだ。アタシにはムリだって……。最初から知ってたんだぜっ?」

「……」

 アーシャが強がってそう言っているのが分かったからだろうか。
 ゼノは、何も言葉を返すことができなかった。

「はぁ~、でもすっきりしたぜ。アタシのわがままな話に付き合ってくれて感謝だ、ルイス! いや……違うか。ありがとな、ゼノ!」

 アーシャは、屈託のない笑みを浮かべて、今度こそはっきりと〝ゼノ〟と口にする。

 自分の中で一つ大きな区切りをつけることができた。
 彼女の笑顔には、そんな爽やかさが含まれていた。

 今日一日、複雑な表情を浮かべていた彼女の顔は、ようやく晴れやかなものへと変わったのだった。



「……けど、まだ諦めたわけじゃねーんだぜ?」

 アーシャはそう口にしながら、地面に突き刺さった大斧を手に取る。
 そして、それをゼノに向けて構えながら、こう宣言した。

「アタシも、迷宮の魔女を救う手助けをするぜ! んで、その魔女を無事に助けた暁には、ゼノに改めて決めてほしいんだ。アタシとお師匠様、どっちを選ぶかってな!」

「え……ちょっと待ってくれ……。それって、つまり……」

「ゼノ、正式にパーティー組もうぜ! 8年前の約束だ。それで……これまでのことは、全部チャラだ!」

「……アーシャ……」

「いいよな?」

 差し出してくる彼女の手を、ゼノはしっかりと握り締める。

「ありがとう……。これからもよろしく頼むよ」

「おう、任せておけって! アタッカーとして【天空の魔導団クランセレスティアル】の戦力になってやる。んで、その間に……アタシの魅力をたっぷり気付かせてやるぜ! いつかぜってー振り向かせてやるからなっ? 覚悟しておけ、ゼノ!」

「うん。楽しみにしてるよ」

 アーシャと固く握手をかわしながら、一時だけ8年前のあの日に戻れた、とゼノは感じる。

 その先の景色には、消えかけていた2人の夢の続きが描かれていた。



 ◆



「アーシャさん!?」

 アーシャと一緒に宿舎の庭へ足を踏み入れると、驚きの声を上げたモニカがゼノのもとへ近付いて来る。

「これ、どーいうことなんですか、ゼノ様っ!?」

「ああ、実は……」

「また世話になるぜ、モニカ!」

「ふぇぇっ!? またって……」

「あ、ちなみにもう1人で起きられるから安心していーぜ? さすがに好きな相手の前じゃ、醜態は晒せねーからな」
 
「はいぃ~っ!? ちょっとゼノ様っ! 一体何があったんです!?」

「いろいろあってさ。また、アーシャとパーティーを組むことになったんだ」

「でええぇっ!?」

「? てっきり喜ぶものと思ってたんだけど。パーティーの戦力だったから別れは寂しいって……そう言ってなかったっけ?」

「おっ、マジかよ! 素直なところあるじゃねーか、モニカっ! ぎゅーってしてやるぜ~!」

「ちょ……く、苦しいですぅ……!」

 小ぶりの胸を押し付けながら、嬉しそうにアーシャがモニカに抱きつく。
 それを剥がしながら、モニカは息を整えた。

「……はぁっ……たしかに、そう言いましたけど……。でも、まさか一緒に戻って来るとは思ってませんでしたよぉ~!」

「そうなのか?」

 どうやらモニカにはモニカで、複雑な心境があるようだ。
 頬をぷくっと膨らませて、ゼノを指さす。 
 
「ていうか、なんで今度はゼノ様と腕組んでるんですかー!! お2人とも急に仲良くなりすぎじゃないですかぁ!?」

「だって、アタシとゼノはすっかり仲良しだからだ♪」

 そう言いながら、アーシャはさらにべったりとゼノにくっ付く。

「ちょっとぉぉっ!? 近い近い、近いですぅーーー!!」

「いや……。俺も、さっきからこんな感じで困ってるんだが……」

「んだよ、べつにいーだろぉ? モニカだって、こうやってよくゼノにくっ付いてるじゃねーか。アタシも、やってみたかったんだよなぁ~♪」

「それは、わたしの特権なんですっ!」

「いーじゃんか。減るわけじゃねぇーんだぜ? ほれ、うりぃうりぃ~♪」

「お、おい……。アーシャ、そろそろ離れてくれ……」

「ゼノも嬉しいよなぁ? アタシとこうやってイチャイチャできて」

「うわぁ、最悪ですぅ……。想像してた結末と全然違うんですけどーーっ!!」

 その時。
 モニカの悲鳴(?)が、オレンジ色に染まる木々の中に木霊した。

「というより、ワイアットさんは許可してくれたんですか!?」

「べつに、あとで報告すればへーきだぜ? あいつは、アタシの100%味方だからな。父様と母様にも、適当に言い訳してくれるだろうし」

「そ、そんなので……いいんですかぁ……? 仮にもゴンザーガ家のご令嬢ですよね、アーシャさん!?」

「んだよ。モニカは、アタシとまたパーティー組むのが嫌なのか? 寂しいって言ってくれてたんだろ?」

「べ、べつに……わたしは寂しくなんかありませんっ! その前に、さっきの言葉聞き逃してませんよ!? 何なんですかっ!? 好きな相手の前って!」

「今それをつっこむのかよ」

「好きな相手って……まさかゼノ様のことじゃないですよね!?」

「この状況で現実が見えてねーのか、アホピンクは」

「どーなんですかっ!」

「もちろん、アタシはゼノが好きだぜ! もう自分の気持ちは偽れねぇ。ちなみに、モニカと一緒でアタシも告白済みだ」

「は……はああぁぁっ!? こ、こ、こ……告白しちゃったんですかぁ!?」

「ま、秒で振られたけどな」

 いたずらっぽい笑みを浮かべて、アーシャがゼノを一瞥する。
 告白された2人と一緒にこれからパーティーを組むという事実に、ゼノは少しだけ気まずい思いとなった。

「はぁ~なんだぁ……よかったですぅ……。振られたんですね。これで、最悪の事態は回避できました……」

「けどよ、相手はけっこう手ごわいぜ? ゼノのお師匠様に対する想いは本物だ。モニカも覚悟しておけよ?」

「そんなのは知ってますぅ! というか、わたしの気がかりは、ライバルが1人増えたことですよ、もう! アーシャさんもゼノ様のこと好きだったなんて……全然気付きませんでしたよぉ……」

「んひひ♪ モテる男を取り合うのはなんか楽しいぜ!」

「わたしは楽しくなんかありませんっ~~! これじゃ、ワンチャン狙うのも大変じゃないですかーーっ!!」

 あれこれとはしゃぐ女子2人に、ゼノは完全に置いてけぼりだ。

(ひとまず、恋愛沙汰は置いておくとして……)

 彼女たちの姿を傍から見ながら、ゼノはふと思う。
 これで、ようやくパーティーらしくなってきた、と。

(あとは……筆頭冒険者に選ばれるだけだ)

 いよいよ間近に迫った目標を前に、ゼノは決意を新たにするのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...