正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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拗れてませんか1

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最近ちょっと疲れが溜まっていたのか、なにをするわけでもなくダラダラとソファに沈み込み、スマホをぼんやり眺めながら、何となく時間を溶かしていた。

そんな時、ふと目に飛び込んできた広告。

【テレビで話題沸騰のスイーツ!出張販売スタッフ募集中】

……話題沸騰のスイーツ。いい響きだ。もともと甘いものには目がない。気になってタップしてみると、短期で日給も高め。制服貸与、しかも余ったスイーツがもらえることもあるらしい──。

これはもう、応募するしかないだろ。



そうして俺は今、某高級ビルの前でスイーツの出張販売バイトに立っている。有名店のフルーツたっぷりのロールケーキは、めちゃくちゃ美味しそうだ。

白いシャツにエプロン、帽子までかぶって、見た目は完全に“それっぽい”。似合ってるかどうかは別として。俺の担当はスイーツを並べることで、接客は隣の社員っぽい人がしてくれている。

「わ~、おいしそう!」
「SNSで見て気になってて!」
「これ、限定なんですか?一人何個までOK?」

次々に人が集まり、列が伸びていく。……やっぱり、テレビで紹介された影響って絶大だな。

そんな中、ふと鋭い視線を感じて顔を上げる。目が合った。

黒いスーツに、銀縁の眼鏡の綺麗な顔立ちの男。ただ立っているだけなのに、その男だけ空気が違って見えた。きっちりと仕立てられた服はどこか戦闘服のようで、まるで街中にいるはずのない存在が紛れ込んだかのような違和感。

……どこかで見たことがある気がする。けれど、すぐに思い出せない。

男は、まっすぐ俺を見ていた。微動だにせず、ただ確実に。

だがその男は、スイーツの列に並んでいた。
まるでこの場に溶け込む気などない風貌のまま、無言で、しかし確実に順番を待っている。何か言いたげにこちらを見てくるが──いや、見てくるどころじゃない。あれはもう凝視だ。こっちは心当たりもないし、できればやめてほしい。というか、そこまで見つめられても困るんだが。

とはいえ、男は大人しく並び続け、やがて順番が来ると、ロールケーキを3本、淡々と購入した。
会計を済ませると、そのまま列を離れ、まっすぐ俺の前へと歩み寄ってくる。

「……お前、ここで何をしている」

低く、抑えた声が静かに落ちた。俺は思わず肩をすくめながら、さらっと答える。

「……バイトですけど?」

男は何も言わず、じっと俺を見つめた。
その視線は、目の前の現実を理解しきれていないような──まるで何かを見誤ったかのような、そんな色をしていた。

やがて、少しだけ声を落としてぽつりと言う。

「……ディヴァイアンのバイトには来ないのか」

その言葉に、今度は俺のほうが思考を止めた。

……ああ。
この顔、どこかで見たことあると思ったら。以前、倉庫整理で顔を合わせたあの時の奴か。たしかに、似ている。

「まぁ、そのうち……」

しばらく行く予定はないが、きっぱり断るのも角が立ちそうだったので、適当に濁す。本音を言えば、甘い匂いに包まれて、平和にやってる今のほうが、よっぽど性に合っている。

だが男は、わずかに声を低くして問い返してきた。

「そのうちとは、いつだ?」

……なんだその詰め方。

「あー……また要請とか来たら、そのときに考えますかね」

完全に会話が終わったと思っていたのに、やけに食い下がってくる。
なんだ?どういう返事を期待してるんだ、こいつは。

もう会話は終わったはずなのに、男はまるで何かを確かめるように俺を見つめたままだ。

──その空気を、ぱちんと弾くように、明るい声が割って入った。

「はーい!そこ、ちょっとストーップ!」

現れたのは、ふわふわの薄ピンク色の髪を揺らした女性。整った顔立ちに、妙に通る声。

「ここは人がたくさんいる公共の場……あまり“個人的な執着”みたいな空気は、控えましょ?」

そう言ってにこやかに微笑む彼女の声とは裏腹に、男の眼差しは鋭く、どこまでも冷静だった。真正面から銀縁眼鏡の男を見据える彼女の視線に、一切の恐れはない。

……この空気を纏う相手に、怯むどころかきっぱりと意見を通すなんて。この人、ただ者じゃないな。スタッフ……って感じでもないか。手にはロールケーキの箱…。ってことは、やっぱり客か。

