【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす

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君の笑顔が素敵すぎるから

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SED:キリト



「ドスコードの準備よし。招待IDも送信済み……完璧だっ! 今日は全力で楽しませるし、楽しむぞぉ!」

一緒に遊ぼうという話がまとまってから、何度か軽く打ち合わせを重ねた結果、今回は“モインクラフト”で遊ぶことに決まった。まったり雑談もしやすいし、建築とかで手を動かしながらだと、緊張も和らぐからちょうどいい。
 トナリさんは配信では触れていないものの、プライベートで一人コツコツ遊んでいるらしく、モインクラフト自体にはある程度慣れているようだった。なので、その提案はすんなり通った。
サーバーは俺のを使うことにして、どうせならと新しいワールドを用意した。

「俺とトナリさんだけの世界……これ、天国では?」

現実でもこうだったらいいのに、とつい妄想が膨らむ。

 その流れで、俺はこっそり録画の準備も進めていた。そう――録画はしないと約束していたのに。

「……だって、残したいじゃない。トナリさんとの思い出」

どこにも出さなければ問題ない。

 ……初めは、本当にそのつもりだった。



開始予定時刻ぴったり、ドスコードに「今ログインしました」とメッセージが届く。俺は即座に録画ボタンを押して、通話を繋いだ。

「はい、と、トナリです……」

少し遠慮がちで、どこか緊張を孕んだ声がヘッドホンから流れてくる。

「わぁ~!! 生トナリさんだぁ……っ!」

配信で何度も聞いているはずなのに、こうして直に繋いで聞くと、声の響きがまるで違って聞こえる。
 感動にひたっていると、ふっと優しい笑い声が耳をくすぐった。
くすぐったいほど嬉しくて、ふわふわしてると、招待の承認をしていなかったことに気づき、慌てて対応。すると、新しいマップのなかにトナリさんのスキンが現れた。

「わぁ……キリトさんのキャラスキンと同じ世界に、俺のキャラスキンが……すげぇ」

きっと今、キラキラした目でモニターを見ているんだろうな――そんな様子が目に浮かぶ。
 可愛い。ほんとに、可愛い。

「んふふ、トナリさん可愛いなぁ~。さてっ! 本日遊ぶのはモインクラフトです! このワールドは完全新規のもので、まさに手つかずの新世界! これから二人で、この世界を作っていきましょう!」

テンション高めの案内口調になってしまったのは、やはり録画しているせいだろう。案の定というか、すぐにツッコミが入った。

「……あの、キリトさん。一つ確認なんですけど、録画とか……してないですよね?」


しまった。


内心で舌打ちしつつ、俺は瞬時にいつもの調子で切り返す。

「あ、ごめんなさい、つい癖で……大丈夫です! 録画はしてませんから、リラックスして遊びましょう!」

嘘はついた。けど――今日は絶対に、忘れたくない一日になる気がしていた。
 だから、こっそりと記録を残しておきたかったんだ。
俺たちは仕切り直して、二人だけの新しい世界を歩き始めた。



モイんクラフトを始めてすぐ、トナリさんがゾンビにやられるというアクシデントから幕を開け、ゲームは一気に賑やかになった。
 頭上から突然ゾンビが降ってきたり、操作を誤って崖から落ちたり、掘った場所から水が溢れて溺死したり――次から次へと事件が起こるなか、気づけば五時間が経っていた。
楽しい時間って、本当にあっという間に過ぎていく。

 俺は一日中ゲームしていられるタイプだけど、トナリさんはそうはいかないらしい。画面越しからも「そろそろ限界……」という疲労感が滲んでいたので、ここいらで今日はお開きにすることになった。
正直、こんなに純粋にゲームを楽しんだのはいつぶりだろう。頬が痛いくらい笑った。

 それに、たくさん話もできた。配信じゃわからない、トナリさんの素の部分――声のトーンの違い、照れた時の沈黙。そういう“トナリ”が俺にはすごく嬉しかった。

「……あー、今日は本当に楽しかったです! トナリさん、また遊びましょう! この続き、ぜひ!」
「あっ、ぜ、ぜひ! というか、こ、こちらこそ楽しかったです! モイんクラフトが、こんなに面白いなんて……今日初めて知りました(笑)」

その言葉のトーンで、本心だってわかった。心から楽しんでくれたんだ。
 や、一緒に遊んでる間も、その空気はずっと伝わってきていた。……たぶん録画にも、ちゃんと残ってる。
トナリさんの魅力が全部詰まった、大事な映像が――。

