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6章
第9話
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「なるほどね。Sランク冒険者になって、大陸全域で悪事を働く旅団を確保し、獄獣とは従属契約を果たした。女王からは、王国の筆頭冒険者に任命されて……って。たった2ヶ月ですごい功績じゃないか」
「全部、聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕のおかげですよ」
「たしかに、それはあいつが残していった最高の賢具ではあるんだけど。でも、これだけの偉業をこの短期間で成し遂げたのか……。ゼノくん、ちょっとステータスを見せてくれないか?」
「えっ? あ……いや。俺のステータスなんか見ても楽しくなんてないですよ!?」
「いいから。私に見せてみろ」
「……うっ。分かりました……」
ゼノは光のディスプレイを立ち上げると、それをエメラルドに見せることに。
----------
【ゼノ・ウィンザー】
[Lv]71
[魔力値]0 [術値]0
[力]30 [守]18
[魔攻]500 [速]25
[スキル]〔魔導ガチャ〕
[魔石コンプ率]254/666
[所持魔石]
☆1《洗顔》 ☆1《製紙》
☆1《トリック》 ☆1《刺繍》
☆1《収穫》 ☆1《魚類学》
☆1《施錠》 ☆1《リペア》
☆3《昼夜逆転》 ☆3《深淵の捕食》
[所持クリスタル]青クリスタル×19
[Ωカウンター]033.32%
----------
「そうか。現状、254種類の魔石を手に入れたんだ」
「あ、はい」
「それで、Ωカウンターは033.32%まで上昇、と。ちょうど3分の1だね」
「……」
ぐっと拳に力を入れる。
これは、ゼノが密かに目を背けてきた事実であった。
まだ、魔石は254種類しか集められていないのだ。
これまで2ヶ月間、毎日欠かさずに〔魔導ガチャ〕で魔石を召喚してきたゼノであったが、予想外にダブることが多く、思うように集められずにいた。
このままのペースで魔石を召喚していれば、コンプリートよりも先にΩカウンターが100%に到達してしまうのは確実だ。
自然と身振りが大きくなってしまう。
「だ……大丈夫ですよっ! 安心してください! 俺は必ず、お師匠様をこの迷宮から出して差し上げますから!」
「でも、このままだと、すべて列挙する前には、カウンターは100%になっちゃうんじゃないかな?」
「そんなことないです……! 俺ってば、めちゃくちゃ運が良いですし!? 魔大陸へ渡ったら、赤色以上のクリスタルが手に入るんですよね? そしたら、コンプだってすぐですよっ!」
「だけど、現時点では、そこまで運が良いってわけじゃないみたいだけどね」
「うっ……。それは、そうなんですけど……」
エメラルドをがっかりさせたくない一心で、思わず思ってもいないことを口にしてしまう。
ゼノも薄々気付いていた。
このままだと、間違いなく目的は達成できない、と。
(……いや、自分を信じるんだ。お師匠様をここから出すって決めたんなら、絶対にそれを成し遂げなくちゃ……)
そんな風に、悲壮感に満ちた決意をするゼノとは対照的に、エメラルドはこの事実を受けても、動揺した表情を覗かせることは一切なかった。
それどころか、笑顔さえ見せて、ゼノの手を握ってくる。
「ごめん。べつに責めるつもりはないんだよ。むしろ、ゼノくんがここまでがんばってくれて、私は本当に感謝しているんだ」
「感謝なんて……。俺は、まだ全然……」
「そうだな。そろそろ、本当のことを話してもいい頃かな」
「え?」
すると。
エメラルドは突然姿勢を正して、とんがり帽子のつばに触れると、ゼノの目をまっすぐに見つめる。
そして、さらりととんでもないことを口にした。
「実はね。私がこの迷宮から出るのに、すべての魔石をコンプリートする必要はないんだよ」
「…………ハ?」
「本当は、☆4の《解放》っていう魔石が手に入れば、それで出られるんだ」
「……な、な、な……っ、なんですってぇぇぇええっ!!?」
思わずゼノは大声を上げてしまう。
「ちょっと待ってください!! ☆4って言ったら……運が良ければ、緑クリスタルでも召喚可能な魔石じゃないですかっ!?」
「まぁ、そうだね」
「その辺りのダンジョンのボス魔獣を倒せば、緑クリスタルなんて、簡単に手に入りますけどぉぉぉーー!?」
「うん。それも知ってたよ」
「いやいやいやっ……!」
冷静に受け答えをするエメラルドを見て、ゼノは頭を抱えた。
(最初からおかしいと思ったんだ! すべての魔法を列挙する必要があるなんて……!)
