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21.ウサギの巣穴は、オオカミには似合わない
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「え? アパート、修繕、終わったんですか?」
「ああ。昨日工事は完了して、今日、家具も搬入された」
「な、なんと……」
早くない? 工事自体もそうなんだけど、家具の搬入までのスピードが半端なく早くない?
仕事終わり。更衣室までの道のり、「ちょっといいか」で課長から呼び止められ、説明された。
あの水浸し事件から一ヶ月ちょっと。水没部屋って、そんなに早く修繕終わるもんなんだろうか。
「俺の家にある荷物の搬入は休日のことになるが。どうする? 今日からアパートで暮らせるぞ?」
え?
あっそか。
アパートが直ったら、あたし、課長といっしょに暮らせないんだ。
ものすごく。ものすごく当たり前のことなんだけど。
なんか、ずっとこのまま課長と暮らしていくような気がしてた。キス以上のことはないけど、でも恋人になったんだし。今の状況がずっと続くと思っていた。
「――今日は、見に行くだけにするか?」
へ?
地面を見ていたあたしに、かかった声。驚いて顔を上げると、ゴホンと変な咳をして、課長があさってのほうを見た。
「俺もいっしょに行って、工事の具合を確認してやる」
「課長、お仕事は?」
会社に泊まり込むほど忙しいのでは?
「少しぐらいなら、まあ、時間は取れる。その後、会社にとんぼ返りだが」
「そんな。確認ぐらいなら、あたし一人でもできますよ」
とんぼ返りしなきゃいけないほど忙しいのなら、あたし一人で確認してきます。
「……少しは、恋人のために時間を使わせろ」
ズイっと一歩前に出た課長。迫るように、そそり立つ壁のような圧を感じるけど。
(うれしい。「恋人」だって!)
以前なら「ひぃぃぃっ!」だったけど、今は「うっきゃああっ!」で心臓バクバク。あたし。あたし、課長の恋人なんですね。
「どうした?」
「いえ、なんでも」
うれしくて、頬がユルユルになってるだけです。ユルユルになりすぎて、ウサギじゃなくてブルドッグになりそうなだけです。
*
「ほえぇぇぇ……」
鍵を開けて入った、あたしの部屋。
ううん。
ここって……。
「ホントにあたしの部屋?」
入る部屋間違えたんじゃない? ってぐらいぜんぜん違う部屋。
全体は白いのに、一面だけスモーキーブルーの壁紙。寒々しい印象にならないように、足元はライトブラウンのフローリング。家具の色も同じ。カーテンやベッドカバーなんかは、淡いベージュ。
まさしく、あたしがテレビで観た、柊深雪くんの部屋!
そして。
「な、なんですか、これっ、この棚っ!」
一番驚いたのは、壁に設置されてた棚。これって、もしかして。
「お前が色々飾りたそうだったからな。用意させた」
用意させたって。
「これで、アクスタだったか。並べることもできるぞ」
そりゃあ、以前のカラーボックス上に並べてるよりは、すっごくセンスある飾り方ができそうですけど。推し(特に柊深雪くん)に囲まれた生活がおくれそうだけど。
「あの。課長がこのお部屋の指示を?」
部屋のイメージは、以前テレビでやってた深雪くんの部屋なんだけど。細かい部分が少しずつ違ってる。そりゃ、部屋の形が違うんだから、配置とか違って当たり前なんだけど。
「俺は、あっちの、大鳥家具の担当者と話しただけだ。お前が観たという番組のインテリアを担当したとか言ってたか。その人に提案だけして後はすべて任せた。俺にはインテリアとか、よくわからんからな」
そ、そうなんだ。
ってか、課長も充分センスいいと思うけど。
少なくとも、以前のあたしの部屋より、課長のマンションの方が、とってもハイセンス。シンプルなのに、すっごく落ち着く。
「課長……。その担当者さんって、女性ですか?」
一通り見て回って。(すぐ終わる広さ) 台所にあった、食器に目が留まる。
「そうだが。それがどうした?」
「いえ。なんとなく」
食器の数とか並べ方がねえ。
家具屋さんなんかでよく見る、「食器も並べて、イメージわきやすいようにセッティングしてみましたー!」って感じなんだけど。そのコンセプトに「新婚、もしくは同棲始めましたカップル用」ってのがあるような気がする。だって。
