7 / 71
幹部、接触
しおりを挟む
ディヴァイアン本拠地にて。
「……なんか最近、やけにスムーズなんだよなぁ、ここ」
「たしかに。今朝の搬入も早かったし、倉庫の物資も一目で把握できる。誰がこんな管理してんだ?」
「さあな。バイトに、ひとり要領のいいやつがいるって噂は聞いたけどな」
そんな雑談が交わされる中、ふと足を止めた1人の男。
(……ふむ)
耳に残ったのは、名前でも番号でもない。ただ「妙に有能な奴がいる」という、ぼんやりした噂。
(記録にないということは──見落としか、それとも意図的に埋もれているか)
興味がわいた。
ディヴァイアン幹部《クロウ》──組織において情報と戦略を司る男にとって、無記名の存在などあってはならない。
クロウは手元の端末をスリープさせ、無言のまま倉庫管理エリアへと足を向けた。
現場は静かで、整っていた。
廃倉庫らしからぬ秩序。旧式の棚にはきちんとラベルが貼られ、物資リストと現物はぴたりと一致。紙の帳簿とデータが揃っているのは、地上アジトではありえない精度だ。
──そして、ひとり。
脚立に乗って棚を整理している青年。作業服姿で地味だが、その動きは妙に洗練されている。誰にも注目されないことを前提に、最短手順だけで効率よく動く職人のような──。
(……こいつか)
クロウは静かに声をかけた。
「おい、そこの君」
脚立の上で動いていた青年──吉川トオル、通称365番は、声に気づいて静かに振り返った。
黒スーツに銀縁眼鏡。場違いなほど整った男が、こちらをじっと見ていた。
(うわ、偉そうな人来た……)
やや警戒しながらも、トオルは答える。
「……はい。なにか?」
「棚の整理。誰かに頼まれたのか?」
「あー、頼まれたというか‥気になって、つい」
「“つい”ね。……見事な習性だ」
皮肉かと思ったが、口調はただの観察。感情の温度を感じさせない目だ。
「今朝の搬入も、お前がチェックしたか?」
「あー……たぶん、俺が最後だったと思います」
「助かった。集計が三十分短縮された。続けてくれ」
「……はあ」
それだけ言い残し、男はすっと背を向けて去っていった。
(……なんだったんだ、あの人)
トオルが首をひねるその頃、少し離れた通路の影で、クロウは誰にも聞こえないように微かに笑った。
(名前も知られていない、“ただのバイト”──これは面白い)
***
倉庫裏の通用口を出て、トオルは小さく伸びをした。
今日も何事もなく終わっ──
「……お疲れさまです、トオルさん」
「うわっ……またいる……」
「ええ、当然です」
「それが怖ぇんだよ……」
街灯の陰から、例の男──グリーンが現れた。
仮面は外している。だがその微笑みの奥には、妙な緊張感が宿っている。
「……今日、倉庫で男に声をかけられてましたね」
「え?ああ。なんかスーツの偉い人が──」
「知っています」
即答だった。
無駄のない返事に、背中がひやりとする。
「……見てたのか?」
「あなたに関わることを、私が見逃すわけないでしょう?」
いやいやいや怖い。
“見てた”じゃない、“監視してる”だろこれ。
「今日は、ほんの12分だけ遅れました。くだらない会議に拘束されていなければ…まあ、今後は同じことが起きないよう、調整は済ませました」
「調整……?」
「ええ。今後、誰かにあなたへの接触を妨げられることはありません。ちゃんと“整えました”ので」
「……なにをどう整えたの」
「なにもしていませんよ。まだ」
にこり、と微笑む。
その笑みは穏やかだが、異常なほど冷たい。
「私が全部処理しますから、安心してください」
──いや、全部ってなに。
「今日は歩いて帰るんですよね? ご一緒します」
「え、いや、ひとりで──」
「ダメです。あなたが“無事に”帰るのを、この目で見届けないと、僕が安心できませんから」
(……俺、いつの間にそんな重要人物になったんだよ)
隣に並ぶグリーンは、一定の距離を保ちつつも、視線は逸らさない。
それがもう慣れてしまった自分に、ちょっとだけゾッとした。
“普通のバイト”で、“普通の一日”のはずなのに。
俺の“普通”は、いつからこんなになってたんだろう──。
「……なんか最近、やけにスムーズなんだよなぁ、ここ」