そこでゼノは、膝から大きく崩れ落ちる。
「……お師匠様ぁ、ひどいですよ……! 俺は本気で……」
「だから、本当に申し訳ないって思っているんだ。でも、こんな風に嘘をついたのは、もちろん理由があったからで」
「……っ、理由……?」
「君の話を聞く限りだと、バハムートに正気を取り戻させたのは、エルフの少女から貰った赤クリスタルで出した☆5の《彗星の終止符》っていう魔石を使ったからなんだよね?」
「それが、なんですかぁ……」
「☆5以上の魔法はね。あいつ以外にこれまで扱えた者は誰もいないんだ。当然、私もその域には達していないよ。ゼノくん。君だから、その魔法を扱うことができたんだよ」
「俺だから……?」
たしかに。
あの魔法を放った時の感触は、今もゼノの中で大きな手応えとして残っていた。
「もし、2ヶ月前のあの日。私が☆4の《解放》の魔石を手に入れるだけで、この迷宮から出られるって言ったら、多分、ゼノくんはここまで強くなっていなかったよね? もちろん、☆5の魔法を扱う機会もなかったはずだ」
「……それは、そうかもしれませんけど。でも、それにしたって……」
そこでエメラルドはスッと笑顔を消すと、真剣な表情でこう切り返す。
「地上では、魔王エレシュキガルが再び現れたんじゃないのかい?」
「っ……! なんで、それを……」
「やっぱりね……。ずっと迷宮にこもっていても、私くらいの魔女になれば、地上の空気が一変したことくらい分かるのさ」
そこでエメラルドは薄く唇を噛むと、決心したようにこう口にする。
「君には、まだ伝えていないことがあってね。実は、ゼノくんが一度ここへ戻って来た時に、このことを話そうと思っていたんだ」
「っ?」
それは、ゼノが初めて耳にする話であった。
「――5年前。君をこの迷宮で拾った時、私は直感したんだ。この子は、あいつの生まれ変わりなんだって」
「生まれ変わり……? 俺が……大賢者様の、ですか?」
「うん。成長していく君の姿を見ていると、それは間違いじゃなかったって思えたよ。今のゼノくんは、あいつにそっくりなんだ」
「そっくり……」
「前にも話したね。私たちは、ルドベキア王国の小さな村の出身だったって。その時、あいつが言ったんだ。〝俺はお前を守りたいから、魔王エレシュキガルを絶対に倒す〟って。まだ、【魔力固定の儀】も受けていない頃の話だよ」
それを聞いてゼノは思った。
もし、同じような状況に置かれていたら、たしかに自分も同じようなことを言っていたに違いない、と。
それからエメラルドと別れた彼は、大陸に名を轟かせるほどの大賢者となった。
やがて、彼は魔王エレシュキガルとの最終決戦を前に、エメラルドをこの迷宮に閉じ込めることを決意する。
「その時、あいつはこんな言葉を残したんだ。〝もし、俺が迎えに行けなかったら、生まれ変わってでもお前を迎えに行く〟って」
「つまり……。それが……俺なんですか?」
「私はそう信じている」
「……」
ゼノには、正直分からなかった。
エメラルドが口にする〝大賢者ゼノの生まれ変わり〟という実感はまるでない。
けれど、それでも……。
彼女にそんな風に思われていたという事実は、とても嬉しかった。
それだけ、最初から信頼してくれていたということだからだ。
エメラルドは、輝く緑色の長い髪を後ろに払うと、一度眉をひそめる。
「……でも、同時に不吉なことも予言していたんだ」
「不吉なこと?」
「もし、自分がそのようにして迎えに来たのなら、それは世界に何か良くないことが再び起こっている証かもしれないって」
「それで、魔王エレシュキガルが再び現れたって……そう思ったんですね」
「うーん、どうだろう。私にも分からないんだ。けど、何か良くないことが起こるっていう、あいつの言葉は信じてたよ。5年前、君が私の目の前に現れた時に思ったんだ。これは、その前触れなのかもしれないって……。だから、私は君を育てることにした。私の持っている魔法の知恵や理論のすべてを教えたよ。魔力値9999を持って生まれた君なら、いずれ、あいつのようになってくれるんじゃないかって、強い確信があったからね」
