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6章
第6話
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「……さて、話の続きだ。先程話した通り、そなたには王領の未開拓の領地を与えたいと思っておる。また、そなたには、ウガン・ハワードに代わって、伯爵の爵位を授けよう。勅許状もすぐに発行させるぞ? そなたさえ良ければ、ハワード領をウィンザー領として改め、そこの領主となってもらっても構わん」
「ウィンザー領ですよぉ! やりましたね、ゼノ様っ♪」
「すげぇ……。いきなり伯爵かよっ……!」
「お兄ちゃんが、領主さまになっちゃった……?」
と、3人はそれぞれ喜びや驚きの反応を示す。
だが、当の本人は、それを聞いても、これまで通り表情を変えなかった。
そして。
ゼノは、この場にいる全員が、予想外の言葉を口にする。
「陛下。お気持ちは大変嬉しいのですが……俺は、褒美はいりません」
「……なに?」
まさか、断られるとは思っていなかったのだろう。
ギュスターヴは一度眉をひそめる。
「ちょ、ちょっと……ゼノ様っ!? 本当に言ってるんですかぁ!?」
「そうだぜっ! んなチャンス、二度とねーかもしれねーんだぜ……!?」
「お兄ちゃん、よく考えた方が……」
そんな風に彼女たちに止められるも、ゼノの意志は固かった。
「いや、いいんだ」
そう一言告げると、ギュスターヴを見上げる。
「俺は、これまで領地や爵位を授かるために、冒険者を続けてきたわけじゃありません。ルーファウスを捕まえたことも、バハムートと戦ったことも……ただ、純粋に放っておけなかったからなんです。誰かがやらなくちゃいけないって、そう思って。これまでもずっと、そういった思いで、他のクエストも受けてきました」
ギュスターヴ相手に、もう嘘は通用しない。
それが分かったからこそ、ゼノはこうして本音をぶつけていた。
「純粋に放っておけなかった……か。なるほど。たしかにそれが、そなたを突き動かしていた一番の原動力だったのだろう。しかし……分からぬな。その思いだけで、果たして命を懸けられるのだろうか? 余には難しいと思えるが」
「……」
その鋭い指摘に、ゼノは一瞬押し黙る。
やがて。
ギュスターヴの目をまっすぐに見つめると、ゼノは短くこう口にした。
「……俺は、王国の筆頭冒険者になりたいんです。冒険者を続けているのはそのためなんです」
「筆頭冒険者……? 本当にそれだけなのか? 富が欲しかったのではないのか?」
「いえ、富も領地も爵位も欲しくはありません。俺はただ、魔大陸へ渡りたいんです。それで……」
そこでゼノは言葉を区切ると、はっきりと宣言した。
「必要ならば、魔王も倒します」
「……っ、なに? 魔王……だと?」
その言葉を耳にして、ギュスターヴは一瞬戸惑いの表情を覗かせた。
それも当然だ。
突然、話の流れとは無関係な、突拍子もない言葉を耳にしたわけだから。
「……待て……。そなたは、一体何の話をしておる……? 今、魔王を倒すと……そう申したのか?」
「はい」
「ゼノよ、何を言っておるのだ? 魔王は現代には存在しないのだぞ」
「たしかに……そうですね」
そこでゼノは、あることに気が付く。
(そうだ……。現状だと、バハムートが魔王エレシュキガルに操られていたって、証言することができないんだ)
今、この場にバハムートを呼び出して、説明をお願いするわけにもいかない、とゼノは思う。
だが、このまま魔王が現れた件を女王に話さなければ、いずれ襲撃を受けた時に、対策が遅れるのは明白であった。
次は、多くの人に被害が及ぶことだってあり得るのだ。
(どうする……? どうやって、この話を信じてもらうんだ……?)
