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番外編1
カリー・カイサック3
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「嘘だろ…関係を持っていたのか!何ということだ…」
「え?嘘だよね…?」
「一度、一度だけなんです」
何度も関係を持っていたように振舞っていたのに、一度だけだという日が来るとは思っていなかっただろう。王族と関係を持ったことが自身の中だけの自慢だったのに、それで今、失おうとしているのだ。
「ふげけるな!何て相手と…聞かなかったことにする」
「でもご結婚前で…」
「王太子殿下は妃殿下とは六歳の頃に婚約されているのだ、五歳の頃などというわけでないだろう!」
「それっは、そうですが」
カリーの脳裏にようやく、サリーへの暴言を発する自身が甦って来た。お酒を飲んでいたこともあり、何度か煽るようなことを言った。元々、カリーはお酒で気が大きくなる質だった。
「妃殿下も、王族ですか」
「王太子妃になられてからは王族だ、その前だとしても侯爵令嬢、王太子殿下の婚約者という立場から王族扱いとする場合もある。まさか妃殿下にも何かあるのか?」
「何だと!」
「父上、血圧が上がりますから落ち着きましょう」
子爵はもう血管が切れてしまいそうだ。カリーもその様子に只事ではないことは分かっている、分かってはいるが、もう何を言えばいいのか分からない。
「これが落ち着いていられるか!この家は終わるぞ」
「そんな…」
「妃殿下に何か言ったのか」
「でもそれは、あああ!」
記憶がはっきりして来た、これは王太子殿下ではない、妃殿下への不敬な発言だ。経験のなさそうな相手への卑猥な発言は気分が良かった。
「どうした?何だ?」
「妃殿下へ、だと、思います。不敬な発言は」
「何だと!」
「侯爵令嬢に男爵令嬢が言ったのか?なぜ、そんなことを…」
「妃殿下に他の令嬢が言っていたのを見たことがあって」
「誰だ?」
「ミアローズ・エモンド様です」
「彼女は公爵令嬢だ」
「でも、ルアンナ・アズラー様も」
「彼女は侯爵令嬢だ。男爵令嬢とは違う」
あるパーティーでミアローズ・エモンドが自身の方が美しいと、蔑んでいるのを見たことがあった。ルアンナ・アズラーは学園で、陰湿に取り巻きと取り囲んでいて、いじめているのかと思ったくらいだ。
だが、そうだ、侯爵令嬢と公爵令嬢である。取り巻きに男爵令嬢がいたかもしれないが、高位貴族の話だ。いくら関係を持っていても、カリーは所詮、男爵令嬢でしかないはずだったのだ。
「それは…」
「なんてことを…」
「私はどうしたら」
「謝罪はしなかったのか?」
「…」
「はあ…もうどうにもならない、事実なんだろう?妃殿下は非常に記憶力が良いと聞いている、おそらく君が憶えていなくても、憶えてらっしゃったのだろう」
「どうして今になって、最近は言っていません。あなたと出会った頃から、会ってもいません」
王族に会える機会など、そんなにはない。会っていなくても不思議ではない。誰にとっても弁解にはならない。
「王太子妃になられてから言ったことは?」
「…あります」
「完全に王族への不敬な発言だ、どうしてすぐに思い出せないんだ?君にとって妃殿下への不敬な発言は、大したことではないと思っていたのか?」
王族に暴言を吐いておいて、思い出せないなど、罪悪感のない者だと思われても仕方がない。事実、カリーは罪悪感を今の今まで感じてもいなかった。
「キイス、離縁だ。このままでは潰れてしまう。領民に示しが立たない」
「分かっています」
「待って、待ってください」
「すまない、でも領民を守らなくてはならないんだ。男爵家に送ろう、一緒に話を付けさせてもらう」
「それは、それだけは…」
「君のせいで子爵家がどうなってもいいというのか!庇うことは出来ない」
キイスはいくら嫁いでから問題のないカリーでも、家と領民を捨ててまで、助けたいとは思わなかった。人は変われると思っていたが、謝罪すらしてもいない、過去のことが消えるわけではなかった。王家がなぜここまでの処置をしたのかは分からないが、おそらく相当な力が動いてのことだろう。
