落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす

文字の大きさ
30 / 56
第一部

第30話

しおりを挟む
「お母さんが…β…?」

 瀬尾君の口から出た言葉を一瞬意味が理解できなかった。瀬尾君は穏やかな表情でコクリと頷く。そして、自分の手を優しく握りこみ、手の甲にキスをした。

「そうです。俺の母親はβだったんですよ。あなたと同じ、βだった。」

「そ、そんな!そんなはずないよ。βからαが生まれる確率はほとんどゼロに近いはずだ!」

 それはほぼほぼ常識と言われていることだ。αの子を産み落とせるのはΩだけ。βでは、例えαとつがったとしても、αが産まれてくる確率はゼロに近い。だからこそ、血筋を重んじる高貴なαはΩを伴侶に選ぶのは当たり前のことだ。βがαを産んだという話は今まで生きてきて聞いたこともない。

「そうです。確率はゼロに近い。でもゼロじゃないんですよ。…俺の父親は大企業の社長の息子でした。その会社を継ぐことは産まれた時から決められていたことだった。そしてΩと結婚して優秀なαの血を残していくことが使命だったんです。でも、父はΩではなく、βを伴侶に選びました。」

 穏やかな表情で話しているものの、瀬尾君の身体が少しだけ震えているのに気づいてしまった。何かにすがり付いていないと崩れてしまう。そんな危うさを彼に感じてしまい、握られていた手をほどく。すると瀬尾君は親に見捨てられた子供のように絶望した表情へと変わった。


「続けて、瀬尾君。」

「幸尚さん…。」

 ほどいた手を彼の身体に回し、強く抱き締めてあげた。ビクリと震え、固くなっていた彼の身体がだんだんと弛緩し、されるがままになってくる。そして自分の胸に頭を擦り寄せると、瀬尾君は話を再開させた。

「もちろん、父は祖父母から激しい反対を受けました。祖父母が選んでいたΩからもアプローチを受けていましたが、全て断っていたようです。それにβである母が父を離そうとしなかったようで。」

「お互いに愛し合ってたんだね。」

 微笑ましい話で笑いながらいうと、「そうですね…。」と呟く彼の声が何故だか悲しげに聞こえた。

「父と母は、周囲の反対を押しきって結婚しました。父は祖父母に『資産も何もいらない。会社も継がない』と言って飛び出したようです。貧乏暮らしだったそうですが、念願の子供ができて、それがαだと分かったときは2人で大層喜んだそうです…。でも、そんな生活もたったの5年で終わりました。」

「えっ…?」

 「母が…父と俺を置いて出ていったそうです。」

「そんな…。」

予想もしていなかった話に言葉を失ってしまう。

「な、なんでお母さんは?」

「分かりません。母は仕事をしていて、いつも保育園に自分を連れていった後に職場に行っていました。しかし、その日だけは仕事が早いからと一人で出掛けていったんです。夜ご飯はハンバーグだからと、そう、言って…。でもその日、何時になっても母は帰ってきませんでした。…父はずっと母を探していたようですが、ポストに母からの手紙があり、それを読んでしゃがみこみました。」

「手紙には…なんて?」

「好きな人ができたから出ていくと。ただそれだけ。βである母はαである父とはつがいにはなれませんでした。しかし、だからこそ母は別の男を選べた。βである母はαやΩと違い、どんな人間とでも結婚できるし、セックスができる。…αの父は、自由なβである母に捨てられたんですよ。」

「そんな…。お母さんがいなくなったのには何か他の理由が!」

「俺もそう思って調べました。父も調べたみたいですが、やはり他の男と出ていったとだけしか教えてくれませんでした。父は祖父母に説得され、実家に戻り会社を継ぎました。再婚も薦められたようですが、それだけは断っていたようです。」

「そう…だったんだ…。」

 思いがけず触れてしまった彼の内面。自信ありげな見た目の内に隠されていた彼の弱さの理由が分かったような気がした。


「…βは、どこかにいってしまう。こちらがどれだけ愛しても本当のつがいにならなければ安心なんかできないんです。βのままじゃ、あなたはきっと俺のもとからいなくなってしまう。」