唇を噛み締め、ゼノはそこで言い淀んでしまう。
「……フッ。だが、そなたの気持ちも分かるぞ。奇しくもそなたの名は、ゼノ。かの大賢者と同じ名ゆえに、魔王を倒したいという憧れもあるのだろう。バハムートを倒すくらいの力を持っておるのだ。それは可能かもしれぬ」
そこまで口にすると、ギュスターヴは笑みを消して真剣な表情となる。
「しかしな、ゼノよ。たとえ、魔大陸へ足を踏み入れたとしても、そこで魔王を見つけることはできぬぞ? もし、本当に魔王がこの世界に再び現れたのだとすれば、なぜメルカディアンの国々に襲いかかって来ぬのか? 他国からそのような報告があったとは、余は聞いておらぬ」
ギュスターヴは、そこまで早口で捲し立てる。
そこには、何かに急き立てられているような雰囲気があった。
また、そのことに気付いたのは、ゼノだけではなかった。
「ゼノ様……」と、モニカが小声で話しかけてくる。
「ここはわたしにお任せください」
「え?」
モニカはぐいっと一歩前へ出ると、ギュスターヴに向けてこう訊ねた。
「では、女王様。なぜバハムートは、アスター王国に現れたのでしょうか?」
「……どういう意味だ?」
「魔大陸には、大賢者様が張り巡らせた結界があって、獄獣といえども出ることは、叶わなかったはずです。これまで400年以上、そうやってメルカディアン大陸は、魔獣による侵攻から守られてきました。ですが今回、バハムートは結界を破って、アスター王国まで侵攻して来たのです。これは何か、超常的な力が働いたと考えるべきではないでしょうか?」
モニカは一度、ギュスターヴを見上げる。
女王の顔には、考えていたことを指摘されたというような、バツの悪さが含まれていた。
それを目にして、モニカは確信したようだ。
「陛下。誠に僭越ながら、お訊ねさせていただきます。サーガには、南方教会の総本山がございますよね? 陛下はこれまでに、教皇様からマリア様の予言をお聞きになられたことがあったのではないでしょうか? 400年後の世界に、魔王エレシュキガルが再び降臨する、と」
「……」
「バハムートが魔大陸の結界を破ってアスター王国に現れたことや、マリア様の予言から複合的に考えれば、〝魔王は現代には存在しない〟と、断言することはできないのではないでしょうか?」
「すげぇ……。普段のアホピンクじゃないみたいだぜ!」
「モニカ姉、すごい堂々としてる……」
アーシャもベルも、ギュスターヴにもの申すモニカの姿に驚きの表情を浮かべる。
もちろん、ゼノもモニカの言葉に感動を覚えていた。
(さすがだ)
というのも、ギュスターヴは彼女の言葉を受けて、暫しの間黙り込んでしまっていたからだ。
君主の揚げ足を取るような発言は、本来ならば絶対的にタブー。
王国裁判にかけられて、断罪されてもおかしくないような状況なのである。
けれど、ゼノには確信があった。
ギュスターヴならば、モニカの言葉を真摯に受け止めてくれる、と。
そして。
その予感は、的中することとなる。
「……フフッ。ゼノ、やはりそなたは素晴らしい仲間を持ったようだな。リーダーのフォローがここまで完璧な冒険者パーティーを余はこれまでに見たことがない。実に恐れ入ったぞ」
「はい。俺も毎回助けられています」
「えっ……ゼノ様っ……!?」
「だって、本当のことだから。いつもありがとう、モニカ」
「い、いえ……」
モニカは、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。
そんな2人の姿を見下ろしながら、ギュスターヴは小さく頷いた。
「400年後の世界に、魔王エレシュキガルが再び降臨する……。たしかに、余は教皇からその話を聞かされておった。それに、バハムートが魔大陸の結界を破り、サザンギル大湿原に現れた件についても、疑問に思っておったところだ。モニカ・トレイアよ」
「は、はいっ?」
「そなたの言う通りだ。余が間違っていたな。〝魔王は現代には存在しない〟とは言い切れぬ。それは、つまり……」
そこでギュスターヴはゼノの方を見る。
「魔大陸に魔王がいないとは断言できぬ、ということだ。そうだな、ゼノ?」
女王の言葉にゼノは頷いた。
