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変化
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いつからだったのだろう、婚約者で王太子であるリール・オールソン殿下が変わってしまったのは。優しいところは変わらなかったが、成長するに連れ、欲深さが勝り、素直さというものは失われてしまうものなのだろうか。
「エスコートは終わった、君は好きにしててくれ」
殿下は自分の色を彩った、麗しい子爵令嬢エマ・ネイリーの腰を抱いている。私へドレスは贈られることはなくなり、嫌々ながらのエスコートのみ。名前もサリーではなく、君と呼ぶようになった。
確かにエマは長身で美しく、前に男装をした際によく似合っていたことから、影で男装の麗人とも呼ばれ、ファンもいるという。そして王太子殿下と対のような二人だと、二人のファンもいるそうだ。性格も慎ましく評判もいいと聞く。
もう父の耳にも入っているだろう。また怒られるのであろう。どうして繋ぎ止められなかったのかと、毎度怒られるのはなぜ私なのだろうか。魅力の出し方を知っているのならば、教えてから言って欲しい。
月に一度のお茶会が、三ヶ月に一度、それもキャンセルになってからは、開かれてもいない。贈り物、手紙もなくなり、誕生日も忘れられたようだ。そして子爵令嬢と親しい間柄になっているという噂、噂ではなくなっているという事実、もう必要以上に話すこともなくなった。
「そんなにお忙しいのですか」
「彼女とはどういう関係なのですか」
始めは私も何か事情があるのだと思って問いかけたが、『話す必要はない』と言われてしまい、腕に触れようとすることすら振り払われ、もう心はすり減った。
いつものお悔やみを言いに来る令嬢がやってくる前に帰ろう、リールの従者に先に帰ると伝えて貰うように頼み、私は夜会を後することにした。
馬車まで歩いていると手を引っ張られ、リールかと少し期待したが、どうやら酔っぱらっている男性だった。強い力で引っ張られて、人気のないところに行こうとしているようだったが、突き飛ばしてとにかく走った。腕には強く握られた痕がくっきり残っていた。なぜ期待してしまったのだろうか。
馬車まで行くと息が切れていて、心臓がバクバクしていた。大丈夫ですかと声を掛けてくれてほっとした。馬車に揺られながら、私は何のために着飾り、今日出席しなければならなかったのだろうか。
婚約破棄、今日にでも高らかに宣言でもされるのではないかと思っていた。
いくら流行の物語でも、実際は人前でされるのだけは避けたい。どんな顔をすればいいのか分からない。
前の殿下ならそんなことは絶対にしないが、今はもう分からない。晒し者にされるかもしれない。そんなことを待たないといけないのか、私はそれほどの罪深いことを何かしたのだろうか。
「サリー・ペルガメント、婚約を破棄する」
いずれこの言葉を聞くこととなるのだろう。
学園でも取り巻く環境は同じだった。王太子妃教育で忙しくしていたため、話す相手はいても、親しいと呼べる友人は出来なかった。
わざとか偶然か分からないが、ぶつかって転び、足を痛めてしまった。気付いた時には相手の姿は見えなかった。邪魔者という声が聞こえたので、おそらくエマのファンの仕業だろう。これを理由に学園も休めばいいと思った。
「婚約はどうなりましたか」
「どういう意味だ」
「婚約破棄という話はでていないのですか」
「あの令嬢か」
「ええ、なるべく静かに破棄していただきたいのですが」
「こちらからは何も言えん」
「でしたら療養ということで領地に行かせてもらえませんか」
「ああ、好きにしろ」
結婚前の王太子妃教育は既に終わっており、両親は王太子妃になるという娘にしか興味がない。
サリーは侍女と領地に向かい、勉強や本を読みながら穏やかに過ごした。エマは優秀だとも聞くので、爵位が足りなければ養子にでも入り、王太子妃になればいい。最初は強がり半分、投げやり半分だったが、今は本当にそう思えている。物理的に離れることの大事さを痛感した。
サリーは思い返していた。至らぬ点があったとしても、完璧な人間などいない。どうして他人に干渉される人生なのだろうと、リールの態度が変わって、令嬢たちの嫌味は嫉妬から蔑むことに変わった。
「リール殿下はどちらですの?」
「またおひとりですの?」
「ついに飽きられたのですね」
「これまで構えて貰って良かったではありませんか」
「爵位の下の者に奪われるなんて私なら恥ずかしくてもう外を歩けませんわ」
「優秀な方を選んだということは無能だと言われているようなものですわね」