「瀬尾君…?」

「嫌なんです。もう、大切な人が、好きな人がどこかにいってしまうのは。口でそばにいると言われたって信じられない。確証がほしいんです。あなたがずっとそばにいてくれるという証が。…Ωなら、もうあなたは俺のことしか見えなくなる。…俺を…選んでくれませんか?」

 胸に埋めていた顔を上げた瀬尾君の瞳は、悲しみで潤んでいた。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

孤独なライオンは運命を見つける

朝顔
BL
9/1番外編追加しました。 自分はアルファであると信じて生きてきたのに、発情したことがキッカケで、オメガだったと発覚してしまった。 アルファだと思っていた時も、孤独で苦しかったのに、オメガになったことで俺の人生はより厳しいものになった。 そんな時、俺は運命と呼べる相手と出会うことになる。 ※※※※※ 高校生×高校生で、オメガバースの設定をお借りしています。 設定はよくあるものだと思いますが、おかしなところがあったら、すみません。 オメガバースについて詳しい説明などは省略しています。 シリアスあり、ラブコメもあり、淡くて青い恋愛がメインのお話です。 ※重複投稿 全十話完結済み

【完結】変態αのフェロモン観測記録

加賀ユカリ
BL
欠陥Ωが使用済みマスクを落としたら、変態αにフェロモン値を実況されるようになった話 大学生の天橋瑞樹(あまはし みずき)は、帰り道でうっかり使用済みマスクを落としてしまう。拾ったのは、モデルのようなスタイルと整った顔立ちを持つ青年──神代慧(かみしろ けい)。だが、彼はただのαではなかった。 「このマスクは僕の宝物です」そう言って笑う慧は、瑞樹のマスクを返さないどころか、初対面で「君は僕の運命の番だ」と宣言してくる。 だが瑞樹は、自分が“欠陥Ω”──フェロモン値が極端に低い存在であることを知っていた。 そして、計測器と共に瑞樹のフェロモン数値を実況する“変態α”との、奇妙で騒がしい日々が始まった。 そんなある日。 瑞樹に人生で初めてのヒートが訪れる── 攻め:神代慧(かみしろ けい)。α。瑞樹のマスクを返さないヤバい男。 受け:天橋瑞樹(あまはし みずき)。欠陥Ω。 ・オメガバースの独自設定があります ・性描写のある話には※を付けています ・最終話まで執筆済みです。(全35話) ・19時更新 ・ムーンライトノベルズにも掲載しています ※過去作『番になれなくても』の主人公(天橋和樹)の兄の話です。本作品は『番になれなくても』の本編より前の時間軸になります。それぞれの話は独立しているので、読んでいなくても大丈夫です 【完結】番になれなくても https://www.alphapolis.co.jp/novel/166551580/588945232

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

俺は完璧な君の唯一の欠点

一寸光陰
BL
進藤海斗は完璧だ。端正な顔立ち、優秀な頭脳、抜群の運動神経。皆から好かれ、敬わられている彼は性格も真っ直ぐだ。 そんな彼にも、唯一の欠点がある。 それは、平凡な俺に依存している事。 平凡な受けがスパダリ攻めに囲われて逃げられなくなっちゃうお話です。

手に入らないモノと満たされる愛

小池 月
BL
 櫻井斗真は喘息持ちの高校二年生。健康でスポーツが得意な弟と両親の四人家族。不健康な斗真は徐々に家族の中に自分の居場所がなくなっていく。  ある日、登校中に喘息発作で倒れる斗真。そんな斗真を高校三年の小掠隆介が助ける。隆介は小児科医院の息子。喘息発作の治療が必要な斗真は隆介の家で静養することとなる。斗真は隆介の優しさを素直に受け入れられず、自分と比べて惨めな思いに陥っていく。そんな斗真の気持ちを全て受け止めて寄り添う隆介と、徐々に距離を縮める斗真。  斗真に安心できる場所が出来たかと思われた頃、斗真が襲われる事件が起きて……。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

処理中です...