「たしかに。今朝の搬入も早かったし、倉庫の物資も一目で把握できる。誰がこんな管理してんだ?」
「さあな。バイトに、ひとり要領のいいやつがいるって噂は聞いたけどな」
そんな雑談が交わされる中、ふと足を止めた1人の男。
(……ふむ)
耳に残ったのは、名前でも番号でもない。ただ「妙に有能な奴がいる」という、ぼんやりした噂。
(記録にないということは──見落としか、それとも意図的に埋もれているか)
興味がわいた。
ディヴァイアン幹部《クロウ》──組織において情報と戦略を司る男にとって、無記名の存在などあってはならない。
クロウは手元の端末をスリープさせ、無言のまま倉庫管理エリアへと足を向けた。
現場は静かで、整っていた。
廃倉庫らしからぬ秩序。旧式の棚にはきちんとラベルが貼られ、物資リストと現物はぴたりと一致。紙の帳簿とデータが揃っているのは、地上アジトではありえない精度だ。
──そして、ひとり。
脚立に乗って棚を整理している青年。作業服姿で地味だが、その動きは妙に洗練されている。誰にも注目されないことを前提に、最短手順だけで効率よく動く職人のような──。
(……こいつか)
クロウは静かに声をかけた。
「おい、そこの君」
脚立の上で動いていた青年──吉川トオル、通称365番は、声に気づいて静かに振り返った。
黒スーツに銀縁眼鏡。場違いなほど整った男が、こちらをじっと見ていた。
(うわ、偉そうな人来た……)
やや警戒しながらも、トオルは答える。
「……はい。なにか?」
「棚の整理。誰かに頼まれたのか?」
「あー、頼まれたというか‥気になって、つい」
「“つい”ね。……見事な習性だ」
皮肉かと思ったが、口調はただの観察。感情の温度を感じさせない目だ。
「今朝の搬入も、お前がチェックしたか?」
「あー……たぶん、俺が最後だったと思います」
「助かった。集計が三十分短縮された。続けてくれ」
「……はあ」
それだけ言い残し、男はすっと背を向けて去っていった。
(……なんだったんだ、あの人)
トオルが首をひねるその頃、少し離れた通路の影で、クロウは誰にも聞こえないように微かに笑った。
(名前も知られていない、“ただのバイト”──これは面白い)
***
倉庫裏の通用口を出て、トオルは小さく伸びをした。
今日も何事もなく終わっ──
「……お疲れさまです、トオルさん」
「うわっ……またいる……」
「ええ、当然です」
「それが怖ぇんだよ……」
街灯の陰から、例の男──グリーンが現れた。
仮面は外している。だがその微笑みの奥には、妙な緊張感が宿っている。
「……今日、倉庫で男に声をかけられてましたね」
「え?ああ。なんかスーツの偉い人が──」
「知っています」
即答だった。
無駄のない返事に、背中がひやりとする。
「……見てたのか?」
「あなたに関わることを、私が見逃すわけないでしょう?」
いやいやいや怖い。
“見てた”じゃない、“監視してる”だろこれ。
「今日は、ほんの12分だけ遅れました。くだらない会議に拘束されていなければ…まあ、今後は同じことが起きないよう、調整は済ませました」
「調整……?」
「ええ。今後、誰かにあなたへの接触を妨げられることはありません。ちゃんと“整えました”ので」
「……なにをどう整えたの」
「なにもしていませんよ。まだ」
にこり、と微笑む。
その笑みは穏やかだが、異常なほど冷たい。
「私が全部処理しますから、安心してください」
──いや、全部ってなに。
「今日は歩いて帰るんですよね? ご一緒します」
「え、いや、ひとりで──」
「ダメです。あなたが“無事に”帰るのを、この目で見届けないと、僕が安心できませんから」
(……俺、いつの間にそんな重要人物になったんだよ)
隣に並ぶグリーンは、一定の距離を保ちつつも、視線は逸らさない。
それがもう慣れてしまった自分に、ちょっとだけゾッとした。
“普通のバイト”で、“普通の一日”のはずなのに。
俺の“普通”は、いつからこんなになってたんだろう──。
768
あなたにおすすめの小説
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる