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絶望するハッソ男爵夫妻
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コーランド王国にルスデン王国のハッソ男爵家は、ローレル王太子殿下と、エルドール王子殿下に、婚約者がいるのにもかかわらず、婚約を申し込んだと記される。
そして、他国の王家に申し込む際は、基本的には王家を通すことになっており、ルアサーラにもよろしく頼むと言われている以上、イスクも許可するしかない。
「唆した王太子妃と王子妃は幽閉とする。そなたたちも親として責任を取ってくれ、殺したり、死んだりするなよ。逃げることは許さない」
「はい…」
「通常の婚約の申し込みでいい。余計な謝罪は書くな」
「ですが!」
こちらの事情はおろか、謝罪も書かせて貰えないのか、そんな物が王家に届くなど…既に生きた心地がしない。
「そんな婚約の申し込みなどないだろう?馬鹿な真似をしないように、監視も付けさせて貰う。書けたらその者に封をせず、渡しなさい」
ハッソ男爵夫妻はこのまま事故に遭えないかと思うほど、絶望的な気持ちで、帰ることになった。
「おかえりなさいませ」
いつも通り出迎えてくれた家令に、生きて帰って来たくはなかったとは言えず、監視の騎士の紹介をした。
「王家からの監視のために、騎士がお二人いらしている」
「しょ、承知いたしました」
騎士二人は夫妻を見張り、逃げることは許さないということは、爵位を返上することも出来ないのだろう。だが、領地に帰ることは許されるだろうか。
そんなことを考えながら、婚約の申し込みの文を無心で定型的に書いた。そうでもしないと、書けるような内容ではなかった。
騎士に渡すと、一人は残り、一人は陛下に持って行ったのだろう。
「娘と話してもいいでしょうか」
「はい、それについては止められておりませんので」
「ありがとうございます」
夫妻はアリナを呼んで貰い、向き合うことになった。アリナは片付くまで、まだ学園には通っておらず、家から出ないように言ってあった。
「コーランド王国の王太子殿下、王子殿下に婚約の申し込みをした」
「本当にしてくれたの?」
「くれた?」
アリナは心なしか嬉しそうにしており、理解が出来なかった。
「ええ、だってしてくれないだろうと思って」
「意味が分かっているのか!」
「分かっているわ、婚約をしたいという意思表示でしょう?」
「婚約者のいる相手に、ルスデン王国のハッソ男爵家は、婚約を申し込んだと言われることになるんだ」
「でも、可能性はゼロではないでしょう?」
アリナにとって、王子たちと婚約が出来るか、出来ないかの話で、問題になると考えていない。
「本当に分かっていないのだな…」
「どういうこと?」
「男爵令嬢が王家に婚約を申し込むなどあり得ない」
「でも、申し込めたのでしょう?だったら大丈夫ってことでしょう?選んでくださったら、私、これまで以上に頑張るわ」
夫妻は全く分かっていない様子のアリナに、二度目の絶望をした。
「選ばれることもなければ、この国にハッソ男爵家は居場所もないのに、逃げられずに生きなくてはいけなくなる。国の恥としてな」
「何、言っているの?」
アリナは冗談でもなく、父親が切羽詰まっていることすら気付いていなかった。
「お前はコーランド王国、ルエルフ王国を敵に回したんだ。国中から恨まれることになる」
「は?どうして?女王陛下も申し込むことを許可してくださったってことでしょう?私の方がいいと思ったんじゃない?」
女王陛下を見た時に、この人があの人の母親かと思っただけで、責められることもなく、アリナは特に怖いと感じていなかった。
それはルアサーラを知らないために、怖いと認識していないことで、本能でも怖いと感じることが出来なかった。
もしかしたら、あの人はルエルフ王国の王女なのだから、コーランド王国よりいい相手がいて、後押ししてくれているのかもしれないと受け取っていた。
そして、他国の王家に申し込む際は、基本的には王家を通すことになっており、ルアサーラにもよろしく頼むと言われている以上、イスクも許可するしかない。
「唆した王太子妃と王子妃は幽閉とする。そなたたちも親として責任を取ってくれ、殺したり、死んだりするなよ。逃げることは許さない」
「はい…」
「通常の婚約の申し込みでいい。余計な謝罪は書くな」
「ですが!」
こちらの事情はおろか、謝罪も書かせて貰えないのか、そんな物が王家に届くなど…既に生きた心地がしない。
「そんな婚約の申し込みなどないだろう?馬鹿な真似をしないように、監視も付けさせて貰う。書けたらその者に封をせず、渡しなさい」
ハッソ男爵夫妻はこのまま事故に遭えないかと思うほど、絶望的な気持ちで、帰ることになった。
「おかえりなさいませ」
いつも通り出迎えてくれた家令に、生きて帰って来たくはなかったとは言えず、監視の騎士の紹介をした。
「王家からの監視のために、騎士がお二人いらしている」
「しょ、承知いたしました」
騎士二人は夫妻を見張り、逃げることは許さないということは、爵位を返上することも出来ないのだろう。だが、領地に帰ることは許されるだろうか。
そんなことを考えながら、婚約の申し込みの文を無心で定型的に書いた。そうでもしないと、書けるような内容ではなかった。
騎士に渡すと、一人は残り、一人は陛下に持って行ったのだろう。
「娘と話してもいいでしょうか」
「はい、それについては止められておりませんので」
「ありがとうございます」
夫妻はアリナを呼んで貰い、向き合うことになった。アリナは片付くまで、まだ学園には通っておらず、家から出ないように言ってあった。
「コーランド王国の王太子殿下、王子殿下に婚約の申し込みをした」
「本当にしてくれたの?」
「くれた?」
アリナは心なしか嬉しそうにしており、理解が出来なかった。
「ええ、だってしてくれないだろうと思って」
「意味が分かっているのか!」
「分かっているわ、婚約をしたいという意思表示でしょう?」
「婚約者のいる相手に、ルスデン王国のハッソ男爵家は、婚約を申し込んだと言われることになるんだ」
「でも、可能性はゼロではないでしょう?」
アリナにとって、王子たちと婚約が出来るか、出来ないかの話で、問題になると考えていない。
「本当に分かっていないのだな…」
「どういうこと?」
「男爵令嬢が王家に婚約を申し込むなどあり得ない」
「でも、申し込めたのでしょう?だったら大丈夫ってことでしょう?選んでくださったら、私、これまで以上に頑張るわ」
夫妻は全く分かっていない様子のアリナに、二度目の絶望をした。
「選ばれることもなければ、この国にハッソ男爵家は居場所もないのに、逃げられずに生きなくてはいけなくなる。国の恥としてな」
「何、言っているの?」
アリナは冗談でもなく、父親が切羽詰まっていることすら気付いていなかった。
「お前はコーランド王国、ルエルフ王国を敵に回したんだ。国中から恨まれることになる」
「は?どうして?女王陛下も申し込むことを許可してくださったってことでしょう?私の方がいいと思ったんじゃない?」
女王陛下を見た時に、この人があの人の母親かと思っただけで、責められることもなく、アリナは特に怖いと感じていなかった。
それはルアサーラを知らないために、怖いと認識していないことで、本能でも怖いと感じることが出来なかった。
もしかしたら、あの人はルエルフ王国の王女なのだから、コーランド王国よりいい相手がいて、後押ししてくれているのかもしれないと受け取っていた。
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