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正義の腕の中が、逃げ場だった
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町外れの廃ビル群。今日もヒーローとの小競り合いだ。
……とはいえ、俺の役目はいつも通り、やられ役。
敵組織ディヴァイアンの“モブ戦闘員”として、ヒーローに吹き飛ばされ、転がって、死んだふりをする。ただそれだけのバイトだ。
俺は全身スーツにマスクを被り、指示通りに配置につく。
聞いた話では、今日現れるのはイエロー一人。
(それが本当なら平和だな)
イエローは比較的まともなタイプだ。戦闘も最小限、流れ作業のように処理して終わる。体感的には、そこそこ当たりの現場。
俺は適当に威圧感っぽいポーズを取りつつ、頭の中では晩飯のことでも考えていた。
「イエロー、現場到着!」
廃ビルの天井を破って、黄色いスーツの男が飛び込んでくる。ヒーローらしい決め台詞と共に。
それを合図に、周囲の戦闘員たちも戦闘モードに入った。
俺も一応、それっぽく構えだけは取っておく。吹き飛ばされる準備くらいはしておかないと。
そう思っていた、次の瞬間。
「グリーン、援護に入ります」
聞き慣れた声が、戦場の空気を一変させた。
(あー……誰か冗談だと言ってくれ……)
すぐさま通信がザワつく。
『グリーン?嘘、編成にいたっけ?』
『え、マジで来るの!?なんで!?』
こっちが聞きたい。スーツの中で、俺は思わず深いため息をついた。
イエローが肩越しに振り返って、困ったように言う。
「グリーン…今日は別任務だったはずだろ~?」
「処理は全て終えました。こちらに365番が入っていると聞いたので」
何を言ってるかは聞こえないが、嫌な予感しかしない。
グリーンが俺のいる方向を一直線に見てくる。というか、他の敵戦闘員は視界に入ってないらしい。
その視線だけで、背筋がうっすら寒くなる。
「また今日も、こんな危険な現場に……。健気ですね」
「お前、敵組織の戦闘員にそういうこと言うのやめろ。混乱するだろ」
グリーンは視線を逸らすことなく、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
身の危険を感じるのでこれ以上近づかないで欲しい。
もはややられ役どころか、現場ストーカー被害の真っ只中である。
(あ、待って、本気でヤバい)
一応中ボスポジションの敵がいるので、こちらに一直線に向かってくるのはやめていただきたい。
まずい予感を察知し、俺はさりげなく近くで起きた爆発のタイミングに乗じて、勢いよく吹き飛ばされたふりをして──倒れた。
瓦礫の陰に転がり、静かに“死んだふり”モードに入る。
(よし、完璧なやられ役。これでスルーしてくれ)
──だが、甘かった。
グリーンの足音が止まり、すぐそばまで近づいてきた気配がする。
「365番、安心してくださいね。私がすぐに助けますから」
(いや、ちょっとまって怖い怖い)
イエローが慌てて間に入る。
「ちょっとグリーンさん~?何しようとしてるのかなぁ?」
イエローが苦笑気味に手を広げて、グリーンの前に立ちはだかる。
「まずはこっちじゃなくてね?中ボスの方が奥にいるから、まずそっちから倒そっか?」
グリーンは一瞬だけイエローを見る。そして、微笑んだ。
「もちろん、後ほど。まずは彼を保護します」
「いや、保護って……それ敵!それ敵側の戦闘員だからな?ね?」
「重傷の可能性もあります。安全を確保し、早急に救護処置を」
「だからそれこっちがやった側ね!?グリーンこっち側の人間だよね!?」
「承知しています。ですが、365番に関しては、例外です」
「なんで!?」
イエローの絶叫が、廃ビルにこだまする。
(まったく話が通じてないぞこれ)
スーツの中で、俺は静かに息を殺す。
こっち見るな。絶対気づいてるだろ、死んだふりって。頼むから空気読んでくれ。
グリーンは穏やかな笑みを浮かべたまま、俺にそっと手を伸ばしてくる。
「起きてください、365番。ああ、でも無理に動かなくて大丈夫です。あなたのことは私が守りますので」
(だから俺、死んだふり...)