「え?嘘だよね…?」
「一度、一度だけなんです」
何度も関係を持っていたように振舞っていたのに、一度だけだという日が来るとは思っていなかっただろう。王族と関係を持ったことが自身の中だけの自慢だったのに、それで今、失おうとしているのだ。
「ふげけるな!何て相手と…聞かなかったことにする」
「でもご結婚前で…」
「王太子殿下は妃殿下とは六歳の頃に婚約されているのだ、五歳の頃などというわけでないだろう!」
「それっは、そうですが」
カリーの脳裏にようやく、サリーへの暴言を発する自身が甦って来た。お酒を飲んでいたこともあり、何度か煽るようなことを言った。元々、カリーはお酒で気が大きくなる質だった。
「妃殿下も、王族ですか」
「王太子妃になられてからは王族だ、その前だとしても侯爵令嬢、王太子殿下の婚約者という立場から王族扱いとする場合もある。まさか妃殿下にも何かあるのか?」
「何だと!」
「父上、血圧が上がりますから落ち着きましょう」
子爵はもう血管が切れてしまいそうだ。カリーもその様子に只事ではないことは分かっている、分かってはいるが、もう何を言えばいいのか分からない。
「これが落ち着いていられるか!この家は終わるぞ」
「そんな…」
「妃殿下に何か言ったのか」
「でもそれは、あああ!」
記憶がはっきりして来た、これは王太子殿下ではない、妃殿下への不敬な発言だ。経験のなさそうな相手への卑猥な発言は気分が良かった。
「どうした?何だ?」
「妃殿下へ、だと、思います。不敬な発言は」
「何だと!」
「侯爵令嬢に男爵令嬢が言ったのか?なぜ、そんなことを…」
「妃殿下に他の令嬢が言っていたのを見たことがあって」
「誰だ?」
「ミアローズ・エモンド様です」
「彼女は公爵令嬢だ」
「でも、ルアンナ・アズラー様も」
「彼女は侯爵令嬢だ。男爵令嬢とは違う」
あるパーティーでミアローズ・エモンドが自身の方が美しいと、蔑んでいるのを見たことがあった。ルアンナ・アズラーは学園で、陰湿に取り巻きと取り囲んでいて、いじめているのかと思ったくらいだ。
だが、そうだ、侯爵令嬢と公爵令嬢である。取り巻きに男爵令嬢がいたかもしれないが、高位貴族の話だ。いくら関係を持っていても、カリーは所詮、男爵令嬢でしかないはずだったのだ。
「それは…」
「なんてことを…」
「私はどうしたら」
「謝罪はしなかったのか?」
「…」
「はあ…もうどうにもならない、事実なんだろう?妃殿下は非常に記憶力が良いと聞いている、おそらく君が憶えていなくても、憶えてらっしゃったのだろう」
「どうして今になって、最近は言っていません。あなたと出会った頃から、会ってもいません」
王族に会える機会など、そんなにはない。会っていなくても不思議ではない。誰にとっても弁解にはならない。
「王太子妃になられてから言ったことは?」
「…あります」
「完全に王族への不敬な発言だ、どうしてすぐに思い出せないんだ?君にとって妃殿下への不敬な発言は、大したことではないと思っていたのか?」
王族に暴言を吐いておいて、思い出せないなど、罪悪感のない者だと思われても仕方がない。事実、カリーは罪悪感を今の今まで感じてもいなかった。
「キイス、離縁だ。このままでは潰れてしまう。領民に示しが立たない」
「分かっています」
「待って、待ってください」
「すまない、でも領民を守らなくてはならないんだ。男爵家に送ろう、一緒に話を付けさせてもらう」
「それは、それだけは…」
「君のせいで子爵家がどうなってもいいというのか!庇うことは出来ない」
キイスはいくら嫁いでから問題のないカリーでも、家と領民を捨ててまで、助けたいとは思わなかった。人は変われると思っていたが、謝罪すらしてもいない、過去のことが消えるわけではなかった。王家がなぜここまでの処置をしたのかは分からないが、おそらく相当な力が動いてのことだろう。
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