【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ

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嫌悪

 ティファナ・アズラーは邸に戻ってすぐ、ルアンナ連れて、夫の執務室に乗り込み、ルアンナをソファに座らせた。そして、夫であるローサムにこれをお読みくださいと渡した。ルアンナがサリー妃殿下に、自分が相応しいという発言をしていることは、既に聞いており、今日はずっと邸で帰りを待っていた。

「私はルトアスを呼んで参ります」

 ルトアスとはルアンナの弟で、侯爵家の嫡男である。婚約者はいるが、四つ年下でまだ学生なので結婚はしていない。

「これは、ルアンナが言ったのか」
「…」
「ルアンナ!!答えろ!!」
「ちが、違うのお父様」

 ティファナはローサムの怒鳴り声がして、いいと言うまで執務室に誰も近づかないように執事に指示を出した。ルアンナが言いわけをしようとする前にティファナがルトアスを連れて、扉を開けた。

「全てルアンナの発言です。そして暴行まで行っておりました、後ろに診断書がありますでしょう」
「っな、何だと!!」

 診断書を捲る度にこめかみの青筋が増えていき、怒り、悲しみ、居たたまれなさの感情にのみ込まれていった。

「ルトアスもきちんと読みなさい」
「はい」
「そして、ルアンナはリール殿下と不貞行為を行っておりました」
「は?」「何だって?」

 既に信じられない視線に、嫌悪する視線が増えるだけであった。

「サリー様、いえ、もう私には呼ぶ資格はありません。妃殿下はその様子を見たと仰っておりました」
「な、な、何てことを!」
「妃殿下のお言葉をそのまま伝えますと、最後まではしていないが、準ずる行為を行ったと仰っておりました。処女でないと不味いとは思っていたのでしょうね。ルアンナが誘ったのでしょう?」
「っな、誘った?」
「諦められていなかったようです。嘆かわしい、気持ち悪い」
「最低だな…自分がされた怒り狂うくせに」

 ルトアスにとって、姉はティファナ・アズラーの娘と見られる辛さはあっただろう。何をしても母と比べられ、さらに同い年の妃殿下にも比べられたであろうが、自分こそが貴族令嬢として模範的な姿だと思っているようだった。

 妃殿下は別格であったならば納得できたが、これまで比べられたにも関わらず、並んでいると思っている節があり、何度か敵うはずがないだろうと口にしたこともあるが、何も知らないからそんなことが言えるとと言っていた、なぜそう思えるのか不思議でならなかったが、関係を持っていたからだったのか。

「っそんな、だって」
「だって何だ!?妃殿下に暴言を吐いて、暴力を振るい、不貞行為までしていたと?」
「私も言葉だけを読めば、いじめだと思いました。ですが、いじめなんて軽い言い方では済まされません、脅迫に暴行罪です」
「私もそう思うよ、消えろだなんて、関係ないのは姉さんの方だろう。あんなに美しく聡明な妃殿下を、なぜ罵れるのか気が知れない」

 読み進めても読み進めても、あまりに酷く醜い言葉に、しかも妃殿下に向けられていることが信じられなかった。

「ルイソード殿にも話さなくてはな。殿下にお伝えしてからの方がいいか」
「待って、全部、結婚前のことよ。結婚してからは何もないわ」

 あまりの言いわけに三人の顔は酷く歪み、鋭い目つきでルアンナを睨み付けた。

「は?お前は反省していないのか!結婚前に知っていたら、ルイソード殿がお前と結婚するはずないだろう」
「そ、それは…」
「お前は騙して結婚したんだ」
「でも、シュリアは…」
「あちらの判断だ、お前の産んだ子なんて要らないと言われれば、手元に置けるかもしれないな」
「じゃあ」

 ルアンナは戻って初めて顔を綻ばせ、ルトアスは何がじゃあだと罵りたくなった。ルイソード義兄は尊敬できる素晴らしい人である。しかし、近い内に二度と義兄と呼ぶことは出来なくなるだろう。

「ただ、シュリアにとってクリジアンの娘の方がいいに決まっている。だが再婚なされば、どうなるか」
「再婚?」
「当たり前だろう、ルイソード殿なら再婚も容易だろう」
「ルイは私を愛しているのよ」
「この発言を読んだ後でも愛せるか?愛せる方がおかしい。私なら迷わず離縁する」

 ティファナとローサムは話しては項垂れ、情けないと、何も知らなかった自分たちの愚かさを恥じていた。

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