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「ティファナ先生は語学力で、正妃にはなれなかったと思いますよ。側妃も正直、表に出せば気付けたはずです」
「嘘よ」
「話す方が苦手なんですよ、本人も自覚していると思います。正妃でも側妃でも話す方が優先ですよね?」
側妃も試験があるように、正妃にも試験はある。婚約者がいない王太子は、語学力に優れ、希望する者に試験を受けさせる場合と、サリーのように幼い頃に婚約者とする場合がある。サリーは物覚えが良いことで、父親が売り込んだ結果である。
サリーは婚約者になってから、正妃の試験を受けて合格はしているが、六歳の時に婚約者に選ばれているので、皆で競い合う、比べるということを味わったことがなかった。比べる相手がいなかったとも言えるのだが、サリーは知らない。
「えっ、でも三ヶ国語出来るはずよ。話すのを聞いたこともあるわ」
王妃は何度もティファナが流暢に話す姿を見ている。ティファナの方が相応しかったのではないかと陰口を聞いたのも一度や二度ではない。
「何と言えばよいのでしょうか、王妃様の話す言葉と、ティファナ先生が話す言葉を並べると分かります」
「ん?サリー、もう少し簡単に」
「ティファナ先生は決められたような会話しか出来ないと言えば分かりますか」
「そんなはずは」
「急に話し掛けられたり、想定外のことを聞かれると、途端に出て来なくなるのです。王妃様はずっと聞いていたことがありますか?」
「いえ、あまりないわね。そっと離れてしまっていたから」
ティファナが話し掛けられて、話し始めると、見たくないため、比べられたくないとその場から去っていたのだ。
「もし長い時間、話すのを聞いていたら、どこかで気付けたと思いますよ。あと発音も元々不安定で、さらに咄嗟のことになると乱れます。致命的でしょう?」
「授業でもか?」
「いいえ、自覚があると言いましたでしょう。発音はネイティブの先生に教えて貰っていました。この前、私がアペラ語で話した時、ティファナ先生、間があったでしょう?アペラ語も使わなかった」
「あっ、ああ、そうだった」
ルアンナのために使わなかったのかと思ったが、まさか欠点があるなど思ってもいなかった。私でもティファナ・アズラーが優秀だとは耳にしたことがある。
「理解に間が空くのです、そして聞き取ることは出来ても、咄嗟に言葉は出て来ないから、使わなかったというより使えなかった。いくら学んでもこれは資質の問題なのでしょうね、王妃様が選ばれるべくして、選ばれたのだと思いますよ」
「嘘でしょう…」
「側妃は断ったと言っていたが」
「ですから自覚があるのです。おっしゃったことはないのですか」
「憧れますと言われたことはあるけど、皮肉だと思って…」
確かにティファナには何度も素晴らしいです、美しい発音です、憧れますなどと、言われたことはあった。側妃のことも聞いたこともあったが、私ごときが恐れ多いと否定していた。だが、全て皮肉に捉えていた。
「心からの気持ちだと思いますよ。王妃様もティファナ先生を代理に指名してみたら良かったのですよ」
「そんな…」
「ですが、座学は分かり易かったですし、優秀な方には変わりありません。ただ王妃、側妃に関しては担えなかっただけです。ティファナ先生は王太子妃教育が最適でした、ですから王妃様に感謝していると思いますよ」
「…そうだったの、私は一体何に抗っていたのかしら。ティファナの方が相応しいという言葉が離れなかったのに」
殿下は父上も一緒に聞くべきだったとすら思った。私もそうだったように、母上は憑き物が落ちたような表情をしていた。
「その発言は、ティファナ先生を王妃にしたかった者の妬みや、言葉を理解していない者の発言でしょう。確か、選ばれたのは前王妃様ですよね?目の前で躓いて見せて、咄嗟に外国語が出るかという試験がありませんでしたか」
「ええ、あったわ」
「王妃様は出来たのではありませんか」
「そうね、出来たわ。なぜ、試験のことを知っているの?」
「前王妃様に伺いましたの。面白い試験をしたことがあると」
前王妃はサリーが十歳の時に亡くなっており、聡明で優しい女性であった。
「そうだったの…サリーを選んだのも、お義母様だったわね。ティファナの辞意を認めましょう。座学と発音は出来る者がすればいいですからね。サリー、今さらだけど、ごめんなさい。リールに私も賛成いたしますわ」
殿下は母上が一気に軟化したことが目に見えるように分かった。いつもは自信に溢れた振る舞いをするが、おそらく、ずっとアズラー夫人が喉に刺さった小骨のように、居座っていたのだろう。