周囲の敵戦闘員たちはすでに戸惑いの極地にあり、中ボスですら様子を見て動けずにいる。
「ダメだ、こりゃ……」
イエローは目を伏せ、深くため息をついた。
そして、グリーンが俺をそっと抱き上げた。
死んだふり中の俺は抵抗もできず、ただ抱えられる雑魚モブに成り果てる。
「体温は平常、脈拍も問題ない……ふふっ、安心しました。今日も無事ですね」
「だからなんで敵戦闘員のバイタルチェックしてんの!?」
イエローの叫びを無視し、グリーンはそのまま抱えた俺を、大事そうに胸に収める。
「……連れて帰ります」
「待て待て連れて帰るな!?お前何しにきたの?!まずボス倒そ!?」
イエローが慌てて声を張り上げる。
だがその声が届く前に、グリーンはすでに動いていた。
無駄のない一撃が中ボスの懐へと深く突き刺さり、数秒も経たずに敵は地面に倒れ込む。
「……終わりました」
グリーンは冷静に告げ、俺をしっかり抱え直した。
イエローはぽかんと口を開けたまま、目を丸くしている。
「……は、早っ……」
「では、帰って問題ありませんね?」
グリーンの言葉にイエローが焦って声を荒げる。
「だから帰るなって!!」
イエローが必死に止めるも、グリーンは俺を抱っこしたまま、一歩も動じない。
「365番の安全を確保し、拠点で休ませる必要があります。疲労も見受けられますし」
「疲労もクソもそいつは敵!それ仕事中の敵だよ!?!」
イエローはとうとう諦めたように頭を抱える。
そしてグリーンは、俺を抱っこしたまま、まっすぐ廃ビルの出口へスタスタと歩き出す。
──その時だった。
――ズドォンッ!!!
外で爆発音。建物が揺れ、警報が鳴り響く。そしてグリーンの元へ通信が入る。
『グリーン、緊急事態発生!本部が襲撃された!至急戻れ!』
足を止めたグリーンが、俺を抱えたまま静かに見下ろす。
その目は、いつもと変わらぬ穏やかさで──なのに、背筋がすうっと冷えた。
「……運が悪いですね」
小さく息を吐いて、彼はそっと俺を地面に下ろす。
「残念ですが、今日はここまでです。またすぐに会いに来ます。必ず」
そう言って、名残惜しげに俺に手を伸ばしかけ──しかし、寸前で止める。
そして何事もなかったかのように、踵を返して走り去っていった。
……静かになった空気の中、俺はぼそりと呟く。
「うん……やっぱ正義って、怖ぇわ」
……とはいえ、俺の役目はいつも通り、やられ役。
敵組織ディヴァイアンの“モブ戦闘員”として、ヒーローに吹き飛ばされ、転がって、死んだふりをする。ただそれだけのバイトだ。
俺は全身スーツにマスクを被り、指示通りに配置につく。
聞いた話では、今日現れるのはイエロー一人。
(それが本当なら平和だな)
イエローは比較的まともなタイプだ。戦闘も最小限、流れ作業のように処理して終わる。体感的には、そこそこ当たりの現場。
俺は適当に威圧感っぽいポーズを取りつつ、頭の中では晩飯のことでも考えていた。
「イエロー、現場到着!」
廃ビルの天井を破って、黄色いスーツの男が飛び込んでくる。ヒーローらしい決め台詞と共に。
それを合図に、周囲の戦闘員たちも戦闘モードに入った。
俺も一応、それっぽく構えだけは取っておく。吹き飛ばされる準備くらいはしておかないと。
そう思っていた、次の瞬間。
「グリーン、援護に入ります」
聞き慣れた声が、戦場の空気を一変させた。
(あー……誰か冗談だと言ってくれ……)
すぐさま通信がザワつく。
『グリーン?嘘、編成にいたっけ?』
『え、マジで来るの!?なんで!?』
こっちが聞きたい。スーツの中で、俺は思わず深いため息をついた。
イエローが肩越しに振り返って、困ったように言う。
「グリーン…今日は別任務だったはずだろ~?」
「処理は全て終えました。こちらに365番が入っていると聞いたので」
何を言ってるかは聞こえないが、嫌な予感しかしない。
グリーンが俺のいる方向を一直線に見てくる。というか、他の敵戦闘員は視界に入ってないらしい。
その視線だけで、背筋がうっすら寒くなる。
「また今日も、こんな危険な現場に……。健気ですね」
「お前、敵組織の戦闘員にそういうこと言うのやめろ。混乱するだろ」
グリーンは視線を逸らすことなく、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
