正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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拗れてませんか2

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ピンク色の髪を揺らしながら、彼女は何かに気づいたようにふっと微笑んだ。

「……なるほど。これはもう、尊すぎる……」

「……は?」

「ん~ん、なんでもないです♪」

突然テンションを上げた彼女は、ロールケーキの箱をぎゅっと抱きしめ、にやにやと満面の笑みを浮かべる。

「グリーンとレッドの間に壁がなくなっちゃったのは、ちょっと寂しいけど……でも、私、全力で応援してますから!」

まるでグリーンとレッドが恋人で、そこにクロウが割って入る恋のライバル――そんな妄想でも始まっているような勢いだ。

「……お前、何を勘違いしてる」

クロウの冷静なツッコミは至極もっともだった。深くため息をついた彼は、もはや彼女との会話を諦めたのか、視線をこちらへと移す。

「次、いつディヴァイアンに来る予定だ?君が整理してくれた資料、非常に助かった。できれば、またお願いしたい」

「えっ、まさか……ただの一般人じゃなくて部下!?それってもう関係最高…!」

「やかましい」

クロウの一言が、ピシャリと空気を裂いた。冷たくも的確なその言葉に、場が一瞬だけ静まる。

――が、それすら彼女にとっては“追い風”でしかなかったらしい。

むしろ彼女は、一瞬だけ真顔になった。目を伏せ、数秒の沈黙のあと――小さく、こくりと頷く。その様子はまるで、頭の中で物語の“構成”が完成した瞬間のようだった。

「だって関係性が絶妙すぎる……!――って、それは置いといて。今は真面目な話をさせてもらうね」

さっきまで冗談まじりに騒いでいた彼女が、急に俺の前に立ちふさがる。そしてまるで俺を庇うように、真剣な表情で言った。

「幹部様にあんな言い方されたら、断れるわけないじゃない。立場的に逆らえないし、“はい、わかりました”って返すしかないでしょ。だからあんまり、そういう圧のかけ方はよくないよ。やめてあげて」

――その何気ないひと言が、妙に耳に残った。

(……幹部、様……?)

あまりにもさらっと出てきたその言葉に、思考が一瞬でフリーズする。

「……幹部だったんですか?」

「……知らなかったのか?」

クロウは、やや呆れたように眉をひそめた。彼女も、驚いた表情を浮かべているのがわかる。……いや、だって誰も「この人、幹部ですよ」なんて紹介してくれたこと、なかったし。なんとなく偉そうな雰囲気は感じてた。感じてはいたけど、まさかそんな“とんでもなく偉い人”だとは思ってなかった。

ていうか、ただのバイトがなんで幹部に覚えられてんだよ……。もう、できることなら今の会話そのものをなかったことにしたい。

「君さえよければ、私の直属部隊に――」

「あー、すみません。今バイト中なんで…」

クロウの言葉を食い気味に遮り、無理やり話を終わらせる。“バイト中”という都合のいい逃げ道に全力で飛び込む。が、クロウは納得のいかない様子でじっとこちらを見つめてくる。

すると、その空気を察したかのように、スタッフの声が背後からかかった。

「吉川くん、悪いんだけど、倉庫の方手伝ってもらえる?人手が足りないって連絡が入っててさ。こっちは代わりのスタッフ来るみたいだから、大丈夫だよ」

「了解です。……ってことなんで失礼します」

まさに救いの声だった。絶妙すぎるタイミングに、心の中で思わずガッツポーズを決める。助かった――その一言に尽きる。平静を装いつつも、内心ではほっと安堵の息をつきながら、すぐに頷いて返事をし、できるだけ自然な動きでその場を離れる。背後から感じる、じっとした視線。だが、今の自分に振り返る余裕はない。気づかないフリを貫いたまま、足早にその場を後にした。



指定された倉庫の扉を開け、一歩足を踏み入れた瞬間だった。不意に横から伸びてきた手が、俺の腕をぐっと掴み、そのまま力強く引き寄せられる。反動でバランスを崩し、倒れるかと思った――が、次の瞬間、俺の体はしっかりと抱きとめられていた。広くて逞しい胸板。しっかりとした腕の中に、収まっている。

「こんにちは、トオルさん」

「……お前か」

顔を見なくても、もう声だけでわかってしまう。それが少し悔しくて、ため息混じりにそう返すと、俺を抱きとめているグリーンは、どこか満足げに微笑んだ。見上げると、そいつの格好は俺と同じ白シャツにエプロン姿。……また同じバイトに応募してきたのかよ。

「大丈夫でしたか?」

「なにが」

いきなりの問いに、思わず眉をひそめる。すると彼は、真面目な顔のまま言葉を続けた。

「もう少し早く助けに入れればよかったんですが……ちょっと面倒な人がいて。遅れてしまってすみません」

「……ああ? 面倒な人?」

思い浮かぶ顔は二人――さて、どっちのことを指しているのか。

「そうですね……変なこと、吹き込まれてませんでしたか?彼女に」

“彼女”という言い方からして、ピンク髪の子のことだろう。やっぱり知り合いだったか。まあ、確かに色々と変なことは言われた。問題は、それが全部でどれのことを指してるかって話だけど。