サリーの公務は王太子より負担が大きいという理由で減らされ、翻訳に十分な時間を確保することが出来るようになった。
「嘘よ」
「話す方が苦手なんですよ、本人も自覚していると思います。正妃でも側妃でも話す方が優先ですよね?」
側妃も試験があるように、正妃にも試験はある。婚約者がいない王太子は、語学力に優れ、希望する者に試験を受けさせる場合と、サリーのように幼い頃に婚約者とする場合がある。サリーは物覚えが良いことで、父親が売り込んだ結果である。
サリーは婚約者になってから、正妃の試験を受けて合格はしているが、六歳の時に婚約者に選ばれているので、皆で競い合う、比べるということを味わったことがなかった。比べる相手がいなかったとも言えるのだが、サリーは知らない。
「えっ、でも三ヶ国語出来るはずよ。話すのを聞いたこともあるわ」
王妃は何度もティファナが流暢に話す姿を見ている。ティファナの方が相応しかったのではないかと陰口を聞いたのも一度や二度ではない。
「何と言えばよいのでしょうか、王妃様の話す言葉と、ティファナ先生が話す言葉を並べると分かります」
「ん?サリー、もう少し簡単に」
「ティファナ先生は決められたような会話しか出来ないと言えば分かりますか」
「そんなはずは」
「急に話し掛けられたり、想定外のことを聞かれると、途端に出て来なくなるのです。王妃様はずっと聞いていたことがありますか?」
「いえ、あまりないわね。そっと離れてしまっていたから」
ティファナが話し掛けられて、話し始めると、見たくないため、比べられたくないとその場から去っていたのだ。
「もし長い時間、話すのを聞いていたら、どこかで気付けたと思いますよ。あと発音も元々不安定で、さらに咄嗟のことになると乱れます。致命的でしょう?」
「授業でもか?」
「いいえ、自覚があると言いましたでしょう。発音はネイティブの先生に教えて貰っていました。この前、私がアペラ語で話した時、ティファナ先生、間があったでしょう?アペラ語も使わなかった」
「あっ、ああ、そうだった」
ルアンナのために使わなかったのかと思ったが、まさか欠点があるなど思ってもいなかった。私でもティファナ・アズラーが優秀だとは耳にしたことがある。
「理解に間が空くのです、そして聞き取ることは出来ても、咄嗟に言葉は出て来ないから、使わなかったというより使えなかった。いくら学んでもこれは資質の問題なのでしょうね、王妃様が選ばれるべくして、選ばれたのだと思いますよ」
「嘘でしょう…」
「側妃は断ったと言っていたが」
「ですから自覚があるのです。おっしゃったことはないのですか」
「憧れますと言われたことはあるけど、皮肉だと思って…」
確かにティファナには何度も素晴らしいです、美しい発音です、憧れますなどと、言われたことはあった。側妃のことも聞いたこともあったが、私ごときが恐れ多いと否定していた。だが、全て皮肉に捉えていた。
「心からの気持ちだと思いますよ。王妃様もティファナ先生を代理に指名してみたら良かったのですよ」
「そんな…」
「ですが、座学は分かり易かったですし、優秀な方には変わりありません。ただ王妃、側妃に関しては担えなかっただけです。ティファナ先生は王太子妃教育が最適でした、ですから王妃様に感謝していると思いますよ」
「…そうだったの、私は一体何に抗っていたのかしら。ティファナの方が相応しいという言葉が離れなかったのに」
殿下は父上も一緒に聞くべきだったとすら思った。私もそうだったように、母上は憑き物が落ちたような表情をしていた。
「その発言は、ティファナ先生を王妃にしたかった者の妬みや、言葉を理解していない者の発言でしょう。確か、選ばれたのは前王妃様ですよね?目の前で躓いて見せて、咄嗟に外国語が出るかという試験がありませんでしたか」
「ええ、あったわ」
「王妃様は出来たのではありませんか」
「そうね、出来たわ。なぜ、試験のことを知っているの?」
「前王妃様に伺いましたの。面白い試験をしたことがあると」
前王妃はサリーが十歳の時に亡くなっており、聡明で優しい女性であった。
「そうだったの…サリーを選んだのも、お義母様だったわね。ティファナの辞意を認めましょう。座学と発音は出来る者がすればいいですからね。サリー、今さらだけど、ごめんなさい。リールに私も賛成いたしますわ」
殿下は母上が一気に軟化したことが目に見えるように分かった。いつもは自信に溢れた振る舞いをするが、おそらく、ずっとアズラー夫人が喉に刺さった小骨のように、居座っていたのだろう。
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