身の危険を感じるのでこれ以上近づかないで欲しい。
もはややられ役どころか、現場ストーカー被害の真っ只中である。
(あ、待って、本気でヤバい)
一応中ボスポジションの敵がいるので、こちらに一直線に向かってくるのはやめていただきたい。
まずい予感を察知し、俺はさりげなく近くで起きた爆発のタイミングに乗じて、勢いよく吹き飛ばされたふりをして──倒れた。
瓦礫の陰に転がり、静かに“死んだふり”モードに入る。
(よし、完璧なやられ役。これでスルーしてくれ)
──だが、甘かった。
グリーンの足音が止まり、すぐそばまで近づいてきた気配がする。
「365番、安心してくださいね。私がすぐに助けますから」
(いや、ちょっとまって怖い怖い)
イエローが慌てて間に入る。
「ちょっとグリーンさん~?何しようとしてるのかなぁ?」
イエローが苦笑気味に手を広げて、グリーンの前に立ちはだかる。
「まずはこっちじゃなくてね?中ボスの方が奥にいるから、まずそっちから倒そっか?」
グリーンは一瞬だけイエローを見る。そして、微笑んだ。
「もちろん、後ほど。まずは彼を保護します」
「いや、保護って……それ敵!それ敵側の戦闘員だからな?ね?」
「重傷の可能性もあります。安全を確保し、早急に救護処置を」
「だからそれこっちがやった側ね!?グリーンこっち側の人間だよね!?」
「承知しています。ですが、365番に関しては、例外です」
「なんで!?」
イエローの絶叫が、廃ビルにこだまする。
(まったく話が通じてないぞこれ)
スーツの中で、俺は静かに息を殺す。
こっち見るな。絶対気づいてるだろ、死んだふりって。頼むから空気読んでくれ。
グリーンは穏やかな笑みを浮かべたまま、俺にそっと手を伸ばしてくる。
「起きてください、365番。ああ、でも無理に動かなくて大丈夫です。あなたのことは私が守りますので」
(だから俺、死んだふり...)
周囲の敵戦闘員たちはすでに戸惑いの極地にあり、中ボスですら様子を見て動けずにいる。
「ダメだ、こりゃ……」
イエローは目を伏せ、深くため息をついた。
そして、グリーンが俺をそっと抱き上げた。
死んだふり中の俺は抵抗もできず、ただ抱えられる雑魚モブに成り果てる。
「体温は平常、脈拍も問題ない……ふふっ、安心しました。今日も無事ですね」
「だからなんで敵戦闘員のバイタルチェックしてんの!?」
イエローの叫びを無視し、グリーンはそのまま抱えた俺を、大事そうに胸に収める。
「……連れて帰ります」
「待て待て連れて帰るな!?お前何しにきたの?!まずボス倒そ!?」
イエローが慌てて声を張り上げる。
だがその声が届く前に、グリーンはすでに動いていた。
無駄のない一撃が中ボスの懐へと深く突き刺さり、数秒も経たずに敵は地面に倒れ込む。
「……終わりました」
グリーンは冷静に告げ、俺をしっかり抱え直した。
イエローはぽかんと口を開けたまま、目を丸くしている。
「……は、早っ……」
「では、帰って問題ありませんね?」
グリーンの言葉にイエローが焦って声を荒げる。
「だから帰るなって!!」
イエローが必死に止めるも、グリーンは俺を抱っこしたまま、一歩も動じない。
「365番の安全を確保し、拠点で休ませる必要があります。疲労も見受けられますし」
「疲労もクソもそいつは敵!それ仕事中の敵だよ!?!」
イエローはとうとう諦めたように頭を抱える。
そしてグリーンは、俺を抱っこしたまま、まっすぐ廃ビルの出口へスタスタと歩き出す。
──その時だった。
――ズドォンッ!!!
外で爆発音。建物が揺れ、警報が鳴り響く。そしてグリーンの元へ通信が入る。
『グリーン、緊急事態発生!本部が襲撃された!至急戻れ!』
足を止めたグリーンが、俺を抱えたまま静かに見下ろす。
その目は、いつもと変わらぬ穏やかさで──なのに、背筋がすうっと冷えた。
「……運が悪いですね」
小さく息を吐いて、彼はそっと俺を地面に下ろす。
「残念ですが、今日はここまでです。またすぐに会いに来ます。必ず」
そう言って、名残惜しげに俺に手を伸ばしかけ──しかし、寸前で止める。
そして何事もなかったかのように、踵を返して走り去っていった。
……静かになった空気の中、俺はぼそりと呟く。
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