「キリトさん?」

俺がふと黙り込んでしまったからか、心配そうな声がヘッドホン越しに届いた。
……俺は、この人の力になりたい。
 この録画を、誰かにも見せたい。この人の笑顔を、もっといろんな人に届けたい。

「……あの、実は……トナリさんに謝らなきゃいけないことがありまして」
「えっ、な、なんすか……?」

驚きと不安が入り混じった声。それ以上に、俺の心臓のほうが爆発寸前だ。

「……実は……録画、してました……」
「えっ!?」

本気で驚いた様子の声が、ヘッドホンから飛び込んでくる。

「ごめんなさい!! どうしても……トナリさんと遊んだ記録が欲しくて!!」

これは、心の底からの本音だ。「そんな記録残してどうすんすか!!」とツッコミを入れられるが、俺はただただ、思い出がほしかったと訴えた。見返して、ニヤニヤしたかったんだと。……でも、それはなかなか理解されない。
ぎゃーわーと、お互いに声を張り上げて言い合っているが、俺はそれすら楽しくてたまらなかった。

そんなやりとりすら録画にしっかり残っている。
 
最終的に、トナリさんは笑いながら録画の件を許してくれた。でも、俺の目的はここからが本番だ。

「……これを、動画として投稿したいです」
「はあっ!?」

だよなぁ。トナリさんは明らかに動揺していた。「話がちゃうやろがい!!」――勢いよくツッコミが飛んでくる。

「やめてトナリさん、また笑っちゃうww ひーっ」
「いやいやキリトさん、笑い事じゃないですって! コラボ動画出さないって話だったじゃないですか! ダメです! そんなの投稿したら、ファンがキレ散らかして俺爆発しますから!!」

本気でトナリさんは、自分のファンを怖がっているらしい。……まぁ、確かに過激な層もいるけど。

「しないしない!」
「するする! 俺、途中からわざとキリトさん崖から落としたり、後ろからゾンビけしかけたり、水流して溺れさせたりしてましたからね!!」
「やっぱりトナリさんの仕業だったのかっ!!」
「あっ、言っちゃった!!」

まさかの天然属性……? この人、ほんとに魅力無限大すぎる。
あの絶妙なタイミング、全部狙ってやってたんだと思うと、逆に動画にしたくてたまらなくなる。
 俺だけが楽しみたいって気持ちもあるけど、それ以上に共有したい。

「くははっ……もう、面白すぎる……あー腹筋痛い……! これ、絶対バズるって……動画にさせてほしいっす……! それに、トナリさんのチャンネルの宣伝にもなります! 一度火がつけば、絶対に登録者100万人いきます!」
「いや、さすがにそれは……」

急に弱気になるトナリさん。
 普通の人なら、チャンスだと飛びつく話だと思うのに。
その理由は、彼の口からぽつりと漏れた一言でわかった。

「……なんか、キリトさんを“使う”みたいで……嫌だなって……」

その言葉が、この人の人柄を如実に物語っている。
 誠実で、まっすぐで――優しすぎる人なんだ。
でも、優しさだけじゃ潰れてしまうこともある。だからこそ、頼ってほしい。
 俺を使ってほしい。そして、もっと笑っていてほしい。

「トナリさん……いいんです。俺を使ってください。そのほうが、俺、嬉しいです。……んで、登録者100万人行ったら――“俺が有名にしたんだ!”って、自慢させてください」
「キリトさん……」

あとひと押し。

「大丈夫です。俺が、ついてますから」
「んん……」
「トナリさん! お願いします!」

押して、押して、押しまくった結果――ついにトナリさんの口から「わかりました」という言葉がこぼれた瞬間、俺は思わず両手を天井に突き上げ、ガッツポーズを決めた。

……と思ったら、トナリさんがふいに口を開いた。

「投稿する前に、一回……見せてもらってもいいですか? それで、どうしてもダメだなって思ったら……そのときは、上げないでほしいです」
「わかりました! この約束は、絶対に守ります!」

言うまでもない。
俺は、トナリさんが嫌がることだけは絶対にしない。もしNGが出たなら、本当に動画は封印するつもりだ。
けど――俺は確信していた。


この動画は、きっとバズる。
こんなにもワクワクしながら編集に取り掛かれるなんて、いつぶりだろう。もう今すぐにでも始めたいくらいだ。
トナリさんに「OK」をもらえる、最高の一本を作ってみせる。
そのためなら、何だってやってやる――そう、心の中で強く誓った。




ーーーーーーーーーーーーーー

次からはトナリ視点に戻る予定です。
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