初めて聞くエメラルドの話に、ゼノは暫しの間、言葉を挟むことができなかった。
それから自身の中で結論を出すと、ゆっくりとそれを言葉にする。
「……ということは、つまりこういうことでしょうか? この先の未来、世界に再び何か良くないことが起こる可能性があるから、その保険として大賢者様は、聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕が入ったスキルポッドをお師匠様に託した、と……」
「うん。おそらく、そうだろうね」
「それで、お師匠様は、俺を大賢者様の生まれ変わりだと思って、その2つの力を俺に授けたって……そういうことですか?」
「その通りだよ。そして……。私のその考えは、どうやら間違っていなかったようだ」
「?」
「ゼノくん。今の君なら、魔王エレシュキガルに対抗することがきっとできるはず」
「……俺にそんな力……。本当にあるんでしょうか?」
「間違いないよ。こんな最速で魔大陸へ行けるくらいまで強くなれたんだ」
「正直、まだ自分の力がよく分かりません。俺はただ、大賢者様が残してくれたものを使っているだけに過ぎないですから」
が。
そこで言葉を一度区切ると、改めてこう続ける。
「……けど……。誰かが魔王を倒さなくちゃならないのなら、俺はやっぱり放っておけないです。だから、自分にできることを精一杯やりたいと思ってます」
「大丈夫、君なら絶対に魔王を倒せる。☆5の魔石を扱えるまでに成長したんだ。ゆくゆくは、もっと強力な魔法も扱えるはずだ」
「はい」
結局、すべてはエメラルドの手のうちにあったというわけだ。
魔大陸へ渡れば、《解放》の魔石を入手する日もそう遠くないに違いない、とゼノは思う。
エメラルドを助け出すことができる日が現実味を帯びてくると、一気に緊張がほぐれてしまう。
「……というわけで。今日は、ゼノくんが筆頭冒険者に任命されたことを祝わなくちゃだね! よし、朝まで一緒に飲むぞぉ~~っ!」
「さっきまでずっと飲んだくれてたじゃないですか!?」
「いーのいーの! お酒は理由をつけて飲むものだからさ♪」
「ええー……」
その後、エメラルドに強引に誘われる形で、ゼノはそのまま朝まで飲みに付き合うことになった。
◆
翌朝。
エメラルドに《脱出》の魔法を使ってもらい、迷宮の外へと出る。
すると、森の中に差し込む眩しい朝陽がゼノを迎え入れた。
「……っ、うえぇぇ……。気持ちわるぃぃ……」
体はくたくたのヘロヘロ。
しかし、気分はなぜか清々しかった。
荷が一つ降りたようにゼノは感じる。
「何も言わないで外泊しちゃったからなぁ……。みんな、きっと心配してるだろうな」
そんなことを思いながら、体をストレッチしていると、ゼノはポケットに何か入っていることに気付く。
外に出してみると、それはハワード家の紋章が刻まれたメダルであった。
「……」
ゼノは、それを一度ギュッと握り締めると、過去の自分と完全に決別するように小さく頷く。
「これは、もう俺には必要のない物だな」
そう呟くと、ゼノはメダルを森の中へと投げ捨てた。
「……っと、待てよ? バハムートがいないからマスクスへ帰れないじゃん!?」
歩いて向かうしかないのかぁ、と若干テンションが落ちるゼノだったが。
「いや、そうだ。俺にはこれがあるじゃんか!」
毎日これまで欠かさずに続けてきたもの――〔魔導ガチャ〕。
これが、ゼノを今の場所まで連れて来たのだ。
そして。
それはこの先も変わらない。
エメラルドを迷宮から救い出し、魔王エレシュキガルを倒すその日まで。
「よし、今日もやろう」
ゼノは、足元に魔法陣を発生させる。
青クリスタルを握り締めると、魔法陣の中にそれを投げ入れた。
「〔魔導ガチャ〕――発動!」
そんなゼノの元気な声が早朝の青空に高く響き渡るのであった。
「全部、聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕のおかげですよ」
「たしかに、それはあいつが残していった最高の賢具ではあるんだけど。でも、これだけの偉業をこの短期間で成し遂げたのか……。ゼノくん、ちょっとステータスを見せてくれないか?」
