小悪魔ノート

ことは

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9 敦也のノート②

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「うまくごまかせたねっ」

 トイレの個室で、ライアが笑う。

「おれにしか声が聞こえないって、それを早く言えよなー」

「普通わかるでしょ」

「わからん!」

 大声で叫ぶ颯太に、
「誰か来たらまずいんじゃないの? そんな大きな声出して」

 ライアがすました顔で言った。

 颯太は言いたいことも言えずに、チェッと大きく舌打ちした。

「それより、颯太。敦也君のノートが、絶対怪しいよ」

「どこが?」

 颯太は、できるだけ声のボリュームを押さえた。

「その1。すぐに願いごとが叶った」

「だって、あいつんち二日に1度はハンバーグだもん。2分の1の確率だぜ」

「その2。しばらくはハンバーグはいらないと言っていた」

「それが、小悪魔ノートと何か関係ある?」

 颯太は、首をかしげた。

「もう忘れちゃったの? 小悪魔ノートは、人の欲求を奪って無気力人間にしちゃうのよ」

「別に無気力人間になんか、なってなかったぞ」

「そんなにすぐにはならないわよ。小悪魔ノートは、じわりじわりと人の欲求を奪っていくのよ」

「それで?」

 不思議そうな顔をする颯太に、ライアがイライラして言った。

「だから! 願いが叶った代わりに、ハンバーグを食べたいという欲求が奪われたってことじゃない」

「は? そりゃ4日も続けば、誰でもそう思うだろ」

「とにかくっ! 敦也君のノートが本物かどうか、調べる必要があるわ」

 ライアは腕組みした。

「いいから、わたしの言う通りにして」

 はいはい、と颯太はやる気のない返事をした。

 ライアを見た颯太は、ゴクッとつばをのんだ。

 背中にメラメラと炎が上がっているのが見えそうなくらい、怖い顔をしている。

「わたしの言う通りに、す、る、わ、よ、ね?」

 恐ろしく低い声で、ライアがにらみつけてきた。

「は、はいっ!」

 颯太は気をつけの姿勢で、背筋をぴんと伸ばした。

   ◇

 颯太はライアに言われた通りに、敦也に話しかけた。

「敦也くーん❤︎ 1時間目が始まる前にぃー、ノート見せてくれなぁい?」

 ちょっぴり顔を傾けて、お願いポーズ。

「いいけど、おまえなんか今日、気持ちわりーな」

 敦也が、隣の颯太の席にポンとノートを置く。

「あっ、このノートじゃなくて」

「あれ、1時間目、算数じゃなかったっけ?」

「そうだけど……」

「宿題見せて、ってことじゃないの? これ、いらない?」

 敦也が算数のノートを手に取り、自分の机に戻そうとした。

 颯太は、あわててノートの反対の端をつかんだ。

 ノートで綱引きみたいな格好になる。

「やっぱりいる」

「ちがうでしょ!」

 怒ったライアが敦也の味方につき、2対1の勝負。

 小さな体のくせに、意外と力が強い。

 しかし、ここで負けるわけにはいかない。

 颯太は、思い切りノートを自分の方へ引き寄せた。

 颯太はみごと綱引きに勝ち、自分のノートを開いて答えを写しはじめた。

「そんなことしている場合じゃないでしょ」

 ライアがうるさかったが、聞こえないフリをした。早くしないと、1時間目が始まってしまう。

「颯太も宿題くらい、やってきた方がいいぜ」

「かーちゃんみたいなこと、言うなよ。たまたま忘れちゃっただけだよ。おれ、昨日は色々大変だったからさ」

 颯太は、必死で答えを書きながら言った。

 カリカリと、ノートの上を鉛筆がすべっていく。

「大変って、悪魔に会っちゃったとか?」

 書く手が止まった。

 颯太は顔を上げて、敦也を見る。

 敦也は、ニヤニヤしている。なんだか、不気味な笑い方だ。

「何で、そんなこと言うんだ?」

 颯太は、ライアの方をチラリと見た。

(もしかして敦也は何か知っているのか。ライアが言う通り、小悪魔ノートを持っているのは、敦也なのか?)

 颯太の鼓動が、はやくなっていく。

「だって、書いてたじゃん、願いの叶うノートに。悪魔に会いたいって」

「あっ、そうだっけ? まさか敦也、おれの願いが叶ったと思ってるとか?」

 声がうわずる。

「そんなわけないだろ。絶対叶わないこと書くなんて、颯太も素直じゃないよなー」

 そう言いながら、敦也は嬉しそうに廊下の方を見ている。

 ガラガラッという音とともに教室に入ってきたのは、美恵先生だった。

 今日のラッキーカラーはショッキングピンクらしい。ブラウスにスカートに靴まで、よくそろえたものだ。

 敦也がニヤついていたのは美恵先生のせいだとわかり、颯太は拍子抜けした。

「ニヤニヤするなよ。敦也のせいで、間に合わなかったぞ、宿題」

 颯太はいさぎよくあきらめ、敦也に算数のノートを返した。

「なんでおれのせいなんだよ、せっかく見せてやったのに」

「また見せてな」

「だから宿題くらいやってこいって」

「そのノートじゃなくて、別のやつ」

 ライアがあまりにうるさいから、授業が始まる前に颯太はそれだけ言っておいた。

 だが、敦也は意味が分からない様子でキョトンとしている。

「それより颯太。何で美恵先生、でかいゴリラのぬいぐるみなんて持ってるんだろうな」

「あぁ。あれ、今日のラッキーアイテムだよ」

 平然と言う颯太に、敦也はポカンと口を開けた。

 1時間目の休み時間。今度こそ敦也のノートを見せてもらおうとしたが、家に置いてきてしまったらしい。

 敦也がトイレに席を立つと、
「仕方ないわね。先に他をあたりましょ」
と、ライアが話しかけてくる。

 颯太は、机にほおづえをつくふりをして、さりげなく口元を隠す。近くに人がいないのを確認して、ささやいた。

「えー、面倒だなぁ。敦也のノートが本物だって言うなら、他をさがしても無駄じゃないの?」

「確かに敦也君があやしい。けど、今できることから、やっていくのよ。色々な可能性を考えてね。これは、時間との勝負。1秒だって無駄にできない。それに、他が全部シロなら、確実に敦也君がクロよ」

 ライアが真剣な顔をしていった。

「そしたら小悪魔ノートのありかは、敦也んちってことになるのか」

 颯太が言うと、ライアがうなずいた。
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