お皿二枚に、茶碗も二つ。カトラリーもそれぞれ二つ。クッションも偶数。なぜか、ベッドはセミダブルに面積アップしてるし。
ここで二人暮らししますってのを想定されてるみたい。それもカップル二人。
そして極めつけは、マグカップ。ハートマークのペアカップ。めちゃくちゃベタなカップルマグカップ。
深雪くんイメージの部屋にはなかったアイテム。
これって、課長と、(課長が大事にする)あたしを想定して置かれたものだよね? 部屋が水難に遭って困ってるカノジョのために、課長が頑張ってる。――そう担当者さんに思われたのかな。だから、ラブラブ熱愛してる課長とあたしのためにマグカップが置かれた。夜明けのコーヒーを二人で飲むために。
(課長、あたしのために頑張ってくれるのはうれしいけど、そんなに担当者さんと連絡取り合ったんだ)
うれしいけど恥ずかしいのと、担当者と密に連絡取ってたってことにムカ。あたしのためだとわかっていても、女性と連絡を取ってたのは気に食わない。
それまで、「うわぁうわぁ、うわわわぁ」だったテンションが、少し落ちて混乱し始めた。
「気に……入らないか?」
少しトーンの落ちた課長の声。
「そんなことないです。すごくうれしいです」
おっと、いけない。不満のベクトルを勘違いされたら困る。――不満? あたしもしかして、課長がその女性担当者さんと連絡取ってたことに、ムカついてる? これって、嫉妬? あたしが?
ウサギにしては、なんてだいそれた感情。
あたしが課長のことで、誰かに嫉妬するなんて。ほえぇ。そんなことあるんだ。
「課長」
ニコッと笑ってその名を呼ぶ。(役職名だけど)
それから、ソソっと彼に近づいて――
――チュッ。
足がプルプルするほどつま先立ちして、その頬にキス。
「真白?」
「お礼です。この部屋のこと、本当にありがとうございます」
そして、人生初! の嫉妬という感情を教えてくれて。
「あたし、二階の冴木さんからも聞いたんです。課長が、あたしに代わって色々してくれていたこと」
路頭に迷いかけたウサギを拾ってくれただけじゃなく、その後の交渉も何もかも請け負ってくれていた。
「それぐらい……。交渉は慣れているからな」
頬を手で隠し、そっぽ向いた課長。でも、隠しきれてない頬は真っ赤。
「それでも。あたし、大事にされてるんだな~って思って。うれしいんです」
交渉が得意だから請け負ってくれた。それだけじゃない。
男性である冴木さんに、あたしの連絡先を教えない。自分が間に入ることで、他の男の人をブロックしてた。
(かわいい♡)
あたしが好きだから。あたしが大事だから。
その理由。とってもカワイイ。
「どうした?」
「なんでもないですぅ」
そのかわいさに、思わず身をスリスリしちゃう。
あたしの、怖くて優しくてカワイイオオカミさん。
「真白――」
課長のスラっと長い指が、あたしの顎を捉える。ついで、降りてきた唇。
「ンッ……」
何度目かのキス。ある程度慣れたとはいっても、やっぱりキスのときは、体に力が入っちゃう。
怖い――じゃない。イヤ――でもない。
うれしいんだけど、やっぱり緊張する。
(このままする……のかな)
キスしながら思う。
あたしと課長。
両思いなんだし、もういい大人なんだから、キス以上のことをしちゃいけないってことはない。むしろ、両思いでいっしょに暮らしてるのに、そういうことがないほうが不思議なぐらい。(多分)
おあつらえ向きに、この部屋にはベッドもある。初めてをここでしてもいいはず。
同じことを課長も考えたんだろう。
何度もキスをくり返していたら、そのままベッドに崩れるように押し倒された。
「真白……」
仰向けに倒れたあたしに、覆いかぶさる課長。
その眼差しは、熱く真っ直ぐで。見つめられるだけで、胸がギュッと苦しくなって、息が熱くなってくる。
「課長……」
頑張って名前を呼ぶ。
すると、再びキスが落ちた。
今度は、唇だけじゃない。額に、頬に。耳に、うなじに。課長の唇があたしの上を這う。
「か、ちょ……」
キスが落とされるたび、体の奥がズキズキと痺れてくる。熱い息も乱れて、目も潤む。
あたし、食べられちゃうのかな? このまま課長に食べられちゃうのかな?