「えっ? あ……いや。俺のステータスなんか見ても楽しくなんてないですよ!?」
「いいから。私に見せてみろ」
「……うっ。分かりました……」
ゼノは光のディスプレイを立ち上げると、それをエメラルドに見せることに。
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【ゼノ・ウィンザー】
[Lv]71
[魔力値]0 [術値]0
[力]30 [守]18
[魔攻]500 [速]25
[スキル]〔魔導ガチャ〕
[魔石コンプ率]254/666
[所持魔石]
☆1《洗顔》 ☆1《製紙》
☆1《トリック》 ☆1《刺繍》
☆1《収穫》 ☆1《魚類学》
☆1《施錠》 ☆1《リペア》
☆3《昼夜逆転》 ☆3《深淵の捕食》
[所持クリスタル]青クリスタル×19
[Ωカウンター]033.32%
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「そうか。現状、254種類の魔石を手に入れたんだ」
「あ、はい」
「それで、Ωカウンターは033.32%まで上昇、と。ちょうど3分の1だね」
「……」
ぐっと拳に力を入れる。
これは、ゼノが密かに目を背けてきた事実であった。
まだ、魔石は254種類しか集められていないのだ。
これまで2ヶ月間、毎日欠かさずに〔魔導ガチャ〕で魔石を召喚してきたゼノであったが、予想外にダブることが多く、思うように集められずにいた。
このままのペースで魔石を召喚していれば、コンプリートよりも先にΩカウンターが100%に到達してしまうのは確実だ。
自然と身振りが大きくなってしまう。
「だ……大丈夫ですよっ! 安心してください! 俺は必ず、お師匠様をこの迷宮から出して差し上げますから!」
「でも、このままだと、すべて列挙する前には、カウンターは100%になっちゃうんじゃないかな?」
「そんなことないです……! 俺ってば、めちゃくちゃ運が良いですし!? 魔大陸へ渡ったら、赤色以上のクリスタルが手に入るんですよね? そしたら、コンプだってすぐですよっ!」
「だけど、現時点では、そこまで運が良いってわけじゃないみたいだけどね」
「うっ……。それは、そうなんですけど……」
エメラルドをがっかりさせたくない一心で、思わず思ってもいないことを口にしてしまう。
ゼノも薄々気付いていた。
このままだと、間違いなく目的は達成できない、と。
(……いや、自分を信じるんだ。お師匠様をここから出すって決めたんなら、絶対にそれを成し遂げなくちゃ……)
そんな風に、悲壮感に満ちた決意をするゼノとは対照的に、エメラルドはこの事実を受けても、動揺した表情を覗かせることは一切なかった。
それどころか、笑顔さえ見せて、ゼノの手を握ってくる。
「ごめん。べつに責めるつもりはないんだよ。むしろ、ゼノくんがここまでがんばってくれて、私は本当に感謝しているんだ」
「感謝なんて……。俺は、まだ全然……」
「そうだな。そろそろ、本当のことを話してもいい頃かな」
「え?」
すると。
エメラルドは突然姿勢を正して、とんがり帽子のつばに触れると、ゼノの目をまっすぐに見つめる。
そして、さらりととんでもないことを口にした。
「実はね。私がこの迷宮から出るのに、すべての魔石をコンプリートする必要はないんだよ」
「…………ハ?」
「本当は、☆4の《解放》っていう魔石が手に入れば、それで出られるんだ」
「……な、な、な……っ、なんですってぇぇぇええっ!!?」
思わずゼノは大声を上げてしまう。
「ちょっと待ってください!! ☆4って言ったら……運が良ければ、緑クリスタルでも召喚可能な魔石じゃないですかっ!?」
「まぁ、そうだね」
「その辺りのダンジョンのボス魔獣を倒せば、緑クリスタルなんて、簡単に手に入りますけどぉぉぉーー!?」
「うん。それも知ってたよ」
「いやいやいやっ……!」
冷静に受け答えをするエメラルドを見て、ゼノは頭を抱えた。
(最初からおかしいと思ったんだ! すべての魔法を列挙する必要があるなんて……!)
