小悪魔ノート

ことは

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8 敦也のノート①

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「やべっ。遅刻、遅刻!」

 集団登校の集合場所には、もう誰もいない。

「わたし、何度も起こしたんだよー」

 ライアが、宙を飛びながら追いかけてくる。

「それでか。なんか、朝からハエがブンブンうるさいと思ったんだよ」

「黙りなさい、冷酷無血なハエ叩きが! 寝ぼけた颯太の平手打ちを、何度かわしたと思っているのよ!?」

 走りながら颯太が、ライアを振り払うように両手を振り回す。

「ちょっと危ないわね!」

 ライアはうまくかわしながら、颯太の手の届かない高さへ飛んだ。

 颯太はライアを見上げた。

「似合わねー。さわやかな朝の青空に、なんで黒いコウモリが飛んでるんだよ」

「ケンカ売ってるの? わたしを誰だと思っているのよ」

「知らないし」

「昨日はわたしのこと、あんなに恐れていたくせに。ねぇぼくちゃん。怖がらなくても大丈夫でちゅよー」

「それ、人の部屋に住まわせてもらうヤツの言うセリフ?」

 ライアが、颯太の顔の高さまで戻ってくる。

「ちょっと、颯太。本当に、わたしがいなくなってもいいの? クラスの友達を、小悪魔ノートの餌食にする気?」

「なんだよ、それ。そもそもこうなったのも全部、ライアのせいだろ?」

 颯太は、強い口調で言い返した。

「ああ、なんてひどいお方。お友達が、あまりにかわいそうだわ」

 ライアが泣き真似をする。

「泣き落とし作戦かよ」

「作戦なんてひどいっ。わたしはただ、みんなを救いたいだけ。颯太ならわかってくれると思ってた」

 ライアは、本当に目に涙を浮かべている。

「人の良心につけこむなよ。小悪魔まで助けちゃうなんて、あー、おれっていいやつすぎるぜ、クーッ」

 颯太が手の甲で、涙をぬぐう真似をする。

 涙を浮かべていたはずのライアが、今度は急にぱっと明るい笑顔を振りまく。

「ホント、ホント、颯太って最高! こんないい人、世界中どこ探してもいないわよね。こんな素敵な人に出会えるなんて、きっと運命よ。キュンッ❤︎ あぁ、神様、ありがとう」

 ライアが胸の前で両手を組みながら、颯太の頭の周りをクルクルと舞う。

「今度は、ほめ殺し作戦かよ」

「ブタもおだてりゃ木に登るって、聞いたことない?」

 ライアが、人差し指を立てて真顔で言う。

「誰がブタだよ。それより、学校であんまり話しかけるなよ。アブナイヤツだと思われたくないから」

  ◇

「すげーよ、颯太」

 席につくと、すぐに敦也が話しかけてきた。

「願いが叶うノートに書いたら、昨日の夕飯、本当にハンバーグだったぜ」

「そりゃそうだろ。おまえんち、週に3回はハンバーグだって言ってなかったっけ?」

「それがさぁ、昨日で4日連続だぜ。こんなに続いたのは初めてだ。ノートの力としか考えられん」

 敦也が、指を4本立てる。

「おまえんち、どんだけハンバーグが好きなんだよ」

 エヘヘ、と敦也が頭をかいた。

「けどさぁ、さすがに4日連続はもう飽きたなー。しばらくはいいって感じ」

 敦也が、手でお腹をさすりながら言った。

「これは怪しいわ、颯太」

 突然、大きな声で話に割り込んできたライアに、颯太はあわてた。

 シッと、唇の前で人差し指を立てる。

「えっ、颯太、シッて何だよ」

 敦也が、不思議そうな顔をする。

「ねぇ、敦也くーん。もしかしてわたしのノート、持っているんじゃなぁい?」

 ライアが、敦也の方へすり寄っていく。

「ちょっと、話しかけんなよっ!」

 思わず叫んだ颯太に、敦也が目を丸くする。

「話しかけんなって、いきなりおまえ何だよ。朝から機嫌悪すぎだぜ」

「だからそれは、敦也のことじゃなくって」

「あ。もしかして塾のこと言わなかったの、怒ってるのか?」

 颯太は、そっぽを向いているライアを思い切りにらんだ。

「怒ってなんかいないよ」

「でも今、悪魔みたいな、すげー怖い顔してるぜ」

 敦也が、恐る恐る言う。

 ライアがからかうように、あちこちを飛び回った。

「おまえ、グルグル目を回してどうしたんだ? おい、大丈夫かよ」

 敦也が、心配そうな顔をしている。

「颯太以外の人には、姿が見えないだけじゃなくて、声だって聞こえませんよー」

 ライアがペロッと舌を出す。

 颯太は、ライアをつかまえてやろうと右手を振りかざした。

「ひっ」

 短い悲鳴を上げて、敦也が両手で頭をかばっていた。殴られると勘違いしたらしい。

 颯太はあわてて右手をひっこめた。

 ライアをギロッとにらみつけ、怒りを押し殺した声で言った。

「ごめん、ちょっとトイレ」

 颯太が背中を向けると、後ろから敦也の声がした。

「なんだ、おしっこもれそうだったのか」

 颯太はずっこけそうになったが、なんとかこらえた。

 そのまま廊下に向かって走り出す。

「我慢しないで早く行けよー。顔色悪いぜー」

 やたらに大きな声で敦也が叫ぶのが聞こえる。

(おれは幼稚園児かっ)

 颯太は顔を赤くして教室を出た。
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