オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご

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22.遠く離れた空の下で

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 「――金沢、……ですか?」

 「ああ。山科のお供でな。泊まりで行ってくることになった」

 珍しく課長が、あたしといっしょに帰ることになったと思えば。
 なるほど。明日から金沢だから、その準備をしてこい。だから早く帰れ。そういうことか。

 (一泊二日……)

 つまりは、明日の朝別れたら、明後日の夜まで会えないと。
 明日……。

 (せっかくの週末、土日なのにぃぃぃっ!)

 ムギイィィィッ!
 社長のオタンコナス! アッパラパーのオッペケペーのスッポコぺーのポッペコピー!
 どうして、せっかくの週末を仕事で埋めちゃうかなあっ!
 せっかくの! せっかくの両思い確信してからの週末なのに。
 週末。
 あたしの引っ越しも考えなきゃなんだけど、課長がお疲れなら、美味しいもの作って、お家でまったりデートとか。ちょっとそのへんまで、日用品お買い物デートとか。それか、一日二人でベッドの上ゴロゴロデートとか。あたしの部屋が無理なら、課長のお部屋でムフフ♡とか。そういうこと考えてたのに。

 (さすがに、ついていくことはできない……よね?)

 帰りの車。運転する課長の横顔を盗み見る。
 営業の伊坂さんみたいに、あっちで仕事が終わったら、レンタカー借りて、そのままドライブデート……なんてしてくれないよねえ。やっぱり。
 あの案件、ものすごい怒りの形相で営業課に乗り込んで、伊坂さんに領収書を叩き返した人だし。あたしが自分のお金で金沢に乗り込んでいっても、「何してるんだ。仕事だ。帰りなさい」で、回れ右して新幹線に乗せられそう。――って、ん?

 (金沢って。何県だっけ?)

 金沢県? いやいや。えっと、金沢は、なんかスッゴい武将がいて。そうだ、『利家とまつ』だ! あれで、加賀がどうとか言ってたから、――加賀県? そんな県、あったっけ? あっちの方、行ったことないから、よくわかんない。

 (あ、だったら、いつか課長といっしょに行けたらいいなあ)

 仕事じゃなくて、プライベートで。
 あたしが知らなくても、課長は知ってるだろうから。いろんなところを見て回って案内してもらおう。そして、夜は恋人らしくお泊り♡ なんちゃって。ウキャーッ!
 いつもの。いつもと違う環境なら、もしかしたら一歩先へ進めるかもしれないし。金沢の夜景(?)を見ながら、ロマンチックにそういうこともできるかもしれない。

 「真白?」

 あたしが黙っちゃったことを気にしたんだろう。課長が、ブレーキを踏んだタイミングで、少しだけこっちを見た。

 「大丈夫です! ちゃんとお留守番してますから!」

 こういう時、以前のみせかけ恋人なら、アパートに戻るか、ネカフェに泊まるかするんだろうけど。

 (今のあたしは、課長の恋人!)

 遠慮せずに、お泊りさせていただきます! フンス!

 「――俺がいないからって、夜ふかしするなよ」

 前の車が動き出して、再び運転に集中した課長が言う。

 「食事もバランスいいものをちゃんと食べろ。アルコールは飲むな。使ったものはキチンと片付けろ。火の元も注意しろ。寝る前の歯磨きは忘れるな。お風呂も入れよ」

 ……あたしは、どっかの子どもですか。
 そんなこと言われなくっても、ちゃんとわかってますって。これでも学生の頃から一人暮らししてきたんですからね?

 「それと。連絡ぐらい入れてもいいぞ」

 ――ん? 連絡?

 「日中は無理だが、夜なら連絡ぐらいつく」

 それって。
 「おとうさーん、これどうしたらいいー?」みたいな、お子ちゃま相談電話じゃなくて。「ちょっとさみしくって。寝る前に、声、聴きたくなっちゃった♡」みたいな、ラブラブ恋人連絡を入れろ――と?
 甘々、(電話越し)ピロートーク。

 (うわ、それやってみたい!)

 寝る前の、少しトロンとした思考のなか。めっちゃどうでもいいようなことを、でも少しドキドキしながら話すの。内容なんてどうでもよくて。ただ、相手の声を聴いてみたかっただけっていう。
 眠いんだけど、もう少しだけ相手の声を聴いていたいっていうか。なかなか電話を切ることができなくて、ダラダラ話を続けちゃったりとか! 顔が見えないからちょっとだけ大胆になって、「おやすみ、愛してる」とか言っちゃったり、言われちゃったり!
 うひょおっ! それいい! メッチャいい! あたし、耳元で課長に「おやすみ」って囁かれたい!
 コホン。

 「連絡は、夜10時過ぎでいいですか?」

 「ああ。こちらでなにか問題がないか、確認させてもらう」

 だから。あたしはお子ちゃまじゃないですってば。

*     *     *     *

 翌日、土曜日。
 朝早くに、課長はスーツケースとネムネムな社長を引きずって、金沢に旅立っていった。

 ――お土産、楽しみにしていろ。

 それと。

 ――甘いもの食いすぎるな。アルコールは厳禁だ。冷蔵庫に作り置きが入ってるから食べておけ。玄関はチャイムが鳴っても居留守を使え。鍵はキチンとかけておけ。

 などなど、クドクドと細かい(細かすぎる)指示も残して。

 (まったく。あたし、子どもじゃないんですから!)

 ほら、こうやってお掃除だってできるし、お料理も、洗濯だってできるんです!
 課長のいない部屋。それをテキパキと掃除していく。
 普段からキチンと掃除の行き届いてる部屋。掃除、トイレやお風呂まですみずみ磨いてもたいして時間かからず。
 あたしのお昼ご飯。たまには自分の好きなもの作ろ~って。課長が冷蔵庫にギッチリ作り置きを詰めてった。よって、作る必要ナシ。
 お洗濯。これも、課長は自分のものをすべて片付けてから出発したから、せいぜい自分の物を洗ってそのまま乾燥させるだけ。速攻終了。

 で。

 (ヒマだ……)

 になる。
 やることがない。なんにもない。
 ただノベっと床に大の字で転がるだけ。ああ、ブラインド越しに見える空、青くてキレイだなあ。うん。

 (って。こんなムダな時間を過ごすんじゃなくて! 課長がいないってことは!)

 飛び起き、自分の荷物のなかから、とっておきを取り出す!

 「じゃじゃーん! QUARTETTO!のD、V、D!」

 一応、一人で盛り上がってみる。イェーイ!
 前に課長がいる時に観たけど、やっぱこういうのは、誰憚ることなく盛り上がれる環境じゃなきゃ! 課長がいたら「キャー!」とか「うひょおっ!」とか。盛り上がれないじゃん?
 好きな人課長の前では、推し深雪くん萌えしにくい。

 ってことでいそいそ。
 ディスクを入れて、傍らにアイスティーのペットボトルをセッティング。それから胸キュンした時、抱きしめられるように大きめクッションを配置。テレビの前に陣取る。
 あたしがアパートで一人暮らしてた時の、週末の過ごし方。
 では。いざ!
 レッツ、QUARTETTO!満喫タイム!
 課長もいないし、アパートからDVD全部持ってきたから、お楽しみ時間はタップリありますぞ♡
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