怖くないわけじゃないけど、でもうれしい、幸せだって感じてる。
(課長……)
美味しく食べてくださいね。
そんな想いを込めて、手を伸ば――
チャンッチャラッチャッチャラララッチャチャチャチャチャン♪ チャンッチャラッチャッチャラララッチャチャチャチャチャン♪
「――俺だ」
軽快な着信音。
課長がジャケットからスマホを取り出した。
「……わかった。戻る」
言って通話を切ると、深くふか~く息を吐き出した課長。
「会社に戻る。真白はマンションに送るから、先に帰っていろ」
「――はい」
せっかく。せっかく甘い空気が流れ始めたのに。
恋人から課長モードに戻ってしまった課長(説明ヘン)に、あたしもため息を漏らしたくなる。誰よ、その電話! 無粋にもほどがあるでしょ。
立ち上がった課長に続いて、あたしも身を起こす。
「真白――」
ふり返った課長。そのまま、あたしの唇に――
チュッ。
(ンなっ!)
「この続きは、また今度だ。どうもこの部屋では落ち着かん。防音もなさそうだしな」
う、えっと……。
「はい」
そんなふうに「次!」宣言されると、ちょっと、なんというのか。
(すっごく恥ずかしいんですけど!)
恥ずかしすぎて、顔、上げられない。
でも、課長の言うこともよくわかる。
この部屋、深雪くんモデルで整えてもらったせいか、どうにも自分の部屋に思えなくて。なんていうのかな。「深雪くんの部屋で、課長とイチャイチャ」しようとしてたみたいな。
(イチャイチャするなら、課長の部屋がいいなあ……)
課長のあのマンションで。課長の匂いの染み付いた、あのベッドで。課長にいっぱいキスされて、身も心も課長でいっぱいに――
(うぎゃああああっ! あ、あたし、なに考えてんのっ!)
「どうした?」
「い、いえっ! なんでもありません!」
妄想と恥ずかしさを、手でパタパタ扇いで霧散させる。
顔が熱すぎて、頬がヒリヒリしてきた。
あたし、いつのまにエロウサギになってたんだろ。課長の「次!」宣言より、自分の思考が恥ずかしい。
「ああ。昨日工事は完了して、今日、家具も搬入された」
「な、なんと……」
早くない? 工事自体もそうなんだけど、家具の搬入までのスピードが半端なく早くない?
仕事終わり。更衣室までの道のり、「ちょっといいか」で課長から呼び止められ、説明された。
あの水浸し事件から一ヶ月ちょっと。水没部屋って、そんなに早く修繕終わるもんなんだろうか。
「俺の家にある荷物の搬入は休日のことになるが。どうする? 今日からアパートで暮らせるぞ?」
え?
あっそか。
アパートが直ったら、あたし、課長といっしょに暮らせないんだ。
ものすごく。ものすごく当たり前のことなんだけど。
なんか、ずっとこのまま課長と暮らしていくような気がしてた。キス以上のことはないけど、でも恋人になったんだし。今の状況がずっと続くと思っていた。
「――今日は、見に行くだけにするか?」
へ?
地面を見ていたあたしに、かかった声。驚いて顔を上げると、ゴホンと変な咳をして、課長があさってのほうを見た。
「俺もいっしょに行って、工事の具合を確認してやる」
「課長、お仕事は?」
会社に泊まり込むほど忙しいのでは?
「少しぐらいなら、まあ、時間は取れる。その後、会社にとんぼ返りだが」
「そんな。確認ぐらいなら、あたし一人でもできますよ」
とんぼ返りしなきゃいけないほど忙しいのなら、あたし一人で確認してきます。
「……少しは、恋人のために時間を使わせろ」
ズイっと一歩前に出た課長。迫るように、そそり立つ壁のような圧を感じるけど。
(うれしい。「恋人」だって!)
以前なら「ひぃぃぃっ!」だったけど、今は「うっきゃああっ!」で心臓バクバク。あたし。あたし、課長の恋人なんですね。
「どうした?」
「いえ、なんでも」
うれしくて、頬がユルユルになってるだけです。ユルユルになりすぎて、ウサギじゃなくてブルドッグになりそうなだけです。
*
「ほえぇぇぇ……」
鍵を開けて入った、あたしの部屋。
ううん。
ここって……。
「ホントにあたしの部屋?」
入る部屋間違えたんじゃない? ってぐらいぜんぜん違う部屋。
全体は白いのに、一面だけスモーキーブルーの壁紙。寒々しい印象にならないように、足元はライトブラウンのフローリング。家具の色も同じ。カーテンやベッドカバーなんかは、淡いベージュ。
まさしく、あたしがテレビで観た、柊深雪くんの部屋!