「何も勝てないなんて情けないですわね」
「身の振り方を考えては?」
確かに身の振り方は考えなくてはならないが、あれだけ派手に連れまわしているのだから、修道院に入るお金くらい慰謝料は出るだろう。
「エスコートは終わった、君は好きにしててくれ」
殿下は自分の色を彩った、麗しい子爵令嬢エマ・ネイリーの腰を抱いている。私へドレスは贈られることはなくなり、嫌々ながらのエスコートのみ。名前もサリーではなく、君と呼ぶようになった。
確かにエマは長身で美しく、前に男装をした際によく似合っていたことから、影で男装の麗人とも呼ばれ、ファンもいるという。そして王太子殿下と対のような二人だと、二人のファンもいるそうだ。性格も慎ましく評判もいいと聞く。
もう父の耳にも入っているだろう。また怒られるのであろう。どうして繋ぎ止められなかったのかと、毎度怒られるのはなぜ私なのだろうか。魅力の出し方を知っているのならば、教えてから言って欲しい。
月に一度のお茶会が、三ヶ月に一度、それもキャンセルになってからは、開かれてもいない。贈り物、手紙もなくなり、誕生日も忘れられたようだ。そして子爵令嬢と親しい間柄になっているという噂、噂ではなくなっているという事実、もう必要以上に話すこともなくなった。
「そんなにお忙しいのですか」
「彼女とはどういう関係なのですか」
始めは私も何か事情があるのだと思って問いかけたが、『話す必要はない』と言われてしまい、腕に触れようとすることすら振り払われ、もう心はすり減った。
いつものお悔やみを言いに来る令嬢がやってくる前に帰ろう、リールの従者に先に帰ると伝えて貰うように頼み、私は夜会を後することにした。
馬車まで歩いていると手を引っ張られ、リールかと少し期待したが、どうやら酔っぱらっている男性だった。強い力で引っ張られて、人気のないところに行こうとしているようだったが、突き飛ばしてとにかく走った。腕には強く握られた痕がくっきり残っていた。なぜ期待してしまったのだろうか。
馬車まで行くと息が切れていて、心臓がバクバクしていた。大丈夫ですかと声を掛けてくれてほっとした。馬車に揺られながら、私は何のために着飾り、今日出席しなければならなかったのだろうか。
婚約破棄、今日にでも高らかに宣言でもされるのではないかと思っていた。
いくら流行の物語でも、実際は人前でされるのだけは避けたい。どんな顔をすればいいのか分からない。
前の殿下ならそんなことは絶対にしないが、今はもう分からない。晒し者にされるかもしれない。そんなことを待たないといけないのか、私はそれほどの罪深いことを何かしたのだろうか。
「サリー・ペルガメント、婚約を破棄する」
いずれこの言葉を聞くこととなるのだろう。
学園でも取り巻く環境は同じだった。王太子妃教育で忙しくしていたため、話す相手はいても、親しいと呼べる友人は出来なかった。
わざとか偶然か分からないが、ぶつかって転び、足を痛めてしまった。気付いた時には相手の姿は見えなかった。邪魔者という声が聞こえたので、おそらくエマのファンの仕業だろう。これを理由に学園も休めばいいと思った。
「婚約はどうなりましたか」
「どういう意味だ」
「婚約破棄という話はでていないのですか」
「あの令嬢か」
「ええ、なるべく静かに破棄していただきたいのですが」
「こちらからは何も言えん」
「でしたら療養ということで領地に行かせてもらえませんか」
「ああ、好きにしろ」
結婚前の王太子妃教育は既に終わっており、両親は王太子妃になるという娘にしか興味がない。
サリーは侍女と領地に向かい、勉強や本を読みながら穏やかに過ごした。エマは優秀だとも聞くので、爵位が足りなければ養子にでも入り、王太子妃になればいい。最初は強がり半分、投げやり半分だったが、今は本当にそう思えている。物理的に離れることの大事さを痛感した。
サリーは思い返していた。至らぬ点があったとしても、完璧な人間などいない。どうして他人に干渉される人生なのだろうと、リールの態度が変わって、令嬢たちの嫌味は嫉妬から蔑むことに変わった。
「リール殿下はどちらですの?」
「またおひとりですの?」
「ついに飽きられたのですね」
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「爵位の下の者に奪われるなんて私なら恥ずかしくてもう外を歩けませんわ」
「優秀な方を選んだということは無能だと言われているようなものですわね」
「何も勝てないなんて情けないですわね」
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