正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

文字の大きさ
69 / 71

昼の面倒ごと3

しおりを挟む
堂々と目の前を歩くレッドを見て、ふと浮かんだ疑問を口にした。

「……レッドさ、その格好、恥ずかしくねぇの?」

「え?何が?」

心底不思議そうな眼差しを向けられ、思わず言葉に詰まる。
まじか、と口を閉ざした。

……まあ、これだけ似合っていれば、恥じらいも湧かないのかもしれない。

「そういうトオル君は、女性の格好って恥ずかしい?」

「……そりゃまあな」

華奢でもない俺が女装したところで、似合わないのは火を見るより明らかだ。
レッドのメンタルが異常なだけである。

「でも、綠谷君は喜ぶと思うなぁ?」

桃崎さんが楽しそうに言った、その瞬間だった。

不意に、背後から影が落ちる。
次の一歩を踏み出そうとした瞬間、腰に腕が回され、低く落ち着いた声が、すぐ背後で響いた。

「あまり、トオルさんを巻き込まないでいただけますか?」

そのまま動きを止められ、歩く足が止まる。誰か、なんてのは、すぐに分かった。

「あ、グリーン!」

驚いたように、レッドが声を上げた。

「ちょっと、見張りが出てきてどうするのよ。……もう少しトオル君と話したかったのに」

桃崎さんが抗議するが、グリーンは意に介した様子もなく、静かにこちらを見下ろしていた。

「あぁ。敵なら、すでに捕らえましたので。問題ありません」

「ほら、早く見張りに――……え?」

空気が、一瞬だけ止まる。
その沈黙に応えるように、グリーンは淡々と続けた。

「トオルさん、先ほど……視線を感じていましたね」

まるで確認事項を読み上げるかのような口調だった。

「あー……まあ」

「え、そうなの?トオル君」

桃崎さんが、興味深そうにこちらを覗き込む。

「対象がトオルさんを見ていましたから。位置は、すぐ特定できました」

そう言って、グリーンはわずかに口元を緩める。

「え、さすがトオル君のストーカー。凄すぎない?」

面白がる桃崎さんとは対照的に、状況を飲み込めていない様子で、レッドは首を傾げていた。

つまり――
俺を見ていた“視線”を、こいつはさらにその外側から見ていた、ということか。なにその食物連鎖。もはや“見張り”の域を完全に超えている。

「トオルさんを見ていたのが――」

腰に回された手が、わずかに締まる。
逃げ道を塞ぐように身体を寄せられ、低く抑えた声が耳元へと落ちた。

「……運の尽きでしたね」

ぞわり、と背筋に寒気が走る。まさか男を少し見てただけで捕まるとは思わなかったであろう敵に、少しだけ同情してしまった。

「やっぱり需要しかなかった。ありがとう、トオル君」

満足そうな桃崎さんの声が、やけに近くで響く。
――敵より、こっちのほうが、よっぽど危険だろ。

「ところで、蓮。もう囮はおしまいですよ」

俺を抱え込んだまま、グリーンは視線だけをレッドへ向けた。

「なんかよく分かんなかったけど、無事解決できてよかったな!」

状況をまるで気にしていない調子で、レッドはにかっと笑う。

「ええ。ですから、その格好は早く着替えてください」

あくまで冷静に言い切るグリーンに、なぜそんなことを言われているのか分かっていない様子で、レッドはきょとんとしている。
俺だったら、問題が解決した時点で真っ先に着替えるところだが……こいつは本当に、何も気にしていないらしい。

「あなたの保護者が怒り出す前に、早く戻ったほうがいいですから。あちらの通りに、車を停めて待ってますよ」

「え?ここ来てる?わかった!」

元気よくそう返事をすると、レッドはグリーンの指さした方角へ颯爽と駆け出していった。その走り方は、どう見ても女性のものではなくて、思考が一瞬フリーズする。
俺はただぼんやりと、その背中を見送るしかなかった。

――「レッドの保護者」。

妙に耳に残るその言葉を、頭の中で反芻しながら。

「あっちゃ~。私はあとで怒られそうだけど……まあ、本望です。ありがとう」

すべて承知の上だと言わんばかりに、桃崎さんはどこか満足そうに肩をすくめた。
レッドの「保護者」という立場は、どうやら皆に周知の事実らしい。前のボディーガードと同じ奴か。

「さ、トオルさん」

すぐ背後から、いつも通り落ち着いた声がかかる。
腰に回された腕はそのまま、反対の手がそっと俺の手を取り、指が絡められる。
拒む理由もなく、そのまま身を預けてしまった自分に、今さら気づく。

「今夜はバイトでしょう?少しでも寝ておかないと、あとで辛くなりますよ」

「…余計なお世話だ」

そう返しはしたものの、的外れでもない指摘なのが腹立たしい。

「まだお昼も食べていませんよね?デザートも用意しますし、私の家で少し休んでいきませんか。ちょうど私も仕事が終わったところです」

あまりに自然な誘い方に、言葉が一瞬詰まる。

「……デザート、なに」

自分でも驚くほど、それは拒否とは程遠かった。

その間にも、腰に回された腕は離れないまま、空いているほうの手で、俺の指先をなぞるように弄ばれている。

「そうですね」

少し考える素振りを見せてから、グリーンは穏やかに答える。

「シュークリームはいかがですか?外はざくざくで、中はカスタードです」

「……わかってんな」

指先が、くい、と絡め取られる。

「もちろんです」

そう言い切られてしまい、もう返す言葉が見つからない。

腰に回された手と、無意識に絡めていた指。その距離感とやり取りを横目に、桃崎さんがぽつりと呟いた。

「……ねえ、これ本当に、まだ付き合ってないの?」

その声は俺の耳には届かない。
頭の中はすっかり、シュークリームのことで埋め尽くされていた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...