踊るねこ

ことは

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14 友だちだから

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 火曜日。

 1時間目終了のチャイムと同時に、はるかは教室を飛び出した。

 すぐ隣の、美加と結衣のいる3組をのぞきに行く。

 昨日言っていたとおり、結衣は学校に来ていた。

「美加! 結衣!」

 はるかは、廊下で手を振った。

 結衣はこっちを見て手を振り返してきたが、そのまま読んでいた本に視線を戻した。

 美加は気づくとすぐに、廊下で待つはるかの所へやってきた。

「結衣、本なんか読んじゃってどうしたの?」

 美加は、さぁ? と手の平を上に向けた。

「ちょっと話してくる」

 教室に入ろうとするはるかに、美加が、
「やめたほうがいいよ」
と、制服の袖をひっぱった。

「どうして?」

「今日、いつもの結衣じゃないから。やっぱり、わたしの気のせいじゃなかったみたい」

 美加が、深刻そうな顔をして言う。

 一瞬沈黙が流れたが、はるかは、
「やっぱり、話してくる」
と、教室の中に入っていった。

「結衣。風邪、もう大丈夫?」

 結衣が読んでいた本から顔を上げ、うなずいた。

「よかった。昨日、結衣のお母さんが作ってくれたクッキー、めちゃめちゃおいしかったよ」

「そう」

 にこりともせず、結衣は本に視線を戻す。

「結衣が本読むなんて、めずらしいじゃん。なに、読んでるの?」

「別に」

 結衣は、顔も上げずに答えた。

 ここまでそっけなくされると、はるかの心も折れる。これ以上、どう話しかけていいかわからない。

 立ちつくすはるかの腕を、美加が廊下までひっぱっていく。

「ね? 言ったでしょ? はるかがインフルエンザで学校休んでいた頃から、時々こうなの。結衣、どうしちゃったのかな。昨日は仮病まで使うし」

「結衣、本当に風邪ひいてたみたいだよ。わたし、昨日、結衣の家に行ったらベッドで寝てたもん。あれ? でも美加、知らなかったの?」

 美加が首をかしげる。

「だって、美加、昨日結衣に電話したでしょ? その時、聞かなかったの?」

「電話? 何のこと?」

「電話……してないんだ」

 それでは結衣が、はるかに嘘をついたことになる。

(何のために、そんな嘘を?)

 はるかは、机で一人、本を読む結衣を見つめた。

   ◇

「はるか、なんか今日、調子悪い?」

 隼人が、曲を止めて言った。

「いえ、そんなことないですけど」

 息を切らすはるかに、
「いや、なんかボーっとしてるみたいだから。微妙にテンポずれてるし」
と、隼人が首をひねった。

 結衣のことを考えていたせいかもしれない。

「やっぱり隼人先輩って、するどいですね」

 はるかは、隼人がモモのことを宇宙人ぽいと言ったことを思い出して、モモの方をチラッと見た。

「やっぱりって?」

「いえ、こっちの話です」

 隼人は少しためらう様子を見せた後、はるかから目をそらして言った。

「悩み事があるなら、いつでも相談にのるけど」

 優しい声だった。ダンスを教える時の、鋭さは全然なかった。

「え! はるか何か、悩んでるの? 困ったことがあったら何でも言って」

 モモが、はるかの腕を両手でつかんで、激しく揺らす。

「モモ、ちょっと大げさ」
と、はるかが笑った。

「だって、だって、友だちだから。はるかとわたしは、友だちだから!」

「え? 友だち?」

 隼人が、不思議そうな顔をしていた。

 はるかがはっとする。

「友だちみたいな親子とか、友だちみたいな双子とかって言うでしょ? まぁ、そんな感じです」

 隼人が、ふーん、とはるかとモモを交互に見た。

「ごめんなさい。ダンスに集中します!」

 はるかは、CDプレーヤーの再生ボタンを勢いよく押した。

 考えてもしかたがない。

 今は踊るだけだ。
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