そして。
「な、なんですか、これっ、この棚っ!」
一番驚いたのは、壁に設置されてた棚。これって、もしかして。
「お前が色々飾りたそうだったからな。用意させた」
用意させたって。
「これで、アクスタだったか。並べることもできるぞ」
そりゃあ、以前のカラーボックス上に並べてるよりは、すっごくセンスある飾り方ができそうですけど。推し(特に柊深雪くん)に囲まれた生活がおくれそうだけど。
「あの。課長がこのお部屋の指示を?」
部屋のイメージは、以前テレビでやってた深雪くんの部屋なんだけど。細かい部分が少しずつ違ってる。そりゃ、部屋の形が違うんだから、配置とか違って当たり前なんだけど。
「俺は、あっちの、大鳥家具の担当者と話しただけだ。お前が観たという番組のインテリアを担当したとか言ってたか。その人に提案だけして後はすべて任せた。俺にはインテリアとか、よくわからんからな」
そ、そうなんだ。
ってか、課長も充分センスいいと思うけど。
少なくとも、以前のあたしの部屋より、課長のマンションの方が、とってもハイセンス。シンプルなのに、すっごく落ち着く。
「課長……。その担当者さんって、女性ですか?」
一通り見て回って。(すぐ終わる広さ) 台所にあった、食器に目が留まる。
「そうだが。それがどうした?」
「いえ。なんとなく」
食器の数とか並べ方がねえ。
家具屋さんなんかでよく見る、「食器も並べて、イメージわきやすいようにセッティングしてみましたー!」って感じなんだけど。そのコンセプトに「新婚、もしくは同棲始めましたカップル用」ってのがあるような気がする。だって。
お皿二枚に、茶碗も二つ。カトラリーもそれぞれ二つ。クッションも偶数。なぜか、ベッドはセミダブルに面積アップしてるし。
ここで二人暮らししますってのを想定されてるみたい。それもカップル二人。
そして極めつけは、マグカップ。ハートマークのペアカップ。めちゃくちゃベタなカップルマグカップ。
深雪くんイメージの部屋にはなかったアイテム。
これって、課長と、(課長が大事にする)あたしを想定して置かれたものだよね? 部屋が水難に遭って困ってるカノジョのために、課長が頑張ってる。――そう担当者さんに思われたのかな。だから、ラブラブ熱愛してる課長とあたしのためにマグカップが置かれた。夜明けのコーヒーを二人で飲むために。
(課長、あたしのために頑張ってくれるのはうれしいけど、そんなに担当者さんと連絡取り合ったんだ)
うれしいけど恥ずかしいのと、担当者と密に連絡取ってたってことにムカ。あたしのためだとわかっていても、女性と連絡を取ってたのは気に食わない。
それまで、「うわぁうわぁ、うわわわぁ」だったテンションが、少し落ちて混乱し始めた。
「気に……入らないか?」
少しトーンの落ちた課長の声。
「そんなことないです。すごくうれしいです」
おっと、いけない。不満のベクトルを勘違いされたら困る。――不満? あたしもしかして、課長がその女性担当者さんと連絡取ってたことに、ムカついてる? これって、嫉妬? あたしが?