「これまで数年おきに、ランタナ大公国とルドベキア王国と協力して、魔大陸の調査を続けてきたわけだが、まだ大陸の大部分は謎に包まれたままだ。ゼノ、そなたが我が王国の筆頭冒険者となってくれたら、必ずその謎も解き明かしてくれるに違いない」
そこでギュスターヴは妖美な笑みを浮かべると、ゼノにこう宣言した。
「決めたぞ。本日付けで、そなたを我が王国の筆頭冒険者に任命する」
「えっ……」
あまりに突然の宣告に、ゼノは思わず言葉を詰まらせてしまう。
「あの……本当によろしいんですか……?」
「もちろんだ。そなたは、レヴェナント旅団の最強鬼士を捕らえ、バハムートも倒したのだ。我が王国の冒険者ギルドを探しても、そなた以上の適任者はおらぬであろう」
「……っ、ありがとうございますっ!」
ゼノはギュスターヴの前で跪き、感謝の思いを込めながら敬礼した。
「ゼノ様、やりましたね♪」
「さすがアタシの惚れた男だぜっ!」
「……お兄ちゃん、かっこいい……」
モニカもアーシャもベルも、思い思いに喜びを分かち合うのだった。
「ウィンザー領ですよぉ! やりましたね、ゼノ様っ♪」
「すげぇ……。いきなり伯爵かよっ……!」
「お兄ちゃんが、領主さまになっちゃった……?」
と、3人はそれぞれ喜びや驚きの反応を示す。
だが、当の本人は、それを聞いても、これまで通り表情を変えなかった。
そして。
ゼノは、この場にいる全員が、予想外の言葉を口にする。
「陛下。お気持ちは大変嬉しいのですが……俺は、褒美はいりません」
「……なに?」
まさか、断られるとは思っていなかったのだろう。
ギュスターヴは一度眉をひそめる。
「ちょ、ちょっと……ゼノ様っ!? 本当に言ってるんですかぁ!?」
「そうだぜっ! んなチャンス、二度とねーかもしれねーんだぜ……!?」
「お兄ちゃん、よく考えた方が……」
そんな風に彼女たちに止められるも、ゼノの意志は固かった。
「いや、いいんだ」
そう一言告げると、ギュスターヴを見上げる。
「俺は、これまで領地や爵位を授かるために、冒険者を続けてきたわけじゃありません。ルーファウスを捕まえたことも、バハムートと戦ったことも……ただ、純粋に放っておけなかったからなんです。誰かがやらなくちゃいけないって、そう思って。これまでもずっと、そういった思いで、他のクエストも受けてきました」
ギュスターヴ相手に、もう嘘は通用しない。
それが分かったからこそ、ゼノはこうして本音をぶつけていた。
「純粋に放っておけなかった……か。なるほど。たしかにそれが、そなたを突き動かしていた一番の原動力だったのだろう。しかし……分からぬな。その思いだけで、果たして命を懸けられるのだろうか? 余には難しいと思えるが」
「……」
その鋭い指摘に、ゼノは一瞬押し黙る。
やがて。
ギュスターヴの目をまっすぐに見つめると、ゼノは短くこう口にした。
「……俺は、王国の筆頭冒険者になりたいんです。冒険者を続けているのはそのためなんです」
「筆頭冒険者……? 本当にそれだけなのか? 富が欲しかったのではないのか?」
「いえ、富も領地も爵位も欲しくはありません。俺はただ、魔大陸へ渡りたいんです。それで……」
そこでゼノは言葉を区切ると、はっきりと宣言した。
「必要ならば、魔王も倒します」
「……っ、なに? 魔王……だと?」
その言葉を耳にして、ギュスターヴは一瞬戸惑いの表情を覗かせた。
それも当然だ。
突然、話の流れとは無関係な、突拍子もない言葉を耳にしたわけだから。
「……待て……。そなたは、一体何の話をしておる……? 今、魔王を倒すと……そう申したのか?」
「はい」
「ゼノよ、何を言っておるのだ? 魔王は現代には存在しないのだぞ」
「たしかに……そうですね」
そこでゼノは、あることに気が付く。
(そうだ……。現状だと、バハムートが魔王エレシュキガルに操られていたって、証言することができないんだ)
今、この場にバハムートを呼び出して、説明をお願いするわけにもいかない、とゼノは思う。
だが、このまま魔王が現れた件を女王に話さなければ、いずれ襲撃を受けた時に、対策が遅れるのは明白であった。
次は、多くの人に被害が及ぶことだってあり得るのだ。
(どうする……? どうやって、この話を信じてもらうんだ……?)
唇を噛み締め、ゼノはそこで言い淀んでしまう。
「……フッ。だが、そなたの気持ちも分かるぞ。奇しくもそなたの名は、ゼノ。かの大賢者と同じ名ゆえに、魔王を倒したいという憧れもあるのだろう。バハムートを倒すくらいの力を持っておるのだ。それは可能かもしれぬ」
そこまで口にすると、ギュスターヴは笑みを消して真剣な表情となる。
「しかしな、ゼノよ。たとえ、魔大陸へ足を踏み入れたとしても、そこで魔王を見つけることはできぬぞ? もし、本当に魔王がこの世界に再び現れたのだとすれば、なぜメルカディアンの国々に襲いかかって来ぬのか? 他国からそのような報告があったとは、余は聞いておらぬ」
ギュスターヴは、そこまで早口で捲し立てる。
そこには、何かに急き立てられているような雰囲気があった。
また、そのことに気付いたのは、ゼノだけではなかった。
「ゼノ様……」と、モニカが小声で話しかけてくる。
「ここはわたしにお任せください」
「え?」
モニカはぐいっと一歩前へ出ると、ギュスターヴに向けてこう訊ねた。
「では、女王様。なぜバハムートは、アスター王国に現れたのでしょうか?」
「……どういう意味だ?」
「魔大陸には、大賢者様が張り巡らせた結界があって、獄獣といえども出ることは、叶わなかったはずです。これまで400年以上、そうやってメルカディアン大陸は、魔獣による侵攻から守られてきました。ですが今回、バハムートは結界を破って、アスター王国まで侵攻して来たのです。これは何か、超常的な力が働いたと考えるべきではないでしょうか?」
モニカは一度、ギュスターヴを見上げる。
女王の顔には、考えていたことを指摘されたというような、バツの悪さが含まれていた。
それを目にして、モニカは確信したようだ。
「陛下。誠に僭越ながら、お訊ねさせていただきます。サーガには、南方教会の総本山がございますよね? 陛下はこれまでに、教皇様からマリア様の予言をお聞きになられたことがあったのではないでしょうか? 400年後の世界に、魔王エレシュキガルが再び降臨する、と」
「……」
「バハムートが魔大陸の結界を破ってアスター王国に現れたことや、マリア様の予言から複合的に考えれば、〝魔王は現代には存在しない〟と、断言することはできないのではないでしょうか?」
「すげぇ……。普段のアホピンクじゃないみたいだぜ!」
「モニカ姉、すごい堂々としてる……」
アーシャもベルも、ギュスターヴにもの申すモニカの姿に驚きの表情を浮かべる。
もちろん、ゼノもモニカの言葉に感動を覚えていた。
(さすがだ)
というのも、ギュスターヴは彼女の言葉を受けて、暫しの間黙り込んでしまっていたからだ。
君主の揚げ足を取るような発言は、本来ならば絶対的にタブー。
王国裁判にかけられて、断罪されてもおかしくないような状況なのである。
けれど、ゼノには確信があった。
ギュスターヴならば、モニカの言葉を真摯に受け止めてくれる、と。
そして。
その予感は、的中することとなる。
「……フフッ。ゼノ、やはりそなたは素晴らしい仲間を持ったようだな。リーダーのフォローがここまで完璧な冒険者パーティーを余はこれまでに見たことがない。実に恐れ入ったぞ」
「はい。俺も毎回助けられています」
「えっ……ゼノ様っ……!?」
「だって、本当のことだから。いつもありがとう、モニカ」
「い、いえ……」
モニカは、恥ずかしそうに顔を赤くさせる。
そんな2人の姿を見下ろしながら、ギュスターヴは小さく頷いた。
「400年後の世界に、魔王エレシュキガルが再び降臨する……。たしかに、余は教皇からその話を聞かされておった。それに、バハムートが魔大陸の結界を破り、サザンギル大湿原に現れた件についても、疑問に思っておったところだ。モニカ・トレイアよ」
「は、はいっ?」
「そなたの言う通りだ。余が間違っていたな。〝魔王は現代には存在しない〟とは言い切れぬ。それは、つまり……」
そこでギュスターヴはゼノの方を見る。
「魔大陸に魔王がいないとは断言できぬ、ということだ。そうだな、ゼノ?」
女王の言葉にゼノは頷いた。
「これまで数年おきに、ランタナ大公国とルドベキア王国と協力して、魔大陸の調査を続けてきたわけだが、まだ大陸の大部分は謎に包まれたままだ。ゼノ、そなたが我が王国の筆頭冒険者となってくれたら、必ずその謎も解き明かしてくれるに違いない」
そこでギュスターヴは妖美な笑みを浮かべると、ゼノにこう宣言した。
「決めたぞ。本日付けで、そなたを我が王国の筆頭冒険者に任命する」
「えっ……」
あまりに突然の宣告に、ゼノは思わず言葉を詰まらせてしまう。
「あの……本当によろしいんですか……?」
「もちろんだ。そなたは、レヴェナント旅団の最強鬼士を捕らえ、バハムートも倒したのだ。我が王国の冒険者ギルドを探しても、そなた以上の適任者はおらぬであろう」
「……っ、ありがとうございますっ!」
ゼノはギュスターヴの前で跪き、感謝の思いを込めながら敬礼した。
「ゼノ様、やりましたね♪」
「さすがアタシの惚れた男だぜっ!」
「……お兄ちゃん、かっこいい……」
モニカもアーシャもベルも、思い思いに喜びを分かち合うのだった。
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