【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ

文字の大きさ
19 / 38

夜会(表)

しおりを挟む
 その後はリラ・ブラインは表立っては意見をばら撒くのは止めたようで、影響を受けた者も、婚約解消されたという者を見て、現実に引き戻されたようだ。以降、学園に苦情は入っていない。それでもリラの気持ち悪さは漂い続けた。

 そして、今年最後となる王家の夜会の日が迫って来た。シュアリーとルカスは夜会に参加するアウラージュと話をしようと決めていた。王太子教育を始めて、そろそろ1年が経過する。

「絶対にお姉様と話をして、出来なくても約束だけでも取り付けましょう」
「そうですね、後日となっても構いません」
「そういえば、あのリラという伯爵令嬢も来るの?」
「どうでしょうか、伯爵令嬢ですから来るのではないでしょうか?何かあるのですか、最近は大人しくしているようですよ」
「この前しっかり見なかったから。お姉様に瞳が似ていると言われていたそうよ、ちっとも似ていないのに」
「そのようなことが?」

 ルカスもさすがに元婚約者のアウラージュの瞳の色は、他と似ているような瞳でないことは知っている。

「ええ、メイドが言っていたわ。王女と比べるなんて図々しいわよね」
「彼女はブラウンではないでしょうか?」
「よく知っているのね」
「ですから、話をすることがあったくらいです」
「ふーん」

 当日、アウラージュは王位継承権を放棄したので、王族としての参加しないとし、一般に混ざって参加となった。入場は王太子であるシュアリーと、婚約者であるルカス・バートラ。そして、国王陛下。

 アウラージュの周りはバリケードのように公爵、侯爵家の布陣で囲まれている。ちゃっかりお忍びブルーノもいる。おかげでシュアリーはアウラージュよりも、ブルーノがいることに驚きながらも目を輝かせ、その様子をルカスに悟られていた。

 表彰などがあり、歓談になってもアウラージュの周りには近づけない。

 ルカスは話をしながらも、ブルーノを目で追うシュアリーに嫌気が差し、別の方を見るとリオン・ホワイトアが今日も凛々しく振舞っていた。隙のない、気品あふれる姿に、無意識に溜息を吐いていた。

「王太子殿下、バートラ公爵令息様、ごきげんよう」

 現れたのは気合の入った派手な装いの噂のリラ・ブライン。いつもなら同志といることが多いが、周りを見ても、一人のようだ。

「っあ、あの時の」
「憶えてらっしゃってくれたのですね、光栄です。改めましてリラ・ブラインと申します」

 シュアリーは訝しげな顔で、じっとリラの瞳をじっと覗き込んだ。

「やっぱり似ていないわね。ルカス様の言う通り、ブラウンだわ」
「えっ、何の話でしょうか」
「瞳の色よ」
「ああ、このヘーゼルの瞳ですね。よく褒められるのです」
「ヘーゼルではないわ、ヘーゼルはお姉様のような瞳のことをいうのよ?色だって濃いし、グリーンがないじゃない?あなたはブラウンよ」

 アウラージュは外側は極めて薄いブラウンに内側のグリーンで、透き通るような瞳で、コンクラート王国の一般的なヘーゼルとは異なるが、シュアリーにとってのヘーゼルの瞳はアウラージュである。

「ヘーゼルです」
「私もヘーゼルではないと思うよ」
「ルカス様まで、これはヘーゼルです。愛する人が褒めてくれたのです、ですからヘーゼルです」

 いつもは余裕のある雰囲気なのが、どうもリラの様子がおかしい。

「ブライン伯爵令嬢?」
「それより、お兄様のジルバード様はいらしてないのですか」
「兄?兄と知り合いだったのですか」
「ええ、ああ!あちらにいらっしゃいます、参りましょう」
「え?」

 リラは返事も聞かず、早足に婚約者のララと談笑しているジルバードの元へ行ってしまい、シュアリーとルカスはぽかんとしていた。

「ジルバード様、お久しぶりです」
「どなたでしょうか?」
「リラ・ブラインです。ヘーゼルの瞳を褒めてくださった、憶えてますでしょう?」
「会った記憶もないが、人違いではないですか」
「何を仰っているのです?このヘーゼルの瞳ですよ、ちょっとジルバード様に触らないで、離れなさいよ」

 ジルバードの腕を持っていたララを叩こうとしたが、騎士に掴まれて、跪かされ、口を覆われた。

「不届き者、下がりなさい。ララ、怪我はありませんね?」
「はい、殿下」

 響いたのは圧倒的な声の持ち主、アウラージュであった。

「牢に入れて、伯爵家に連絡を入れるように」
「はっ!」

 ジルバードもララも怖さはあったものの、あまりに一瞬のことで驚き、一体何だったんだと思うしかなかった。

「何者ですか、あれは」
「詳しくは後で説明します。シュアリー、場を戻しなさい」
「えっ、どうやって」

 アウラージュはここで指導する時間はないと、目立つことは避けたかったが、思った以上に興味を引いてしまったため、不本意ではあるが、声を響かせた。

「皆様、お騒がせしました!酔っぱらいの不届き者は負い出しましたので、歓談をお続けください。もうそろそろ、陛下お勧めのとっておきの白ワインが振舞われますので、是非ご賞味くださいませ」

 おぉという声と共に、再び人々の声でざわつき始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

【完結】あなただけがスペアではなくなったから~ある王太子の婚約破棄騒動の顛末~

春風由実
恋愛
「兄上がやらかした──」  その第二王子殿下のお言葉を聞いて、私はもう彼とは過ごせないことを悟りました。  これまで私たちは共にスペアとして学び、そして共にあり続ける未来を描いてきましたけれど。  それは今日で終わり。  彼だけがスペアではなくなってしまったから。 ※短編です。完結まで作成済み。 ※実験的に一話を短くまとめサクサクと気楽に読めるようにしてみました。逆に読みにくかったら申し訳ない。 ※おまけの別視点話は普通の長さです。

処理中です...