ウサギにしては、なんてだいそれた感情。
あたしが課長のことで、誰かに嫉妬するなんて。ほえぇ。そんなことあるんだ。
「課長」
ニコッと笑ってその名を呼ぶ。(役職名だけど)
それから、ソソっと彼に近づいて――
――チュッ。
足がプルプルするほどつま先立ちして、その頬にキス。
「真白?」
「お礼です。この部屋のこと、本当にありがとうございます」
そして、人生初! の嫉妬という感情を教えてくれて。
「あたし、二階の冴木さんからも聞いたんです。課長が、あたしに代わって色々してくれていたこと」
路頭に迷いかけたウサギを拾ってくれただけじゃなく、その後の交渉も何もかも請け負ってくれていた。
「それぐらい……。交渉は慣れているからな」
頬を手で隠し、そっぽ向いた課長。でも、隠しきれてない頬は真っ赤。
「それでも。あたし、大事にされてるんだな~って思って。うれしいんです」
交渉が得意だから請け負ってくれた。それだけじゃない。
男性である冴木さんに、あたしの連絡先を教えない。自分が間に入ることで、他の男の人をブロックしてた。
(かわいい♡)
あたしが好きだから。あたしが大事だから。
その理由。とってもカワイイ。
「どうした?」
「なんでもないですぅ」
そのかわいさに、思わず身をスリスリしちゃう。
あたしの、怖くて優しくてカワイイオオカミさん。
「真白――」
課長のスラっと長い指が、あたしの顎を捉える。ついで、降りてきた唇。
「ンッ……」
何度目かのキス。ある程度慣れたとはいっても、やっぱりキスのときは、体に力が入っちゃう。
怖い――じゃない。イヤ――でもない。
うれしいんだけど、やっぱり緊張する。
(このままする……のかな)
キスしながら思う。
あたしと課長。
両思いなんだし、もういい大人なんだから、キス以上のことをしちゃいけないってことはない。むしろ、両思いでいっしょに暮らしてるのに、そういうことがないほうが不思議なぐらい。(多分)
おあつらえ向きに、この部屋にはベッドもある。初めてをここでしてもいいはず。
同じことを課長も考えたんだろう。
何度もキスをくり返していたら、そのままベッドに崩れるように押し倒された。
「真白……」
仰向けに倒れたあたしに、覆いかぶさる課長。
その眼差しは、熱く真っ直ぐで。見つめられるだけで、胸がギュッと苦しくなって、息が熱くなってくる。
「課長……」
頑張って名前を呼ぶ。
すると、再びキスが落ちた。
今度は、唇だけじゃない。額に、頬に。耳に、うなじに。課長の唇があたしの上を這う。
「か、ちょ……」
キスが落とされるたび、体の奥がズキズキと痺れてくる。熱い息も乱れて、目も潤む。
あたし、食べられちゃうのかな? このまま課長に食べられちゃうのかな?
怖くないわけじゃないけど、でもうれしい、幸せだって感じてる。
(課長……)
美味しく食べてくださいね。
そんな想いを込めて、手を伸ば――
チャンッチャラッチャッチャラララッチャチャチャチャチャン♪ チャンッチャラッチャッチャラララッチャチャチャチャチャン♪
「――俺だ」
軽快な着信音。
課長がジャケットからスマホを取り出した。
「……わかった。戻る」
言って通話を切ると、深くふか~く息を吐き出した課長。
「会社に戻る。真白はマンションに送るから、先に帰っていろ」
「――はい」
せっかく。せっかく甘い空気が流れ始めたのに。
恋人から課長モードに戻ってしまった課長(説明ヘン)に、あたしもため息を漏らしたくなる。誰よ、その電話! 無粋にもほどがあるでしょ。
立ち上がった課長に続いて、あたしも身を起こす。
「真白――」
ふり返った課長。そのまま、あたしの唇に――
チュッ。
(ンなっ!)
「この続きは、また今度だ。どうもこの部屋では落ち着かん。防音もなさそうだしな」
う、えっと……。
「はい」
そんなふうに「次!」宣言されると、ちょっと、なんというのか。
(すっごく恥ずかしいんですけど!)
恥ずかしすぎて、顔、上げられない。
でも、課長の言うこともよくわかる。
この部屋、深雪くんモデルで整えてもらったせいか、どうにも自分の部屋に思えなくて。なんていうのかな。「深雪くんの部屋で、課長とイチャイチャ」しようとしてたみたいな。
(イチャイチャするなら、課長の部屋がいいなあ……)
課長のあのマンションで。課長の匂いの染み付いた、あのベッドで。課長にいっぱいキスされて、身も心も課長でいっぱいに――
(うぎゃああああっ! あ、あたし、なに考えてんのっ!)
「どうした?」
「い、いえっ! なんでもありません!」
妄想と恥ずかしさを、手でパタパタ扇いで霧散させる。
顔が熱すぎて、頬がヒリヒリしてきた。
あたし、いつのまにエロウサギになってたんだろ。課長の「次!」宣言より、自分の思考が恥ずかしい。
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