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第一部
第30話
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「お母さんが…β…?」
瀬尾君の口から出た言葉を一瞬意味が理解できなかった。瀬尾君は穏やかな表情でコクリと頷く。そして、自分の手を優しく握りこみ、手の甲にキスをした。
「そうです。俺の母親はβだったんですよ。あなたと同じ、βだった。」
「そ、そんな!そんなはずないよ。βからαが生まれる確率はほとんどゼロに近いはずだ!」
それはほぼほぼ常識と言われていることだ。αの子を産み落とせるのはΩだけ。βでは、例えαとつがったとしても、αが産まれてくる確率はゼロに近い。だからこそ、血筋を重んじる高貴なαはΩを伴侶に選ぶのは当たり前のことだ。βがαを産んだという話は今まで生きてきて聞いたこともない。
「そうです。確率はゼロに近い。でもゼロじゃないんですよ。…俺の父親は大企業の社長の息子でした。その会社を継ぐことは産まれた時から決められていたことだった。そしてΩと結婚して優秀なαの血を残していくことが使命だったんです。でも、父はΩではなく、βを伴侶に選びました。」
穏やかな表情で話しているものの、瀬尾君の身体が少しだけ震えているのに気づいてしまった。何かにすがり付いていないと崩れてしまう。そんな危うさを彼に感じてしまい、握られていた手をほどく。すると瀬尾君は親に見捨てられた子供のように絶望した表情へと変わった。
「続けて、瀬尾君。」
「幸尚さん…。」
ほどいた手を彼の身体に回し、強く抱き締めてあげた。ビクリと震え、固くなっていた彼の身体がだんだんと弛緩し、されるがままになってくる。そして自分の胸に頭を擦り寄せると、瀬尾君は話を再開させた。
「もちろん、父は祖父母から激しい反対を受けました。祖父母が選んでいたΩからもアプローチを受けていましたが、全て断っていたようです。それにβである母が父を離そうとしなかったようで。」
「お互いに愛し合ってたんだね。」
微笑ましい話で笑いながらいうと、「そうですね…。」と呟く彼の声が何故だか悲しげに聞こえた。
「父と母は、周囲の反対を押しきって結婚しました。父は祖父母に『資産も何もいらない。会社も継がない』と言って飛び出したようです。貧乏暮らしだったそうですが、念願の子供ができて、それがαだと分かったときは2人で大層喜んだそうです…。でも、そんな生活もたったの5年で終わりました。」
「えっ…?」
「母が…父と俺を置いて出ていったそうです。」
「そんな…。」
予想もしていなかった話に言葉を失ってしまう。
「な、なんでお母さんは?」
「分かりません。母は仕事をしていて、いつも保育園に自分を連れていった後に職場に行っていました。しかし、その日だけは仕事が早いからと一人で出掛けていったんです。夜ご飯はハンバーグだからと、そう、言って…。でもその日、何時になっても母は帰ってきませんでした。…父はずっと母を探していたようですが、ポストに母からの手紙があり、それを読んでしゃがみこみました。」
「手紙には…なんて?」
「好きな人ができたから出ていくと。ただそれだけ。βである母はαである父とはつがいにはなれませんでした。しかし、だからこそ母は別の男を選べた。βである母はαやΩと違い、どんな人間とでも結婚できるし、セックスができる。…αの父は、自由なβである母に捨てられたんですよ。」
「そんな…。お母さんがいなくなったのには何か他の理由が!」
「俺もそう思って調べました。父も調べたみたいですが、やはり他の男と出ていったとだけしか教えてくれませんでした。父は祖父母に説得され、実家に戻り会社を継ぎました。再婚も薦められたようですが、それだけは断っていたようです。」
「そう…だったんだ…。」
思いがけず触れてしまった彼の内面。自信ありげな見た目の内に隠されていた彼の弱さの理由が分かったような気がした。
「…βは、どこかにいってしまう。こちらがどれだけ愛しても本当のつがいにならなければ安心なんかできないんです。βのままじゃ、あなたはきっと俺のもとからいなくなってしまう。」
「瀬尾君…?」
「嫌なんです。もう、大切な人が、好きな人がどこかにいってしまうのは。口でそばにいると言われたって信じられない。確証がほしいんです。あなたがずっとそばにいてくれるという証が。…Ωなら、もうあなたは俺のことしか見えなくなる。…俺を…選んでくれませんか?」