「あの子、知り合いか?」

「ええ。チームメイト……とでも言いましょうか。察しがついているとは思いますが、ピンクです」

「あぁ、やっぱり」

「はい。彼女、少し妄想癖がありまして……」

「……たとえば、“お前がレッドを好き”とか?」

その言葉を口にした瞬間、彼――グリーンの笑顔がすっと消えた。一気に空気が冷える。あっ、やばい。どうやら、盛大に地雷を踏んだらしい。

「まさか、トオルさんにこれだけ“好き”をアピールしているのに、勘違いされたんじゃありませんよね?」

声は穏やかなのに、込められた圧が強すぎる。静かに、確実に、逃げ場を塞がれていくような感覚。気づけば、抱きしめる腕の力が強くなっていた。まるで、逃げようとするのを見越しているかのように。

「お、おい……落ち着けって。勘違いしてねぇから」

「ねえ、トオルさん……俺が、こうしてあなたに触れるたび、どれだけ我慢してるか……わかってますか? どれだけずっと、あなたを欲しがってるか……気づいてないんですか?」

「……っ!」

低く囁かれたその言葉に、思わず息が詰まる。次の瞬間、グリーンの手が腰に滑り込み、指先が服越しにゆっくりと這う。その動きはまるで、俺の輪郭を一つひとつ確かめるようで――無意識に、身体がピクリと反応してしまった。

「ほら……熱くなってる。もしかして、触れられるの、期待してました?」

その声音は甘く、耳の奥にじんと響く。けれど、その手の動きはあまりに巧妙で――まるで優しさを装った罠。逃げ場を封じるようにぴたりと身体を寄せ、腰のラインを密着させてくる。

重なった布の下から伝わる体温が、じわじわと全身に絡みつくようで……逃げ出したいのに、足が動かない。

「今さら“気づかなかった”なんて、言わせませんよ?」

首筋をすべる指先が顎をそっと持ち上げる。視線が絡み合う。唇の距離は、あとわずか――息をすれば、互いの吐息が触れ合うほどの至近。触れようと思えば、すぐにでも届く――そんな間。

「逃げないんですか?このままだと……キス、されちゃいますよ?」

緊迫した空気の中で、トオルはわずかに息を漏らし、低く静かに応じた。

「……しねぇだろ。無理やりは」

静かに放たれたその一言に、グリーンの表情がわずかに揺れた。図星を刺されたような、でもどこか嬉しそうな――そんな顔。

「……参りましたね」

囁くように言って、グリーンは腕の力をゆるめる。拘束ではなく、包むような抱擁へと変わる。

「できれば彼女と会わせたくなかったんですけどね…。やっぱりトオルさんに余計なこと吹き込んだ…」

「あぁ?別に真に受けてねぇし」

素っ気なく返すと、グリーンはわずかに唇を尖らせた。納得がいかないのか、小さく溜め息をつく。

「……それでも、嫌なものは嫌なんです。まさか、あんな形で接触されるとは思ってなくて……。表立って助けることもできず、呼び出すのが精一杯でした」

――なるほど、だからあのタイミングだったのか。妙に都合がいいと思ったら……やっぱり、お前の仕込みだったんだな。
普段は冷静で、完璧すぎて腹立たしいくらいの彼が――今は、どこか拗ねた子どものようだった。眉を寄せ、不機嫌さを隠そうともしない。初めてみたその姿が、妙に可愛く思えてしまい、気づけば手が勝手に動いていた。ぽんぽん、と彼の頭に撫でるように触れると、グリーンの腕の力がふっと抜けた。

「……ちょ、トオルさん?今、何を?」

驚いたように眉を跳ね上げる。俺はその隙を逃さず、するりと腕を抜け出し、素早く二歩、後ろへ下がった。

「さあな」

肩を軽くすくめて答えると、彼は目をぱちくりとさせ、一瞬だけ呆けた顔を見せた。けれどすぐに視線を戻し、じとりとした目つきでこちらを見つめてくる。隠しきれない動揺――それが、なぜだか妙に可笑しくて、笑いがこみ上げそうになる。

「……トオルさん、もう一回撫でてもらってもいいですか?というか、今度は僕が撫でる番でもいいと思うんですけど」

「……お前な、仕事しに来たんだろ。とっとと始めるぞ」

軽くあしらって仕事に意識を戻すよう促すと、グリーンは肩をすくめてから、小さくため息をついた。

「……トオルさんは、どこまで私を振り回せば満足なんですかね。……まあ、そこも好きなんですけど」

「はいはい」

「ちなみに、売り切れた時のためにロールケーキは買ってありますので、ご安心を」

……お前は、そういうとこだけはブレねぇな。うん、もう驚かねぇわ。

「それと、彼女の言っていたこと、くれぐれも誤解されないようにお願いしますね。彼女の中では、イエローとブルーも付き合ってることになってますので」

「…付き合ってんのか」

「いいえ」

……こじらせすぎだろ、それ。
キャラが濃すぎる正義のヒーローたちに呆れつつ、最近じゃ、そんな連中にも普通に対応できてる自分が、正直一番怖い――そんな今日この頃だった。
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