そこでゼノは、膝から大きく崩れ落ちる。
「……お師匠様ぁ、ひどいですよ……! 俺は本気で……」
「だから、本当に申し訳ないって思っているんだ。でも、こんな風に嘘をついたのは、もちろん理由があったからで」
「……っ、理由……?」
「君の話を聞く限りだと、バハムートに正気を取り戻させたのは、エルフの少女から貰った赤クリスタルで出した☆5の《彗星の終止符》っていう魔石を使ったからなんだよね?」
「それが、なんですかぁ……」
「☆5以上の魔法はね。あいつ以外にこれまで扱えた者は誰もいないんだ。当然、私もその域には達していないよ。ゼノくん。君だから、その魔法を扱うことができたんだよ」
「俺だから……?」
たしかに。
あの魔法を放った時の感触は、今もゼノの中で大きな手応えとして残っていた。
「もし、2ヶ月前のあの日。私が☆4の《解放》の魔石を手に入れるだけで、この迷宮から出られるって言ったら、多分、ゼノくんはここまで強くなっていなかったよね? もちろん、☆5の魔法を扱う機会もなかったはずだ」
「……それは、そうかもしれませんけど。でも、それにしたって……」
そこでエメラルドはスッと笑顔を消すと、真剣な表情でこう切り返す。
「地上では、魔王エレシュキガルが再び現れたんじゃないのかい?」
「っ……! なんで、それを……」
「やっぱりね……。ずっと迷宮にこもっていても、私くらいの魔女になれば、地上の空気が一変したことくらい分かるのさ」
そこでエメラルドは薄く唇を噛むと、決心したようにこう口にする。
「君には、まだ伝えていないことがあってね。実は、ゼノくんが一度ここへ戻って来た時に、このことを話そうと思っていたんだ」
「っ?」
それは、ゼノが初めて耳にする話であった。
「――5年前。君をこの迷宮で拾った時、私は直感したんだ。この子は、あいつの生まれ変わりなんだって」
「生まれ変わり……? 俺が……大賢者様の、ですか?」
「うん。成長していく君の姿を見ていると、それは間違いじゃなかったって思えたよ。今のゼノくんは、あいつにそっくりなんだ」
「そっくり……」
「前にも話したね。私たちは、ルドベキア王国の小さな村の出身だったって。その時、あいつが言ったんだ。〝俺はお前を守りたいから、魔王エレシュキガルを絶対に倒す〟って。まだ、【魔力固定の儀】も受けていない頃の話だよ」
それを聞いてゼノは思った。
もし、同じような状況に置かれていたら、たしかに自分も同じようなことを言っていたに違いない、と。
それからエメラルドと別れた彼は、大陸に名を轟かせるほどの大賢者となった。
やがて、彼は魔王エレシュキガルとの最終決戦を前に、エメラルドをこの迷宮に閉じ込めることを決意する。
「その時、あいつはこんな言葉を残したんだ。〝もし、俺が迎えに行けなかったら、生まれ変わってでもお前を迎えに行く〟って」
「つまり……。それが……俺なんですか?」
「私はそう信じている」
「……」
ゼノには、正直分からなかった。
エメラルドが口にする〝大賢者ゼノの生まれ変わり〟という実感はまるでない。
けれど、それでも……。
彼女にそんな風に思われていたという事実は、とても嬉しかった。
それだけ、最初から信頼してくれていたということだからだ。
エメラルドは、輝く緑色の長い髪を後ろに払うと、一度眉をひそめる。
「……でも、同時に不吉なことも予言していたんだ」
「不吉なこと?」
「もし、自分がそのようにして迎えに来たのなら、それは世界に何か良くないことが再び起こっている証かもしれないって」
「それで、魔王エレシュキガルが再び現れたって……そう思ったんですね」
「うーん、どうだろう。私にも分からないんだ。けど、何か良くないことが起こるっていう、あいつの言葉は信じてたよ。5年前、君が私の目の前に現れた時に思ったんだ。これは、その前触れなのかもしれないって……。だから、私は君を育てることにした。私の持っている魔法の知恵や理論のすべてを教えたよ。魔力値9999を持って生まれた君なら、いずれ、あいつのようになってくれるんじゃないかって、強い確信があったからね」
初めて聞くエメラルドの話に、ゼノは暫しの間、言葉を挟むことができなかった。
それから自身の中で結論を出すと、ゆっくりとそれを言葉にする。
「……ということは、つまりこういうことでしょうか? この先の未来、世界に再び何か良くないことが起こる可能性があるから、その保険として大賢者様は、聖剣クレイモアと〔魔導ガチャ〕が入ったスキルポッドをお師匠様に託した、と……」