胸に埋めていた顔を上げた瀬尾君の瞳は、悲しみで潤んでいた。
瀬尾君の口から出た言葉を一瞬意味が理解できなかった。瀬尾君は穏やかな表情でコクリと頷く。そして、自分の手を優しく握りこみ、手の甲にキスをした。
「そうです。俺の母親はβだったんですよ。あなたと同じ、βだった。」
「そ、そんな!そんなはずないよ。βからαが生まれる確率はほとんどゼロに近いはずだ!」
それはほぼほぼ常識と言われていることだ。αの子を産み落とせるのはΩだけ。βでは、例えαとつがったとしても、αが産まれてくる確率はゼロに近い。だからこそ、血筋を重んじる高貴なαはΩを伴侶に選ぶのは当たり前のことだ。βがαを産んだという話は今まで生きてきて聞いたこともない。
「そうです。確率はゼロに近い。でもゼロじゃないんですよ。…俺の父親は大企業の社長の息子でした。その会社を継ぐことは産まれた時から決められていたことだった。そしてΩと結婚して優秀なαの血を残していくことが使命だったんです。でも、父はΩではなく、βを伴侶に選びました。」
穏やかな表情で話しているものの、瀬尾君の身体が少しだけ震えているのに気づいてしまった。何かにすがり付いていないと崩れてしまう。そんな危うさを彼に感じてしまい、握られていた手をほどく。すると瀬尾君は親に見捨てられた子供のように絶望した表情へと変わった。
「続けて、瀬尾君。」
「幸尚さん…。」
ほどいた手を彼の身体に回し、強く抱き締めてあげた。ビクリと震え、固くなっていた彼の身体がだんだんと弛緩し、されるがままになってくる。そして自分の胸に頭を擦り寄せると、瀬尾君は話を再開させた。
「もちろん、父は祖父母から激しい反対を受けました。祖父母が選んでいたΩからもアプローチを受けていましたが、全て断っていたようです。それにβである母が父を離そうとしなかったようで。」
「お互いに愛し合ってたんだね。」
微笑ましい話で笑いながらいうと、「そうですね…。」と呟く彼の声が何故だか悲しげに聞こえた。
「父と母は、周囲の反対を押しきって結婚しました。父は祖父母に『資産も何もいらない。会社も継がない』と言って飛び出したようです。貧乏暮らしだったそうですが、念願の子供ができて、それがαだと分かったときは2人で大層喜んだそうです…。でも、そんな生活もたったの5年で終わりました。」
「えっ…?」
「母が…父と俺を置いて出ていったそうです。」
「そんな…。」
予想もしていなかった話に言葉を失ってしまう。
「な、なんでお母さんは?」
「分かりません。母は仕事をしていて、いつも保育園に自分を連れていった後に職場に行っていました。しかし、その日だけは仕事が早いからと一人で出掛けていったんです。夜ご飯はハンバーグだからと、そう、言って…。でもその日、何時になっても母は帰ってきませんでした。…父はずっと母を探していたようですが、ポストに母からの手紙があり、それを読んでしゃがみこみました。」
「手紙には…なんて?」
「好きな人ができたから出ていくと。ただそれだけ。βである母はαである父とはつがいにはなれませんでした。しかし、だからこそ母は別の男を選べた。βである母はαやΩと違い、どんな人間とでも結婚できるし、セックスができる。…αの父は、自由なβである母に捨てられたんですよ。」
「そんな…。お母さんがいなくなったのには何か他の理由が!」
「俺もそう思って調べました。父も調べたみたいですが、やはり他の男と出ていったとだけしか教えてくれませんでした。父は祖父母に説得され、実家に戻り会社を継ぎました。再婚も薦められたようですが、それだけは断っていたようです。」
「そう…だったんだ…。」
思いがけず触れてしまった彼の内面。自信ありげな見た目の内に隠されていた彼の弱さの理由が分かったような気がした。
「…βは、どこかにいってしまう。こちらがどれだけ愛しても本当のつがいにならなければ安心なんかできないんです。βのままじゃ、あなたはきっと俺のもとからいなくなってしまう。」
「瀬尾君…?」
「嫌なんです。もう、大切な人が、好きな人がどこかにいってしまうのは。口でそばにいると言われたって信じられない。確証がほしいんです。あなたがずっとそばにいてくれるという証が。…Ωなら、もうあなたは俺のことしか見えなくなる。…俺を…選んでくれませんか?」
胸に埋めていた顔を上げた瀬尾君の瞳は、悲しみで潤んでいた。
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