迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ

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6章

第8話

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「……ふぅ。さてと……」 

 ゼノはその場でぐるりと周囲を見渡す。
 
 辺りはすでに暮れかかっていて、木々の間からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
 そんな光景を目に映しながら、ゼノはなんとなく懐かしい気分となる。

「久しぶりにこの場所に帰って来たなぁ。〝少しの間だけ待っていてください〟って別れを告げてから、けっこう経っちゃったけど」 

 今から2ヶ月前。
 自分の旅は、この場所から始まったのだ、とゼノは思う。

 まだ目的は叶えられていなかったが、それでも達成感のようなものがゼノの中にはあった。



 ◆



「……っと、あったぞ」 

 それから記憶を頼りにシャトー密林を進んでいくと、森の中の開けた場所に、死神の大迷宮の入口を発見する。
 入口というよりは、穴と表現した方がいいかもしれない。

 死神の大迷宮の入口は、2ヶ月前とほとんど変わりがなかった。
 聖剣クレイモアをホルスターから抜き取ると、ゼノは《ライト》の魔法を詠唱してから飛び降りる。

 ダンジョンの内部は、複雑な迷路のような構造となっているため、初めて訪れた者が最下層へと到達することはまず不可能だ。

 だが、ゼノはここで5年間も暮らしてきたため、迷うことなく進むことができた。
 いわば、自分の庭のようなものなのだ。

(……懐かしい……。ここで5年間、俺はお師匠様から魔法理論を学んで、修行を続けてきたんだ。早く会いたいな) 

 《ライト》の魔法で魔獣を回避しながら、はやる気持ちを抑えてゼノは下へと降っていく。





「よっと」 

 ようやく一番最後の階段を降りると、ゼノはついに最下層のフロアへと足を踏み入れた。

 すると、その中央で――。

「ええっ!?」 

 ゼノは、倒れているエメラルドの姿を発見する。

「お、お師匠様……っ!」

「……うぐぅ……ひぐっ…………」

「大丈夫ですか!?」

 すぐさまエメラルドを抱きかかえて、ゼノが声をかけると、彼女は顔を上げた。

「……ぅ、へぇ……?」 

 どうやら、何か大事があったわけではないようだ。

(うわぁ……。ていうか、めちゃくちゃ酒くさいぞ……) 

 見れば、辺りには酒の入った木樽がたくさん転がっている。
 いつものように、酔いつぶれて寝てしまっていたらしい。

「ち……ちょっと、お師匠様っ! こんな所で寝ちゃダメですって」

「……うぐっ……ひっく……ぇへへ……」

「お師匠様っ! 起きてくださーい!」

「……っ、ぅくっ……ふへへぇ…………ぐるぐる、ぐるん~~♪」

「ダメだぁ……。かなりの量飲んだな、これ……」 

 それから、近くに落ちていたとんがり帽子を拾って、エメラルドに何度か声をかけるも、彼女は呂律の回らない声でぐにゃぐにゃとしゃべるだけだった。

 埒が明かないので、ゼノは魔導袋の中から☆1の魔石《酔覚し》を取り出してそれを詠唱する。
 すると、エメラルドの体を光が包み込んだ。

「……うぅっ……」

「酔いが醒めましたか、お師匠様? 俺、帰って来ましたよ」

「…………は? え……ゼノくん……?」

「はい、お師匠様のゼノです。只今、帰ってまいりました。ちゃんと分かりますか?」 

 ゼノがそう訊ねると、エメラルドの瞳は一瞬にして濡れる。

「んぅっ……!?」 

 そして、それはすぐに大粒の涙へと変わった。

「ふぇ、ふぇぇ…………ふえええええぇぇぇぇんっ~~!!」

「ぐわあっ!?」

 エメラルドは、まるで子供のように、大声で泣きながらゼノに飛びついた。

「ちょっと……お師匠様!?」

「ひっく、ぅっく……うわーん! 寂しかったよぉぉゼノくぅぅん~~っ!!」

「……あ、ありがとうございます? ていうか……く、苦しいんですけどぉ……!?」 

 思いっきり抱きつかれてしまっているので、ゼノは身動きが取れない。
 豊満な胸がぶよんぶよんと当たって、さらにゼノを苦しめていた。

「とりあえずっ! 一旦落ちついてください!」

「だって、だってぇぇ……!」

「今は、俺はどこにも行きませんから」

「……え……ほんとぉ……?」

「本当です。今日は泊まってもいいです」

「ぐすん……ならっ……」

「はぁ……。ようやく落ちついてくれましたね……」

「だって、ゼノくんがいなくなって、こっちはずっと寂しかったんだよぉ~~!」

「いや、まだここを出てから2ヶ月くらいしか経ってないんですけど。〝どれだけでも私は待つつもりだよ〟って言ってくださったじゃないですか」

「言ったけどぉ……。こうなったら、寂しさをお酒で紛らわすしかないじゃないか~~!」

「いや、お酒に逃げないでくださいよ。でも……ホント変わりませんね、お師匠様は」 

 エメラルドのこういう人間らしい部分もひっくるめて、ゼノは彼女が好きだった。

(400年以上も生きている魔女なのに、こういう所はどこか子供っぽいんだよな。まぁ、それがお師匠様の良さなんだけど)

 そこでようやく、エメラルドはゼノから離れた。
 とんがり帽子を被って、緑色のストレートヘアを翻すと、ゼノに向き直る。

「それで、今日はどうしたんだい? これまで散々、私のことをほったらかしにしてたクセに」

「いや、お師匠様が言ったんじゃないですかっ! 〝魔大陸へ渡れるようになるまでは、絶対に帰ってきちゃダメだ〟って!」

「そーだったかな?」

「自分の言ったことを素で忘れないでくださいよ……」

「ん? ということは、もしかして……ゼノくん、魔大陸へ行けるようになったのかい!?」

「はい。王国の筆頭冒険者に任命されました。これで、いつでも魔大陸へ渡ることができます」

「そっか……やっぱりね。私の目は、間違ってなかったようだ。強くなったんだね、ゼノくん」

「自分ではよく分かりません。俺はみんなに支えられて、ここまでやってこれただけですから」

「みんな?」

「俺、今冒険者パーティーを組んでいるんですよ」 

 そこでゼノは、エメラルドに仲間のことを話した。



 ◆



「……じゃあ、今はマスクスの町で、3人の娘と一緒に暮らしているんだね。全員女子っていうのが引っかかるが」

「みんな、本当にいいやつなんです。モニカは周りのことが一番よく見えてるし、アーシャは気が強いけど実はすごく仲間思いだし、ベルは懸命になってパーティーを支えてくれているんです」

「そんなキラキラした目で語らないでくれ……。私は、嫉妬してしまいそうだよ」

「大丈夫です。彼女たちは俺の大切な仲間で、お師匠様は俺の一番好きな人ですから」

「そ、そういう恥ずかしいことをサラッと言うなぁ! ホント色男だな、君は……」

「? 俺は普通にしてるだけなんですけど」

「そういうナチュラルなところが、女を惹きつけるんだよ。まぁ、いっか……。ゼノくんに信頼できる仲間ができて私も嬉しいよ」

「はい。ありがとうございます」

 それからさらに、ゼノはこれまでの経緯を彼女に簡単に説明した。
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