【完結】あの子の代わり

お花畑に住めなくなった家族４

「ベルアンジュがＮＮ病だったのか？」
「そんな…」
「何？」

　ドレオ医師は娘の死因すら知らなかったとは知らず、ただ驚いた。

「ご存知なかったのですか？虐待するような方々は、理解出来ませんね」
「それは嫁いでからだろう！知らなくて当然じゃないか」
「そんなはずないでしょう？あなた方はＮＮ病の患者を虐待していたのですよ、皆知ってますよ」
「っな…」

　チェイスもノーマも、ＮＮ病のことは知っており、患っている方を可哀想だと思っていた。まさか自分の娘がその病で亡くなったことに衝撃を受けた。

「だから何？説明してよ！」
「はあ…ベルアンジュ様はキャリーヌさんと違って、重病で死に至る病を患っていたということです」
「はあ？お姉様が？そんなの嘘に決まっているわ」
「どういう意味ですか」
「知らないだろうけど、お姉様は健康が取り柄なの！だから性病かなんかよ、気持ち悪いわね！恥ずかしいったらないわ」
「私はあなたの担当を外れます」

　覚悟はしていたが、さすがにドレオ医師は耐えらないと判断した。医療刑務所の者を診ないわけではない、キャリーヌを診ないだけである。

「はあ？」
「そのような方を診ることは出来ません。代わりの者が来ますので、その方に診ていただいてください。新米医師になるかもしれませんけど」
「待ちなさいよ！」

　ドレオ医師はそのまま去って行き、キャリーヌも、チェイスとノーマも知らないが、ドレオ医師は優秀で、嫡男ではないが侯爵家の人間である。

　もう出産させるしかないと判断したチェイスとノーマは、子どものことはまた話し合ってから、来ると言って帰って行った。

　そして、本当に新米医師がやって来ることになった。

　気管支喘息に関しては薬を服用していれば問題はない上に、発作が出ても別の薬で対処できるが、妊娠にはドレオ医師より未熟であるのは当たり前であった。

　ドレオ医師は細やかに診察してくれていたが、新米医師は研修も兼ねているので、二人一組で、強制的に医療刑務所に来ている者である。

　しかも、新米医師でもベルアンジュのことは知っており、キャリーヌにいい印象を抱いていない上に、我儘となれば丁寧に診たくもなくなる。

　それでも医師として、最低限の診察は行っていた。

「前の医者を呼んで！大事な子なのよ！何かあったどうしてくれるの！」
「ドレオ医師はあなたを診たくないそうですから、仕方ないでしょう」
「どうせ平民でしょう？私は伯爵令嬢なのよ！」
「ドレオ医師は侯爵家の方です。盾突かない方が身のためですよ」
「え…そうなの？」

　見る目のないキャリーヌを証明したようなものであった。

　チェイスとノーマは、ようやくベルアンジュがやりきれない病で亡くなったことを知り、申し訳ない気持ちを抱いていた。

「ベルアンジュがＮＮ病だったとは…」
「ええ…それなのに、キャリーヌを優先したと思われているのね」
「ベルアンジュも言えばよかっただろう！そうすれば…」
「そうよ、どうして言わなかったのよ！」

　まともな思考を持っていない二人は、結局ベルアンジュのせいとなり、申し訳ない気持ちは吹き飛んでいた。

「早く言えば、キャリーヌを嫁がせたのに…」
「そうだ、そうすれば良かった！虐待などと言われることもなかったのに」

　たらればの話ではなく、嫁がせられるということを否定されて、罰されたにもかかわらず、未だに止められないでいた。

「マリクワン侯爵家は養子を取ったようだ」
「まあ！だったら、キャリーヌで良かったじゃない。子どもも産めるようだし、そうしていれば皆、幸せになれたのよ…どこで間違ってしまったのかしら」

　そんなはずはないのだが、ベルアンジュとは違うお花畑にいる両親も、キャリーヌも気付くことは出来ない。