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絶望したハッソ男爵夫妻
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「私たちは叶うなら、ここは引き上げて、領地で暮らす」
「私は嫌よ、でも婚約したらここにいてもしょうがないのか…」
男爵はまるで可能性があるような口振りに、段々と腹が立って来た。
「お前は唆されたとは思っていないのか?」
「お二人は叶うわけもないと思っていたのでしょう?でも分からなくなったじゃない。そうでしょう?」
「そうじゃない、受け入れるわけがないだろう」
「でも、折角、能力があるのに、可哀想だと思ってくれたはずよ」
「そんなものはない」
「あるわ!」
「許可が下りたら、アリナは寮にでも入りなさい。後のことは私たちは関与しない」
本当なら首を括りたい、邸に火を放ちたいくらいであったが、今は出来ないとどうにか堪えた。
アリナには5つ年下の妹・ミーナがおり、どちらかに婿を取ってと思っていたが、そんなことはしないほうがいいだろう。
ミーナだけはどうにか助けたいが、養子に迎えて貰うのは難しいだろう。
「婚約するには両親の何か、必要でしょう?困るわ」
「そんなことにはならないから、考えなくていい」
「もう夢がないのね!」
アリナは何も理解しないまま、勿論、コーランド王国には断られることになった。
「当たり前だが、断られた」
「ええっ、そんな、見る目がないのね」
いくら言っても理解していないことは、イスクにも伝わり、このまま王都に男爵家があるのは危険だろうということもあり、領地に戻ることは許された。
アリナは寮に入って、学園に通うことになったが、これまでちやほやしてくれていた人たちは、誰もアリナに近寄ろうともしなかった。
妃の幽閉も、アリナが婚約を申し込んだことも、一部しか知らなかったが、解読に関して披露するなどとしたために、翻訳も解読も出来なかったことは、コーランド王国では新聞にも載り、ほとんどの者が知ることになっていた。
さらにルスデン王国にあった、ルエルフ王国、コーランド王国の者が資本としている企業が、次々に撤退した。多くはなかったが、大企業であったために、失業者で溢れることになった。
王家も危惧していたために、雇用先も率先して動いたが、それでも失業者は多く、治安も悪くなっていった。
アリナは学園でファミラを見付けて、声を掛けた。
「ファミラ様」
「あなた…」
「皆が変わってしまって、私、何かしたのでしょうか?」
「あなた、本当に分かっていないの?分かっていないのなら、どうかしてるわよ」
「え?どうして?」
アリナはファミラにそのような言い方をされたことがなく、驚いた。
アリナにとって、ファミラは真面目が取り柄の何でも教えてくれるいい人だと思っており、試験の結果を見た時はあんなに勉強しているのに、出来ないのかと思ったが、口には出さなかった。
それからはちょっと馬鹿にするような気持ちにはなっていたが、ファミラは親切だから離れたくはなかったので、Aクラスに一緒に移ることにした。
きっと感謝しているだろうと思っていたが、ファミラは変わらず、帰国する時は会うこともなかった。それからもクラスが違うので、会わなかったが、ようやく会えたと嬉しくなった。
だから、親切なファミラに聞いてみようと思ったのである。
「披露の時のことを覚えていないの?」
「覚えているけど、ファミラ様だって嘘ではないことは知っているでしょう?」
「嘘ではないけど、本当でもなかったじゃない」
ファミラはアリナが記憶力が良いことは、事実だろうと思っていた。だが、ヨルレアン第一王女の説明に、納得し、それ以上に感心したのである。
18歳であの知識と、古代語学者となっているお姿に、これこそが才の聖女ではないかと思った。
そう思うと、アリナがハリボテのような、薄っぺらく感じた。
「それは…でも、これから学べば」
「そんなことは知らないわ。もう話し掛けて来ないで頂戴」
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本日もお読みいただきありがとうございます。
本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時にも1話、投稿します。
どうぞよろしくお願いいたします。
「私は嫌よ、でも婚約したらここにいてもしょうがないのか…」
男爵はまるで可能性があるような口振りに、段々と腹が立って来た。
「お前は唆されたとは思っていないのか?」
「お二人は叶うわけもないと思っていたのでしょう?でも分からなくなったじゃない。そうでしょう?」
「そうじゃない、受け入れるわけがないだろう」
「でも、折角、能力があるのに、可哀想だと思ってくれたはずよ」
「そんなものはない」
「あるわ!」
「許可が下りたら、アリナは寮にでも入りなさい。後のことは私たちは関与しない」
本当なら首を括りたい、邸に火を放ちたいくらいであったが、今は出来ないとどうにか堪えた。
アリナには5つ年下の妹・ミーナがおり、どちらかに婿を取ってと思っていたが、そんなことはしないほうがいいだろう。
ミーナだけはどうにか助けたいが、養子に迎えて貰うのは難しいだろう。
「婚約するには両親の何か、必要でしょう?困るわ」
「そんなことにはならないから、考えなくていい」
「もう夢がないのね!」
アリナは何も理解しないまま、勿論、コーランド王国には断られることになった。
「当たり前だが、断られた」
「ええっ、そんな、見る目がないのね」
いくら言っても理解していないことは、イスクにも伝わり、このまま王都に男爵家があるのは危険だろうということもあり、領地に戻ることは許された。
アリナは寮に入って、学園に通うことになったが、これまでちやほやしてくれていた人たちは、誰もアリナに近寄ろうともしなかった。
妃の幽閉も、アリナが婚約を申し込んだことも、一部しか知らなかったが、解読に関して披露するなどとしたために、翻訳も解読も出来なかったことは、コーランド王国では新聞にも載り、ほとんどの者が知ることになっていた。
さらにルスデン王国にあった、ルエルフ王国、コーランド王国の者が資本としている企業が、次々に撤退した。多くはなかったが、大企業であったために、失業者で溢れることになった。
王家も危惧していたために、雇用先も率先して動いたが、それでも失業者は多く、治安も悪くなっていった。
アリナは学園でファミラを見付けて、声を掛けた。
「ファミラ様」
「あなた…」
「皆が変わってしまって、私、何かしたのでしょうか?」
「あなた、本当に分かっていないの?分かっていないのなら、どうかしてるわよ」
「え?どうして?」
アリナはファミラにそのような言い方をされたことがなく、驚いた。
アリナにとって、ファミラは真面目が取り柄の何でも教えてくれるいい人だと思っており、試験の結果を見た時はあんなに勉強しているのに、出来ないのかと思ったが、口には出さなかった。
それからはちょっと馬鹿にするような気持ちにはなっていたが、ファミラは親切だから離れたくはなかったので、Aクラスに一緒に移ることにした。
きっと感謝しているだろうと思っていたが、ファミラは変わらず、帰国する時は会うこともなかった。それからもクラスが違うので、会わなかったが、ようやく会えたと嬉しくなった。
だから、親切なファミラに聞いてみようと思ったのである。
「披露の時のことを覚えていないの?」
「覚えているけど、ファミラ様だって嘘ではないことは知っているでしょう?」
「嘘ではないけど、本当でもなかったじゃない」
ファミラはアリナが記憶力が良いことは、事実だろうと思っていた。だが、ヨルレアン第一王女の説明に、納得し、それ以上に感心したのである。
18歳であの知識と、古代語学者となっているお姿に、これこそが才の聖女ではないかと思った。
そう思うと、アリナがハリボテのような、薄っぺらく感じた。
「それは…でも、これから学べば」
「そんなことは知らないわ。もう話し掛けて来ないで頂戴」
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本日もお読みいただきありがとうございます。
本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時にも1話、投稿します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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