「それにしても、今しかここで買えないスイーツに並ぶなんて……意外と可愛いところ、あるんですね。もしかして、誰かへのプレゼント?」

「……上からの指示だ」

「へぇ~?でも、こちらに来るのって完全にプライベートですよね?お互いですけど」

「……ああ」

わずかに間があいて、男は短く答える。言葉にした以上の、何か無言の了解がその一言に含まれている気がした。ここでは争わない――そんな暗黙の取り決めでもあるかのような空気。まるで、今だけは“戦い”を脇に置くことが当然であるかのように、二人は自然に振る舞っていた。

……なんなんだ、この人たち。

彼女はふいに俺のほうへ視線を向けた。じっと何かを測るような、深い目。

「この方とは……お知り合いですか?」

その一言に、俺の手がぴたりと止まりかけた。
探られている。けれど、何を?

「え? あ、いや……別に……」

戸惑いながら答えると、男のほうが驚いたようにこちらを見た。“え、違うのか?”とでも言いたげな顔。いや、こっちだって聞きたいくらいだ――俺たちって、知り合いなんだろうか?

「そうですか…。彼、仕事中なんですから邪魔しちゃだめですよ、クロウさん」

「…お前には関係ないだろう」

クロウ。その名前に、胸の奥が少しざわつく。どこかで聞いたような……。

……まさか。あの部屋の――書類が山積みだった、例の部屋の主。確か、かなり上の立場の人だったような……。思い出すと同時に、じわりと額に汗がにじんだ。同名なだけかもしれないし、確証はない。

とはいえ、俺は今バイト中で、立ち止まって話していられる状況じゃない。ロールケーキの補充に追われながら、手を動かしている“つもり”なのに、二人はまったく動く気配がない。
誰か助け舟でも出してくれないかと思ったが、社員らしき人はレジ対応に手一杯らしく、こちらに目もくれない。

……いや、この状況、どうすれば正解なんだ。

「敵の幹部、クロウに目をつけられる一般人……なにそれ、いい……」

「……え?」

反射的に聞き返すと、彼女はすっと表情を整えて微笑んだ。

「いえ、なんでもないですよ?」

言葉の間を埋めるように、彼女はふと独り言のようにつぶやく。

「そういえばクロウさん。レッドが、これから12区で出撃らしいですよ。……行かなくていいんですか?」

その言葉は妙に軽く、けれどどこか含みのある調子だった。クロウと呼ばれた男は、ひと呼吸置いてから静かに答えた。

「……なぜ、行く必要がある」

その声音には冷静さが滲んでいたが、同時にかすかな棘も感じられた。俺は手を動かしながらも、無意識にその会話へと意識を向けてしまう。

出撃?行く必要?……いや、今のは、どういう意味合いのやり取りなんだ?

「そうですよねぇ~、無関係ですもんね。きっと」

ピンク髪の彼女は笑顔を崩さずにさらりと言う。だが、その目には何かを見透かすような、あるいは反応を楽しむような光が宿っていた。まるで、仕掛けた“問い”の答えを待つような視線。

そして――さらに畳みかけるように、こう付け加えた。

「でも、そんな態度じゃ……グリーンに取られちゃいますよ?」

男は目を細め、まるで理解ができないといった表情だ。俺もこの女性がなにを言っているのか理解ができない。――聞き間違いか?グリーン?今、そう言ったか?あのグリーン……?取られるって、何が……?

俺はロールケーキを箱に詰める手を一瞬止めかけて――いや、すぐに思い直して作業を続けた。深入りは、しない方がいい。直感的にそう思った。これは踏み込んじゃいけない領域だ。

「え、じゃあ、クロウ×レッドじゃなくて……一般人ってこと?レッドを巡ってグリーンとクロウがライバル関係は……?いやでも、こっちの組み合わせも全然アリね……」

……聞かなかったことにしよう。彼女のつぶやきは、俺には一切届いていない。
そういうことにして、俺はひたすらロールケーキを箱に詰め続けた。
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