「うん。おそらく、そうだろうね」
「それで、お師匠様は、俺を大賢者様の生まれ変わりだと思って、その2つの力を俺に授けたって……そういうことですか?」
「その通りだよ。そして……。私のその考えは、どうやら間違っていなかったようだ」
「?」
「ゼノくん。今の君なら、魔王エレシュキガルに対抗することがきっとできるはず」
「……俺にそんな力……。本当にあるんでしょうか?」
「間違いないよ。こんな最速で魔大陸へ行けるくらいまで強くなれたんだ」
「正直、まだ自分の力がよく分かりません。俺はただ、大賢者様が残してくれたものを使っているだけに過ぎないですから」
が。
そこで言葉を一度区切ると、改めてこう続ける。
「……けど……。誰かが魔王を倒さなくちゃならないのなら、俺はやっぱり放っておけないです。だから、自分にできることを精一杯やりたいと思ってます」
「大丈夫、君なら絶対に魔王を倒せる。☆5の魔石を扱えるまでに成長したんだ。ゆくゆくは、もっと強力な魔法も扱えるはずだ」
「はい」
結局、すべてはエメラルドの手のうちにあったというわけだ。
魔大陸へ渡れば、《解放》の魔石を入手する日もそう遠くないに違いない、とゼノは思う。
エメラルドを助け出すことができる日が現実味を帯びてくると、一気に緊張がほぐれてしまう。
「……というわけで。今日は、ゼノくんが筆頭冒険者に任命されたことを祝わなくちゃだね! よし、朝まで一緒に飲むぞぉ~~っ!」
「さっきまでずっと飲んだくれてたじゃないですか!?」
「いーのいーの! お酒は理由をつけて飲むものだからさ♪」
「ええー……」
その後、エメラルドに強引に誘われる形で、ゼノはそのまま朝まで飲みに付き合うことになった。
◆
翌朝。
エメラルドに《脱出》の魔法を使ってもらい、迷宮の外へと出る。
すると、森の中に差し込む眩しい朝陽がゼノを迎え入れた。
「……っ、うえぇぇ……。気持ちわるぃぃ……」
体はくたくたのヘロヘロ。
しかし、気分はなぜか清々しかった。
荷が一つ降りたようにゼノは感じる。
「何も言わないで外泊しちゃったからなぁ……。みんな、きっと心配してるだろうな」
そんなことを思いながら、体をストレッチしていると、ゼノはポケットに何か入っていることに気付く。
外に出してみると、それはハワード家の紋章が刻まれたメダルであった。
「……」
ゼノは、それを一度ギュッと握り締めると、過去の自分と完全に決別するように小さく頷く。
「これは、もう俺には必要のない物だな」
そう呟くと、ゼノはメダルを森の中へと投げ捨てた。
「……っと、待てよ? バハムートがいないからマスクスへ帰れないじゃん!?」
歩いて向かうしかないのかぁ、と若干テンションが落ちるゼノだったが。
「いや、そうだ。俺にはこれがあるじゃんか!」
毎日これまで欠かさずに続けてきたもの――〔魔導ガチャ〕。
これが、ゼノを今の場所まで連れて来たのだ。
そして。
それはこの先も変わらない。
エメラルドを迷宮から救い出し、魔王エレシュキガルを倒すその日まで。
「よし、今日もやろう」
ゼノは、足元に魔法陣を発生させる。
青クリスタルを握り締めると、魔法陣の中にそれを投げ入れた。
「〔魔導ガチャ〕――発動!」
そんなゼノの元気な声が早朝の青空に高く響き渡るのであった。
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ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
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小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
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退会済ユーザのコメントです
退会済ユーザのコメントです
☆1で0.07%だと、大体3年以内にフルコンプしないといけなくなるけど…
選別するったって限度があると思います。上の計算は、1日1回、✩1使用での計算だから、強い相手と戦う事を考えると、3ヶ月で旅をやりきるぐらいじゃないと…(魔法のみの場合)まぁ、100%を超えない前提なので、超えても大丈夫なら、心配しすぎかとは思うのですが。