夏から始まる

神崎

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血の繋がり

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 夏休みがそろそろ終わる頃。新学期の用意に追われた啓介は、一旦、美香子の実家に帰ってきた。芽依子は目が開いたが、開けばさらに似ていないと思う。
 だが美香子は自分ばかりに似て、とわざとらしい受け答えをしていた。彼女の隠す恋人のことは少しも口にしない。
 その日、両親は息子を連れてプールへ行っているらしい。買ってきたアイスを、冷凍庫に入れて娘のところへ向かった。
「雪弥の足はいいのか。」
「思ったよりも大したこと無かったみたい。もう普通に歩けたから、プールなんですって。」
「……美香子。」
 今日がチャンスだ。芽依子から視線をはずし、お茶を入れている美香子をみる。
「どうしたの?」
「……DNA鑑定しないか。」
「え?」
 驚いて啓介をみる。予想外のことだったからだ。
「必要ないよ。啓介の子供じゃない。」
「……似てないよ。それどころか、この国の人でもないように思える。雪弥もそうだ。あいつの目、少し緑がかっているの気がついていたか?」
 手が震える。数学の教師だと言って、そんなことは専門外だと思っていたのに。
「啓介の子供じゃなければ、どうするの?別れる?今更?芽依子が生まれたあとに、マンション買おうって言ってたじゃない。部屋を見て、ここが良いって目星も付けてたじゃない。何で今更……。」
「自分の子供だったらそれも良いと思ったんだ。」
「……自分の子供じゃないって思えるの?自分の女には子供がいないから、あたしだけ悪者にしたいとか思ってる?」
「俺の女?」
「教え子でしょ?手を出すなんて最低ね。」
 啓介は立ち上がると、ダイニングテーブルにおかれているお茶に手を伸ばす。喉がからからだ。
「……この際、DNA鑑定なんてどうでも良い。俺だって世の中から見れば、教え子と不倫して身重の妻を捨てる最低な夫だ。」
「……。」
「でも、それは俺の子供だったらの話だ。」
 一気に麦茶を飲み、そのグラスをキッチンに持ってくる。
「それをはっきりさせるために必要だ。」
「……アニクには結婚の意志はないの。あっちにも向こうに帰れば、婚約者がいるんだから。」
「大して変わらないな。君も。」
「あたしは……。」
「後は弁護士に頼むから。あと、君の荷物は色んなことが決まってから移動させた方がいいだろう?」
「……。」
「俺も最低な男だが、君もたいがいだ。それを忘れないようにしてくれ。」
 そう言って啓介は部屋を出ていった。そして車に乗り込むと、息を着く。
 これで良い。これで美香子は次の階段を上ることが出来るだろう。

 日が暮れると同時に、啓介は明るすぎるその通りを通っていた。ピンク色の看板と、電飾が夜なのに昼のような明るさを保っている。
 呼び込みの男が啓介の手を引こうとするが啓介はそれを振り払うと、そのヘルスの上の階へあがっていった。三階の一番端。その部屋のドアのチャイムを鳴らすと、梅子が出てきた。
「梅子。」
 ドアを閉めると同時に、梅子は啓介の体に体を寄せる。
「一日でも会えないと、寂しくてたまらない。」
「俺もだよ。」
「わかる?抱きしめられてるだけで、乳首が立ってる。」
「下着を付けてないのか?」
「窮屈だもん。外に出るときは付けるけど。」
「浴衣を着てたときは付けてなかったようだけどな。」
「浴衣は付けるとおかしくなるから。」
 軽くキスをして、シャツ越しに胸に触れた。すると確かにシャツの下には堅くとがったものが指に触れる。
「……どうした。こんなに堅くさせて。」
「やらしい指。あっ……そんなにいじらないで。」
 徐々に赤くなる頬に、啓介は梅子を抱き抱えると部屋へ向かっていった。
 ベッドに寝かせると唇にキスをする。音をさせて、舌を舐め回した。
「……ん……んんっ……。」
 シャツを脱がすと、大きな胸がはじけるように出てきた。そしてその先にある乳首はもう摘んで欲しいと尖っているように見える。

 何度もセックスをしているが、ここ最近、啓介はコンドームを使うようになった。初めてしたときもコンドームを使わずに中で出していたのに、今は最初から最後までずっとゴムを使っているのだ。
 何の弾みで子供が出来るのを恐れているからかもしれない。それが嫌というわけではないし、むしろ大切にされているのだと思う。だがおそらく梅子が母の前で言ったことを気にしているのだ。
「啓介の子供を産む。」
 今妊娠すれば、間違いなく卒業の頃には妊婦の姿で卒業することになるだろう。梅子はそれで良いかもしれないが、啓介はそうはいかない。今の状態だって世の中的にはアウトでありクビになる理由としては十分だったからだ。
「啓介。何で生でしてくれなくなったの?」
 車まで行くと、梅子は外に着いてきた。外に出るときは、下着を付けるという宣言通り、白いシャツから少し黒の下着が透けている。それがかえって嫌らしい。
「あたし、まだピル飲んでるから生でしても出来ないよ?」
「知ってる。」
「だったらあたし、啓介を感じたいから。今度は生でして。」
 すると啓介は困ったように、梅子の頭を撫でた。
「梅子。」
 公園を横切って行こうとしたとき、ふと梅子は見覚えのある人に目を向けた。それは蓮のように見える。
「……。」
「どうした。」
 蓮は隣にある酒屋から酒を手にして、店に戻っていこうとしていた。だが蓮も二人に目を留めたようだった。
「……。」
 だが何もいわずに、蓮は店に戻っていく。
「梅子。ここで立ち止まらないで欲しい。」
「え?」
「あの酒屋は俺の実家でね。知られたらまずい。」
 兄である京介には、事実を伝えた。京介は「仕方ない」と言ってくれたが、おそらく父親は理解してくれないだろう。
 離婚が成立したら、父親には改めて報告へ行くことにしよう。何せ、父親もまた母親が愛想つかせて出て行ったのだから。
「ごめんね。その酒屋の隣にバーがあるの。」
「あぁ。ライブハウスだな。結構新しいが、流行ってるな。」
「そこの人、菊子の彼氏だから。」
「永澤にそういう恋人がいるとは、ちょっと意外だな。」
「かっこいいよ。」
「何だ。俺よりもか?」
「バカね。」
 何度もセックスしたのに、また入れ込みたくなる。大きめのシャツを脱がせて、そのショートパンツを脱がせたい。
 血の繋がりのない子供を産んだ妻よりも、今は梅子を大事にしたかった。
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